「腰痛」のなかでも、多く見られるのが歩行時に現れる腰の痛みです。
普段、通勤などで歩く機会が多い方にとっては悩みの種でしょう。また、歩くことで腰が痛くなれば、ウォーキングやランニングへの意欲が低下し運動不足につながりかねません。
したがって、歩く際に生じる腰痛はできるだけ早く改善することが望ましいです。
そこで当記事では、たくさん歩くと腰が痛い際に考えられる原因や症状、ご自身で行える対処法を紹介します。
最後まで目を通すことで、歩くと腰が痛い理由が分かり、どうすれば痛みをケアできるかが把握できるでしょう。
ぜひ、あなたの腰痛改善にお役立てください。
長時間歩くと腰が痛む!原因と具体的な症状を解説
長時間歩くと現れる腰痛は、おもに「背骨の病気による腰痛」「筋肉の疲労・炎症による腰痛」の2つに分かれます。そして、腰が痛む原因やメカニズムが異なります。それぞれ詳しく見ていきましょう。
なお、腰の痛みや足のしびれ以外の症状が見られる場合は、より重篤な病気の可能性が考えられるので注意してください。
背骨の病気
まず、背骨の病気から発生する腰痛を解説します。
背骨(椎間板)の変形によって神経が圧迫されることで腰が痛みます。したがって、痛みのほかに「足のしびれ」が見られるのが特徴です。
では、具体的な症状(病気)を見ていきましょう。
腰部脊柱管狭窄症
腰の高さの背骨が重なりできる「脊柱管(せきちゅうかん)」が狭くなることで、中を通る神経を圧迫し痛みが現れる病気が「腰部脊柱管狭窄症(ようぶせきちゅうかんきょうさくしょう)」です。
腰部脊柱管狭窄症の原因には、「加齢」「悪い姿勢」「肥満」などが挙げられます。したがって50代から60代の高齢者が発症しやすい傾向にあります。
また、少し歩くと腰が痛み出し、休むと楽になる「間歇性跛行(かんけつせいはこう)」という症状が特徴的です。
参考記事:【要注意】脊柱管狭窄症でやってはいけないことは?自宅で出来るストレッチも解説!
腰椎椎間板ヘルニア
背骨にある「椎間板」の「髄核」が飛び出して神経を圧迫し、痛みやしびれを生む病気が「腰椎椎間板ヘルニア」です。
腰椎椎間板ヘルニアは、「重労働」「喫煙」「遺伝」などが関係して発症します。なお、20代から40代の男性に発症しやすい傾向にあります。
そして、腰椎椎間板ヘルニアが悪化すると足に力が入らなくなり、「足が上がりにくくなる」「転びやすくなる」といった症状が現れるので注意が必要です。
参考記事:腰椎椎間板ヘルニアとは?痛みを和らげる方法をわかりやすく解説!
腰椎分離症
背骨を構成する「椎体」後面の「椎弓(ついきゅう)」という部位が疲労骨折することで、腰の痛みやしびれが起こる病気が「腰椎分離症(ようついぶんりしょう)」です。
腰椎分離症は、おもに10代の頃のスポーツ活動が原因で発症します。腰を捻る・腰を反らした際に痛みが強まる傾向にあり、歩行動作にも影響が出ます。
症状がひどくなると、痛みに加えて足のしびれも見られるので注意しましょう。
参考記事:【腰痛分離症】予防に効果的なストレッチ・リハビリ方法を解説!
