座るたびに感じる尾てい骨の痛み。「しりもちをついたせい?」「放っておいても大丈夫?」と不安になる人も多いでしょう。
実はこの痛み、外傷だけでなく日常の姿勢やホルモン変化、筋肉のこわばりなど複数の原因が関係しています。本記事では、尾てい骨の痛みの原因をわかりやすく解説し、症状に合わせた対処の第一歩をサポートします。
最後まで読むことで、痛みの原因を見極めるポイントから、自宅でできる具体的なケア方法、受診が必要なサインまでを体系的に理解でき、自分に合った改善の道筋を見つけることができます。ぜひお付き合いください。
尾てい骨が痛い…考えられる原因とは?
尾てい骨(尾骨)まわりの痛みにはさまざまな原因があります。単なる打撲から、筋肉や神経の緊張、ホルモンの影響まで幅広く、放置していいケースと注意すべき状態を見極めることが重要です。
ここでは、主な原因を4つの観点から解説します。
参考記事:尾てい骨が痛いのはなぜ?尾骨の構造や不調の原因・すぐに実践できる対処法を解説
しりもちや外傷による尾骨の打撲・骨折
尾てい骨の痛みで最も多い原因のひとつが、転倒による「しりもち」です。硬い地面に尻を強く打ちつけることで、尾骨が直接衝撃を受け、打撲や骨折を引き起こすケースがあります。
打撲の場合は、皮下出血や腫れ、鈍痛が主で、数日〜1週間ほどで徐々に改善するのが一般的です。しかし、尾骨の骨折やヒビがあると、座る・立ち上がるなどの動作で鋭い痛みが続き、安静にしていても違和感が取れないことがあります。
特に中高年や骨密度が低下している人は、軽度の衝撃でも骨折に至ることがあるため、痛みが長引く場合は早めの診察が必要です。
参考記事:【突然の痛み】尾てい骨にヒビが入ったときの症状や対処法、病院に行くべき目安とは?
長時間の座位や姿勢不良による圧迫
長時間座りっぱなしでデスクワークをしていると、尾てい骨に体重が集中し、慢性的な圧迫が生じます。特に猫背や前傾姿勢がクセになっている人は、骨盤が後傾し、尾骨が座面に押し付けられる形になるため、局所的な炎症や痛みを引き起こしやすくなります。
悪い座り姿勢の画像

また、クッション性の少ない硬い椅子や、高すぎる座面も尾てい骨への負担を増加させます。こうした「日常の姿勢習慣」が、慢性的な尾てい骨痛の温床になるケースは少なくありません。
参考記事:座るとお尻(尾てい骨)が痛いのはなぜ?痛みの原因・ストレッチなど実践しやすい対処法を解説
産後・更年期・女性ホルモンの変化による痛み
女性特有の体の変化も、尾てい骨の痛みに大きく関係しています。出産時には骨盤が大きく開き、尾骨が後方に押し出されるような圧力がかかるため、分娩後に痛みが残ることがあります。自然分娩後の尾骨痛は一時的なものが多いですが、育児中の姿勢(授乳・抱っこ)や疲労が重なると慢性化することも。
また、更年期には女性ホルモンの分泌が減少し、骨や筋肉、関節周囲の柔軟性が低下。これにより、尾てい骨まわりの組織に負担がかかりやすくなります。骨盤底筋の機能低下や冷えも影響し、特に中高年女性に多く見られる症状です。
筋肉の緊張や神経由来の痛み
尾てい骨周辺には、臀部の深層筋や骨盤底筋、さらに坐骨神経などが走行しています。ストレスや疲労、無意識の力みでこれらの筋肉が緊張すると、局所の血流が悪くなり、筋肉や筋膜の中に“トリガーポイント”と呼ばれる痛みの元が生まれることがあります。
また、尾骨周辺の神経が圧迫されたり炎症を起こしたりすると、いわゆる「神経痛」として鋭く、時にビリビリした放散痛を伴う場合も。姿勢の変化やストレスによって悪化しやすく、「何となく違和感が続く」「姿勢を変えると痛む」といったケースは、筋緊張や神経由来の痛みを疑うべきです。
尾てい骨の痛みを悪化させるNG行動とは?

