疲労骨折とは?足・すね・肋骨に起きる原因と症状・早期対処法

激しい運動や日常動作の繰り返しで、知らないうちに骨がダメージを受ける「疲労骨折」。特に足、すね、肋骨などに多く見られます。

本記事では、疲労骨折の基本的な仕組みから、症状の特徴や原因、診断方法、治療法、さらには自宅でできるケアや予防策までをわかりやすく解説します。

見過ごされやすい疲労骨折を正しく理解し、早期対処につなげましょう。

疲労骨折とは?一般的な骨折との違い

足が痛む女性の画像

疲労骨折は、日常生活やスポーツ中に繰り返される小さな負荷が骨に蓄積することで生じる骨折の一種です。

一見、打撲やねんざと勘違いされやすく、発見が遅れることも少なくありません。ここでは、疲労骨折の定義や発症の仕組み、そして外傷性の骨折との違いをわかりやすく解説します。

疲労骨折の定義とメカニズム

疲労骨折とは、「繰り返しの負荷」によって起こる、いわば“身体の使いすぎ”による損傷です。ランニングやジャンプといった動作を日常的に行っている人に多く見られ、特に骨が未発達な若年層や、骨密度が低下している中高年女性は注意が必要です。

通常、骨は適度な負荷を受けることで強くなる性質を持っています。しかし、その再生能力を超える頻度や強度でストレスがかかり続けると、骨の微細な損傷が修復しきれず、やがて骨折として表面化します。これが疲労骨折の基本的なメカニズムです。

発症しやすい部位にはパターンがあり、足の中足骨すねの脛骨肋骨など、荷重がかかりやすい場所に集中しています。違和感や鈍い痛みを自覚したときには、すでに骨に亀裂が入っているケースもあるため、早期の対応が求められます。

通常の骨折と疲労骨折の違いとは?

外傷性の骨折、いわゆる「普通の骨折」は、転倒や交通事故など一度の大きな衝撃によって骨が折れる現象です。骨の構造が突然破綻するため、激しい痛みとともに腫れ変形を伴うのが一般的です。

それに対して疲労骨折は、痛みの出方がじわじわとしており、初期には「ただの筋肉痛かな?」と見過ごされがちです。慢性的な疲労や反復動作が原因であるため、症状の進行が緩やかである一方、日常生活で使い続けることで悪化しやすいというリスクを伴います。

また、レントゲンにすぐには写らないことも疲労骨折の特徴の一つです。画像に異常が見られないため、整形外科で診察を受けても「異常なし」と診断されてしまうケースが少なくありません。数週間経ってようやく骨折線が見えてくることもあるため、MRIなどの精密検査が有効です。

疲労骨折なりかけの状態とは?

実は、疲労骨折には「なりかけ」の段階が存在します。この段階では骨に明確な亀裂は見られませんが、骨膜の炎症や微細損傷が発生しており、無視して動き続けると本格的な骨折につながるリスクがあります。

このフェーズでは、「運動時にだけ痛む」「押すと鈍痛がある」といった軽度の症状が現れます。見た目に腫れや変形がないため、周囲から理解されにくいこともありますが、自身の体のサインを正確に読み取ることが重要です。違和感を感じたら早めに運動を中止し、整形外科での診断を受けることが、完全な骨折を防ぐ第一歩となります。

疲労骨折の理解が予防と早期発見のカギ

疲労骨折は、突然起こる外傷ではなく日々の小さな積み重ねによって発症する“サイレント骨折”ともいえる存在です。だからこそ、「ただの使いすぎ」と軽視せず、適切なタイミングで休養や診察を取り入れることが、予防と早期発見につながります。

次のセクションでは、疲労骨折が起きやすい代表的な部位足・すね・肋骨)とその症状について、さらに詳しく掘り下げていきます。

疲労骨折が起きやすい部位と特徴的な症状

足・すね・肋骨など発生部位ごとの症状を詳しく解説します。

疲労骨折は全身どこにでも起こり得ますが、特に負荷が集中しやすい「足」「すね」「肋骨」に生じやすい傾向があります。それぞれの部位で症状の現れ方や対処法が異なるため、正しい理解が早期対応の鍵となります。

