男女問わず、「肩甲骨(けんこうこつ)が痛い」と悩む方が少なくありません。肩甲骨が凝り固まったり動きが悪くなったりすると、日常生活のさまざまな場面で支障が出ます。
また、肩甲骨が原因で肩や首の痛みにつながるケースも多いです。症状が悪化する前に改善を考えましょう。
そこで当記事では、肩甲骨周りが痛い時に考えられる症状や適切な対処法を解説します。
最後まで目を通すことで、肩甲骨が痛くなる理由がわかり、日常生活で注意すべき点まで詳しく把握できます。ぜひお役立てください。
まずは肩甲骨の仕組みを確認しよう
最初に、肩甲骨の仕組みを確認しておきましょう。
肩甲骨とは、両肩の後ろ(背中側)に付く三角形の骨です。
肩甲骨は肋骨(アバラ)に乗るように付き、鎖骨(さこつ)によって体幹部とつながっています。つまり肩甲骨は体幹部に固定されておらず、浮いた形で付いています。
肩甲骨にはいくつもの筋肉が付いており、「腕を上げる・下げる」「腕を前・後ろに回す」など腕の動作に欠かせない骨格です。
ゆえに、疲労や負荷の蓄積、不意の怪我などで痛めやすい箇所だと言えます。
肩甲骨周りに痛みがある時に考えられる原因とは?
肩甲骨が痛くなる原因には、軽症なものから重症なものまで、いくつかの可能性が考えられます。
以下より、肩甲骨周りに痛みがある時に考えられる原因を解説します。ご自身の痛みの様子と比較しながらご覧ください。
筋肉や骨の病気
まず考えられるのが、筋肉や骨が関わる症状(病気)です。一概には言えませんが、筋肉が原因の場合は早く改善しやすく、骨が原因の場合は痛みが長引く傾向があります。
では詳しく見ていきましょう。
肩・首こり
肩や首の筋肉が凝り固まる、いわゆる「肩こり」「首こり」です。
肩こりや首こりが現れる原因は、「疲れ」「悪い姿勢」「運動不足」「生活習慣の乱れ」などです。
肩・首と肩甲骨は密接に関係しており、肩や首に付く筋肉の緊張から肩甲骨が痛くなるケースもあれば、肩甲骨周りの筋肉の緊張によって肩と首が痛くなるケースもあります。
とくに、寝違えたような痛みが突然首に現れる症状(ぎっくり首)では、肩甲骨まで強い痛みが広がるので注意しましょう。
肩こりや首こりによって起こる肩甲骨周りの痛みには、「温めると痛みが軽減する」「1日の終わりに痛みが増す」といった特徴があります。
したがって重篤な症状ではありませんが、そのまま放置すると、頭痛や吐き気も催すことがあるので注意してください。
参考記事:【首を寝違えたような痛み】突然起きる痛みの原因と対処法を解説!
参考記事:肩こりで吐き気が起こる原因とは?辛い肩こりを解消できるストレッチやツボを解説
五十肩(肩関節周囲炎)
肩の激痛と、肩の可動制限(動かしにくさ)が現れる症状が「五十肩(肩関節周囲炎)」です。そして、五十肩では肩甲骨に強い炎症が見られ、痛みも現れます。
現在のところ、五十肩の明確な原因は判明していません。
先述した「肩こり」との違いは、「痛みの度合い」「肩の可動制限の有無」です。したがって、肩甲骨周りの痛みが強く、肩が動かしにくい場合は五十肩を疑いましょう。
なお、「五十肩」は「四十肩」と呼ばれることもありますが、どちらも同じ症状を指します。
参考記事:五十肩(肩関節周囲炎)を早く治す方法とは?痛みの改善に効果のあるストレッチや体操を紹介
腱板損傷(けんばんそんしょう)
肩甲骨周りに付く筋肉が損傷(もしくは断裂)することで痛みが発生する症状が「腱板損傷(けんばんそんしょう)」です。
腱板損傷は「加齢」「怪我」「肩への負荷の蓄積」などによって起こります。主な症状は「腕を挙げた際の肩の痛み」「腕の筋力低下」です。
つまり、先ほどお話しした「五十肩」と症状が似ています。したがって判別しにくいので、早めに医療機関にて検査を受けることをおすすめします。
参考記事:腕を上げると肩が痛い場合の対処法!『五十肩』や『腱板断裂』など原因別に解説!
