胸と背中の痛みはストレス?考えられる原因と今すぐできる対処法

「胸が苦しい」「背中が張って痛む」といった症状があるのに、検査では異常なし。そんなとき、見落としがちなのが“ストレス”の影響です。

実は、ストレスは自律神経や筋肉の緊張に作用し、身体のさまざまな場所に痛みをもたらすことがあります。本記事では、胸や背中に現れるストレス由来の痛みの仕組みと、すぐにできる対処法について解説します。

最後まで読むことで、ストレスが体に与えるメカニズムから、重大な病気との見分け方、自宅でできる具体的なケア方法、再発を防ぐ生活習慣までを体系的に理解し、安心して実践できる知識が身につきます。ぜひお付き合いください。

参考記事:背中の左側が痛いのは内臓の病気かも?考えられる原因と対処方法を解説
参考記事:背中の右側の痛みは内臓が原因!?考えられる原因と適切な対処法

なぜストレスで胸や背中が痛くなるのか?

背中を痛がる女性の画像ストレスによる身体の不調は「痛み」という形で現れることがあります。特に胸や背中に生じる痛みは、自律神経の乱れや筋肉の緊張が関係している場合が多く、精神的な負担が思わぬ身体症状として表出することも少なくありません。

ストレスが自律神経に与える影響とは?

精神的なストレスを感じたとき、私たちの体内では自律神経のバランスが崩れやすくなります。自律神経は「交感神経」と「副交感神経」の2つの働きから成り立ち、日常の体温調節、内臓の働き、血圧、呼吸などを無意識にコントロールしています。

ストレスが続くと、交感神経が優位になり、常に「戦闘モード」のような状態が続きます。この状態では筋肉が緊張しやすくなり、血管が収縮して血流が悪化します。胸周りや背中の筋肉が硬くなると、痛みや圧迫感が生じやすくなります。とくにデスクワークや人間関係など、日常的なストレスを抱えている人は、この交感神経の過剰な働きによって、痛みを感じやすくなるのです。

筋肉がこわばることで起こる身体の痛み

ストレスを感じると、筋肉は無意識にこわばります。これは体が「危険から身を守ろう」とする自然な反応ですが、長時間にわたって筋肉が緊張したままでいると、次第に疲労が蓄積し、痛みを引き起こします。

特に胸の筋肉(大胸筋)や背中の筋肉(僧帽筋・広背筋など)は、呼吸や姿勢と深く関係しているため、緊張の影響を受けやすい部位です。これらの筋肉が持続的に硬直すると、筋膜という組織にも負担がかかり、いわゆる「筋膜性の痛み」として現れることがあります。筋膜の癒着や血行不良によって痛みが慢性化するケースも少なくありません。

大胸筋の画像

広背筋や僧帽筋の画像

また、筋肉が収縮したままだと、神経を圧迫することもあり、しびれや違和感を伴う場合もあります。このようにストレスによる筋緊張が胸や背中の不快感を引き起こすのは、非常に理にかなった現象といえます。

呼吸の浅さも痛みに関係している

ストレス状態では、呼吸が無意識のうちに浅く、速くなっていることが多くあります。これは交感神経が活発になっているサインでもあり、「酸素を取り込まなければ」という体の反応でもあります。

しかし、浅い呼吸が続くと、横隔膜や肋間筋といった呼吸に関わる筋肉が十分に使われず、胸まわりや背中の筋肉が代償的に働くようになります。これが筋疲労や張り、痛みを引き起こす原因となるのです。

横隔膜の画像

肋間筋の画像

さらに、浅い呼吸ではリラックスに必要な副交感神経がうまく働かず、体が休まらない状態が続きます。結果として筋肉のこわばりが解けず、慢性的な痛みにつながってしまうこともあります。

病気との違いは?胸や背中の痛みで疑うべき重大なサイン

胸や背中の痛みがすべてストレスに起因するわけではありません。中には、命に関わる重大な疾患の初期症状として現れることもあります。ここでは、医療機関を早急に受診すべきサインや、注意すべき疾患の特徴を紹介します。

心臓や肺の病気が原因の可能性

突然の強い胸の痛み、圧迫感、冷や汗を伴うような症状がある場合は、心臓や肺に関係する疾患をまず疑う必要があります。特に注意すべきは「心筋梗塞」や「大動脈解離」といった循環器系の緊急疾患です。

