「首が痛い」「肩がこる」「腕がしびれる」などの症状が続くと、日常生活に大きな支障をきたします。その原因として多いのが「頚椎症」です。本記事では、頚椎症の基礎から治し方、セルフケア、手術の選択肢までをわかりやすく解説。
最後まで読むことで、症状の原因を正しく理解し、自分に合った治療法やセルフケアの方法、そして手術が必要なるケースの見極め方までを一貫して学ぶことができます。ぜひ最後までお付き合いください。
頚椎症とは?|まずは症状と原因を知る

頚椎症の治し方を考える前に、どんな病気なのか、どんな症状が出るのかを理解することが重要です。誤った理解や自己判断による対処は、症状の悪化を招くこともあります。
頚椎症とは何か?仕組みをやさしく解説
頚椎症とは、首の骨である「頚椎」に加齢や負担の蓄積による変形が生じ、神経が圧迫されることで痛みやしびれが出る疾患です。首の骨は7つの椎骨からなり、それぞれの間には椎間板や神経根があります。これらが変性したり、骨の突起(骨棘)が形成されたりすることで、神経が圧迫されると、痛みやしびれが生じます。

特に40代以降になると、頚椎や椎間板は自然に老化していくため、誰にでも起こり得る疾患といえます。なお、脊髄そのものが圧迫されると、「頚椎症性脊髄症」となり、手足の動かしにくさや歩行障害などの重い神経症状を伴うこともあります。
頚椎症の代表的な症状
頚椎症の症状は、圧迫されている神経の部位によって異なりますが、以下のようなものが代表的です。
- 首の痛みや重だるさ
- 肩こり、肩甲骨周囲の張り
- 腕や手のしびれ、ピリピリ感
- 握力の低下、細かい作業のしづらさ
- 後頭部や耳の後ろの違和感
初期には「ただの肩こり」と見過ごされやすいものの、神経の圧迫が進むと、感覚異常や運動障害につながることもあります。特に、左右どちらかの腕だけがしびれる、握力が低下するなどの症状が出た場合は、早めの医療機関受診が望まれます。
原因となる生活習慣や姿勢
頚椎症の大きな要因は「加齢」ですが、現代人の生活習慣も発症・悪化に関与しています。とくに以下のような習慣は、頚椎に過度な負担をかける原因になります。
- スマートフォンを長時間操作する(いわゆる「スマホ首」)
- デスクワークで前かがみの姿勢が続く
- 枕の高さが合っていない状態での就寝
- 猫背やストレートネックなどの不良姿勢
- 運動不足による筋力低下・柔軟性の欠如
首は5〜6kgある頭部を支え続ける重要な部位であり、わずかな姿勢の崩れでも長時間続くと頚椎へのダメージとなります。特にうつむいた状態を長く続ける習慣は、椎間板への圧迫が強まり、頚椎症の進行を早める原因となります。
頚椎症の治し方|保存療法とセルフケアが基本

頚椎症の治療は、ほとんどのケースで「保存療法」が基本となります。手術を行わずに、生活の中で症状を軽減・改善していく方法です。
ここでは、整形外科での一般的な治療法と、自宅でできるセルフケア、そして整体やマッサージを受ける際の注意点について解説します。
整形外科での一般的な治療内容
病院での頚椎症の治療は、主に「薬物療法」「装具」「理学療法(リハビリ)」の3つが基本です。軽度~中等度の症状であれば、これらの保存療法で改善が期待できます。
- 薬物療法:痛みや炎症を抑えるために、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)や筋弛緩薬、神経障害性疼痛に対するプレガバリンなどが処方されます。
- 装具療法:頚椎カラー(首のサポーター)を用いて、首の動きを一時的に制限し、炎症部位の安静を図ります。
- 牽引療法:頚椎の隙間を広げ、神経根の圧迫を和らげるために行われますが、効果には個人差があります。
- リハビリテーション:首・肩周囲の筋肉バランスを整え、正しい姿勢を保つトレーニングが行われます。
整形外科では、症状の重さやMRIなどの検査結果に基づいて、これらの治療を組み合わせて進めていきます。
自宅でできるセルフケアの基本
病院での治療と並行して、自宅でのセルフケアを行うことで、症状の改善が加速します。とくに重要なのは「温め」「習慣の見直し」「軽い体操」の3つです。
- 温める:蒸しタオルや入浴などで首まわりを温めると、血行が良くなり筋肉の緊張がほぐれます。就寝前に湯船につかる習慣は、副交感神経を刺激し、痛みの緩和にもつながります。
- 生活習慣の見直し:スマホを目の高さで持つ、パソコン作業の際はモニターを目線の高さに調整するなど、首への負担を軽減する姿勢を心がけましょう。