頚椎椎間板ヘルニア
首の骨(頚椎)が変形することで、首周りの不調が現れる症状が「頚椎椎間板(けいついついかんばん)ヘルニア」です。
そして、頚椎椎間板ヘルニアでも肩甲骨の痛みが現れる場合があります。肩甲骨周りの痛みとともに、「手のしびれ」「筋力低下」が見られる場合は、頚椎椎間板ヘルニアを疑いましょう。
なお、頚椎椎間板ヘルニアの原因は「加齢」「悪い姿勢」「スポーツでの負荷」などです。
参考記事:頚椎(くび)椎間板ヘルニアの改善に効果的なストレッチ・筋トレ3選を紹介
内臓の病気
なかには、内臓の病気が原因で肩甲骨の痛みが現れているケースもあります。筋肉や骨の病気と異なり、「痛みが全く減らない」「痛み以外の症状が現れる」といった特徴があります。
したがって、内臓の病気から肩甲骨周りの痛みが起こっている場合、より注意が必要です。すぐに医療機関を受診してください。
以下より、内臓の病気の例をいくつか紹介します。
心臓の病気(狭心症・大動脈解離)
「心臓(しんぞう)」の病気が原因で肩甲骨が痛むケースもあります。
心臓の病気の例は「狭心症(きょうしんしょう)」や「大動脈解離(だいどうみゃくかいり)」などです。
「狭心症」は心臓につながる動脈(どうみゃく)が詰まる病気で、「大動脈解離」は心臓から全身へ血液を運ぶ役割の大動脈(だいどうみゃく)が裂ける病気です。
胆石(たんせき)
脂肪の消化・吸収に重要な働きを持つのが「胆汁(たんじゅう)」という液体で、肝臓で作られたあと、「胆嚢(たんのう)」という臓器に溜められます。
そして、胆汁の成分バランスの崩れによって、胆嚢内に石ができてしまう病気が「胆石症(たんせきしょう)」です。
胆石症になった場合、肩甲骨周りに痛みが現れる場合があります。
膵炎(すいえん)
肩甲骨やお腹に痛みを感じ、発熱や吐き気も伴う場合、「膵炎(すいえん)」の可能性が考えられます。
膵炎とは、「膵臓(すいぞう)」という臓器が炎症を起こすことで組織が壊れてしまう病気を指します。過度な飲酒が原因で発症するケースが多いです。
そして膵炎が原因の場合、左側の肩甲骨に痛みが出やすいので注意しましょう。
がん
「がん(癌)」が原因で肩甲骨周りが痛む可能性もあります。
「なんてことない肩周りの痛みだと思っていたら、がんだった」というケースも実際に存在するのです。
早期発見のためにも、肩甲骨の痛みを放置することは避けましょう。
肩甲骨周りが痛い時に適切な対処法を紹介
肩甲骨の痛みを改善するには、早く適切な対処を講じることが大切です。
ここから、肩甲骨周りが痛む時に適切な対処法を紹介します。
病院を受診する
肩甲骨の周りが痛む場合、まずは病院を受診しましょう。先述したように、重篤な病気が隠れているかもしれないからです。
どういった形で医療機関を受診するかは、痛み方によって異なります。
息苦しさや激しい痛み:救急外来を受診
もし「耐え難いほど息苦しい」「夜間に激しい痛みが襲ってきた」という場合は、すぐに救急車を呼んでください。
「救急車を呼んでも大丈夫なの」と迷う必要はありません。少しでも早く処置を受けることが重要です。
強い肩の痛みや腕のしびれ:整形外科病院を受診
「痛みが長引いている」「痛みがまったく減らない」という場合も、医療機関で診てもらうのがおすすめです。急な痛みではないとはいえ、骨や内臓の病気が原因の可能性があります。
まずは整形外科を受診しましょう。精密な検査を受けることで原因が特定されるはずです。
そのうえで、お医者さんのアドバイスを守り、症状の改善に努めてみてください。
ストレッチを行う
「疲れた時に肩甲骨が痛くなる」場合は、筋肉の硬さが原因の可能性が高いです。その場合はストレッチがおすすめです。
ストレッチを行うことで筋肉への血流が良くなります。すると、凝り固まった筋肉が柔らかくなるので肩甲骨の痛みを緩和できます。
ただし「五十肩」など、筋肉の炎症が強い時は無理にストレッチをしないように気をつけてください。
それでは、次項よりおすすめのストレッチを紹介します。
参考記事:【ガチガチ肩こり解消】寝ながらできる肩甲骨ストレッチを動画で解説!
【肩・首こり解消】肩甲骨周りが痛い時にオススメのストレッチ3選!
では以下より、肩甲骨周りに効くおすすめのストレッチを3つご紹介します。
いずれもご自宅ですぐに実践できるので、ぜひ取り入れてみてください。
菱形筋ストレッチ
1つ目は「菱形筋(りょうけいきん)ストレッチ」です。
こちらのストレッチを行えば肩甲骨内側に付く「菱形筋」が伸びるので、「肩こり」や「猫背」の改善が期待できます。
STEP2:おへそを覗き込みながら背中を丸めましょう
STEP3:数秒間姿勢を保持しましょう
STEP4:もとの姿勢に戻りましょう
※背中の後面が伸びるのを感じながら実施してみてください
参考記事:猫背を治す方法とは?姿勢改善にオススメのストレッチ・筋トレを詳しく紹介!