心筋梗塞は、心臓の血管が詰まり、心筋が壊死する病気です。典型的には、胸を締めつけられるような強烈な痛みが数分以上続き、肩や左腕、顎、背中にも痛みが放散することがあります。また、大動脈解離は、大動脈の内壁が裂けることで起こる非常に危険な疾患で、「背中を引き裂かれるような激痛」が特徴的です。発症直後の対応が生死を分けるため、速やかな救急対応が必要です。

さらに、肺に関係する病気、たとえば「肺塞栓症」や「自然気胸」でも、呼吸に関連する鋭い痛みや息苦しさが出現します。深呼吸時に痛みが強くなる場合や、突然呼吸が苦しくなった場合も、ただちに医師の診断を仰ぐべきです。

消化器や内臓の疾患による痛み

胸や背中の痛みは、消化器や他の内臓からの「関連痛」として現れることもあります。たとえば、膵臓の炎症(急性膵炎)は、みぞおちや左側の背中に強い痛みをもたらすことで知られています。特に食後に痛みが悪化し、吐き気や発熱を伴う場合は要注意です。

また、胃の不調、胃潰瘍や逆流性食道炎なども、胸の中央や背中に鈍い痛みや違和感を引き起こすことがあります。これらは一見すると「筋肉痛」や「ストレス性の痛み」と混同されやすいため、症状の出方や経過に注意を払いましょう。

女性の場合、胆石や肝臓疾患などの消化器系疾患が、右肩甲骨の裏あたりに痛みとして現れることもあります。背中の片側だけに痛みが集中していたり、姿勢や動きと関係なく痛みが続く場合には、内臓由来の可能性も視野に入れる必要があります。

こんな症状がある場合はすぐに受診を

以下のような症状がある場合、単なるストレスや筋肉の緊張と決めつけず、すぐに医療機関での受診を検討してください。

  • 胸が締め付けられるように痛む
  • 背中に突き刺すような激しい痛みがある
  • 呼吸が苦しい、深呼吸で痛みが増す
  • 冷や汗を伴う、意識がぼんやりする
  • 発熱や嘔吐、黄疸などの全身症状がある

これらは、いずれも命に関わる病気の可能性があるサインです。特に、「いつもと違う」「経験したことのない痛み」や、「安静にしても軽減しない痛み」は要注意です。

また、高齢者や持病のある方は、症状が典型的に出ないこともあります。「なんとなくおかしい」と感じたら、自己判断せず、かかりつけ医や救急窓口に相談することが大切です。

ストレスが原因かも?セルフチェックリスト

胸や背中の痛みがあるものの、病院で検査しても異常が見つからない——そんなとき、「もしかしてストレスが原因?」と考える人は少なくありません。ここでは、ストレスによる痛みかどうかを自分で判断するための簡単なセルフチェック方法を紹介します。

最近の生活や気分を振り返ってみよう

ストレスによる痛みの背景には、生活環境や心の状態が深く関係しています。まずは、ここ数日の自分の状態を振り返ってみましょう。以下のような傾向がある場合、ストレスの影響が疑われます。

  • 寝つきが悪い、夜中に目が覚める
  • 仕事や家事への集中力が落ちている
  • ささいなことでイライラしやすい
  • なんとなく気分が沈んでいる
  • 食欲が落ちている、または過食気味

こうした心身の変化は、自律神経の乱れや脳内のストレスホルモン(コルチゾールなど)の影響によるものです。特に「理由がわからないけど体がしんどい」と感じる場合、心因性の症状が痛みとして出ている可能性があります。

痛みの出方や部位を確認する

ストレスによる痛みは、筋肉の緊張や血流の悪化からくることが多いため、「痛みの性質」にも特徴があります。以下のような傾向があれば、筋肉性やストレス性の痛みである可能性が高まります。

  • 胸や背中が重だるい、張っている感じ
  • 朝よりも夕方以降に痛みを感じやすい
  • 痛みの場所が毎回微妙に変わる
  • 姿勢や動作に応じて痛みが強くなる
  • 押すと少し痛みが和らぐ

