現代人の多くが抱える「めまい」という不快な症状。その原因のひとつとして、意外にも「首こり」が深く関わっていることをご存知でしょうか?
単なる疲れやストレスによるものと思われがちなめまいですが、実は首周辺の筋肉や神経の緊張が、めまいを引き起こしているケースも少なくありません。
本記事では、めまいの原因となる「首こり」について詳しく解説し、自宅でできるセルフケアの方法や、受診すべき目安までをわかりやすくお伝えします。
めまいの背後にある「首こり」とは?
私たちは日常的にスマートフォンやパソコンを使い、無意識に首や肩に大きな負担をかけています。このような生活習慣の積み重ねにより、首の筋肉が硬直し、「首こり」と呼ばれる状態が慢性化していきます。そしてこの首こりが、めまいを引き起こす直接的な原因となることがあります。
参考記事:首こりの原因と改善法|おすすめストレッチで辛い症状を和らげる
首の筋肉と神経の関係
首には多くの筋肉が存在し、それらが頭部を支えたり動かしたりする役割を果たしています。特に後頭部から首にかけて走行する筋肉は、頭の重さを支えるために常に緊張状態にあります。これらの筋肉が過度に硬くなると、周囲に存在する神経を圧迫する可能性が高まります。
さらに、首の後ろを通る神経の中には、自律神経に関わるものもあり、筋肉の緊張が神経に影響を与えることで、めまいや吐き気といった症状が生じることがあります。つまり、首の筋肉と神経は非常に密接な関係にあり、筋肉の状態次第で神経系の働きにも影響を与えてしまうのです。
頚性めまいとは何か
首こりが原因で起こるめまいは「頚性めまい(けいせいめまい)」と呼ばれます。これは、耳や脳に特に異常が見られないにもかかわらず、首の緊張や可動域の制限により、平衡感覚に異常が現れる状態です。
頚性めまいの特徴としては、動いた時にふわっとするような軽い浮遊感、頭が重く感じる、首を動かすとめまいが誘発される、といった症状が多く報告されています。こうした症状は、耳鼻科などの検査では原因が見つからないことも多いため、「原因不明のめまい」と診断されやすい傾向があります。
自律神経と血流の影響
首周辺の筋肉がこり固まると、同時に血管の圧迫も起こりやすくなります。とくに自律神経が密集する首の周辺では、血流の滞りが自律神経のバランスを乱しやすく、それがめまいの引き金になります。
自律神経が乱れると、身体がリラックスしづらくなり、めまいや動悸、冷え、睡眠障害などの症状が同時に現れることがあります。これは「首のこり→血流低下→自律神経の不調→めまい」という悪循環の一端です。
首こりによるめまいの特徴とチェックポイント
めまいの症状はさまざまですが、首こりが原因となっている場合には、いくつか特有のパターンがあります。ここでは、首こり由来のめまいに見られやすい特徴を具体的に解説し、日常生活でのセルフチェックのポイントを紹介します。
ふわふわ・グラグラする感覚の正体
首こりによるめまいでは、目が回るような「ぐるぐる」とした回転性のめまいではなく、「ふわふわ」あるいは「グラグラ」するような浮遊感が多く報告されています。このタイプのめまいは、身体が宙に浮いているような、地面が不安定に感じられる感覚が特徴です。
特に、歩行中や立ち上がった直後にふらつきを感じる場合や、視線を急に動かしたときに一瞬クラッとする場合には、首の筋肉の緊張によってバランス感覚が乱されている可能性があります。
朝起きた時や長時間同じ姿勢で現れる症状
首こりによるめまいは、朝起きた直後や長時間デスクワークをした後など、同じ姿勢が続いたときに現れやすくなります。これは、睡眠中や長時間の姿勢保持により、首の筋肉が血行不良を起こし、さらに硬くなることで神経や血管に影響を与えるためです。
特に、朝起きてすぐに「ふらつく」「視界がぼやける」「頭が重い」といった感覚がある場合は、睡眠中の首の負担や枕の高さが関係しているかもしれません。同様に、パソコン作業の合間や車の運転後に突然めまいが出るのも、首周辺の筋肉の過緊張が関係していることが考えられます。
頭痛・耳鳴り・目の奥の痛みがある場合
首こりによるめまいでは、単なるふらつきだけでなく、他の症状を伴うことも少なくありません。代表的なのは、緊張型頭痛、耳鳴り、そして目の奥の重だるい痛みなどです。これらの症状はすべて、自律神経の乱れや血流不良によって引き起こされるものです。
特に、後頭部からこめかみにかけての重だるい痛み、耳の奥が詰まるような違和感、目を開けているのがつらいと感じるような症状がある場合は、首のこりが全身に影響を及ぼしている証拠です。
めまいを引き起こす首こりの原因とは?