足の甲や中足骨に起こる疲労骨折

足は歩行・走行のたびに繰り返し衝撃を受けるため、疲労骨折の好発部位とされています。特に多いのが「中足骨疲労骨折」、なかでも第5中足骨に起こる「Jones骨折(ジョーンズ骨折)」は、再発リスクが高く注意が必要です。

足の骨の画像

症状としては、足の甲の外側に違和感や痛みを覚え、歩けるものの踏み込むと痛い」「つま先立ちがしづらい」といった軽度の機能制限が現れます。進行すると腫れや発赤が出てきますが、初期には見た目の変化が少ないため見逃されやすいのが特徴です。

特にスポーツや立ち仕事をしている方、長時間歩く習慣がある人は、日常的に「足の甲に違和感がある」と感じたら早めのチェックが必要です。

すね(脛骨)の疲労骨折とシンスプリントの違い

すねの骨、つまり脛骨に起こる疲労骨折もよく見られます。この部位では「シンスプリント」と混同されやすく、見極めが重要です。

脛骨の画像

すねや足の骨の画像

シンスプリントは脛骨の内側に沿った筋膜の炎症であり、運動後にズキズキとした痛みを伴います。一方、疲労骨折の場合は「骨自体の痛み」であり、安静時にも違和感が残ることがあります。特に、押したときに鋭い痛みが集中する「圧痛点」がはっきりしている場合骨の微細な損傷を疑うべきです。

長距離ランナーや部活生に多く、特に柔らかい地面ではなく硬いアスファルトなどでトレーニングしている場合はリスクが高まります。

参考記事:【シンスプリントの治し方】脛(すね)の痛みの原因やストレッチ・テーピングなど予防法も紹介
参考記事:
シンスプリントを走りながら治す方法は?脛(すね)の痛みに効くストレッチも解説

肋骨の疲労骨折と咳・くしゃみによる影響

肋骨に疲労骨折が起きるケースはあまり知られていませんが、意外にも頻度は低くありません。特に咳やくしゃみを繰り返すことで胸郭にストレスが加わり、骨に微細な損傷が起こることがあります。

このタイプの疲労骨折は、ゴルフやテニスなど上半身を大きくひねる動作をする人や、慢性的な咳を伴う持病がある人に起こりやすい傾向があります。胸のあたりに「ピリッ」と走るような痛みがあり、深呼吸や笑う動作でも痛みが増すのが特徴です。

また、くしゃみをした瞬間に肋骨に強い痛みが走った場合、「単なる筋肉痛」とは思わず、疲労骨折の可能性を考慮して医療機関を受診すべきです。

疲労骨折の原因と判断方法

スポーツしていて足が痛んだ女性の画像

疲労骨折は「使いすぎ」が主な原因とされますが、その背景には身体的・生活習慣的な複数の要因が絡み合っています。ここでは、発症に至るプロセスと、見逃さないための判断手順を解説します。原因を把握し、正確に診断するための手順を押さえましょう。

なぜ疲労骨折になるのか?身体的・環境的な要因

疲労骨折は、骨に小さなストレスが繰り返し加わることで発生します。主な原因は以下のようなものです。

  • 使いすぎ(オーバーユース)

最も多い原因がこの「オーバーユース」です。特にランニングやジャンプなど高頻度で同じ動作を繰り返すスポーツに多く、骨への負担が一定以上になると微細な骨損傷が蓄積し、やがて骨折に至ります。

