肩甲骨の左が寝違えたような痛みの原因は?ぎっくり背中との見分け方とセルフケアを解説

朝起きた瞬間、肩甲骨の左側に鋭い痛みを感じたことはありませんか?
寝違えたのかも?」と思っても、実はぎっくり背中や別の原因が隠れていることもあります。
本記事では、肩甲骨の左側に起こる突然の痛みの原因を解説し、寝違えとの見分け方や自宅でできるセルフケアについてもわかりやすくご紹介します。

肩甲骨の左に突然起こる「寝違えたような痛み」とは?

ある日突然、肩甲骨の左側に起こる痛み。その原因とメカニズムを解説します。

寝違えのメカニズムとは?

朝目覚めたときふと動かした瞬間に肩甲骨の左側に鋭い痛みが走った――そんな経験をしたことがある人は少なくありません。これは俗に「寝違え」と呼ばれる状態に近い症状ですが、実際には筋肉や神経の一時的な炎症、もしくは筋膜の癒着などが原因と考えられています。

寝ている間、長時間にわたって不自然な姿勢をとっていた場合、特定の筋肉が圧迫されたり血流が阻害されたりすることがあります。特に首から肩、肩甲骨周辺にかけての筋肉は非常に繊細で、ちょっとしたバランスの乱れでも炎症を起こすことがあります。

また、急激な寝返りや睡眠中の外的刺激(冷えや振動など)も寝違えの要因になります。これらが複合的に重なったとき、「寝違えたような痛み」が発生しやすくなります。

肩甲骨に痛みが出やすい理由

肩甲骨は腕や背中、首といったさまざまな筋肉と連動して動く部位です。デスクワークやスマホの使用などで前かがみの姿勢が続くと、肩甲骨の可動性が低下し、「巻き肩」「猫背」などの不良姿勢を招きます。この状態が続くことで筋肉が緊張しやすくなり、些細な動きで痛みが出やすくなるのです。

特に肩甲骨内側の筋肉菱形筋や肩甲挙筋)は、首や肩と連携しているため、寝ている間の姿勢や首の角度によっても負担が増大します。この部位は痛みが出ても気づきにくく、朝の起床時に初めて強い違和感として現れることがあります。

菱形筋と肩甲挙筋を説明した画像

左側に限定される原因とは?

肩甲骨の「左側」に限定されて痛みが起こる場合、その背景には身体の使い方偏りが関係していることが多いです。たとえば、右利きの人は無意識に右側を優位に使うため、左側の筋肉は固定されがちで、血流が滞りやすくなります。

また、内臓と筋肉は密接に関係しており、心臓は左側に位置するため、左肩や肩甲骨付近の不調は緊張やストレスのサインとしても現れることがあります。もちろん、すべてが内臓由来というわけではありませんが、「いつも左だけが痛くなる」といった偏りがある場合は、生活習慣や体の使い方を見直すきっかけにもなるでしょう。

ストレスや姿勢の影響も?

肩甲骨周辺の痛みは、実は心理的なストレスとも密接に関係しています。ストレスが蓄積すると、自律神経のバランスが乱れ筋肉が常に緊張状態に陥るため、血行不良や炎症の引き金になります。特に肩から背中にかけては、緊張が最も出やすい部位のひとつです。

また、猫背や前かがみ姿勢を日常的にとっていると、肩甲骨の可動域が制限され、痛みが生じやすくなります。姿勢不良は単なる筋肉のコリだけでなく、骨格全体のゆがみを引き起こし、慢性的な痛みや可動域の制限へと発展する可能性があります。

参考記事:突然の左肩甲骨の痛みはなぜ?考えられる原因と今すぐできる対処法
参考記事:肩甲骨周りが痛い原因とは?肩・首こり解消にもオススメのストレッチを紹介!

「寝違え」なのか「ぎっくり背中」なのか?症状から見分けるポイント

寝違えて首が痛い女性の画像

寝違え」と「ぎっくり背中」は似て非なるもの。違いを知ることで対応が変わります。

ぎっくり背中の特徴と症状

ぎっくり背中とは、急激な動作や不意な姿勢の変化によって、背中の筋肉筋膜靭帯に強い炎症損傷が起こる急性の症状を指します。一般的には「動いた瞬間にピキッと痛んで動けなくなる」といった訴えが多く、突然強烈な痛みに襲われるのが特徴です。

特に肩甲骨周辺では、体幹のひねりや重い物を持ち上げた際などに起こりやすく、呼吸するだけでも痛みを感じる場合があります。筋肉のけいれんが原因で可動域が著しく制限されるため、日常動作にも大きな支障をきたします。

