ある日突然、右側の足の付け根に鋭い痛みや鈍い違和感を覚えたことはありませんか?
日常生活に支障をきたすほどの痛みでなくても、「歩くときにピリッとする」「立ち上がるときに引っかかる感じがする」など、小さなサインが体から発せられているかもしれません。
このような鼠径部の痛みは、筋肉や関節、神経の異常から、内臓疾患や女性特有の病気まで、多くの原因が考えられます。放置しておくと、慢性的な痛みや深刻な疾患につながる可能性もあります。
当記事では右の鼠径部に痛みが出る代表的な原因と、見逃してはいけない症状、効果的なセルフケア方法、再発防止のためのポイントをわかりやすく解説していきます。ぜひ最後までお付き合いください。
右の鼠径部に痛みが出る5つの主な原因とは?
鼠径部に痛みが出る原因は、痛みの性質や場所からある程度予測することができます。予測される5つの原因を見ていきましょう。
1. 筋肉や腱のトラブルによるもの
鼠径部の痛みで最も多いのが、筋肉や腱の炎症・損傷です。運動後や長時間の立ち仕事の後など、筋肉の使い過ぎや柔軟性の不足から発生することがあります。これをグロインペインと言います。
内転筋や腸腰筋(ちょうようきん)が硬くなると、歩行時にチクチクした痛みが出ることもあり、無理をすると悪化するリスクがあります。
2. 関節や骨の異常:股関節症や関節唇損傷など
加齢や体重増加、過度な負荷によって股関節の軟骨がすり減り、変形性股関節症になると、特に起床時や立ち上がる瞬間に鼠径部に鈍痛が現れます。
また、関節唇損傷ではクリック音や引っかかり感、鋭い痛みが特徴で、運動時に悪化しやすいです。
参考記事:変形性股関節症でやってはいけないことは?生活での注意点やストレッチ方法も解説
3. 神経の圧迫や炎症:坐骨神経痛や絞扼性障害
神経が圧迫されることで、鼠径部にまで放散する痛みやしびれを感じることがあります
特に、腰椎由来の坐骨神経痛や、鼠径部を通る神経の絞扼(こうやく)が原因で起こるしびれや感覚異常は、自然治癒しにくく、早期対応が重要です。
4. リンパ節や内臓の問題:鼠径ヘルニア・泌尿器疾患など
鼠径ヘルニアは腸の一部が腹壁を押し出すことで起こり、右側の鼠径部に腫れや鋭い痛みを伴います。
泌尿器系の感染症や婦人科系疾患によってもリンパ節が腫れ、押すと強く痛むことがあります。こうした症状は、自己判断で様子を見るのではなく、必ず医師の診断が必要です。
5. 女性特有の病気が関連するケース
卵巣嚢腫や子宮内膜症など、女性に特有の疾患でも、右側の鼠径部に痛みが出ることがあります。生理周期に合わせて痛みが強まる、あるいは排卵期に違和感が増すなど、周期性がある場合は婦人科の受診をおすすめします。
参考記事:股関節痛の原因は何?痛みと関連する病気とストレッチ・筋トレ法を専門家が解説!
参考記事:【足を開くと股関節が痛い】それって変形性股関節症?痛みの原因と対処法をわかりやすく解説!
こんな症状があれば要注意!すぐに受診すべきサインとは
痛みの強さや性質、期間によっては早急な受診が必要です。決して無視はできないサインを把握しておきましょう。
しびれやチクチク感を伴う
ピリピリとしたチクチク感や、触れたときの違和感、しびれがある場合には神経が関係している可能性があります。特に片側だけに出る感覚異常は、神経圧迫や障害が疑われます。
歩行や立ち上がりに支障が出る
足を上げたときの鋭い痛みや、立ち上がる動作で違和感がある場合は、股関節や筋肉、神経の異常が進行している可能性があります。日常動作に支障をきたすようであれば、早急に整形外科を受診しましょう。
発熱や腫れ、しこりがある
リンパ節の腫れや鼠径ヘルニア、感染症が原因で、発熱やしこり、赤みなどの症状が出ることもあります。自覚症状が軽くても、こうした兆候がある場合には速やかな対応が必要です。
右鼠径部の痛みを軽減するセルフケア・ストレッチ法
日常生活の中でも簡単にできる対処法をご紹介します。
股関節の可動域を広げるストレッチ
股関節の前側を伸ばすストレッチは、腸腰筋の緊張を緩め、鼠径部の負担を軽減します。無理なく続けることで、筋肉の柔軟性が向上し痛みを和らげる効果が期待できます。
腸腰筋ストレッチ
STEP1:膝立ちの状態で片足を大きく前に出しましょう。
STEP2:踏み出した足に体重をのせ、後方の股関節の付け根を伸ばします。数秒間姿勢を保持しましょう。
STEP3:ゆっくりと元の姿勢に戻りましょう。
注意点:腰を反らないように注意しましょう。
筋肉の緊張をほぐす軽めの運動
クラムシェル運動は、股関節まわりの筋肉を刺激し、緊張をやわらげるのに有効です。日々の習慣に取り入れることで、痛みの再発予防にもなります。
クラムシェル
STEP1:横向きで両下肢を曲げて合わせましょう。
STEP2:踵をくっつけたまま股関節を開きましょう。
STEP3:その後ゆっくりと閉じます。
注意点:腰が開かないように注意する
注意!ストレッチしてはいけないケース
熱感や腫れなどの炎症があるときや、痛みが強い場合にはストレッチを中止し、まずは安静にしましょう。判断が難しいときは、専門家に相談することが安全です。
右の鼠径部の痛みを繰り返さないためにできること
鼠径部の痛みを予防するためには、いくつか日常生活で意識することが重要です。生活の中で取り入れていきましょう。
正しい姿勢と歩行を意識する
骨盤を正しく立て、重心を安定させた歩行を心がけましょう。姿勢が崩れると股関節に負担が集中し、再び痛みが出やすくなります。
継続的なエクササイズの習慣化
股関節のインナーマッスルを鍛える運動(クラムシェル)や、柔軟性を保つストレッチを継続することで、痛みに強い体づくりができます。運動の習慣化が大きな予防効果につながります。
体重管理と食事の見直し
過剰な体重は股関節への負担を増やします。栄養バランスを意識した食事の摂取を心がけましょう。
痛みが長引く場合は迷わず病院へ
1週間以上痛みが続く、日常生活に支障をきたす、しびれやしこり、発熱を伴うといった症状がある場合は、早めの受診をおすすめします。放置することで悪化するリスクもあるため、「様子を見る」のではなく「専門家に相談する」という意識が重要です。
まとめ
右の鼠径部に痛みが出る原因は多岐にわたります。筋肉や関節の問題であればセルフケアでの改善も期待できますが、神経の圧迫や内臓疾患、女性特有の病気など、放置してはいけないケースも少なくありません。
「いつもと違う」と感じたら、早めに対処することで悪化を防ぎ、快適な日常生活を取り戻すことができます。日々の姿勢や運動、食事を見直すことも、痛みの再発防止には大きな意味があります。あなたの身体のサインを見逃さず、健康的な生活を守っていきましょう。
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