- 簡単な体操:ストレッチや肩甲骨を動かす体操を日課にすることで、筋肉の柔軟性を保ち、頚椎への負担を減らせます(具体的な方法は次章で詳述)。
これらのセルフケアは、習慣化することで再発防止にも効果的です。
整体やマッサージは効果ある?注意点も解説
「整体やマッサージに行けば治る」と考える方も多いですが、頚椎症のように神経が関係する症状の場合、施術には慎重さが求められます。
確かに、筋肉のこりや血流の悪化が痛みを助長しているケースでは、適切な手技による施術が一時的に症状を和らげることがあります。しかし、以下の点に注意が必要です。
- 無資格の施術者による強い矯正は危険
- 首をひねるような手技(スラスト法など)は、神経根を刺激し悪化させることも
- 一時的に楽になっても、根本原因が改善されるわけではない
施術を受ける場合は、医師の許可を得るか、理学療法士・柔道整復師など国家資格を持つ施術者を選ぶようにしましょう。また、「整体で悪化した」という体験談も少なくないため、事前に症状をしっかり伝えることが大切です。
首を守る!頚椎症のセルフストレッチと姿勢改善
頚椎症の症状をやわらげ、再発を防ぐためには、ストレッチと姿勢改善が重要です。日常的に首や肩周りの筋肉の柔軟性を保ち、正しい姿勢を習慣化することで、頚椎への負担を軽減できます。ここでは、自宅でできる簡単なストレッチと、姿勢改善のコツを紹介します。
参考記事:頚椎症で効果があるストレッチ&してはいけないことを解説
初心者でも安全にできる首回りストレッチ
首のストレッチは、無理なくやさしく行うことがポイントです。急に首を回す・倒すような動きは避け、じんわりと筋肉を伸ばす感覚を大切にしましょう。
頸部伸展筋ストレッチ
STEP1:両手を頭の後ろへ回しましょう。
STEP2:頭を前方へ倒しましょう。首の後方が伸びた状態を保持しましょう。
STEP3:元の姿勢に戻りましょう。
僧帽筋上部線維ストレッチ
STEP1:手を腰の後ろに回しましょう。
STEP2:肩が上がらないように抑えましょう。
STEP3:頭を斜め下へ傾けましょう。肩の上が伸びている状態を数秒間保持しましょう。
STEP4:ゆっくりと元の姿勢に戻ります。繰り返し実施しましょう。
首のストレッチは、入浴後や就寝前など筋肉が温まっている時間帯に行うとより効果的です。
肩甲骨・背中の緊張を緩めるエクササイズ
首の症状は、首そのものだけでなく、肩甲骨や背中の筋肉の緊張が影響している場合もあります。特にデスクワーク中心の生活では、肩甲骨周囲が固まりやすいため、次のようなエクササイズを取り入れましょう。
胸張り運動
STEP1:背中を丸め手を前方に出しましょう。
STEP2:胸を張り肩甲骨を寄せるように、手を後ろに引きましょう。
STEP3:背中を丸め手を前方に出しましょう。
STEP4:胸を張り肩甲骨を寄せるように、手を後ろに引きましょう。
スキャプラプッシュアップ
STEP1:肩の真下に肘をつきましょう。
STEP2:肘で床を押し、背中を丸めましょう。
STEP3:胸を前方に出しながら、脊中を反りましょう。
STEP4:2つの運動を繰り返し行いましょう。
肩甲骨の動きが良くなると、首や肩の負担が軽くなり、姿勢も自然と整ってきます。
座り方・寝方を見直して、再発を予防する
いくらストレッチをしても、日常の姿勢が悪ければすぐに元通りになってしまいます。特に座り方と寝方は、頚椎症の再発予防において重要なポイントです。
座り方の改善ポイント
- 椅子に深く腰掛け、背もたれに背中を預ける
- 足裏をしっかり床につけ、骨盤が立つ姿勢を意識する
- モニターは目線の高さに設置し、首が前に出ないよう注意
寝具の見直し
枕は首の自然なカーブを支える高さが理想です。高すぎる枕は頚椎を圧迫するため、やや低め~首を支える形状のものを選ぶと良いでしょう。硬すぎるマットレスも、首や背中に無理な圧がかかるので注意が必要です。
就寝姿勢
横向き寝または仰向けで、首・背中がまっすぐになる姿勢を意識しましょう。うつ伏せ寝は首をねじる姿勢になるため避けるべきです。
日常の中で無意識にとっている「負担のかかる姿勢」に気づき、少しずつ改善していくことが、症状の軽減と再発予防につながります。
やってはいけないこと|症状悪化を防ぐために
頚椎症の症状を改善しようと自己流で対処することが、かえって悪化につながるケースも少なくありません。良かれと思って続けていた習慣や動作が、実は頚椎に大きな負担をかけていることもあります。ここでは、頚椎症の人が避けるべきNG行動について詳しく解説します。
