手の親指の付け根のツボが押すと痛いのはなぜ?原因と今すぐできる対処法

手の親指の付け根を押したときに「ズキッ」と痛むことはありませんか?

一見すると小さな違和感に思えるかもしれませんが、その背後には腱鞘炎や筋膜の緊張、さらには内臓の不調といった意外な原因が隠れていることがあります。放置してしまうと、痛みが慢性化したり、手のしびれや動かしにくさへとつながる場合もあるため注意が必要です。

本記事では、親指の付け根が痛むときに考えられる主な原因と、ツボや筋肉の仕組みを解説したうえで、自宅でできるセルフケアや予防法を紹介します。読むことで「なぜ痛いのか」を理解し、悪化を防ぎながら、日常生活に支障のない快適な手の使い方を取り戻すヒントが得られるでしょう。

親指の付け根が痛む原因とは?

手の親指の付け根が痛んでいる画像

手の親指の付け根は、私たちの日常生活で頻繁に使う部位です。ここが痛む場合、その背景にはいくつかの身体的変化や負担の蓄積が隠れていることがあります。

痛みの種類や感じ方に応じて、原因は異なりますが、主に以下の3つに分類されます。

筋肉や腱の使いすぎによる炎症

親指の付け根には「母指球筋(ぼしきゅうきん)」と呼ばれる筋肉群が集中しており、物をつかむ、スマホを操作する、文字を書くなどの動作で常に使われています。

この部分を過剰に使うと、筋肉や腱に炎症が起こりやすくなります。特に「腱鞘炎」は、親指を頻繁に動かす人に多く見られ、ツボ周辺を押すとピンポイントで痛みが出るのが特徴です。

参考記事:腱鞘炎(指・手首の痛み)の治し方とは?自分で行えるマッサージ・ストレッチを解説

具体的なケース

  • スマホの長時間操作
  • パソコンのキーボード入力のしすぎ
  • 手作業・裁縫・料理などの繰り返し動作

こうした動きは一見軽い負担のように思えますが、長時間続けば、ツボ周囲の組織が過敏になり、押すだけでも痛みを感じるようになります。

ツボの周囲にある筋膜の緊張

次に考えられるのが「筋膜の緊張」です。筋膜とは筋肉を包み込む膜で、ストレスや姿勢の悪さ、血流の滞りなどが原因で緊張しやすくなります。

親指の付け根にあるツボの周囲では、筋膜のつながりが複雑で、肩や腕の使い方が悪いと影響が波及することも。

こんな人は注意

  • 肩こりが慢性的にある
  • 猫背気味の姿勢
  • 重いカバンを片手で持ち続けている

筋膜が固くなると、まるでゴムが引っ張られるように痛みを生じ、押すと「ズーン」と重だるい感覚を伴うのが特徴です。痛みの部位と実際の原因が異なることも多く、見逃されがちです。

反射区・経絡に関連する内臓の不調

東洋医学的な視点では、手のひらには「反射区」や「経絡」と呼ばれる内臓とつながるポイントが存在します。親指の付け根には、肺や大腸といった呼吸器・消化器系に関係する反射区があるとされており、これらの器官に疲れが溜まっていると、ツボを押したときに違和感や痛みを感じることがあります。

反射区の特徴

  • 肺や気管支の不調:呼吸が浅い、咳が出やすい
  • 大腸の不調:便秘や下痢など消化の乱れ

こうしたケースでは、内臓の調子が整うことでツボの痛みも和らぐ傾向があります。あくまで直接的な原因ではないものの、全身のバランスを見るヒントにもなります。

痛みの原因になりやすい3つのツボとは?

