「上を向いたときに首が痛む」「反らすとズキッとする」このような症状は放っておいていいのか不安になりますよね。首は頭を支える重要な部位であり、筋肉・神経・血管が密集しているため、痛みの原因は一時的な疲労から病気までさまざまです。
軽い寝違え程度なら自然に回復することもありますが、中には整形外科での受診が必要なケースもあります。この記事では、危険なケースの見分け方と、受診の目安、自宅でできる対処法をわかりやすく解説します。
首を後ろに反らすと痛いのは危険?まず確認すべきポイント
首を後ろに反らしたときの痛みは、「一時的な筋肉のこわばり」から「神経や骨の異常」「病気のサイン」まで原因が幅広く考えられます。ここでは大きく3つの観点から整理し、危険度を見分ける手がかりを紹介します。
筋肉や関節の一時的な不調によるケース
最も多いのは、筋肉や関節の一時的な不調による痛みです。例えば長時間のデスクワークで同じ姿勢を続けると、首から肩にかけての筋肉(僧帽筋や後頭下筋)が緊張し、後ろに反らしたときに痛みを感じやすくなります。
また、朝起きたときに突然首が痛む「寝違え」も代表的です。これは睡眠中に無理な姿勢で首に負担がかかり、筋肉や靭帯が軽い炎症を起こすためです。通常は数日で改善しますが、繰り返すようなら姿勢や枕の見直しが必要です。
さらに、加齢や姿勢の乱れによって首の関節(椎間関節)が硬くなり、動かすと痛むこともあります。この場合は「反らすと痛いが前や横に動かすと和らぐ」といった特徴があります。比較的軽症で、ストレッチや休養で改善しやすいのが特徴です。
参考記事:首の後ろが痛い原因とは?考えられる病気とストレッチなどの適切な対処法を解説
神経圧迫や骨の変形が原因のケース
痛みが長引いたり、首だけでなく肩や腕にしびれを伴う場合は、神経圧迫や骨の変形が原因の可能性があります。
代表的なのが「頚椎症」や「神経根症」です。これは加齢や姿勢不良によって首の椎間板がすり減り、神経が圧迫されることで痛みやしびれを引き起こす病気です。後ろに反らす動きは神経の圧迫を強めるため、症状が悪化しやすいのが特徴です。
症状が進むと、腕や手に力が入りにくくなったり、細かい動作が難しくなることもあります。この段階になると自然回復は望みにくく、整形外科での画像検査やリハビリ、場合によっては手術が検討されることもあります。
参考記事:頚椎症で効果があるストレッチ&してはいけないことを解説
病気のサインの可能性も
まれではありますが、首を反らしたときの痛みが「重大な病気のサイン」である場合もあります。
例えば「くも膜下出血」は突然の強い頭痛とともに首の後ろに激しい痛みを感じることがあります。これは脳の血管が破れて出血し、首周囲の神経を刺激するために起こります。この場合は命に関わる緊急事態であり、迷わず救急要請が必要です。
また、高血圧や動脈硬化がある方で、首の痛みと同時に吐き気や視覚異常を伴う場合も要注意です。単なる筋肉痛と勘違いしやすいですが、突然発症した激しい痛みには危険が潜んでいます。
整形外科を受診すべき判断基準
首を後ろに反らすと痛みが出るとき、「もう少し様子を見ていいのか」「すぐに病院に行くべきか」と迷う方は少なくありません。ここでは整形外科受診を検討すべき具体的な目安を解説します。
以下のような症状があるなら要受診
単なる筋肉のこわばりであれば数日で改善することも多いですが、次のような症状がある場合は受診をおすすめします。
- 首の痛みが1週間以上続く
- 腕や手にしびれが出る
- 握力が落ちる、細かい作業がしにくい
- 動かすたびに痛みが強くなる
これらは神経の圧迫や頚椎症の可能性があり、放置すると症状が悪化してしまいます。特にしびれや筋力低下を伴う場合は、早期に整形外科で評価を受けることが大切です。
急激な痛み+頭痛・吐き気には注意
首の痛みが「突然強く出る」「頭痛や吐き気を伴う」といった場合は、整形外科だけでなく脳神経外科の受診も検討が必要です。
特に「くも膜下出血」は前触れなく起こり、首の後ろや頭全体に激痛が走ります。この場合は命に関わるため、迷わず救急搬送が必要です。また、脳腫瘍や感染症でも似た症状が現れることがあります。
「いつもと違う」「これまで経験したことがない強い痛み」を感じたら自己判断せず、すぐに医療機関を受診しましょう。
診察ではどんな検査が行われる?