また、ぎっくり背中は前触れがないことが多く、寝ている間ではなく、起床後や日中の動作中に発症するケースが多いのも特徴のひとつです。

参考記事:ぎっくり背中の治し方は?どうしたら楽になるの?原因と対処法について専門家が解説!
参考記事:ぎっくり背中を見分ける症状チェックリスト!ぎっくり腰との違い・要注意の病気も解説

寝違えとの共通点と相違点

寝違え」と「ぎっくり背中」は、どちらも突然起こる鋭い痛みが共通していますが、発生原因と痛みの出方に明確な違いがあります。

寝違えは、長時間にわたる不自然な姿勢や頸部の固定により、首から肩、肩甲骨周囲の筋肉に軽度の炎症が生じるものです。症状は「朝起きたら痛い」「首を動かすと肩甲骨まで響く」といった形で現れ、軽度であれば1〜3日で改善する傾向にあります。

一方、ぎっくり背中は、急な動きや筋肉疲労が引き金となり筋膜の損傷を伴うこともあります。そのため、痛みの強さや回復までの時間が寝違えよりも大きく、数日〜1週間以上かかることもあります。

重篤なケースに見られる兆候とは?(心臓・肺など内臓疾患との関係)

肩甲骨の左側に突然強い痛みが出た場合、「寝違え」や「ぎっくり背中」では説明がつかないケースもあります。特に注意すべきなのが、心筋梗塞や狭心症肺の疾患などの内臓トラブルです。

これらの疾患では、肩甲骨や背中の痛みが前兆症状として現れることがあります。たとえば、冷や汗を伴う、胸の締めつけ感がある、安静にしていても痛みが引かない、といった症状がある場合は、整形外科ではなく内科や循環器内科の受診が必要です。

痛みの質が「鈍く重い」「しびれるような感じ」「息苦しさを伴う」などの場合は、迷わず医療機関での精密検査を受けましょう。特に高血圧糖尿病高脂血症などの既往がある方は要注意です。

肩甲骨の寝違え痛にすぐできる!おすすめセルフケアとやってはいけないこと

すぐにできる対処法から、悪化させないための注意点まで紹介します。

まずは安静と冷却が基本

寝違えたような痛みを感じた直後は、まず無理に動かさず安静を保つことが最優先です。動かすことで炎症を悪化させるおそれがあるため、痛みが落ち着くまでは無理にストレッチやマッサージを行わないようにしましょう。

また、発症から48時間以内であれば「冷やす」ことが有効です。氷嚢や保冷剤をタオルで包み、10〜15分を目安に患部へ冷却を行ってください。これにより炎症の拡大を抑えることができます。冷却後はしばらく安静にし、無理のない範囲で少しずつ動かすことが大切です。

やってはいけないNG行動3つ

痛みを早く取ろうとして、かえって悪化させてしまう行動もあります。以下の3点は避けるよう注意しましょう。

  1. 痛い部分を強く揉む・押す
     自己流のマッサージや強い圧迫は、筋繊維を傷つけてしまう危険があります。炎症が強くなると治癒が遅れる原因に。
  2. 無理にストレッチを行う
     痛みがあるのにストレッチを無理に行うと、周囲の筋肉にも過度な負担がかかります。まずは軽い動作確認から始めるのが鉄則です。
  3. 入浴で長時間温める
     慢性的な痛みには温熱療法が効果的ですが、急性期には逆効果。炎症が広がってしまう可能性があるため、注意が必要です。

自宅でできるセルフストレッチ3選

痛みが和らぎ、少し動かせるようになってきたら、無理のない範囲でストレッチを取り入れていきましょう。以下に紹介するストレッチは、肩甲骨周りの柔軟性を高め、再発予防にも効果的です。

胸椎伸展運動

仰向けになった状態で両手を頭上にバンザイするように上げていきます。深呼吸をしながら、肩甲骨が背中側に沈むように意識するのがポイント。朝起きる前や寝る前に行うことで、肩甲骨まわりの可動性が回復しやすくなります。

胸椎伸展運動

STEP1:丸めたバスタオルを準備しましょう。
STEP2:丸めたバスタオルを背中に当て仰向けとなりましょう。
STEP3:両手を繋いで手を万歳しましょう。
注意点:ゆっくりと下ろしましょう。繰り返し実施しましょう。

大胸筋ストレッチ

壁の角や柱を使って、片腕を水平に伸ばした状態で固定し、体を反対側にゆっくりひねります。胸の前側が伸びる感覚を感じながら、15〜20秒キープ。大胸筋をほぐすことで肩の引き込みが改善され、肩甲骨の動きも滑らかになります。

大胸筋ストレッチ

STEP1:片足を前方へ大きく踏み出しましょう。
STEP2:片手を壁につけましょう。
STEP3:体重を前方へ移動させましょう。前胸部が伸びている状態を保持しましょう。
STEP4:元の姿勢に戻りましょう。

