バスケットボールやバレーボール、日常のちょっとした動作でも起こる「突き指」。
多くの人は「そのうち治る」と思って放置してしまいます。しかし、中には1ヶ月以上たっても痛みや腫れが続き、「突き指が治らない」と不安になるケースも少なくありません。
実は、突き指は単なる打撲や軽い関節の捻挫だけでなく、靭帯損傷や骨折、腱の断裂などを伴っていることがあるケガです。正しい知識を持たずに自己流で対処すると、治りが遅れたり後遺症につながることもあります。
この記事では、「突き指が治らない」と感じる状態やその原因、整形外科での対応、自宅でできるリハビリ・セルフケアまで詳しく解説します。
参考記事:突き指を正しい処置で早く治す!骨折との見分け方や対処法を専門家が解説
参考記事:突き指の治し方を解説!指を曲げると痛い場合の対処法と早く治すポイント
突き指が「治らない」と感じるのはどんな状態?
痛みが続いたり、指が曲がらないと感じたら要注意。まずは「普通の突き指」と「治らない突き指」の違いを把握しましょう。
一般的な軽度の突き指は、数日〜2週間ほどで腫れや痛みが落ち着いていきます。湿布や安静、軽い固定で改善していくケースが多く、日常生活に大きな支障は残りません。
一方で、「突き指が治らない」と感じる場合には以下のような症状が見られることがあります。
- 1ヶ月以上経っても痛みが続く
- 指がまっすぐ伸びない、あるいは曲がらない
- 腫れや熱感が残っている
- 指が変形して見える
- 力が入りにくく、物をつかみにくい
これらの症状は「単なる突き指」ではなく、靭帯断裂・骨折・腱断裂(マレット損傷)などの可能性を示しています。とくに「指が曲がらない」「変形している」といった状態は放置すると関節の変形や機能障害を残すことがあるため、早めに整形外科での診断が必要です。
突き指が1ヶ月以上治らない5つの原因
なぜ痛みが続くのか?実は見落とされがちな損傷や病態が隠れているかもしれません。突き指が長引く場合、多くは「軽いケガ」ではなく、構造的な損傷が関係しています。ここでは代表的な5つの原因を解説します。
① 靭帯の損傷や断裂が起きている
突き指で最も多いのが「靭帯損傷」です。指の関節を安定させる靭帯が伸びたり切れたりすると、関節がぐらつき、痛みや腫れが長引きます。
軽度であれば安静や固定で回復しますが、断裂が起きている場合は数週間〜数ヶ月にわたり治癒が必要です。側副靭帯が傷つくと「横に不安定になる」「力が入らない」といった症状が残りやすく、放置は禁物です。
② マレット損傷(腱の断裂)を見逃している
指の先端を伸ばす腱が断裂すると、「マレット損傷」と呼ばれる状態になります。この場合、指先が自分の意思でまっすぐ伸ばせなくなり、曲がったままの状態で固定されてしまいます。
本人は「突き指のせいで動かしにくい」と思いがちですが、実際は腱の断裂が原因です。適切な固定を行わないと指が変形して残り、日常生活に支障をきたします。
③ 骨折・剥離骨折など見えにくい骨の損傷
突き指は一見すると打撲のように見えても、実際には「骨折」を伴っているケースが少なくありません。特に小さな剥離骨折はレントゲンでも見つけにくく、見逃されがちです。
「突き指をした後から指が曲がらない」「押すと強い痛みが残る」場合は骨折を疑うべきです。治療が遅れると変形治癒を起こし、後遺症につながることもあります。
④ 関節の炎症や二次的な拘縮
突き指後に腫れや炎症が長引くと、関節の動きが制限され「拘縮(こうしゅく)」と呼ばれる状態になることがあります。これは炎症や痛みのために動かさない期間が長く続いた結果、関節や筋肉が硬くなり、曲げ伸ばしがしにくくなる状態です。
リハビリを行わず放置すると「指が固まる」感覚が残り、元通りの動きができなくなる可能性があります。
⑤ 自己判断での放置・誤った処置
「突き指だから大丈夫」と思い込み、湿布や自己流のテーピングだけで済ませる人も多いですが、これが回復を遅らせる原因になることがあります。
腫れているのにマッサージをして悪化させたり、痛みが残っているのに運動を再開して損傷を広げてしまうケースもあります。正しい処置をしなければ、たとえ軽いケガでも長引いてしまうのです。
突き指が治らないときの対処法【整形外科での対応も含む】
正しく対処すれば、症状が改善する可能性もあります。自己判断で放置せず、自宅でのケアと医療機関での対応を組み合わせることが大切です。ここでは一般的な対処法を整理します。
自宅での応急処置
突き指直後に最も大切なのは「RICE処置(安静・冷却・圧迫・挙上)」です。
- 安静:無理に動かさず、患部を休ませる
- 冷却:氷や冷却パックで腫れを抑える
- 圧迫:テーピングや包帯で軽く固定する
- 挙上:心臓より高い位置に上げて腫れを抑える
この基本処置を早めに行うことで、炎症を最小限に抑えられます。
整形外科での対応
1ヶ月以上痛みが続く場合や、指が曲がらない・変形している場合は整形外科を受診しましょう。医師による診察では以下の対応が行われることが一般的です。
- レントゲン検査:骨折や剥離骨折の有無を確認
- MRIや超音波検査:靭帯や腱の損傷をチェック
- 固定や装具の処方:損傷部位に応じた固定具で治癒を促進