整形外科での診察は、まず問診から始まります。痛みが出るタイミング、持続時間、生活習慣などを詳しく確認することで原因の手がかりを得ます。
続いて、首の可動域や神経症状を確認する触診・徒手検査が行われます。腕や手のしびれ、筋力の低下があるかを調べることも重要なポイントです。
必要に応じて画像検査(X線、MRI、CT)が行われ、椎間板や骨の状態、神経圧迫の有無を詳しく確認します。これらの検査により、単なる筋肉性の痛みなのか、神経疾患や骨の異常なのかを明確に区別できるのです。
診断がつけば、薬物療法・リハビリ・生活習慣の改善など、適切な治療方針が示されます。早めに受診することで、症状の悪化を防ぎ、快適な生活を取り戻すことができます。
【症状別】首を反らしたときの痛みの出方から原因を探る
同じ「首を反らすと痛い」という症状でも、痛みの出方や広がり方によって原因が異なります。ここでは痛みの分布や特徴ごとに、考えられる原因を整理してみましょう。
首の片側(左・右)が痛む場合
首の片側だけが痛む場合、多くは筋肉のこわばりや寝違えによる炎症が原因です。例えば左を向くと左側が、右を向くと右側が痛むようなケースでは、首の動きを支える筋肉(胸鎖乳突筋や僧帽筋上部)が硬くなっていることが多いです。
また、姿勢不良やスマホの長時間使用によって首の一方に負担がかかると、片側に集中的な痛みが出やすくなります。こうした場合はストレッチや姿勢改善で回復が期待できます。
ただし、片側の痛みにしびれや頭痛を伴う場合は神経の圧迫や血管の異常が関係している可能性があるため、注意が必要です。
参考記事:【首の片側が痛い】右側 or 左側のみ痛い場合の原因と3つの対処法をわかりやすく解説!
肩・肩甲骨まで痛む場合
首の痛みが肩や肩甲骨にまで広がる場合は、首の筋肉だけでなく神経や関節が影響していることがあります。
例えば「頚椎症性神経根症」では、首の神経が圧迫されることで肩甲骨や腕にかけて放散痛が出ます。特に後ろに反らす動作で痛みが強まる場合は、神経圧迫を疑うべきです。
また、慢性的な肩こりも首から肩甲骨にかけての広範囲の痛みを引き起こします。この場合、温熱療法やマッサージで一時的に和らぎますが、根本的には姿勢の改善や運動習慣が欠かせません。
参考記事:肩甲骨周りが痛い原因とは?肩・首こり解消にもオススメのストレッチを紹介!
背中や腕のしびれを伴う場合
首の痛みに加えて背中や腕のしびれを伴う場合は、神経症状の可能性が高いといえます。
代表的なのが「頚椎椎間板ヘルニア」です。椎間板が飛び出して神経を圧迫し、首の痛みに加えて腕のしびれや力が入らない症状を引き起こします。重症化するとボタンを留める、箸を使うなどの細かい作業が難しくなることもあります。
また、背中にまで広がる鈍痛がある場合は、脊柱管狭窄症や血管の異常も考えられます。こうした症状は自然に改善しにくく、放置すると進行する危険があるため、早めの受診が必要です。
参考記事:手のしびれの治し方は?原因と症状別の効果的な対処法を専門家がわかりやすく解説!
