咳をしすぎたあとに、あばら周辺にズキズキとした痛みを感じたことはありませんか?
それは単なる筋肉痛ではなく、肋骨にヒビが入っている「疲労骨折」の可能性もあります。痛みを放っておくと悪化するケースもあるため、原因を正しく見極めて適切な対処を行うことが大切です。
本記事では、咳が原因で起こるあばらの痛みの仕組みや注意すべき症状、自宅でできるケア方法から再発を防ぐセルフエクササイズまで、分かりやすく解説します。
咳のしすぎであばらが痛いのはなぜ?考えられる原因と仕組み
咳の衝撃がなぜ肋骨やその周囲に痛みを生むのか。まずは原因を確認していきましょう。
咳による筋肉疲労や筋肉痛
咳は瞬間的に強い腹圧をかける動作です。この際、胸郭周辺の筋肉、特に肋骨の間にある「肋間筋」と呼ばれる筋肉が繰り返し使われます。風邪やアレルギーで何日も咳が続くと、これらの筋肉が酷使され、筋肉痛のような症状が現れます。
特に、慣れていない人が突然激しい咳を繰り返すと、まるで筋トレ後のような張りや痛みを感じることもあります。これは筋肉に小さな損傷が生じ、炎症が起きているサインです。痛みは主に体をひねったり、伸ばしたりするような「動作時」に感じ、安静にしているときには軽減するのが特徴です。
肋骨の疲労骨折やヒビの可能性
咳が強く長引くと、筋肉だけでなく骨にまで負担が及ぶことがあります。特に中高年や骨密度の低い人、女性に多く見られるのが「肋骨の疲労骨折」です。これは転倒や打撲がなくても、咳の反復によって骨が微細なヒビを起こす状態です。
痛みの特徴としては、笑う・深呼吸をする・体をひねるときに鋭く走るような痛みで、筋肉痛とは異なり、日を追うごとに悪化する傾向があります。また、骨折の場合は咳やくしゃみの瞬間に「ズキン」と電気が走るような激痛を伴うことが多いのも特徴です。
参考記事:肋骨のひび(不全骨折)を早く治す方法はある?安静期間における食べ物や寝方の工夫を解説
神経痛や内臓の関連痛との違い
あばらの痛みはすべてが筋肉や骨の問題とは限りません。「肋間神経痛」や「内臓からの関連痛」の可能性も考慮する必要があります。
肋間神経痛は、神経が肋骨の間を走行しているため、圧迫や炎症によって引き起こされます。刺すような痛みが左右どちらかに出ることが多く、動きに関係なく不規則に痛みが現れます。咳に限らず、ストレスや姿勢の悪化でも引き起こされることがあります。
また、心臓や肺、胃といった内臓の異常が、胸の痛みとして現れることもあります。特に「左側」のあばら下の痛みには注意が必要です。呼吸や動作に関係ない痛みが続く場合は、内臓疾患のサインである可能性も否定できません。
このように、咳のしすぎによって引き起こされるあばらの痛みには、筋肉性のものから骨折、神経や内臓の影響まで多岐にわたる原因があります。次のセクションでは、これらの中で「病院に行くべき症状の見分け方」について詳しく解説します。
骨折や重症のサインとは?病院に行くべき症状チェック
単なる筋肉痛か、それとも骨折か?判断の目安を把握することで、適切な対処を選択することができます。次は見逃してはいけない重度なサインを確認していきましょう。
深呼吸や咳で激痛が走る場合
咳や深呼吸をした瞬間に、鋭い痛みが肋骨に走る場合は注意が必要です。この痛みは、筋肉痛とは違い、動作に伴って鋭く限局的に現れ、特に「吸う動作」や「咳き込む動作」で強く出るのが特徴です。
肋骨にヒビが入っている、あるいは疲労骨折していると、胸郭が広がるときに骨がわずかに動き、それが神経を刺激して激痛となります。とくに、片側だけが強く痛む場合や、寝返りを打つたびに「ズキッ」と電気が走るような痛みがあるときは、自己判断せず整形外科を受診しましょう。
