突然「ピキッ」と痛みが走り、しばらく首が動かせなくなる。そんな経験をしたことはありませんか?それは「首がつる」状態かもしれません。足がつるのと似ていますが、首には首特有の原因や特徴があります。
本記事では、まず「首がつる」状態の正体を明らかにし、その後の原因や対処法についても詳しく解説していきます。最後までお読みいただくことで、適切な対処法を理解し、痛みの解消に役立てていただけます。
首がつるとは?まず知っておきたい症状の正体
「首がつる」とは首の筋肉が突然、意図せずに収縮し強い痛みとともに動かしにくくなる状態を指します。多くの場合「ピキッ」とした鋭い痛みとともに首が固まり、しばらく動かせなくなるのが特徴です。これは医学的には「痙攣(けいれん)」と呼ばれ、筋肉が一時的に過剰収縮してしまう現象です。
足の「こむら返り」と似たような感覚に思われがちですが、首はより繊細で神経や血管が密集しているため、少しの疲労や血行不良、冷え、ストレスといった要因でも痙攣が起こりやすくなっています。また、首は常に重い頭を支えているため、日常の姿勢や使い方によっても負担がかかりやすい部位です。
さらに、「首こり」や「寝違え」とは異なり、首がつる場合は突然の痛みとともに筋肉が硬直し、自力での動作が困難になります。中高年層では筋肉量の低下や血流の悪化なども影響し、発症しやすくなります。早期に原因を見極め、適切に対処することが大切です。
このように、首がつるという現象には、単なる疲労だけでなく、姿勢や血流、年齢的な変化など、さまざまな要素が複雑に絡み合っています。
頻繁に首がつる5つの原因とは?
原因を正しく知ることが、効果的な対策の第一歩です。意外な原因も含めて丁寧に解説します。日常生活のなかに潜む小さな習慣や環境の変化が、首の筋肉に想像以上の負担をかけていることも少なくありません。
① 長時間のデスクワークやスマホ操作による姿勢不良
パソコンやスマートフォンを長時間使用していると、自然と首が前傾し、「猫背」や「スマホ首」の状態になります。この姿勢では首や肩まわりの筋肉が引き伸ばされ、常に緊張状態となるため、血行が悪化し、疲労が蓄積されていきます。
特に「ストレートネック」は、首の自然な湾曲が失われ、頭の重さを筋肉だけで支える形になり、首に大きな負担をかけます。この状態が続くと、筋肉の痙攣が起こりやすくなり、「つる」という症状が頻発する原因になります。
② 筋肉の疲労や血行不良
筋肉が疲労して柔軟性を失うと、ちょっとした刺激でも痙攣を引き起こしやすくなります。特に首まわりの筋肉は、姿勢の維持や頭部の支えなどに日常的に使われているため、疲労がたまりやすい部位です。
また、冷房による冷えや運動不足によって血流が滞ると、筋肉に十分な酸素や栄養が行き届かず、結果として「つり」のリスクが高まります。冷え性の方や、肩こりを感じやすい方も要注意です。
③ 寝ているときの寝具や姿勢の影響
朝起きたときに「首がつった」と感じる場合、寝具や寝姿勢に問題があるかもしれません。枕の高さや硬さが合っていないと、首の筋肉が不自然に引き伸ばされた状態で固定され、血流が悪化します。
また、寝返りが少ない方や、横向きで丸まって寝るクセがある方は、同じ部位に長時間圧がかかり、筋肉疲労や痙攣を招きやすくなります。特に寝起きに症状が集中する場合は、寝具の見直しが効果的です。
④ ストレスや自律神経の乱れ
強いストレスや慢性的な疲労が続くと、自律神経のバランスが崩れやすくなります。特に交感神経が優位な状態が続くと、体は「緊張モード」に入り、筋肉も常に収縮しやすい状態になります。
この状態が続くと、首や肩の筋肉が硬直しやすくなり、些細な動きでも痙攣を引き起こすことがあります。さらに、自律神経の乱れは血流にも影響し、筋肉への酸素供給が滞るため、筋肉疲労が抜けにくく、つりやすくなるという悪循環に陥りがちです。
不眠やイライラ、食欲不振などの症状を併発している場合は、自律神経の乱れを整えるケアが必要です。
⑤ 電解質バランスの乱れ(脱水・ミネラル不足など)
水分やミネラルが不足すると、筋肉の収縮と弛緩を調整する「電解質バランス」が崩れ、筋肉が正常に機能しにくくなります。この状態で首を動かすと、突然「ピキッ」とつることがあります。
特に夏場の発汗による脱水、運動後の水分不足、または利尿作用のある薬やカフェイン摂取の多い方は、ミネラル(特にマグネシウム、カリウム、カルシウム)不足になりやすいため注意が必要です。
足のこむら返りと同様、首の筋肉にもこの影響は及びます。水分だけでなく、バランスの取れたミネラル補給を心がけることで、痙攣の予防につながります。
すぐにできる!首がつったときの対処法
首がつると、動かすのも怖いほどの鋭い痛みが走ることがあります。ここからは首がつった時の対処法について解説していきます。そんなときは無理に動かそうとせず、落ち着いて次のような対処を試してみてください。
1. 無理に動かさず「安静」が基本
まず大切なのは、つった筋肉を無理に動かさないことです。痛みのある方向に首を傾けたり、引っ張ったりすると、さらに筋肉が傷つく恐れがあります。できるだけリラックスした姿勢で、筋肉の緊張が和らぐのを待ちましょう。
2. 温める or 冷やす ― 状況に応じて使い分ける
急な強い痛みで炎症や腫れを感じるときは保冷剤や濡れタオルなどで10〜15分程度冷やすのが効果的ですが、筋肉の張りや血行不良が原因の場合はホットタオルや使い捨てカイロで首周りを温めたり、お風呂にゆっくり浸かることが有効です。
3. 呼吸を整えて、筋肉の緊張を緩める