一方、心臓疾患などの内臓由来の痛みは、姿勢の変化や筋肉の圧迫では軽減しにくく、突然強い痛みとして現れることが多いです。「押して楽になるか」「動いて変化するか」は、ストレス性の痛みかどうかを見分けるヒントになります。

セルフチェックでわかるストレス度

簡単なストレスチェックを行うことで、自律神経のバランス状態や、現在のストレスレベルを把握することができます。以下の項目に「はい」が多く当てはまるほど、ストレスが身体に影響を与えている可能性が高くなります。

  1. 最近、呼吸が浅く感じることがある
  2. 体のどこかが常にこっている気がする
  3. 心配事が頭から離れず、リラックスできない
  4. 胃のムカつきや便秘など、消化器の不調がある
  5. 休日も気が休まらない

3つ以上当てはまる場合、自律神経が乱れているサインかもしれません。こうした状態が続くと、痛みや違和感が慢性化するリスクも高まります。チェックの結果を参考に、自分の心身の状態を客観的に見つめ直すことが大切です。

自宅でできる!胸と背中の痛みを和らげるセルフケア方法

ストレスによる胸や背中の痛みは、日々の習慣やちょっとした工夫で改善できる可能性があります。ここでは、今日から自宅で無理なく始められるセルフケアの方法を紹介します。体と心の緊張をゆるめることで、痛みの軽減が期待できます。

姿勢を整えるだけで背中の緊張がやわらぐ

長時間のデスクワークやスマートフォンの操作で猫背になっていると、胸の筋肉が縮こまり、背中側の筋肉が常に引っ張られる状態になります。このバランスの崩れが、胸や背中の痛みの原因になります。

まずは「正しい姿勢」を意識することが、痛み緩和の第一歩です。椅子に座るときは、骨盤を立てて背筋を伸ばし、肩をリラックスさせて耳と肩が一直線になるようにします。背もたれに深く座り、足裏を床にしっかりつけるだけでも、背中の筋緊張はかなり軽減されます。イスでの正しい座りかたと猫背姿勢を説明した画像

また、1時間に1回は立ち上がって軽く体を動かす習慣を取り入れると、血流が促進され、筋肉のこわばり予防にもなります。

胸・背中をゆるめる簡単ストレッチ

痛みの軽減には、胸や背中の筋肉を「ゆるめる」ことが効果的です。以下のストレッチは、初心者でも簡単にでき、5分程度で実践可能です。

胸張り運動

STEP1:背中を丸め手を前方に出しましょう。
STEP2:胸を張り肩甲骨を寄せるように、手を後ろに引きましょう。
STEP3:背中を丸め手を前方に出しましょう。
STEP4:胸を張り肩甲骨を寄せるように、手を後ろに引きましょう。

広背筋ストレッチ

STEP1:両手を頭の上で組みましょう。
STEP2:体を真横に傾け、背中・脇腹を伸ばしましょう。数秒間姿勢を保持しましょう。
STEP3:ゆっくりと元の姿勢に戻ります。
注意点:傾ける方向と反対側へ重心を移動させましょう。

これらのストレッチは、起床後・入浴後・就寝前など、1日2~3回を目安に取り入れると、より効果的です。継続することで筋肉の柔軟性が増し、痛みの予防にもつながります。

深呼吸とリラクゼーションで自律神経を整える

自律神経のバランスを整えるには、呼吸を深く整えることが非常に有効です。特に副交感神経を優位にすることで、体がリラックスし、筋肉の緊張も和らぎます。

以下のような呼吸法を試してみてください。

  • 鼻からゆっくり息を吸い、4秒かけて肺を満たす
  • 2秒ほど息を止めて
  • 口から8秒かけてゆっくり息を吐く

この「4-2-8呼吸法」を1日5分程度行うだけでも、心拍数が落ち着き、精神的なストレスの緩和が期待できます。

また、照明を落とした静かな環境で音楽を聴いたり、アロマを焚いたりするのもおすすめです。お気に入りの趣味に没頭する時間を設けることも、ストレス軽減には非常に有効です。

ストレスによる痛みを繰り返さないために大切な習慣

リフレッシュしている女性の画像

一時的に痛みが和らいでも、ストレスの根本的な要因が解消されなければ、再び症状がぶり返すことは珍しくありません。痛みの再発を防ぐには、日常生活の中で「心と体を整える習慣」を意識的に取り入れることが大切です。

