「こめかみを軽く押しただけで痛い…」そんな違和感に不安を覚える人は少なくありません。こめかみの痛みは、筋肉の緊張や神経の過敏、さらには生活習慣による影響で引き起こされることが多々あります。
本記事では、こめかみを押すと痛むときに考えられる仕組みや主な原因、自宅でできるケアについて解説します。正しく理解することで、早めに対処できる安心につながります。
こめかみを押すと痛いのはどんな状態?
「押すと痛い」タイプのこめかみの違和感は、必ずしも脳や血管の病気に直結するわけではありません。筋肉や神経など浅い部分の異常が原因であるケースも多く見られます。
こめかみの部分には「側頭筋」という大きな筋肉があります。歯ぎしりや食いしばり、長時間のデスクワークなどで側頭筋に負担がかかると、押したときにズンとした鈍痛やピリッとした圧痛を感じやすくなります。
また、この部分を走る「三叉神経」は顔の感覚をつかさどる重要な神経で、過敏になると軽いタッチでも鋭い痛みを引き起こします。つまり、「こめかみを押すと痛い」現象は、筋肉と神経の両方が関わることが多いのです。
参考文献:目の奥がズキズキ…その頭痛、ツボで和らぐ?自宅でできる対処法とは
血行不良による圧痛
こめかみを含む頭部の筋肉は、血流が滞るとすぐにコリや違和感を訴えやすい場所です。冷えや肩・首のこりが強いと、血液がうまく循環せず、押したときにズーンと重い痛みを感じます。特に冬場や冷房の効いた室内で長時間過ごすと、血行不良が顕著になりやすいです。
さらに、デスクワーク中に猫背姿勢をとると首から側頭部への血流が阻害され、こめかみの圧痛が出ることがあります。こうした場合、姿勢の改善や適度な運動が血流の回復に役立ちます。
疲労や睡眠不足の影響
慢性的な疲労や睡眠不足は、自律神経の乱れを招き、筋肉の緊張が持続してしまいます。とくに睡眠中の歯ぎしりや食いしばりは、無意識のうちに側頭筋へ強い負担をかける代表的な原因です。朝起きたときに「こめかみを押すと痛い」と感じる人は、睡眠時の噛みしめ癖が影響している可能性があります。
また、精神的ストレスが強いと交感神経が優位になり、血管が収縮してこめかみ周辺の痛みを増幅することもあります。単なる疲れと思って放置すると、頭痛や顎関節症に発展することもあるため注意が必要です。
眼精疲労との関連
パソコンやスマホを長時間見続けると、目の奥の筋肉(毛様体筋)が疲労し、それが頭部に波及してこめかみに痛みを及ぼします。特に「画面を長時間凝視したあとにこめかみを押すとズーンと痛む」という場合は、眼精疲労が強く関係しているので注意が必要です。
ブルーライトや照明環境の不適切さも負担を増やします。例えば暗い部屋でスマホを見続けると、目と脳が緊張し続け、結果としてこめかみの圧痛が強まるのです。視力の低下や度の合わない眼鏡も眼精疲労を助長し、慢性的なこめかみの痛みに直結します。
こめかみを押すと痛む原因|代表的な5つのケース
ここでは、こめかみを押したときに痛みを感じる代表的な原因を5つに絞って解説します。それぞれの仕組みや日常で起こりやすい場面を知ることで、自分の症状に近いものを見極めやすくなります。
① 筋肉のこり・緊張
こめかみを覆う側頭筋は、咀嚼や頭部の安定に関わる筋肉です。無意識の歯の食いしばりや歯ぎしり、または長時間同じ姿勢で作業を続けることによって、筋肉に負担が蓄積します。その結果、筋繊維が硬くなり、押したときに鈍い痛みや違和感を生じます。
特にパソコン作業やスマホの長時間使用は、知らないうちに噛みしめや肩の緊張を伴い、側頭筋をこわばらせる原因となります。朝起きたときにこめかみに圧痛がある場合は、睡眠中の歯ぎしりも疑われます。
② 緊張型頭痛
デスクワークや精神的ストレス、睡眠不足などが重なると、頭全体が締め付けられるような痛みを感じる緊張型頭痛が起こります。このとき、こめかみを押すと「重だるい痛み」が強調されることがあります。
原因は首や肩の筋肉の緊張からくる血流障害で、頭部の神経にじわじわと痛みの信号が伝わるためです。特徴的なのは、ズキズキという拍動ではなく、締め付け感や圧迫感である点です。長時間の集中作業後や、精神的に追い詰められた状態で発生しやすいのも特徴です。
③ 片頭痛
こめかみの痛みといえば、片頭痛を思い浮かべる人も多いでしょう。片頭痛は頭の片側にズキズキと脈打つような痛みが出るのが特徴で、こめかみを押すと逆に痛みが増すことがあります。
片頭痛は血管の拡張や三叉神経の興奮が関与しており、光や音に敏感になったり、吐き気を伴ったりすることがあります。仕事や日常生活に大きく支障をきたすこともあり、単なる疲れとは区別が必要です。痛みが数時間から数日にわたり繰り返し起こる場合は、このタイプを疑うべきでしょう。
④ 三叉神経痛
顔の感覚を支配する三叉神経に異常が生じると、こめかみに鋭い電気が走るような痛みを感じることがあります。わずかな刺激、例えば洗顔時やメガネの着脱など、軽い接触でも強烈な痛みを引き起こすのが特徴です。
この痛みは筋肉のこりによる鈍痛とはまったく異なり、ピリッと刺すように一瞬で走る痛みとして表現されます。多くは片側だけに症状が出るのも特徴で、繰り返し起こる場合は早めの医療相談が必要になります。
⑤ 眼精疲労