  • 筋力不足や柔軟性の欠如

筋肉が十分に発達していないと、地面からの衝撃を骨が直接受けやすくなります。また、筋肉や腱の柔軟性が低下していると、骨へのストレスが集中してしまいます。

  • 硬い地面での運動

コンクリートアスファルトなど、反発の大きい地面で運動を行うと、足部やすねへの負担が増大します。特に長時間のジョギングやウォーキングでは注意が必要です。

  • 不適切な靴の使用

クッション性のない靴サイズの合わない靴を履いていると、衝撃吸収が不十分となり、骨に直接ダメージが加わります。

これらの要因が複合的に作用し、知らず知らずのうちに骨が限界を迎えるのです。

疲労骨折になりやすい人の特徴

疲労骨折のリスクは、性別や体格ライフスタイルによっても大きく異なります。特に以下のような特徴を持つ方は注意が必要です。

  • 女性ホルモンの影響

女性アスリートに多く見られる「女性アスリートトライアド(無月経・栄養不足・骨密度低下)」は、骨の脆弱性を高める大きな要因です。エストロゲンの減少により骨代謝が低下し、疲労骨折のリスクが上昇します。

  • 骨密度が低い人

加齢や栄養不足により骨密度が下がると、軽微な負荷でも骨にダメージが生じやすくなります。特に高齢者や閉経後の女性は要注意です。

  • 食事の偏り・栄養不足

カルシウム・ビタミンD・たんぱく質の摂取不足は、骨の修復力を低下させます。極端なダイエットや不規則な食生活も疲労骨折のリスクを高めます。

  • 過去に骨折経験がある人

以前に骨折した部位は、構造的に弱くなっている可能性があり、再発しやすくなります。慢性的なストレスが加わると、同じ場所に再び疲労骨折が起こることがあります。

痛みを軽視せず、早期の判断を

ちょっとした違和感」や「運動時だけの痛み」を見逃してしまうと、疲労骨折は悪化し、完全な骨折や長期の運動制限につながることがあります。
日常生活や運動時に痛みや不調を感じたら、自己判断せず専門医に相談することが、早期回復と再発防止への近道です。

疲労骨折の治療と自宅でできるセルフケア

初期対応と回復のためのセルフケア方法を紹介します。

疲労骨折は早期発見適切な治療によって、多くの場合は自然治癒する可能性があります。しかし、放置すれば悪化し、手術になる場合があるので注意が必要です。この章では、痛みがある時の対処法から、自宅でできるケア、再発防止につながるセルフエクササイズまでを解説します。

急性期に必要な安静と処置

疲労骨折の急性期(発症直後)は、まず安静を最優先に考えることが大切です。痛みがある段階で無理をして動き続けると、骨の損傷が進行してしまうリスクがあります。

  • 応急処置としての冷却と湿布

炎症や腫れを抑えるために、冷却パック氷嚢患部を冷やしましょう。1回15〜20分を目安に、1日数回行うと効果的です。また、市販の湿布も一時的な鎮痛と抗炎症効果が期待できます。

  • 無理のない範囲での荷重制限

足やすねに痛みがある場合松葉杖を使うことで負担を軽減できます。肋骨の疲労骨折の場合はバストバンドなどで軽く固定し、深呼吸や激しい咳を避けるようにしましょう。

  • 自己判断でのマッサージやストレッチは避ける

痛みが出ている急性期ストレッチや揉みほぐしを行うと、かえって悪化させることがあります。運動やケアは、炎症が落ち着いた後から始めましょう。

セルフエクササイズ:疲労骨折回復を支える下半身ストレッチ

痛みが治まり、日常生活に支障がない状態に回復してきたら、柔軟性と筋力の回復を目的としたセルフエクササイズが効果的です。ここでは、足・すね周辺の血流促進と再発予防に役立つ簡単なストレッチをご紹介します。

アキレス腱&ふくらはぎストレッチ

STEP1:壁に手をつき片足を前方に出しましょう。
STEP2:前方の膝を曲げ、体重をかけましょう。
STEP3:踵を浮かさないように注意す元の姿勢に戻りましょう。
注意点:踵が浮かないように注意しましょう。