広背筋ストレッチ
2つ目は「広背筋(こうはいきん)ストレッチ」です。
こちらのストレッチを行うことで、肩甲骨の動きに大きく関係する「広背筋」を伸ばせます。腕がより動かしやすくなるでしょう。
STEP2:片側のお尻に重心を乗せ反対側へ傾けましょう
STEP3:元の姿勢に戻りましょう
STEP4:繰り返し実施しましょう
※脇腹(わきばら)の伸びを感じながら実施してみてください
※反対側のお尻に重心を乗せることが大切です
胸郭回旋運動
3つ目は「胸郭回旋(きょうかくかいせん)運動」です。
こちらのストレッチによって「胸椎(きょうつい:胸の位置にある背骨)」の動きが良くなります。すると、肩甲骨はもちろん首の関節(頚椎)も動かしやすくなるので、肩や首が楽になるでしょう。
STEP2:両手を伸ばして合わせます
STEP3:上半身をひねり片手を反対側の床につけましょう
STEP4:もとの姿勢に戻りましょう
STEP5:繰り返し実施しましょう
※背中をしっかりひねることを意識しましょう
※膝が床から離れないように注意してみてください
参考記事:【つらい肩こりを解消】座ったまま簡単にでできる肩甲骨ストレッチを動画付きで解説!
【肩甲骨の痛みを予防】日常生活で気をつけたいポイントとは?
肩甲骨の痛みを予防する・再発させないために、日常生活で気をつけるべきポイントについて解説します。
正しい姿勢を意識する
肩甲骨への負担を減らすために、普段の「姿勢」を意識してみてください。
気がつかないうちに背中が丸まったり(猫背)、背中が反りすぎたり(反り腰)、姿勢が崩れていないでしょうか。
とくに「長時間パソコンを操作する」「スマホを長時間使う」という方は注意してみてください。パソコンやスマホの画面を覗き込もうと、つい首が前に出てしまうからです。
首が前に出ると背中が丸まりやすく、肩甲骨への負荷が増えます。また、姿勢に注意するとともに、長時間同じ姿勢を続けることもできるだけ避けましょう。
参考記事:【簡単】姿勢を良くする方法4選!猫背や反り腰を改善して正しい姿勢を保つには
参考記事:首が前に出る姿勢(ストレートネック)の原因は?ストレッチや筋トレでの治し方を解説
運動を習慣化する
運動不足が原因で肩甲骨周りの筋肉が固くなるケースも多いです。ぜひ日々の運動を習慣化しましょう。
運動といっても、最初はウォーキングや軽い筋トレで十分です。運動に慣れてきたら、徐々に負荷が強い種目にもチャレンジしてみてください。
身体を冷やさない
筋肉が原因で肩甲骨が痛い場合、身体が冷えることで痛みが悪化する場合もあります。身体が冷える原因は「クーラーの効きすぎ」「ストレス」「偏った食事」などです。
できるだけ身体を冷やさないように工夫してみましょう。
「暑い日でもクーラーに当たりすぎない」「シャワーで済まさずに湯船にしっかり浸かる」「バランスが良い食事を心がける」といった方法が手軽でおすすめです。
まとめ
本文でお話しした通り、肩甲骨は腕や首の動きに欠かせません。ゆえに負担も多く疲れやすい部位です。
肩甲骨が痛くなる原因はさまざま。内臓の病気が痛みの原因になっているケースもあるので、まずは医療機関を受診することが最優先です。
そのうえで、ストレッチを続けたり良い姿勢を心がけたりしてみてください。
それでは当記事があなたのお役に立てば幸いです。
【参考文献】
1)Alexis Dang , Michael Davies:Rotator Cuff Disease: Treatment Options and Considerations
2)Peter Edwards, MSc,1 Jay Ebert, PhD,1 Brendan Joss, PhD,1 Gev Bhabra, FRCS,3 Tim Ackland, PhD,1 and Allan Wang, PhD, FRACS:EXERCISE REHABILITATION IN THE NON-OPERATIVE MANAGEMENT OF ROTATOR CUFF TEARS: A REVIEW OF THE LITERATURE
3)J L Kelsey, P B Githens, S D Walter, W O Southwick, U Weil, T R Holford, A M Ostfeld, J A Calogero, T O’Connor, A A White 3rd:An epidemiological study of acute prolapsed cervical intervertebral disc
4)Joseph D Zuckerman 1, Andrew Rokito:Frozen shoulder: a consensus definition
5)K Nobuhara 1, D Sugiyama, H Ikeda, M Makiura:Contracture of the shoulder
6)岡崎大武,淺井邦也:上肢の症状を呈する虚血性心疾患
7)日本血管外科学会総会:大動脈解離・1
8)菅 原 光 夫:胆嚢 症 にお け る右 肩 甲骨上 の圧 診点 に関す る研究
9)日本臨床検査医学会:18.胆 石 症
10)日本臨床外科学会:2.症状からみた病気の特徴を知ろう!
11)一般社団法人 日本消化器学会:胆道について
12)奥 野 厚 志 越 川 尚 男:両側肩甲骨同時転移で再発した直腸癌の1例