腰周辺の筋肉の疲労・炎症
そして、他に考えられるのが腰周辺の筋肉の疲労や炎症です。
「過度な運動」「腰への負担」などによって腰周りの筋肉に疲労が溜まったり、炎症が起こったりすることで痛みが現れます。ただし、背骨の病気のような足のしびれはほとんど見られません。
とはいえ、痛みの程度によっては日常生活にも大きな支障が出るので注意が必要です。では具体的に見ていきましょう。
筋筋膜性腰痛
腰周りに付く筋肉が傷つくことで発症するのが「筋筋膜性腰痛(きんきんまくせいようつう)」です。
おもに筋肉に疲労が溜まることが原因になります。したがって、「長時間同じ姿勢で作業する」「仕事などで身体を酷使する」といった方が筋筋膜性腰痛を発症しやすく、毎日通勤などで長距離歩く方も要注意です。
また、「腰回りの筋肉を押すと痛い」「夕方に腰が痛くなる・重だるくなる」などの特徴もあるので、ご自身の腰痛と照らし合わせてみてください。
参考記事:【筋肉が原因となる腰痛】筋筋膜性腰痛とは?見分け方と対処法を解説!
急性腰痛(ぎっくり腰)
前触れもなく、急に腰の激痛が現れるのが「急性腰痛」、いわゆる「ぎっくり腰」です。
急性腰痛は、「疲労の蓄積」「不規則な生活」「筋力低下」などが原因で、腰回りの筋肉が強い炎症を起こし発症します。
そして、一度発症すると歩けなくなったり立ち上がれなくなったり、生活に大きな支障が出ます。一概には言えませんが、1週間以上は痛みが続くとお考えください。
重いものを持とうと腰に力を入れた際に発症するケースが多いですが、歩いているなかで「階段を登ろうと足を上げる」「靴紐を結ぼうとしゃがむ」といった瞬間にぎっくり腰になる可能性もあるので注意が必要です。
参考記事:【ぎっくり腰】即効では治らない!1日でも早く治す適切な対処法を解説!
歩くと現れる腰痛を放置するとどうなる?
歩くと腰が痛む症状が、自然に引くことはほとんどありません。もし腰が痛むまま放置すると、痛みが増したりしびれが強まったりする可能性が高いです。
また、膝や足首まで痛みが広がるケースもあり得ます。そうなると、日常生活への影響がさらに大きくなってしまうでしょう。
腰の痛みをそのままにせず、ご自身でセルフケアするのが大切です。
【腰痛対策】1人で実践可能なおすすめのセルフケアを紹介
ではここから、歩行時に現れる腰痛の改善に効果的なセルフケアを紹介します。
少々費用がかかる方法もありますが、ほとんどがすぐ始められる方法です。ぜひ参考にしてみてください。
ストレッチを入念に行う
腰痛改善のために、まず取り組むべきはストレッチです。
じっくり筋肉を伸ばしたり関節を広げたりすることで、「血流が改善する」「動きがスムーズになる」「姿勢が良くなる」といった効果が期待できます。
それでは、おすすめのストレッチを動画付きで解説しますので、さっそく始めてみましょう。
1つ目は「腸腰筋(ちょうようきん)ストレッチ」です。
STEP2:膝を曲げ前足に体重を乗せましょう
STEP3:元の姿勢に戻ります
STEP4:繰り返し実施しましょう
※股関節の付け根の伸びを感じながら行ってみてください
※腰を反らさないように注意しましょう
上記のストレッチは、股関節前面に付く「腸腰筋(ちょうようきん)」を伸ばす効果があります。腸腰筋は姿勢を保ったり、脚を上げたりする動作に関係する筋肉です。歩行時の腰痛改善に効果が大きいので、ぜひ続けましょう。
2つ目は「大殿筋(だいでんきん)ストレッチ」です。
STEP2:膝を抱え反対側の肩へ寄せます
STEP3:元の姿勢に戻ります
STEP4:繰り返し実施しましょう
※お尻の筋肉が伸びた状態を保持しましょう
※腰を反らさないように注意しましょう
このストレッチを行うと、お尻の後面に付く「大殿筋(だいでんきん)」が伸びます。大殿筋は股関節との関連が深く、姿勢を保持する・衝撃を吸収する働きがあります。歩行時における腰への衝撃を和らげ、腰痛予防につながるでしょう。