ツボには、それぞれ特定の筋肉や臓器、神経と関わりがあり、「どのツボが痛むか」を手がかりに、体のどこに問題があるかを推測することができます。ここでは、手の親指の付け根の痛みに関わる代表的な3つのツボを紹介します。

手の各ツボを説明した画像

魚際(ぎょさい)

魚際は、親指の付け根の膨らんだ部分、手のひら側にあるツボです。皮膚に近く、押すと痛みを感じやすい場所でもあります。

魚際の特徴と役割

魚際は、東洋医学では「肺経(はいけい)」という経絡に属しており、呼吸器系と関わりが深いとされています。また、母指球筋という親指を動かす筋肉の中心にも位置しているため、過労や使いすぎが原因でこのツボに強い圧痛(押すと痛む感覚)が出やすくなります。

こんなときに痛みやすい

  • スマホの操作が長時間続いたとき
  • 息苦しさや咳が続いているとき
  • 緊張やストレスが強いとき

魚際が痛むときは、手のひらそのものだけでなく、呼吸の浅さや自律神経の乱れにも目を向けるとよいでしょう。

合谷(ごうこく)

合谷は、親指と人差し指の骨が交わる手の甲側のくぼみにあるツボです。東洋医学では「万能のツボ」とも呼ばれ、頭痛や肩こり、ストレス緩和など、さまざまな症状に対して使われています。

合谷の特徴と効果

合谷は、大腸経という経絡上にあり、消化器系や緊張状態に影響を与えるとされています。このツボが痛いときは、内臓疲労やストレスの蓄積が関与している可能性があります。

合谷が関連しやすい症状

  • 歯の痛みや頭痛
  • 肩こりや首のこわばり
  • 緊張性の便秘・下痢

ツボ押しの際には「痛気持ちいい」と感じる程度の圧を加えると、血流やリンパの流れが促進され、全身のリラックス効果にもつながります。

陽谿(ようけい)

陽谿は、親指の付け根から手首にかけての関節部分、ちょうど手首をそらしたときにできるくぼみにあるツボです。見逃されがちですが、腱鞘炎や手首の疲労と深く関わっています。

陽谿の役割と関連症状

このツボは手の動きをつかさどる腱や関節の付け根にあり、親指を酷使すると硬くなったり痛んだりしやすい場所です。手首を動かしたときにツキンと痛む場合は、ここに原因があるかもしれません。

特に注意が必要なケース

  • ペンや包丁を長時間持つ仕事をしている
  • パソコンのマウスを多用している
  • 腱鞘炎の初期症状を感じる

陽谿は「腱のツボ」として知られ、無理なマッサージは悪化につながることもあります。セルフケアの際は力加減に注意が必要です。

自宅でできるセルフエクササイズ・ツボ押し法

手の親指の付け根が痛むとき、「今すぐ何かできないか」と考える方は多いでしょう。ここでは、自宅で簡単にできるセルフケアの方法として、2つのツボに対するマッサージやストレッチのやり方を紹介します。道具も特別な知識も必要なく、今日から実践できる方法ばかりです。

魚際のほぐし方(呼吸とあわせて)

魚際は、親指の付け根にあるふくらみ部分に位置しています。深呼吸を意識しながら、このツボをゆっくりほぐすことで、緊張が和らぎ、痛みの軽減につながります。

ステップ1:ツボの位置を確認

親指の付け根、手のひらの最も盛り上がった部分を探します。軽く押して「ズーン」とした鈍い感覚がある場所が魚際です。

ステップ2:呼吸を合わせてマッサージ

  1. 息を吸いながらツボに指を当てる
  2. 息を吐きながら、やさしく押し込む(5秒)
  3. ゆっくり離す

これを5〜10回ほど繰り返します。朝晩1セットずつ行うのがおすすめです。ポイントは力を入れすぎず、「心地よい」と感じる強さを保つこと。痛みが強くなる場合は中止し、安静にしましょう。

合谷の押し方(痛気持ちいい強さで)