質の高い睡眠をとるコツ

自律神経の乱れを整えるうえで、最も重要ともいえるのが「睡眠の質」です。睡眠不足や浅い眠りは、交感神経の過活動を助長し、翌日の筋肉の緊張やストレス反応を強めてしまいます。

良質な睡眠をとるためには、以下のポイントを意識してみましょう。

  • 就寝1時間前にはスマホやテレビなどの光刺激を控える
  • 寝る前にぬるめのお風呂に浸かって副交感神経を優位にする
  • 毎日同じ時間に寝起きする習慣を作る
  • 寝室の照明や温度・湿度を整え、快適な睡眠環境を作る

また、ベッドの中でストレッチや深呼吸を取り入れるのも効果的です。体と心がリラックスしやすくなり、自然な眠りへと導いてくれます。

日常に軽い運動を取り入れる

「運動不足」はストレスの蓄積や筋肉の緊張を招きやすい要因のひとつです。とはいえ、激しいトレーニングをする必要はありません。重要なのは、「血流を促進し、体を動かす習慣を日常に組み込むこと」です。

おすすめは、以下のような軽めの運動です。

  • 朝や夕方に15分程度のウォーキング
  • ラジオ体操やヨガ、ストレッチなどの全身運動
  • 自宅でできる軽い筋トレや体幹トレーニング

これらの運動は、筋肉の緊張をやわらげるだけでなく、脳内で「セロトニン」や「エンドルフィン」といった幸福ホルモンの分泌を促進し、精神的な安定にもつながります。特に屋外での運動は日光を浴びられるため、自律神経の調整にも効果的です。

心を整える時間を意識的に作る

ストレスによる痛みを防ぐには、身体のケアだけでなく「心のメンテナンス」も欠かせません。日常の忙しさのなかでも、意識的に心を落ち着ける時間を作ることで、ストレス反応は大きく緩和されます。

具体的には以下のような方法が有効です。

  • マインドフルネス瞑想:1日5分でも、呼吸に意識を向けるだけでOK
  • 趣味の時間を確保する:読書・手芸・園芸など、自分だけのリズムを持つ
  • 感情をノートに書き出す:思考を整理し、ストレスの可視化ができる
  • 自然に触れる:公園や川辺での散歩などは、心を落ち着ける効果がある

また、「頑張りすぎない」意識も大切です。責任感の強い人ほど無理をしがちですが、あえて「休む勇気」を持つことが、心身の健康維持につながります。

まとめ

胸や背中の痛みは、ストレスや筋肉の緊張、自律神経の乱れが原因となることがあります。重大な病気との区別が必要ですが、セルフケアや生活習慣の見直しで改善も可能です。また、姿勢の調整や深呼吸、軽い運動は予防にも効果的です。

痛みが続く場合や強い症状があるときは、自己判断せず早めに医療機関を受診しましょう。体と心のバランスを整えることが、痛みのない快適な生活への第一歩です。

【参考文献】
1)伊藤俊一,久保田健太,隈元康夫,森山秀樹:慢性腰痛者に対する筋収縮後ストレッチングの有効性について,日本腰痛会誌,15(1): 45 ‒ 51, 2009
2)厚生労働省:健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023
3)Bener A, Verjee M, Dafeeah EE, Falah O, Al-Juhaishi T, Schlogl J, Sedeeq A, Khan S. Psychological factors: anxiety, depression, and somatization symptoms in low back pain patients. J Pain Res. 2013;6:95-101. doi: 10.2147/JPR.S40740. Epub 2013 Feb 4. PMID: 23403693; PMCID: PMC3569050.

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桐内 修平
理学療法士資格保有:http://www.japanpt.or.jp/
【経歴】
  • 医療法人社団紺整会 船橋整形外科病院
  • 株式会社リハサク
理学療法士免許取得後、国内有数の手術件数・外来件数を誇る整形外科病院に7年間勤務。多種多様の症状に悩む患者層に対し、リハビリテーションを行う。その後、株式会社リハサクに入社。現在はマーケティングに従事し、より多くの方へリハサクの魅力を届ける。