左胸の下に痛みを感じたとき、多くの方が「心臓の病気では?」と不安になるかもしれません。しかし、痛みの原因は心臓だけでなく、肺、筋肉、骨、胃腸、自律神経などさまざまです。
中には命に関わる疾患が隠れているケースもあるため、軽視せず正しい知識を持つことが大切です。この記事では、左胸の下に痛みが出る代表的な原因や、症状から見分けるポイント、自宅でできる対処法までをわかりやすく解説します。
左の胸の下が痛いのはなぜ?まず考えたい原因とメカニズム
症状が起こる背景には、複数の身体的・心理的要因が関係しています。まずは原因をしっかりと押さえていきましょう!
心臓・血管系の問題(狭心症・心筋梗塞など)
左胸下の痛みで最も注意が必要なのが、心臓の疾患です。狭心症や心筋梗塞は、冠動脈の血流が悪くなり、心筋に十分な酸素が届かなくなることで発症します。
圧迫感や締めつけられるような痛みが突然現れ、肩や腕、あご、背中に放散することもあります。とくに動いた後に痛みが出る場合は、虚血性心疾患の可能性があるため、早急な受診が必要です。
肺・呼吸器系の疾患(気胸・肺炎など)
呼吸に伴って痛みが強くなる場合は、肺や胸膜の病気が疑われます。たとえば気胸では、肺が部分的に虚脱することで鋭い胸痛と呼吸困難が生じます。
肺炎の場合も、感染による炎症が胸膜を刺激し、深呼吸や咳で痛みが悪化することがあります。発熱や咳を伴う場合は、呼吸器科での診察が重要です。
筋肉や骨格(肋骨・肋間神経・肋軟骨)の異常
運動後や無理な姿勢を続けた後に痛みを感じる場合、筋肉や肋骨周辺の問題が考えられます。肋間神経痛は、神経の圧迫や炎症によりピリピリ・チクチクとした痛みが走るのが特徴です。
また、肋軟骨炎では胸骨付近に圧痛があり、押すと強く痛みます。深呼吸や体のひねりで痛みが増す場合は、筋骨格系の原因が有力です。
参考記事:【胸や脇腹が痛む】肋間神経痛とは?原因や症状、自分でできる対処法を解説
消化器系・胃腸の問題(逆流性食道炎など)
胃酸の逆流によって胸の奥が焼けるように感じる逆流性食道炎も、左胸下の痛みの原因になります。また、膵臓や胃の不調、消化器の炎症が原因で腹部と胸部が連動して痛むこともあります。
食後に悪化する痛みや、吐き気・胃もたれを伴う場合は消化器内科の診察が適しています。
ストレスや自律神経の乱れによる心因性の痛み
身体的な異常が見つからないにも関わらず痛みが続く場合、ストレスや自律神経の乱れによる心因性の可能性もあります。
不安や緊張が続くと交感神経が優位になり、胸の違和感や痛みを引き起こすことがあります。神経症やパニック障害の一症状として現れることもあり、心療内科のサポートが必要です。
このように、左胸の下の痛みは多岐にわたる原因が関与しており、軽視できない症状です。痛みの性質や発生タイミングをよく観察し、必要に応じて適切な専門科での診察を受けることが大切です。
女性に多い?左胸下の痛みとホルモン・月経との関係
胸の下の痛みは、女性特有の症状や周期に関連して痛みが起こるケースもあります。詳しく見ていきましょう。
乳腺や胸筋の張りによる痛み
生理前になると乳房や胸の周囲に張りや違和感を覚える女性は少なくありません。これは女性ホルモンの一つであるエストロゲンやプロゲステロンの影響で乳腺が刺激され、組織がむくみやすくなるためです。特に乳腺炎や乳腺症がある場合は、しこりや熱感を伴う痛みが生じることもあります。
また、胸筋の過緊張や筋肉痛が、乳房や胸の下側にまで広がることもあります。とくにデスクワークなどで長時間同じ姿勢を続けていると、胸の筋肉が固まり、肋骨や肋間神経が圧迫されて痛みを感じやすくなります。症状が片側だけに集中する場合には、自己チェックだけで済ませず、専門の診察を受けることが望ましいでしょう。
月経周期と関連した体調変化
女性の体は、月経周期に応じてホルモンバランスが大きく変化します。この影響で、月経前症候群(PMS)として知られる症状が出ることがあり、その中に「胸の痛み」も含まれます。排卵期や生理前になると乳房が腫れたり、胸の下側がズキズキと痛んだりすることがあります。
これらは一時的なホルモン変化によるものであり、生理が始まると痛みが軽減するのが特徴です。ただし、痛みが強すぎて日常生活に支障をきたす場合は、ホルモン療法や漢方薬などでの対処を医師に相談することが推奨されます。
妊娠や更年期に伴うホルモンバランスの変化
妊娠初期には、ホルモン分泌の急激な変化により、乳房の張りや胸の下部の痛みを感じやすくなります。特に妊娠に気づかない初期段階では、生理前と似たような症状と混同しがちですが、継続的な痛みや基礎体温の変化などを観察することで、ある程度の判断がつきます。
一方、更年期に入ると女性ホルモンの分泌が不安定になり、自律神経も乱れやすくなります。その結果、胸の違和感やチクチクとした痛み、不安感や息苦しさが現れることがあります。更年期障害は心と体の両面に影響を及ぼすため、婦人科や心療内科と連携したケアが重要です。
このように、女性の体はホルモンの影響を大きく受けており、左胸下の痛みもその一環として現れることがあります。自己判断せず、周期や体調の変化を丁寧に観察しながら、必要に応じて医師に相談することが安心につながります。
痛みの強さ・出方からわかる!病気のサインチェック