尾てい骨の痛みは、日常の何気ない動作や姿勢のクセによって悪化することがあります。意識せずにやってしまっている行動が、かえって炎症や神経への刺激を強め、痛みを長引かせているケースもあるので、注意が必要です。ここでは避けるべきNG行動を紹介します。
長時間座りっぱなしで姿勢を変えない
座る時間が長くなればなるほど、尾てい骨への圧迫は増し、痛みの元となる炎症や筋肉のこわばりが悪化します。特に背もたれに寄りかからず前傾姿勢になっている場合、骨盤が後傾し、尾骨が座面に直に当たる状態が続いてしまいます。
テレワークやデスクワークの増加により、1日中ほとんど動かないという方も多いですが、1時間に1度は立ち上がる、歩く、軽く体をひねるといった小さな動きが、血流改善や筋肉の緊張緩和につながります。
また、無意識に同じ姿勢を取り続けてしまう人は、スマートフォンやパソコンの使用中にタイマーを活用するなど、意図的に休憩を入れる工夫が必要です。
高い椅子・硬い椅子にそのまま座る
椅子の高さや座面の硬さも、尾てい骨の痛みに大きく影響します。高すぎる椅子に座ると足が浮き、骨盤が後ろに倒れやすくなるため、尾骨への圧力が増します。また、クッション性のない硬い椅子では、尾てい骨が直接刺激され、打撲のような状態が慢性的に続いてしまいます。
特にやってはいけないのが、「痛みを我慢してそのまま座り続ける」こと。痛みがあるときは、必ず円座クッションやドーナツ型の座布団を使用して、尾てい骨部分に空間を作りましょう。これにより接触圧が軽減され、炎症や圧迫の進行を防げます。
日常的に座る場所(自宅・職場・車など)すべてに工夫を施すことで、再発や慢性化のリスクを減らすことが可能です。
無理なマッサージ・ストレッチ
痛みがあるとつい「もみほぐして治そう」と考えがちですが、尾てい骨周辺に強い刺激を加えることは逆効果になる場合があります。特に、自己流でマッサージをしたり、無理に体をひねるようなストレッチをしたりすると、炎症が悪化し、痛みがかえって強くなるリスクがあります。
尾てい骨まわりには坐骨神経や骨盤底筋など繊細な組織が多く、刺激の加え方を誤ると神経を圧迫し、痺れや放散痛を引き起こすこともあります。マッサージが有効なのは「筋緊張による慢性痛」の一部に限られ、打撲直後や痛みが鋭い場合は禁忌です。
痛みがあるときほど「無理に動かさない・刺激しない」ことが基本です。ストレッチや体操を行う際は、理学療法士や専門家の指導を受けたうえで実践するようにしましょう。
尾てい骨の痛みをやわらげる今すぐできる対処法
尾てい骨の痛みが軽度であれば、自宅でのちょっとした工夫やセルフケアで症状を緩和できることがあります。医療機関に行く前に、自分でできる対処法を取り入れてみましょう。ここでは、今すぐ試せる3つの方法をご紹介します。
円座クッションなどで負担を軽減する
尾てい骨への直接的な圧迫を避けるためには、座る環境の見直しが最優先です。特におすすめなのが、中央に穴の開いた「円座クッション」や「ドーナツ型クッション」の使用です。これにより、座面と尾てい骨の接触を回避でき、炎症や圧迫を和らげる効果があります。
また、椅子自体の高さにも注意しましょう。座ったときに膝と股関節が水平、もしくはやや膝が高くなるような姿勢が、骨盤の角度を自然な状態に保ちやすく、尾骨への負担を軽減します。長時間座る必要がある場合は、定期的に立ち上がって軽く歩くことで血流を促し、痛みの悪化を防ぐことができます。
骨盤まわりの筋肉をゆるめるストレッチ
筋肉の緊張が尾てい骨まわりの痛みに関与している場合は、骨盤まわりの柔軟性を高めることが効果的です。以下のようなストレッチを無理のない範囲で行いましょう。
大殿筋ストレッチ
STEP1:片膝を抱えましょう。
STEP2:対側の肩に膝を寄せましょう。
STEP3:元の姿勢戻りましょう。繰り返し実施しましょう。
ヒップロール
STEP1:仰向けになり両手を横に広げ、両膝を90度に曲げましょう。
STEP2:両膝をくっつけたまま横に倒しましょう。
STEP3:元の姿勢に戻りましょう。
注意点:倒す際に肩が浮かないように注意しましょう。
梨状筋ストレッチ
STEP1:椅子に腰掛け、片足を反対側の膝にのせましょう。
STEP2:上体を伸ばしたまま骨盤を前方へ倒しましょう。お尻が伸びた状態を数秒間保持しましょう。
STEP3:元の姿勢に戻りましょう。
注意点:背中が丸まらないように注意しましょう。
ストレッチは「気持ちいい」と感じる程度にとどめ、痛みを感じる動作は避けてください。継続的に行うことで、骨盤まわりの血行が良くなり、回復力の向上が期待できます。