合谷は、多くの人が知る「万能のツボ」です。緊張をほぐし、体全体のバランスを整える効果も期待できるため、こまめに刺激することで親指の違和感の軽減にもつながります。

ステップ1:ツボの場所を探す

手の甲側で、親指と人差し指の骨が交わるV字のくぼみにあります。軽く押して「ジーン」と響くような感覚がある場所です。

ステップ2:指圧の方法

親指の腹でツボを押しながら、もう片方の手で手のひらを支えます。
・5秒かけて押す
・3秒キープ
・5秒かけて離す

これを5〜10回繰り返します。ポイントは「痛気持ちいい」程度がベスト。強く押しすぎると逆効果になるので、違和感を感じたらすぐにやめましょう。

手のひらストレッチで緊張を和らげる

ツボ押しに加えて、手のひら全体をストレッチすることで、筋肉や筋膜の緊張を和らげ、痛みを予防・改善できます。

前腕前面ストレッチ

STEP1:手関節に痛みがある場合は肘を曲げてもOK
STEP2:手を手前に引きましょう。
STEP3:反対側の手で手の平を支えます。
STEP4:手を前方に伸ばし手の平を上に向けましょう。

母指ストレッチ

STEP1:片手を前方に出しましょう。
STEP2:反対側の手で親指を握りましょう。
STEP3:親指を後方へ引っ張りましょう。母指球が伸びた状態を保持しましょう。
STEP4:ゆっくりと元に戻しましょう。

ツボ押し時の注意点とよくある間違い

ツボ押しは、自宅で手軽にできるセルフケアとして非常に効果的ですが、間違ったやり方をしてしまうと、かえって症状を悪化させる原因にもなります。ここでは、ツボ押しを行う際に注意すべきポイントと、多くの人がやりがちな誤解・誤用について解説します。

強く押しすぎると逆効果に

「強く押せば効く」という思い込みから、必要以上に力を入れてしまうケースは少なくありません。しかし、ツボは神経や血管の集中する繊細なポイントでもあるため、過剰な刺激は組織を痛める原因になります。

よくある失敗例

  • 青あざができるほど強く押してしまう
  • 1か所を何分も押し続けてしまう
  • 押した後にズキズキとした痛みが残る

ツボ押しは「痛気持ちいい」と感じる強さが基本です。押した瞬間に筋肉が緩むような感覚や、軽い圧でじんわり温まるような刺激を目安にしましょう。

同じ場所を何度も刺激しない

痛みがあるツボを何度も押してしまうのも、よくある間違いです。特に、痛みが慢性的になっている場合や腱鞘炎が疑われる場合、組織が炎症を起こしている可能性があり、繰り返しの刺激は状態を悪化させるリスクがあります。

避けるべき行動

  • 1日に何度も押す
  • 一度のセルフケアで何十回も押し続ける
  • 圧痛点(押して痛い部分)を執拗に押す

ツボは一度のケアで5〜10回ほどの刺激にとどめ、少なくとも数時間は間隔をあけるようにしましょう。

入浴後や食後すぐのツボ押しは避ける

体が温まって血流が良くなっている入浴後や、消化活動が活発な食後は、体全体が敏感になっています。このタイミングで強い刺激を加えると、めまいや胃の不調などを引き起こす場合があります。

理想的なタイミング

  • 朝起きてすぐ(ウォームアップとして)
  • 就寝前のリラックスタイム
  • 手を使いすぎた後のクールダウン

時間帯を選ぶことで、ツボ押しの効果をより高めることができます。

痛みが強いとき・炎症があるときは避ける

ツボ押しは万能ではありません。すでに腫れや熱感がある、触れるだけで激しい痛みがあるという場合には、ツボを刺激すること自体が逆効果になります。こうした状態のときは、まず患部を冷やす、安静に保つことが最優先です。

注意すべき症状の例

  • 押さなくてもズキズキ痛む
  • 赤く腫れている
  • 指が動かせない、しびれる

このような症状がある場合は、自己判断でツボを押さず、速やかに整形外科や整骨院などの専門機関を受診してください。

効果を「すぐ」に求めすぎない

ツボ押しをした直後に効果が感じられないと、「効かないのでは?」と感じる方もいます。しかし、ツボ刺激の効果は、筋肉や血流、自律神経の調整など、じわじわと体に現れるものです。

焦らず、短時間でもよいので毎日コツコツと続けることが、効果を最大化するコツです。日々の生活の中に組み込み、習慣化することで、本来の回復力が引き出されます。

それでも痛みが取れないときは?