あばらが腫れている・押すと強い痛みがある
外見から分かる腫れや、触れただけで強い圧痛がある場合も、筋肉の炎症や骨折の可能性があります。とくに肋骨に沿って腫れがある場合や、赤み、熱感がある場合は、内部で出血や炎症が起きている可能性があります。
また、押したときだけでなく、軽く服がこすれたり、何もしなくてもズーンとした痛みを感じたりするようなら、炎症や神経の関与が疑われます。肋骨のヒビや亀裂は、打撲や強い衝撃がなくても、咳の圧力だけで起こり得るため、過信は禁物です。
自分で判断が難しいときは専門医の診察を
痛みの強さや持続時間だけでは、筋肉痛と骨折を明確に区別することは困難です。「いつもより痛い」「動くたびに痛む」「痛みが日に日に増している」などの変化がある場合は、できるだけ早めに医療機関を受診することが大切です。
市販薬や湿布だけで様子を見るのではなく、正確な診断を受けることで適切な処置ができ、回復も早まります。
以上が、咳によるあばらの痛みが「骨折や重症のサインかどうか」を見極めるためのポイントです。
自宅でできる!咳によるあばらの痛みの対処法
このセクションでは、病院を受診する前に自宅でできる対処法について解説していきます。辛い痛みを和らげるために今すぐできるケア方法を身につけていきましょう。
湿布や冷却による炎症対策
咳のしすぎによって筋肉や肋骨周辺が炎症を起こしている場合、まずは「冷やす」ことが重要です。痛みが出始めた直後の48時間は、炎症を抑えるために冷湿布や氷のうを使ったアイシングが効果的です。1回10〜15分を目安に、タオル越しに冷却を行いましょう。
炎症のピークを過ぎて熱感が引いてきたら、温湿布や蒸しタオルで血行を促進することも有効です。急性期には「冷やす」、慢性期には「温める」というケアの切り替えが、痛みの悪化を防ぐポイントです。
湿布を貼る際は、皮膚にトラブルが起きないよう、1日1〜2回の交換を忘れずに。市販の冷感・温感タイプを症状に合わせて使い分けるのが理想的です。
痛みを悪化させない生活姿勢・寝方
痛みがあるときは、無理に動かさず安静にすることが大前提です。しかし、姿勢や寝方によってはかえって痛みが強くなることもあります。
日中の過ごし方としては、背筋をまっすぐ保つよう意識し、前かがみの姿勢や体をねじる動作は避けましょう。重い荷物を持ったり、くしゃみを我慢するのも避けるべきです。
寝るときの姿勢にも工夫が必要です。仰向けで寝ると痛みを感じる場合は、横向きになって痛みのない側を下にし、膝を軽く曲げて寝ると肋骨の負担が軽減されます。また、背中にクッションを当てて半仰向けに近い角度で寝ると、呼吸が楽になることもあります。
マットレスや枕の高さも見直して、痛みの出にくい姿勢を試行錯誤してみてください。
痛み止め(ロキソニンなど)の活用について
日常生活に支障が出るほど痛みが強い場合は、市販の痛み止めの使用も一つの手です。非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)である「ロキソニン」や「イブプロフェン」は、炎症を抑える効果があり、筋肉痛や軽度の骨損傷による痛みにも対応できます。
一方、胃腸が弱い方やNSAIDsに不安がある方は、アセトアミノフェン系の「カロナール」などを選ぶと良いでしょう。比較的副作用が少なく、長期間の使用にも向いています。
薬を使う際は、必ず用法・用量を守ることが大前提です。また、薬だけで痛みを紛らわせるのではなく、原因の見極めと適切な休養が回復への近道となります。
咳をやわらげる工夫も大切
根本的な対処として、咳そのものを抑える工夫も忘れてはなりません。部屋の湿度を40〜60%に保ち、喉の乾燥を防ぐこと、就寝時にマスクを着用することなども有効です。