ストレッチを行う際は、呼吸を止めずにゆっくり行うことを意識してみてください。
できる範囲で筋力トレーニングを行う
適度な筋力トレーニングも腰痛改善に効果的です。
筋トレには「姿勢が良くなる」「身体の安定性が上がる」などの効果があり、腰痛改善の効果も期待できます。とくに筋力低下・運動不足が気になるという方は積極的に取り組んでみましょう。
おすすめの筋トレは「ヒップリフト」です。
STEP2:片脚を伸ばしましょう
STEP3:お尻を持ち上げます
STEP4:ゆっくり下ろしましょう
STEP5:繰り返し実施してみてください
※身体が一直線になるまでお尻を持ち上げましょう
※腰を反らさないように注意しましょう
こちらの筋トレを行うことで、お尻の後面に付く「大殿筋」と、太もも裏側の「ハムストリングス」が鍛えられます。
大殿筋は、先述の通り歩行時の衝撃緩和などに重要で、ハムストリングスは股関節と膝の動きに欠かせない筋肉です。したがって大殿筋とハムストリングスを鍛えることで、歩行時の腰痛の改善や予防につながります。
歩行時の姿勢を見直す
悪い姿勢で歩くことで、腰への負担が増している可能性もあります。そこで、歩行時の姿勢をあらためて見直してみるのがおすすめです。
歩いている最中に、背中が丸まり「猫背」になっていないでしょうか。あるいは、背中が反った「反り腰」になっていませんか。
まずは、「下を向いて歩かない」「顎が上がらないように注意する」この2点を心がけてみてください。首の位置が整うだけで、姿勢が整いやすくなります。
とくに長時間歩いて疲労が溜まった時に姿勢が崩れがちです。最初は姿勢を意識しながら歩く必要がありますが、いずれ無意識に良い姿勢が保てるようになるでしょう。
参考記事:反り腰を改善!原因から治し方を簡単なストレッチをまじえ解説
歩く時に履く「靴」もチェックしてみよう
歩く姿勢を矯正するのにあわせて、普段履いている靴もチェックしてみてください。ご自身に合っていない靴を履いて歩くと、腰への負担が増して痛みが出てしまいます。
サイズが合っていない靴は言わずもがなですが、ほかにも「靴底が薄すぎる・厚すぎる」「サイズが合っているけど固定力が弱い」「ヒールが高すぎる」といった靴は、腰への負担増につながりやすいです。
ブランドやデザインも大切ですが、「履きやすさ」も重視して靴を選びましょう。
腰痛用コルセットを着用する
腰の痛みが強いうちは、腰用コルセットの着用も有効です。
コルセットを装着することで腰回りが固定され、歩行も楽に感じられるでしょう。ただし、コルセットとの相性が悪いと効果が減ってしまうので注意が必要です。新しく購入する際は、サイズや固定力、着脱のしやすさを十分に確認してみてください。
また、長期間のコルセット着用は筋力低下を招くおそれもあります。したがって、歩行時の腰痛が軽くなったら、コルセットを外しましょう。
痛みが増す・痛みが減らない場合は病院で診てもらうのが大切
セルフケアを続けることで、少しずつ腰痛が改善されていくはずです。しかし、重篤な病気が原因で腰痛が起こっているケースでは、効果が見られない場合がほとんど。
もし、「時間が経つにつれて痛みが強くなっていく」「一向に痛みが減らない」場合は、早めに医療機関を受診することが大切です。
腰痛の原因が判明したうえで、お医者さんにアドバイスをもらいながら、適切に対処していきましょう。
まとめ
歩くと腰が痛い場合、背骨もしくは筋肉に原因があると考えられます。
原因が何であれ、腰の痛みをそのまま放置するべきではありません。誰だって、痛みを我慢しながら歩きたくはないはず。
ぜひ、本文で紹介したエクササイズやセルフケアを実践してみてください。すぐに効果が出るわけではありませんが、コツコツ続けることで徐々に腰痛が改善され、長時間の歩行も楽になるでしょう。
それでは当記事が、あなたのお役に立つことを願っています。
【参考文献】
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