手を押さえる女性の画像

セルフケアを継続しても親指の付け根の痛みが改善しない場合、無理をせず、専門家の判断を仰ぐことが重要です。単なる筋肉疲労や一時的なツボの過敏ではなく、他の原因が隠れている可能性もあるからです。

受診の目安となるサイン

次のような症状がある場合は、整骨院や鍼灸院、または整形外科での相談を検討しましょう。

以下のような症状が長く続く場合は注意

  • 1週間以上、痛みが軽減しない
  • 手を動かすたびにズキンと痛む
  • 朝起きたときに手がこわばる
  • 親指にしびれがある
  • 押していないときでも違和感がある

これらは単なる「ツボの痛み」ではなく、腱鞘炎や神経の圧迫、関節の炎症などが進行しているサインである可能性があります。早期に対応することで、回復も早まりやすくなります

整骨院での対応

整骨院では、痛みの部位だけでなく、全身の筋肉や骨格バランスの視点から原因を探ります。ツボや筋膜のつながりを考慮しながら、体全体の使い方を改善するアプローチが得意です。

主な施術内容

  • 手の筋肉や腱の状態をチェック
  • 手首や肩、肘との関係性の分析
  • 手技による筋膜リリースや調整
  • 日常生活の動作指導・セルフケアの提案

「手の使い方」に問題があるケースでは、局所的なマッサージよりも、肩や背中の調整が効果的な場合もあります。

鍼灸院での対応

鍼灸では、ツボや経絡(けいらく)を活用した東洋医学的アプローチが中心となります。ツボの痛みだけでなく、全身のバランスや内臓の状態にも着目して施術が行われます。

鍼灸の特徴

  • 痛むツボに対するピンポイントの鍼刺激
  • 経絡の流れを整え、自律神経を安定させる
  • 筋肉の深部にアプローチできる
  • 内臓疲労や冷えなど、体質的な要因にも対応

「魚際」「合谷」「陽谿」など、今回紹介したツボはすべて鍼灸でよく使われるポイントであり、痛みの緩和だけでなく、再発予防や体質改善にも効果が期待できます。

整形外科にかかるべきケース

明らかに炎症や腫れがある、あるいはしびれが強く出ている場合は、整形外科での画像検査(レントゲン、MRIなど)が必要になることもあります。骨や神経に異常がないかどうかを確認することは、的確な治療方針を決めるうえで重要です。

専門家に相談するメリット

自己流のマッサージや市販のサポーターで一時的に症状が和らいだとしても、根本的な原因が残っていれば再発のリスクがあります。専門家に相談することで、以下のことが受けられ、結果として早期の回復が望めます。

  • 原因の特定
  • 状態に応じた正しい施術
  • 長期的な改善プランの提案

まとめ

親指の付け根のツボが押すと痛むのは、筋肉の使いすぎや筋膜の緊張、内臓の不調が原因かもしれません。魚際・合谷・陽谿などのツボを知り、正しいセルフケアを行えば改善が期待できます。痛みが続く場合は、無理せず専門家に相談しましょう。本記事があなたの痛みの軽減に少しでも繋がれば、幸いです。

【参考文献】
1)日本整形外科学会:ドケルバン病(狭窄性腱鞘炎)
2)日本整形外科学会:母指CM関節症(親指の付け根の関節の変形性関節症)

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桐内 修平
理学療法士資格保有:http://www.japanpt.or.jp/
【経歴】
  • 医療法人社団紺整会 船橋整形外科病院
  • 株式会社リハサク
理学療法士免許取得後、国内有数の手術件数・外来件数を誇る整形外科病院に7年間勤務。多種多様の症状に悩む患者層に対し、リハビリテーションを行う。その後、株式会社リハサクに入社。現在はマーケティングに従事し、より多くの方へリハサクの魅力を届ける。