「チクチク」「ズキズキ」「押すと痛い」など、痛みの質やタイミングなどが判断材料になります。重度な症状を見逃さないためにも、しっかりと確認しておきましょう。
ズキズキ・チクチクとした痛みが続く場合
ズキズキとした鈍い痛みや、チクチク刺すような不快感が断続的に続く場合、神経の異常が関係している可能性があります。特に肋間神経痛では、肋骨に沿ってチクチクとする痛みが感じられ、深呼吸や体をひねると増強する傾向があります。
また、神経過敏の状態が続くと、触れただけでも痛みを感じる「アロディニア(異痛症)」に発展することがあります。慢性的にこのような痛みがある場合は、痛みの元となっている神経の圧迫や炎症、ストレスの蓄積などが関与しているため、整形外科や神経内科での診察が必要です。
急に強く締めつけられるような痛みがある場合
「突然、胸が締めつけられるような強い痛み」が出た場合、狭心症や心筋梗塞などの循環器系疾患を強く疑う必要があります。この種の痛みは、「安静にしていても消えない」「冷や汗が出る」「吐き気を伴う」といった特徴があることが多く、非常に危険です。
さらに、突然の激痛が背中にまで放散する場合、大動脈解離という命に関わる疾患の可能性もあります。このような症状がある場合は、迷わず救急車を呼ぶなど、すぐに病院を受診すべき状況です。
押すと痛むときに疑うべき筋肉や骨格の問題
「押すと痛い」「動かすと痛みが強くなる」といった症状は、筋肉や骨、関節などの運動器に原因があるケースが多いです。たとえば、肋骨の打撲や筋肉の炎症(筋筋膜性疼痛症候群)は、患部を触れたときに強い痛みを感じます。
また、猫背や不良姿勢を長期間続けていると、胸郭や体幹のバランスが崩れ、局所的な筋肉に過剰な負担がかかり、慢性的な痛みが現れやすくなります。このようなケースでは、姿勢の見直しやストレッチなどのセルフケアが症状緩和に役立ちます。
痛みの「質」「出方」「持続時間」などは、症状の背後にある疾患を特定するための大きな手がかりになります。自己判断で放置せず、必要に応じて医療機関での検査を受けることが重要です。
参考:猫背を治す方法とは?姿勢改善にオススメのストレッチ・筋トレを詳しく紹介!
自宅でできる!左胸の下の痛みを和らげるセルフケアとストレッチ
軽度な痛みの場合は、セルフケアで症状を和らげられることもあります。
肋間神経を緩める簡単ストレッチ
肋間神経痛や筋肉のこわばりが原因となっている場合、ストレッチによる胸郭の柔軟性改善が効果的です。特に、日常生活で同じ姿勢が続いている人は、肋間筋が硬くなりやすく、それが痛みの原因になることもあります。以下のストレッチを実施しましょう。
広背筋ストレッチ
STEP1:両手を頭の上で組みましょう。
STEP2:体を真横に傾け、背中・脇腹を伸ばしましょう。数秒間姿勢を保持しましょう。
STEP3:ゆっくりと元の姿勢に戻ります。
注意点:傾ける方向と反対側へ重心を移動させましょう。
胸郭回旋ストレッチ
STEP1:横向きに寝た状態で片膝を曲げて床につけます。両手を前方に伸ばしましょう。STEP2:体を捻りながら腕を開きましょう(目線は指先へ向けましょう)
STEP3:ゆっくりと元の姿勢に戻りましょう。繰り返し実施しましょう。
注意点:膝が床から離れないように注意しましょう。
このようなストレッチを毎日続けることで、筋肉の緊張が緩和され、神経の圧迫が軽減される可能性があります。
痛みを悪化させない正しい姿勢と呼吸法
胸部の痛みが筋骨格系や姿勢に由来している場合、「猫背」や「浅い呼吸」が症状を悪化させているケースが多く見受けられます。胸を圧迫しない正しい姿勢と、深い呼吸がとても重要です。
チェックポイント
- デスクワーク中は背もたれに軽く背を預ける
- 骨盤を立て、肩甲骨を軽く引き寄せるように意識する
- 呼吸は胸式ではなく、腹式を意識し、深くゆっくり吸って吐く
こうした姿勢や呼吸法は、痛みの緩和だけでなく自律神経の安定にもつながります。日々の意識の積み重ねが、症状の再発防止にも効果的です。
市販薬や温めによる対処も効果的になることも
軽度の筋肉痛や肋間神経痛には、市販の鎮痛剤や湿布薬の使用も有効です。温感タイプの湿布やホットパックを痛みの部位に当てることで、血行が促進され、緊張した筋肉がほぐれやすくなります。
ただし、痛みの原因が不明確なまま薬に頼るのは避けるべきです。あくまで一時的なケアとして使い、症状が続くようであれば医療機関での確認を優先してください。
自宅でできる対策は多くありますが、「無理をしない」「痛みが強くなる場合は中止する」といった自己管理も重要です。自分の身体のサインをよく観察しながら、無理のない範囲でケアを行いましょう。
まとめ
左胸の下の痛みは、心臓の異常だけでなく、肺や筋肉、骨、消化器、自律神経、ホルモンバランスの乱れなど、多くの原因が考えられます。
痛むタイミングや痛み方をよく観察することが大切です。命にかかわる病気が隠れていることもあるため、軽く考えてはいけません。痛みが続いたり悪化したりする場合は、早めに医療機関を受診しましょう。
【参考文献】
1)虚血性心疾患|国立循環器研究センター
2)大動脈瘤と大動脈解離|国立循環器研究センター
3)胸痛|厚生労働科学研究成果データベース