【自宅でできる】首の痛みをやわらげるセルフ対策
首を後ろに反らすと痛みが出る場合、症状が軽度であれば自宅でのセルフケアで改善を目指せます。大切なのは「無理のない範囲で筋肉をほぐす」「炎症を悪化させない」「日常の姿勢を整える」の3つです。ここでは具体的な方法を紹介します。
頚部伸展筋のストレッチ
首の後ろには「後頭下筋群」という小さな筋肉があり、頭を後ろに反らしたり回旋させるときに働きます。デスクワークやスマホ操作でこの筋肉が硬くなると、後ろに反らしたときにズキッと痛みを感じやすくなります。
頚部伸展筋ストレッチ
STEP1:両手を頭の後ろへ回しましょう。
STEP2:頭を前方へ倒しましょう。首の後方が伸びた状態を保持しましょう。
STEP3:元の姿勢に戻りましょう。
僧帽筋のストレッチ
また、僧帽筋(首から肩にかけて広がる筋肉)をほぐすことも大切です。片方の腕を背中に回し、反対側に首を倒すと、肩から首にかけて気持ちよく伸びます。呼吸を止めず、リラックスしながら行うのがコツです。
僧帽筋ストレッチ
STEP1:手を腰の後ろに回しましょう。
STEP2:肩が上がらないように抑えましょう。
STEP3:頭を斜め下へ傾けましょう。肩の上が伸びている状態を数秒間保持しましょう。
STEP4:ゆっくりと元の姿勢に戻ります。繰り返し実施しましょう。
温める?冷やす?症状に応じたケア方法
首のケアでは「温めるか冷やすか」で迷う方が多いですが、基本は症状の出方で判断します。
- 急な痛みや炎症を伴う場合:冷やす
→ 首を捻った直後や強い痛みが出たときは、冷却パックや冷タオルを10分程度当てて炎症を抑えるのが効果的です。 - 慢性的なこりや重だるさの場合:温める
→ 入浴や蒸しタオルで首を温めると血流が良くなり、筋肉の緊張がほぐれます。肩こりや長時間のデスクワーク後に効果的です。
ただし、痛みが強くなるようなら自己流のケアを中止し、医療機関に相談しましょう。
普段の姿勢や枕を見直すことも重要
首の痛みは日常の姿勢や寝具とも深く関わっています。スマホを長時間下を向いて操作する「スマホ首」や、猫背姿勢は首の後ろの筋肉に大きな負担をかけます。
改善のポイント
- デスクワークでは目線の高さにモニターを合わせる
- 長時間同じ姿勢を避け、1時間ごとに軽く首を回す
- 枕は「高すぎず低すぎず」が基本。後頭部から首にかけて自然に支えられる高さが理想です
特に「ストレートネック」と診断された方は、枕の高さが合っていないことが多いため、見直すだけで痛みが軽減するケースもあります。
市販薬や対処グッズの活用方法
首を後ろに反らすと痛いとき、すぐに受診できない場合や軽度の症状では、市販薬やケアグッズで一時的に痛みをやわらげることも可能です。ただし、対処的なケアに頼りすぎず、根本原因を見極めることが大切です。
痛み止め・貼付薬は一時的な対処に
市販の鎮痛薬(ロキソニンなど)や湿布薬(フェイタス、モーラステープなど)は、一時的に炎症や痛みを抑えるのに有効です。特に「仕事を休めない」「どうしても今すぐ痛みを和らげたい」というときには役立ちます。
ただし、鎮痛薬はあくまで痛みを“感じにくくする”だけであり、原因そのものを治すものではありません。症状が繰り返す場合は薬に頼るのではなく、整形外科で診察を受ける必要があります。
長期的には「使いすぎ」にならないよう注意
湿布や塗り薬を長期的に使い続けると、皮膚がかぶれる、薬効が薄れるといった問題が起こることがあります。また、飲み薬の鎮痛剤を常用すると胃腸障害や腎機能への負担が懸念されます。
「薬を飲めば動けるから大丈夫」と考えて無理を続けると、症状を悪化させる危険もあります。特に神経症状を伴う首の痛みは、薬では抑えきれずに進行してしまうこともあるため注意が必要です。
マッサージ器・ストレッチ器具の選び方
首や肩の緊張をほぐす補助として、マッサージ器やストレッチ器具を活用するのも効果的です。
- ネックマッサージ器:僧帽筋や首の付け根を温めながらもみほぐすタイプが人気。血流改善に役立ちます。
- ストレッチポールやネックストレッチャー:仰向けに寝て首を乗せるだけで、後頭下筋をやさしく伸ばせます。デスクワーク後のリセットに最適です。
- 温熱グッズ:電子レンジで温めるホットパックや蒸気で温めるアイマスクなども、首のこりを和らげるサポートになります。
ただし、過度な刺激や長時間の使用は逆効果になることがあります。特に神経症状がある場合は使用を控え、医師に相談したうえで取り入れることが望ましいです。
まとめ
首を後ろに反らすと痛む症状は、筋肉のこわばりや姿勢の乱れによるものから、神経圧迫や病気のサインまで幅広い原因が考えられます。軽度であればストレッチや姿勢改善で和らぐこともありますが、しびれ・力が入らない・強い頭痛を伴う場合は整形外科や脳神経外科の受診が必要です。「そのうち治る」と放置せず、症状を見極めて早めに行動することが健康を守る第一歩になります。
【参考文献】
1)Lee KJ, Han HY, Cheon SH, Park SH, Yong MS. The effect of forward head posture on muscle activity during neck protraction and retraction. J Phys Ther Sci. 2015 Mar;27(3):977-9. doi: 10.1589/jpts.27.977. Epub 2015 Mar 31. PMID: 25931773; PMCID: PMC4395757.
2)杉山 喜一:当科における小児頸部リンパ節炎の検討.口腔科27(2) 153-156,2014
3)社団法人日本整形外科学会「頸椎症性脊髄症」