また、咳止めの市販薬や漢方薬もありますが、長引く咳や強い咳が続く場合は内科での診察を受けることをおすすめします。咳の原因が気管支炎や肺炎などの場合、放置すると悪化し、肋骨への負担も増えるため、早期の治療が重要です。
自宅でできるケアは多岐にわたりますが、症状が軽度であればこれらの対策で十分に改善することもあります。
痛みを防ぐために|再発予防のための呼吸トレーニングとストレッチ
同じ痛みを繰り返さないために、体を整えるセルフケアが重要です。ここからは、再発を防ぐための「呼吸トレーニング」や「ストレッチ」について解説していきます。
胸郭を広げるストレッチ
咳のしすぎによって痛みを感じやすい部位である肋骨周辺は、呼吸と密接に関係する「胸郭」が関わっています。胸郭の柔軟性が低いと咳の衝撃を分散できず、筋肉や骨に負担が集中してしまいます。
そこでおすすめなのが肋間筋を柔らかく保ち、胸の可動域を広げるストレッチです。以下の方法を、痛みが落ち着いた後に日課として取り入れてみてください。
胸郭回旋ストレッチ
STEP1:横向きに寝た状態で片膝を曲げて床につけます。両手を前方に伸ばしましょう。
STEP2:体を捻りながら腕を開きましょう(目線は指先へ向けましょう)
STEP3:ゆっくりと元の姿勢に戻りましょう。繰り返し実施しましょう。
注意点:膝が床から離れないように注意しましょう。
ストレッチの際は、呼吸を止めないことが大切です。リラックスしながら、ゆっくりとした動きで行いましょう。
腹式呼吸・呼吸トレーニングの基本
咳が出やすい人、呼吸が浅い人は無意識に胸だけで呼吸していることが多く、これが肋骨周辺の過緊張を招きます。そこで腹式呼吸を習得し、呼吸筋をバランスよく使うことが重要です。
腹式呼吸
STEP1:椅子に座った状態で腰に触れ収縮を感じましょう。
STEP2:鼻から息を吸いお腹を膨らませましょう(3秒間)
STEP3:口から息を吐きお腹に力を入れましょう(6秒間)
注意点:腰は動かさないように注意する
この呼吸を1セット5回、朝晩に行うだけで、肋骨への負担が軽減されます。肺活量の向上やリラックス効果もあり、咳の頻度自体を減らす効果も期待できます。
日常でできるセルフケアと注意点
日常生活の中で、再発を防ぐための意識的なセルフケアも重要です。具体的には以下のような点に注意しましょう。
- 長時間の猫背姿勢を避ける
- こまめに深呼吸や肩甲骨を動かすストレッチを行う
- 喉が乾燥しないよう水分や湿度を保つ
- 咳が出始めたら早めに対処(のど飴、うがい、加湿)
また、体の疲労が蓄積していると、免疫力が下がり風邪をひきやすくなります。十分な睡眠や栄養バランスの良い食事も痛みの予防には欠かせません。
もし、再びあばら周辺に違和感や痛みを感じ始めた場合は、すぐに無理をせず、初期の段階で対策を講じることが再発防止につながります。
まとめ
咳のしすぎによってあばら周辺に痛みを感じた場合、筋肉痛や肋間筋の炎症だけでなく、肋骨の疲労骨折やヒビが原因の可能性もあります。特に、咳や深呼吸で激痛が走る、腫れや圧痛がある場合は、整形外科での診察が必要です。
自宅では湿布や冷却、痛み止めを使ったケア、姿勢・寝方の工夫で痛みを緩和できます。さらに再発防止には、胸郭ストレッチや腹式呼吸などのセルフケアが効果的です。早めの対応と予防で、肋骨への負担を最小限に抑えましょう。
【参考文献】
1)日本骨折治療学会:肋骨骨折
2)日本整形外科学会:「骨折」
3)五嶋謙一,澤口 毅,小林尚史 島 洋祐,柳下昌史,中村立一 北岡克彦,中瀬順介,土屋弘行:第 1 肋骨疲労骨折の臨床的特徴