頚椎に負担をかけるNG姿勢・動作
頚椎に最も負担をかけるのは、「うつむいた姿勢」と「急激な首の動き」です。以下のような行動は、首の関節や神経にダメージを与える恐れがあります。

- 長時間の前傾姿勢:スマホやノートパソコンを使用するとき、顔が前に出て首が下を向く姿勢は、頚椎の椎間板に大きな圧力がかかります。たった15度うつむくだけで、首にかかる負担は約2.5倍になると言われています。
- 高すぎる枕の使用:寝ている間も首の角度が不自然な状態で固定されてしまうと、頚椎の関節が圧迫され、朝起きたときの首のこりや痛みの原因になります。
- 急な首の回旋や反らし:左右に首を急に振ったり、大きく反らす動作は、神経を刺激し症状が悪化する恐れがあります。特にラジオ体操や運動前の首の回しすぎには注意が必要です。
頚椎症のある方は、首を「強く動かす」のではなく、「支える」意識で生活することが大切です。
「整体で悪化した」という事例から学ぶ注意点
口コミサイトや知恵袋などで「整体を受けたら悪化した」という投稿を目にしたことがあるかもしれません。実際、整体やカイロプラクティックなどで強い矯正を受け、症状が悪化するケースは少なくありません。
- 頚椎に対する強い矯正はリスクが高い
首の骨は非常に繊細で、わずかな力でも神経を圧迫する可能性があります。骨の変形がある場合、無理な圧力がかかると、症状が一時的に改善したように見えても、後から悪化するリスクがあります。 - 施術者の資格と経験に注意
国家資格を持たない施術者による首の施術はリスクを伴います。頚椎症と診断された場合、整形外科医や理学療法士、柔道整復師など、専門知識のある施術者に相談することが安心です。 - 「ボキボキ鳴らす」はNG
一部の施術では、関節を鳴らすような手技を行うことがありますが、これは神経や血管に負担をかける可能性があるため、頚椎症の方には推奨されません。
施術を受ける際は、症状を詳しく伝え、無理のない方法であるかどうかを確認するようにしましょう。
症状が強いときは無理に動かさない
「動いたほうがよくなる」と思い込み、痛みが強いときにも無理にストレッチや体操をしてしまう人もいますが、これは症状悪化の原因となります。
- 急性期は安静が第一
神経の炎症が強く出ているときに体を動かすと、さらに刺激が加わり、しびれや痛みが悪化します。とくに腕にかけての神経症状が強いときは、まず安静を優先し、医師の診断を受けることが重要です。 - 痛みを我慢して続けない
ストレッチ中に「痛気持ちいい」を超えて鋭い痛みを感じた場合は中止すること。頚椎周囲は繊細な構造のため、無理は禁物です。 - 回復期に応じた段階的アプローチ
症状が軽快してきた段階で、医師や理学療法士の指導のもと、少しずつ運動を再開することが理想的です。
「我慢して続けるより、休む勇気を持つ」ことが、結果として早い回復につながることもあります。
まとめ
頚椎症は、首まわりの不調だけでなく、腕のしびれや筋力低下といった神経症状を引き起こすこともあります。多くの場合は、保存療法やセルフケア、正しい姿勢の習慣によって改善が可能です。
ただし、症状が重い場合や、筋力・排尿障害がある場合は手術が必要になるケースもあります。日常の中で「やってはいけないこと」を避け、セルフストレッチと姿勢改善を継続することが、再発予防と症状管理のカギとなります。気になる症状がある場合は早めの受診を心がけましょう。
【参考文献】
1)Lee KJ, Han HY, Cheon SH, Park SH, Yong MS. The effect of forward head posture on muscle activity during neck protraction and retraction. J Phys Ther Sci. 2015 Mar;27(3):977-9. doi: 10.1589/jpts.27.977. Epub 2015 Mar 31. PMID: 25931773; PMCID: PMC4395757.
2)Iyer S, Kim HJ. Cervical radiculopathy. Curr Rev Musculoskelet Med. 2016 Sep;9(3):272-80. doi: 10.1007/s12178-016-9349-4. PMID: 27250042; PMCID: PMC4958381.