胸郭回旋運動

横向きに寝て、下側の腕を前方に伸ばし、上側の腕を反対側の床を触るように回していきます。この状態で深く呼吸をしながら、背中が広がる感覚を感じてください。左右交互に行うと、左右のバランスを整えるのにも効果的です。

胸郭回旋運動

STEP1:横向きに寝た状態で片膝を曲げて床につけます。両手を前方に伸ばしましょう。
STEP2:体を捻りながら腕を開きましょう(目線は指先へ向けましょう)
STEP3:ゆっくりと元の姿勢に戻りましょう。繰り返し実施しましょう。
注意点:膝が床から離れないように注意しましょう。

肩甲骨の左側が痛いときに考えられるその他の原因と受診の目安

痛みが長引く・強くなるときは、他の疾患も考慮すべきです。

内臓疾患(心筋梗塞など)の可能性

肩甲骨の左側に突然強い痛みが現れた場合、筋肉や関節のトラブルだけでなく、内臓疾患が原因になっている可能性もあります。特に注意すべきなのは、心臓や肺といった命に関わる器官に由来する痛みです。

たとえば心筋梗塞や狭心症では、肩甲骨の左側や腕、背中に鈍く重い痛みを感じることがあります。冷や汗や息苦しさ、胸の締め付け感などを伴う場合は、すぐに救急受診が必要です。また、肺炎や気胸などの肺疾患も、肩甲骨まわりに痛みが放散するケースがあります。

一見すると寝違えのような痛みに感じられることもあるため、「いつもと違う痛み」や「安静にしても改善しない痛み」には十分な注意が必要です。

神経・筋肉のトラブル

肩甲骨まわりには、複数の神経が走行しており、神経由来の痛みも考えられます。とくに頚椎から出ている神経が圧迫される「頚椎症」や「椎間板ヘルニア」の場合、肩甲骨の内側に鋭い痛みやしびれが出ることがあります。

頸椎症を説明した画像

椎間板ヘルニアを説明した画像

また、筋肉のバランスの崩れや過度な負荷により、「筋筋膜性疼痛症候群(MPS)」と呼ばれる状態になると、筋膜のトリガーポイントが痛みを引き起こすことがあります。これは圧痛点を押すと肩甲骨周辺に痛みが放散する特徴があり、慢性的な痛みとして現れるケースも少なくありません。

さらに、肋間神経痛や帯状疱疹の初期症状も、肩甲骨に違和感やピリピリとした神経痛を感じさせる原因となるため、皮膚の異常や帯状の痛みがある場合は皮膚科の診察も検討しましょう。

参考:頚椎椎間板ヘルニアでやってはいけないことは?症状チェックや対処法も解説
参考:頚椎症で効果があるストレッチ&してはいけないことを解説

受診の判断基準と診療科の選び方

肩甲骨の痛みが2〜3日しても軽快しない、もしくは徐々に強くなってきた場合は、自己判断せずに医療機関を受診することが重要です。以下のような症状がある場合は早めに受診を検討してください。

  • 痛みが安静時にも強く続く
  • 呼吸や咳で痛みが悪化する
  • 胸部圧迫感や息切れがある
  • 発熱や倦怠感、しびれを伴う
  • 日常生活に支障が出ている

診療科の選び方として、まずは整形外科が基本ですが、上記のような内科的症状を伴う場合は内科循環器内科呼吸器内科も選択肢となります。医療機関では、レントゲンやMRI、血液検査などで原因を明確にし、適切な治療へとつなげることが可能です。

まとめ

肩甲骨の左側に突然痛みを感じた場合、まずは寝違えやぎっくり背中など筋肉や神経由来の原因を疑いますが、心臓や肺の病気が隠れていることもあるため注意が必要です。

セルフチェックで症状の特徴を見極め、早期に適切な対処を行うことが回復の鍵になります。急性期は安静と冷却を基本とし、痛みが落ち着いてきたら無理のないストレッチを行いましょう。

再発防止には日常の姿勢や体の使い方を見直すことが重要です。違和感が続く場合は早めに医療機関を受診してください。

【参考文献】
1)Chun-Yiu JP, Man-Ha ST, Chak-Lun AF. The effects of pillow designs on neck pain, waking symptoms, neck disability, sleep quality and spinal alignment in adults: A systematic review and meta-analysis. Clin Biomech (Bristol). 2021 May;85:105353. doi: 10.1016/j.clinbiomech.2021.105353. Epub 2021 Apr 19. PMID: 33895703.
2)勝呂徹.あなたの枕は合っていますか?正しい眠りのための枕調整.Pharmaceutical Society of Japan.46巻11号 1063-1067.2010
3)日本ペインクリニック学会:IV-D 筋・筋膜性疼痛症候群
4)日本ペインクリニック学会:III-D 筋・筋膜性疼痛症候群