このストレッチは、ふくらはぎからアキレス腱の柔軟性を高め、着地時の衝撃吸収力をサポートします。

足底筋膜&足指ストレッチ

STEP1:膝立ち姿勢となりましょう。後方の足は床と直角になるように立てましょう。
STEP2:立てたつま先に体重を乗せ、足底の筋肉を伸ばしましょう。

 

この動きは中足骨周辺の可動域を広げ足の甲の疲労骨折予防に効果があります。

日常生活での注意点と再発防止のコツ

痛みがなくなったからといって、いきなり元の生活に戻すのは危険です。再発防止のためには、日常動作に以下のような配慮を取り入れることが重要です。

  • 運動しながら治す意識を持つ

完全な安静では筋力が落ち再発リスクを高めます。痛みのない範囲での軽いストレッチや、負荷の少ない運動(例:水中ウォーキングなど)を取り入れることが推奨されます。

  • 無理のない負荷調整

リハビリ初期は、回数や時間を減らしながら段階的に運動を再開します。回復過程では「疲れすぎない」ことが最優先です。

  • 靴選びは再発予防の要

衝撃吸収性の高いインソールを使用し、サイズの合った靴を履くことで、足の骨への負荷を減らせます。長距離の歩行や運動の際は、靴底のすり減り具合にも注意が必要です。

  • テーピングの活用

テーピングは、患部にかかる力を分散させ、再発リスクの軽減に役立ちます。整形外科や理学療法士の指導のもと、正しい方法を学んでおくと安心です。

疲労骨折を予防するためにできること

予防のために今日から始められる生活習慣を解説します。

疲労骨折は一度起きると回復に時間がかかり日常生活や運動に大きな影響を及ぼします。しかし、日頃の習慣や体のケアによって予防できる可能性が高いのも事実です。ここでは、ストレッチ、食生活、医療機関でのサポートなど、今日から実践できる具体的な予防策をご紹介します。

運動前後のストレッチと体のケア

疲労骨折予防の第一歩は、「筋肉と関節の柔軟性」を保つことです。運動前後にストレッチを取り入れるだけで、骨への負担を大幅に軽減することができます。

ウォームアップの重要性

運動を始める前には、体を温める目的で軽い有酸素運動ウォーキングやその場ジャンプなど)を行い、血流を促進しましょう。その後、足首・ふくらはぎ・太もも周辺を中心に動的ストレッチを取り入れることで、筋肉と骨を効率よく守る準備が整います。

クールダウンも忘れずに

運動後は、心拍を落ち着かせるための静的ストレッチを行い、筋肉の緊張を和らげます。ふくらはぎ、太もも、足底を丁寧に伸ばすことが、次の運動時の負荷軽減にもつながります。

骨の強化に役立つ栄養素と食生活

骨を強く保つためには、外側からのケアと同じくらい内側からの栄養補給が大切です。以下の栄養素を意識した食事を心がけましょう。

  • カルシウム:骨の主要構成成分。牛乳、ヨーグルト、小魚、大豆製品などに多く含まれます。
  • ビタミンD:カルシウムの吸収を助ける栄養素。鮭、卵、きのこ類のほか、日光を浴びることでも生成されます。
  • たんぱく質:骨の基盤となるコラーゲンの生成をサポート。肉、魚、卵、大豆などをバランスよく摂取しましょう。

また、これらの栄養素を効率よく摂るためにサプリメントを活用するのも一つの方法です。特に食が細い方や食事制限中の方には有効です。

まとめ

疲労骨折は、日常動作や運動による繰り返しの負荷が原因で起こる見逃されやすい骨折です。

足・すね・肋骨など負荷のかかりやすい部位に多く、初期は違和感程度の症状が多いため注意が必要です。原因としては使いすぎ、筋力不足、不適切な靴などが挙げられ、レントゲンでは写らないこともあります。

早期発見適切な治療が回復のカギとなり、ストレッチや栄養管理、定期的な身体のチェックによる予防が効果的です。

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