パソコンやスマホの長時間使用は、目の奥の筋肉に大きな負担をかける原因の一つです。その疲労は視神経や周囲の筋肉に広がり、こめかみに痛みを生じさせます。特に「画面を凝視したあとにこめかみを押すと痛む」という人は、この眼精疲労が関係している可能性が高いです。
眼精疲労が続くと、目のかすみや肩こり、頭痛を伴うことも少なくありません。度の合わない眼鏡やコンタクト、ブルーライトの影響も拍車をかけます。仕事や趣味で長時間画面を見続ける習慣がある人は、意識して休憩を取ることが大切です。
こめかみが痛いときにできるセルフケア法
自宅でも簡単にできるケアで、こめかみの痛みをやわらげることが可能です。ここでは、状況に応じて試せる3つの方法を紹介します。
こめかみを温める or 冷やす|見極めのポイント
こめかみの痛みに対しては「温めるか冷やすか」の判断が大切です。ズキズキと脈打つような片頭痛タイプの痛みには冷却が有効で、血管の拡張を抑えて痛みをやわらげる効果があります。冷却シートや冷たいタオルをこめかみに当て、静かな場所で安静にすると楽になることがあります。
一方で、デスクワークや食いしばりなどで筋肉が硬くなり、重だるい痛みを感じる場合は温めが有効です。蒸しタオルや入浴で血流を促進し、筋肉をリラックスさせることで痛みの軽減につながります。どちらの方法を選ぶかは「ズキズキか、重だるいか」で見極めることがポイントです。
簡単マッサージ|側頭筋リリースで血流改善
こめかみを指の腹で円を描くように優しくほぐすと、筋肉の緊張をやわらげることができます。特に側頭筋のリリースは、噛みしめによるこりに効果的です。
方法としては、親指以外の指4本こめかみに当て、軽い力で外回しに10〜20回程度行うと良いでしょう。力を入れすぎると逆効果になるため、心地よい程度の圧で行うのがポイントです。
ただし、三叉神経痛のように神経が過敏な場合は、マッサージによって痛みが増す可能性があるため控えましょう。その見極めとして「押すと鋭く痛む」場合は無理に行わず、温熱や休養を優先してください。
側頭筋リリース
STEP1:指4本を合わせましょう。
STEP2:指4本を左右の側頭部に当てましょう。
STEP3:円を描くようにマッサージを行いましょう。
目や姿勢の使い方を見直す
眼精疲労や姿勢不良は、こめかみの痛みを慢性化させる大きな要因です。まずは作業環境の改善が効果的です。
パソコンやスマホを使う際は、画面を目の高さに合わせ、1時間に1回は休憩を取りましょう。遠くを見る「20-20-20ルール」(20分作業したら20フィート先を20秒見る)を取り入れると、目と側頭部の負担が軽減します。
また、猫背の姿勢は首から頭にかけての血流を阻害し、こめかみの圧痛を悪化させます。背もたれに深く腰掛け、肩の力を抜いて作業する習慣を意識するだけでも改善につながります。日常的にストレッチや軽い運動を取り入れることで、再発予防にも効果があります。
放置はNG!病気のサインかもしれない症状と受診の目安
こめかみの痛みは一時的な筋肉のこりや疲れであることが多いですが、中には重大な病気のサインとなる場合もあります。以下のような症状があるときは、早めに医療機関を受診しましょう。
片側に強い痛みが続く場合
片頭痛や三叉神経痛では片側だけに強い痛みが出ることが多く、日常生活に支障をきたすケースも少なくありません。光や音に敏感になったり、吐き気を伴う場合は片頭痛の可能性が高いため、神経内科や頭痛外来での相談が望まれます。
押さなくてもズキズキする・視覚異常を伴う場合
「押さなくてもズキズキする」「視界にチカチカした光が見える」などの症状は、典型的な片頭痛の前兆や発作の可能性があります。特に視覚異常やしびれなど神経症状を伴う場合は、脳の血管に関わる病気のサインであることもあり注意が必要です。
突然の激しい痛み
「今までに経験したことのないほど強い頭痛」が急に起こった場合は、脳出血やくも膜下出血といった緊急性の高い病気の可能性があります。こめかみを含む頭部に突然強烈な痛みを感じたときは、迷わず救急外来を受診すべき状況です。
こめかみの腫れや赤みを伴う場合
こめかみ部分に痛みとともに腫れや赤みがある場合、側頭動脈炎などの血管の炎症が疑われます。特に高齢者に多く、放置すると視力低下や失明のリスクがあるため、早急な医師の診断が必要です。
痛みが長期間続く・悪化している場合
数日程度で自然に治まらず、何週間も痛みが続いたり徐々に悪化している場合は、慢性的な頭痛の背後に病気が隠れていることがあります。自己判断で放置せず、まずは内科や神経内科を受診して検査を受けることが大切です。
まとめ
こめかみを押すと痛い症状は、身近な生活習慣から重大な病気まで幅広い原因が考えられます。軽視せず、正しい知識とケアで向き合うことが重要です。
こめかみの痛みは、筋肉のこりや眼精疲労など日常的な要因で起こることが多く、温めやマッサージ、姿勢改善で和らぐ場合があります。ただし、強い片側の痛みや突然の激痛、視覚異常を伴うときは病気の可能性もあるため、自己判断せず医療機関を受診しましょう。
【参考文献】
1)厚生労働省『「統合医療」に係る 情報発信等推進事業』:頭痛
2)頭痛学会:緊張性頭痛
3)日本頭痛学会:片頭痛/片頭痛の治療