首こりが原因でめまいが引き起こされるとわかっていても、「なぜ首がこるのか?」を正しく理解していなければ、根本的な改善にはつながりません。ここでは、日常生活の中で首こりを引き起こしやすい3つの主要な原因を紹介し、それぞれがどのようにめまいへとつながっていくのかを解説していきます。
長時間のスマホ・パソコン作業
現代人に最も多い原因が、スマートフォンやパソコンの長時間使用です。特に、画面を見るために顔を下に向ける姿勢を長く続けることで、首の後ろ側の筋肉が持続的に緊張し、こりを招きます。
この「うつむき姿勢」は、頚椎(首の骨)への負担が非常に大きく、頭の重さ(約5〜6kg)が2〜3倍にも感じられるようになると言われています。筋肉の緊張が長時間続くと、血流が滞り、神経の働きも鈍くなり、結果としてめまいを引き起こすリスクが高まります。
さらに、デジタル機器の使用中はまばたきが減り、目の筋肉も疲れやすくなります。これが首の筋肉の緊張をさらに助長し、自律神経に影響を与えることで、めまいやふらつき感が現れるのです。
悪い姿勢と首の過緊張
スマホやパソコン作業に限らず、猫背や前のめり姿勢、肩が内側に入った「巻き肩」など、日常の悪い姿勢は首の筋肉に大きな負担をかけます。特に座っているときに、顎が前に突き出たような姿勢になると、首の後ろ側が強く引き伸ばされ、慢性的な緊張状態になります。
このような姿勢が続くと、筋肉だけでなく首の関節や神経にもストレスがかかり、徐々に自律神経のバランスが崩れていきます。その結果、血圧や心拍数の調整がうまくいかなくなり、ふわふわとしためまいにつながるのです。
また、運動不足や筋力低下によって姿勢を支える体幹の力が弱まっている場合も、首への負担が増し、こりの悪化を招きます。
冷えやストレスによる血流不良
冷えやストレスも、首こりを悪化させる大きな要因です。気温の低い環境に長時間いると、筋肉が収縮して血流が悪くなり、こりが強まります。また、ストレスを感じると、交感神経が優位になり、筋肉が緊張しやすくなります。
このような状態が続くと、血液の流れがさらに悪化し、脳や内耳への酸素供給も滞るため、めまいの症状が現れやすくなります。特に、職場や家庭で強いストレスを抱えている人は、無意識に首や肩に力が入りやすく、こりの慢性化を招きやすい傾向にあります。
これらの原因は、どれも現代人が日常的に接しているものばかりです。そのため、意識的に生活習慣を見直すことが、めまい予防への第一歩となります。
自宅でできるセルフケアとストレッチ
首こりによるめまいを感じたとき、「病院に行くほどではないけれど、何か対策をしたい」と考える方は少なくありません。そんなときに役立つのが、自宅でできるセルフケアです。
日々の生活に取り入れやすく、継続することでめまいの予防や再発防止にもつながります。ここでは、ストレッチ・ツボ押し・姿勢改善など、効果的な方法を具体的に紹介します。
参考記事:ひどい首こりを一瞬で治す方法はある?首周りを早く楽にするために重要なポイント
首まわりの筋肉をゆるめる簡単ストレッチ
首こりの緩和には、まず筋肉の緊張をやわらげることが重要です。首周辺の血流を改善し、自律神経の働きを整える効果が期待できます。ここでは、誰でも簡単にできるストレッチを紹介します。
頸部ストレッチ
STEP1:耳をゆっくりと肩に近づけ頭を横に倒します。
STEP2:頭をゆっくりと肩の方へ回旋させましょう。
STEP3:顎をゆっくりと胸に近づけ下を向きます。
STEP4:顎をゆっくり上げ、視線を上に向けて頸部を伸展させましょう。
ポイントは「反動をつけない」「呼吸を止めない」「無理のない範囲で行う」ことです。入浴後や寝る前など、筋肉が温まっているときに行うとより効果的です。
ふわふわめまいに効くツボ押し法(風池・合谷など)
ストレッチと併せて取り入れたいのが、ツボ押しによるケアです。以下の2つのツボは、首こり・めまいの両方に効果があるとされ、即効性も期待できます。
【風池(ふうち)】
後頭部の髪の生え際、耳の後ろと首の骨の間にあるくぼみ。親指で押し上げるように10秒×3セット。
【合谷(ごうこく)】
手の甲、親指と人差し指の骨が交わる部分のくぼみ。反対の親指で強めに10秒×3セット。
ツボ押しは、緊張を緩めてリラックス効果もあるため、ストレス由来の首こり対策にもなります。
姿勢改善と目の疲れケアで再発予防
再発を防ぐためには、一時的な対処だけでなく、根本的な生活習慣の見直しが必要です。特に姿勢の悪さや目の使い過ぎは、首こりの大きな原因になります。
- 椅子に座るときは、骨盤を立てて背筋を伸ばす
- モニターの高さを目線と同じかやや下にする