痛みによって呼吸が浅くなると、全身の緊張が強まり、症状が悪化しやすくなります。ゆっくり鼻から吸って、口から長く吐く深呼吸を繰り返すことで、副交感神経が優位になり、筋肉もリラックスしやすくなります。
4. 軽いマッサージは“つり”が治まってから
つった直後は筋肉が敏感な状態のため、強く押したり揉んだりするのは避けましょう。痛みが落ち着いたあと、軽く撫でる程度のマッサージで血流を促すと、回復が早まることがあります。
自宅でできるセルフエクササイズ3選
ここからは、再発予防や日常ケアに役立つ、首のセルフストレッチと運動法を紹介します。どれも特別な器具や広いスペースは不要で、テレビを見ながらでも続けられる簡単な方法ばかり。継続しやすさもポイントです。
首の後ろをじんわり伸ばす「頸部伸展筋ストレッチ」
このストレッチでは、首の後方に位置する後頭下筋群や僧帽筋の上部を無理なく伸ばすことができ、血流を促し筋肉をしなやかにする効果が期待できます。特に長時間のデスクワーク後のリフレッシュに適しています。
頸部伸展筋ストレッチ
STEP1:両手を頭の後ろへ回しましょう。
STEP2:頭を前方へ倒しましょう。首の後方が伸びた状態を保持しましょう。
STEP3:元の姿勢に戻りましょう。
ゴリゴリ音に効く「ロウイング」
首の後ろでゴリゴリと音がする場合は、肩甲骨まわりの筋肉が硬くなっていることが原因のひとつと考えられます。ロウイング動作で肩まわりをほぐすことで、首への負担を軽減し、スムーズな動きを取り戻せます。
ロウイング
STEP1:背中を丸めて両手を伸ばしましょう。
STEP2:肩甲骨を寄せながら肘を後ろに引きましょう。
STEP3:背中を丸めて両手を伸ばしましょう。
STEP4:肩甲骨を寄せながら肘を後ろに引きましょう。
デスクワークの合間にできる「首すくめ体操」
シンプルながら短時間で効果を感じやすく、仕事の合間のリフレッシュにもぴったりです。首まわりの筋肉を一度ぎゅっと収縮させてから力を抜くことで、こわばりをほぐし緊張をリセットできます。
シュラッグ運動
STEP1:腕を降ろし、肩の力を抜きましょう。
STEP2:脇を閉じたまま両肩をすくめましょう。
STEP3:ゆっくりと下ろしましょう。繰り返し実施しましょう。
注意点:肩が前方に出ないように注意しましょう。
病院に行くべき症状の見極めポイント
首がつる症状の多くは一過性で自然に回復しますが、中には重大な病気の兆候として現れるケースもあります。以下のような症状がある場合は、自己判断せず、早めに病院を受診しましょう。
頻繁に首がつる、痛みが強くなってきている
週に何度も首がつったり、痛みが日に日に増している場合は、単なる筋肉疲労だけでなく、神経や関節の異常が関与している可能性があります。特に高齢者では頚椎症や神経圧迫が原因のこともあります。
参考記事:頚椎症で効果があるストレッチ&してはいけないことを解説
痛みが激しく、安静にしても治まらない
「激痛で動けない」「寝ても治らない」など、通常のつりとは異なる強い痛みが続くときは要注意です。椎間板ヘルニアや頚椎捻挫、炎症性疾患などの可能性もあり、放置すると悪化する恐れがあります。
参考記事:【腰椎椎間板ヘルニア】やってはいけないこと5つ!予防に効果的なストレッチも紹介
痛みと同時に手足のしびれや脱力がある
首の筋肉だけでなく、神経の伝達に関わる症状が出ている場合は、明らかに異常です。特に片側の腕や指にしびれ、握力低下、動かしにくさを感じるときは、整形外科や神経内科の診察が必要です。
高熱や頭痛、吐き気を伴う
首の痛みと同時に発熱・頭痛・吐き気・意識の混濁などがある場合、髄膜炎や感染症などの重篤な病気が疑われます。この場合は救急受診も視野に入れるべき緊急事態です。
まとめ
「首がつる」は突然の痛みで動きを制限される不快な症状ですが、多くは日常の工夫で予防が可能です。本記事では、姿勢、筋疲労、寝具、ストレス、ミネラル不足など、5つの主な原因と対策を解説しました。
これらを理解し実践することで、再発を大きく減らせます。症状を軽く見ず、体からのサインとして受け止めましょう。気になる症状が続く場合は、医療機関に相談することも大切です。姿勢の見直し、軽い運動、水分とミネラル補給など、今日からできるケアを生活に取り入れて、首の健康を守りましょう。
【参考文献】
1)Lee KJ, Han HY, Cheon SH, Park SH, Yong MS. The effect of forward head posture on muscle activity during neck protraction and retraction. J Phys Ther Sci. 2015 Mar;27(3):977-9. doi: 10.1589/jpts.27.977. Epub 2015 Mar 31. PMID: 25931773; PMCID: PMC4395757.
2)Singh A, Tetreault L, Fehlings MG, Fischer DJ, Skelly AC. Risk factors for development of cervical spondylotic myelopathy: results of a systematic review. Evid Based Spine Care J. 2012 Aug;3(3):35-42. doi: 10.1055/s-0032-1327808. PMID: 23526904; PMCID: PMC3592758