入浴や温タオルで温める
尾てい骨の痛みが筋肉のこわばりや血行不良からくるものであれば、温めることで症状が緩和されるケースが多くあります。最も手軽で効果的なのが「入浴」です。38~40度のぬるめのお湯に15~20分程度つかることで、副交感神経が優位になり、筋肉がゆるみやすくなります。
また、入浴が難しい場合は、温タオルや使い捨てカイロを薄手の布に包み、尾てい骨のすぐ上の仙骨あたりにあてて温めるのも効果的です。このエリアを温めることで、周辺の筋肉・神経の緊張がゆるみ、痛みの感じ方が軽減されます。
ただし、炎症による痛みが疑われる場合(腫れや熱感があるなど)は温めず、むしろ冷やすべきケースもあるため、痛みの状態をよく観察して対応しましょう。
「尾てい骨が痛い」は病気のサイン?受診すべき症状

「そのうち治るだろう」と思っていた尾てい骨の痛みが、なかなか引かない…そんなとき、背後に病気が隠れている可能性もあります。ここでは、注意すべきサインと医療機関を受診すべきタイミングを解説します。
骨折やヒビがある場合の特徴
転倒やしりもちをついた後の尾てい骨痛は、一見すると打撲のように見えますが、実際には「骨折」や「ヒビ」が入っているケースもあります。打撲と骨折を見分けるポイントとして、次のような症状が挙げられます。
- 安静にしていてもズキズキと痛む
- 痛みが数日以上続き、悪化している
- 座る・立ち上がるなどの動作で激しく痛む
- 痛みの場所が一点に集中している
特に骨密度が低下している高齢者や、過去に同部位を傷めた経験がある方は、軽い衝撃でも骨折している可能性があります。
放置しておくと痛みが慢性化し、骨の変形や神経障害を招くおそれもあるため、整形外科での画像診断(レントゲン・MRI)を早めに受けることが大切です。
感染症や腫瘍など重篤な病気の可能性
尾てい骨まわりの痛みが、局所の腫れや熱感を伴っている場合は、「感染性の膿瘍(うみ)」や「皮膚の感染症」が考えられます。特に、毛のう胞(いわゆるおしりの粉瘤)などが化膿して炎症を起こすと、皮膚の深部まで腫れが広がり、痛みが強くなることがあります。
またまれに、尾骨やその周囲に腫瘍ができることで痛みが出るケースもあります。良性・悪性に関わらず、腫瘍による痛みは「安静にしていても改善しない」「夜間に痛みが強くなる」「体重減少や倦怠感を伴う」といった特徴があります。
こうした症状がある場合は、早急に整形外科または総合病院での精密検査を受け、必要に応じて外科的処置や抗生物質の投与などを検討する必要があります。
何科を受診すべき?判断の目安
尾てい骨の痛みを診てもらう場合、基本的には「整形外科」が第一選択となります。骨折・打撲・炎症・神経痛など、原因の多くをカバーしており、レントゲンやMRIなどの検査も可能です。
ただし、「姿勢や筋肉のこわばりによる痛みが疑われる」「骨には異常がないが痛みが続いている」といった場合は、柔道整復師がいる接骨院や整骨院での相談も選択肢になります。特に、骨盤のゆがみや筋膜の緊張による慢性的な痛みに対しては、理学療法や手技療法が効果を発揮することがあります。
一方、皮膚の腫れ・熱感・発赤を伴う場合は「皮膚科」、腫瘍の疑いがある場合は「外科」または「総合診療科」が適切です。症状が複合的なときは、まず整形外科で診察を受け、必要に応じて他科に紹介してもらう流れが一般的です。
まとめ
尾てい骨の痛みは、転倒や姿勢のクセ、筋肉の緊張、ホルモンバランスの変化など、さまざまな要因で引き起こされます。
軽度な場合はクッションの使用やストレッチ、温めるなどのセルフケアで改善が期待できますが、痛みが長引く・強くなるときは早めに医療機関を受診しましょう。日常の姿勢や生活習慣を見直すことが、再発予防の第一歩です。体からのサインを見逃さず、早めの対処を心がけてください。
【参考文献】
1)平松 隆, 白石 公祐, 小野 哲生:Pilonidal cyst の2例
2)平元奈津子:成人期にみられる男女の身体変化と症状*─妊娠,出産と男女の更年期─
3)杏 林大 学 医 学 部 整 形 外科学 臨 床専攻 医 山 下 和 夫:尾 骨 の X 線学的検討
4)Thawrani DP, Agabegi SS, Asghar F. Diagnosing Sacroiliac Joint Pain. J Am Acad Orthop Surg. 2019 Feb 1;27(3):85-93. doi: 10.5435/JAAOS-D-17-00132. PMID: 30278010.