- 30分に一度は姿勢を変え、軽く首を動かす
- ブルーライトカット眼鏡や画面フィルターを使う
目の疲れを感じたら、目元を温める・遠くを見る・目を閉じて深呼吸するなどの工夫も取り入れましょう。小さな習慣の積み重ねが、首こりの蓄積を防ぎ、めまいの予防につながります。
このように、セルフケアは特別な道具がなくてもすぐに始められるものばかりです。日々のケアを習慣化することで、体調の変化にも敏感になり、めまいの再発リスクを下げることができます。次章では、セルフケアでも改善しない場合に、どのように医療機関を受診すればよいかについて詳しくご案内します。
セルフケアで改善しない時の受診ガイド
セルフケアを実践しても、なかなかめまいや首こりが改善しない場合は、医療機関の受診が必要です。しかし、「何科に行けばいいのか」「どんな症状を伝えるべきか」と迷ってしまう方も少なくありません。このセクションでは、受診の目安と適切な診療科、そして診察時に伝えるべき情報について整理して解説します。
何科に行けばいい?整形外科・耳鼻科・神経内科の役割
めまいと首こりの症状がある場合、受診する科は症状の性質によって異なります。以下のような目安で選びましょう。
- 整形外科:首のこりや痛み、肩こり、姿勢の問題が強い場合
- 耳鼻科:回転性めまい、耳鳴り、耳の閉塞感がある場合
- 神経内科:頭痛、しびれ、手足の力が入りにくいなど、神経系の症状がある場合
首こりがめまいの原因と思っていても、実際には他の病気が関係していることもあるため、迷ったときは最初に内科を受診して相談するのも一つの方法です。総合的な視点で専門科を紹介してもらえることもあります。
首こり以外の疾患(メニエール病・脳疾患など)の可能性
首こりとめまいが同時に起きていても、常にその2つが直接関係しているとは限りません。以下のような病気でも、似たような症状が現れることがあります。
- メニエール病:耳の奥にある内耳の異常で、回転性のめまいや耳鳴り、難聴を伴います。
- 良性発作性頭位めまい症(BPPV):頭の位置を変えたときにめまいが強くなる特徴があります。
- 脳卒中・脳腫瘍:めまいに加えて、激しい頭痛やろれつが回らない、片側の手足のしびれがある場合は緊急受診が必要です。
こうした病気は早期発見・治療が重要ですので、「おかしいな」と感じたら我慢せず、早めの医療機関受診を心がけましょう。
医師に伝えるべき症状・頻度・タイミング
受診の際には、できるだけ具体的に自分の症状を説明することが大切です。医師が正しく診断しやすくなるため、以下のような点をメモしておくとスムーズです。
- めまいが起きるタイミング(朝起きた時、立ち上がった時など)
- めまいの持続時間(数秒、数分、数時間など)
- 症状の頻度(毎日、週に数回、不定期など)
- 同時に現れる症状(耳鳴り、頭痛、吐き気、手足のしびれなど)
- きっかけになりそうな動作(首を動かした時、目を酷使した後など)
また、今まで行ったセルフケアの内容や、それによって変化があったかどうかも伝えることで、医師がより的確な対応を取りやすくなります。
まとめ
首こりは、めまいの見過ごされがちな原因の一つです。ふわふわ感や朝のふらつきがある場合は、セルフケアでの予防が有効です。ストレッチや姿勢改善を習慣化し、それでも改善しない場合は、早めに医療機関を受診しましょう。
首こりを放置すると自律神経の乱れや血流障害にもつながりやすいため、日々のケアを継続し、体のサインに敏感に対応することが大切です。
【参考文献】
1)Rebecca Kim 1 , Colin Wiest 1 , Kelly Clark 1 , Chad Cook 2 , Maggie Horn 3:Identifying risk factors for first-episode neck pain: A systematic review
2)Feldman JM, Cooper J et aL Asthenopia induced by computer-generated fusional vergence targets. Op- 10. tom Vis Sci 69 : 710-716,1992.
3)Matsui, T., Hara, K., Kayama, T. et al. Cervical muscle diseases are associated with indefinite and various symptoms in the whole body. Eur Spine J 29, 1013–1021 (2020).