- 薬や注射:炎症や腫れが強い場合に使用
リハビリや後療法
急性期を過ぎたら、指の動きを取り戻すためにリハビリが重要です。関節が固まらないよう、可動域を広げるストレッチや筋力を保つトレーニングが行われます。これにより、再発を防ぎながら機能回復を目指せます。
自己流の判断は禁物
「湿布だけ貼っていれば大丈夫」「少し痛いけど動かせるから平気」といった自己判断は危険です。誤った処置で悪化させてしまうケースも多いため、医師の指導に基づいて適切にケアすることが大切です。
自宅でできるセルフケア&リハビリ法3選
整形外科の通院とあわせて、自宅でもケアを行うことで回復を早められます。大切なのは、痛みが落ち着いてから無理のない範囲で始めることです。ここでは、医療現場でも推奨される3つの方法を紹介します。
① 痛みが落ち着いたら開始できる「可動域ストレッチ」
突き指の後は、炎症や腫れの影響で関節の動きが制限されやすくなります。そこで有効なのが「可動域ストレッチ」です。指をゆっくり曲げ伸ばしし、無理のない範囲で関節の動きを取り戻していきます。特に「曲げにくい」「伸びない」と感じる部分を重点的に動かすことで、硬さが和らぎ、日常生活での動作がスムーズになります。これから紹介するエクササイズは可動域訓練に効果的なものとなります。
手指SixPack エクササイズ
STEP1:指の付け根の曲げ伸ばしを繰り返します
STEP2:第1.第2関節の曲げ伸ばしを繰り返します
STEP3:指のグーパーを繰り返します
STEP4:指の開閉を繰り返します(指と指の間を広げたり、閉じたりする)
STEP5:人差し指から小指までを順に親指とつけます
② 関節の腫れを軽減する「温熱マッサージ」
急性期を過ぎて腫れや炎症が落ち着いたら、温めるケアが効果的です。お湯で温めたタオルや温熱パックを使い、指の関節を温めながら優しくマッサージしましょう。血流が改善され、腫れやこわばりが和らぎます。冷えやすい冬場には特におすすめの方法です。
③ 再発予防のための「テーピング固定術」
突き指は再発しやすいケガの一つです。スポーツや日常生活で再び負荷がかかると損傷が悪化する恐れがあるため、テーピングによる固定は効果的です。関節の動きを制限しすぎない程度に固定することで、保護しながら動作を行えます。整形外科やトレーナーに教わった方法を守り、自己流にならないよう注意しましょう。
突き指が治らないときに「やってはいけない」3つのこと
無意識のうちに取ってしまう行動が、実は回復を妨げていることもあります。ここでは「やってはいけない」行為を知り、悪化を防ぐことが重要です。
① 痛みが残っているのに無理に動かす
「少し痛いけど動かした方が早く治る」と思い込み、指を無理に動かすのは危険です。靭帯や腱が修復される前に動かしてしまうと、再損傷を招き、症状が長引いたり悪化する可能性があります。痛みが強い時期は安静を優先し、医師の指示に従って動かし始めるタイミングを判断しましょう。
② 湿布やテーピングを自己流で続ける
湿布やテーピングは正しく使えば効果的ですが、誤った方法で続けると回復を妨げます。例えば、湿布を冷却が必要な時期を過ぎても貼り続けたり、自己流のテーピングで関節を強く締め付けすぎると、血流が悪化し治りが遅くなることがあります。必ず専門家に相談し、適切な処置を行いましょう。
③ 病院に行かず放置する
「突き指だから大丈夫」と思って病院に行かずに放置するのは最も危険です。実際には骨折や腱の断裂が起きていても、初期にはただの突き指と区別しにくいことがあります。特に「指が曲がらない」「変形している」場合は放置すると後遺症が残る可能性が高いため、整形外科の受診が必須です。
まとめ
突き指が1ヶ月以上治らない背景には、靭帯や腱の損傷、骨折など見逃されやすい原因が隠れていることがあります。「ただの突き指」と思い込み自己流で放置すると、関節の変形や後遺症につながる危険もあります。痛みや腫れ、指が曲がらない・伸びないなどの症状が続く場合は、整形外科での診断を受け、必要に応じて固定やリハビリを行いましょう。正しい知識とセルフケアを取り入れることで、再発を防ぎながら改善を目指すことができます。
【参考文献】
1)一般社団法人 日本骨折治療学会:突き指 -たかが突き指、されど突き指―
2)日本整形外科学会:症状・病気をしらべる
3)Avery DM 3rd, Inkellis ER, Carlson MG. Thumb collateral ligament injuries in the athlete. Curr Rev Musculoskelet Med. 2017 Mar;10(1):28-37. doi: 10.1007/s12178-017-9381-z. PMID: 28133709; PMCID: PMC5344852.
4)Madan SS, Pai DR, Kaur A, Dixit R. Injury to ulnar collateral ligament of thumb. Orthop Surg. 2014 Feb;6(1):1-7. doi: 10.1111/os.12084. PMID: 24590986; PMCID: PMC6583257.