「子どもが部活で腰を痛めて帰ってきた」
「腰の痛みが長引いて様子がおかしい」
成長期の子どもがスポーツで怪我をするのはよくあること。
しかし、過度な運動の繰り返しは思わぬところで負担が大きくなっているケースも。
そこで今回は、スポーツ活動をしている若年者に多く発症する腰椎分離症について解説していきます。
そして最後まで読んでいただければ、腰椎分離症を正しく理解し怪我の予防に役立てることができます。
ぜひ、お付き合いください。
【青少年のけが】腰椎分離症とはどんなもの?
腰痛分離症とは、椎弓(ついきゅう)と呼ばれる腰椎の後方部分が分離した状態のことを指します。
多くの場合は、若年時に10~15歳の時にスポーツなどの負担から疲労骨折※を起こし、その状態を長期間放置していると分離のままになってしまいます。1)
※疲労骨折とは1回の負荷で起こる骨折ではなく、過度なスポーツの練習などで負担を繰り返すことが原因となる骨折です。
腰椎分離症が疑われる症状とは?
若年者でスポーツをしている人の腰痛が2週間以上続く場合、腰椎分離症を疑う必要があります。2)
また分離症の痛みは骨折によるものであり、負担となっている部分が腰の神経を刺激することで生じるとされています。
以下の症状がみられた場合は、腰痛分離症のリスクが高いです。
- 背中を反らしたり、ひねったりすると腰痛が強くなる
- 左右どちらかの腰が痛い
- スポーツ中や直後に腰の狭い範囲にズキッとした痛みを感じる
その他にも、腰椎に圧痛が出るケースもあります。
しかし安静時には痛みがないこともあるため、発症の初期には気が付かないケースも多いです。
こんな人は要注意!腰椎分離症になりやすい人の特徴
腰椎分離症は早期発見が望ましく、適切な治療を受けることで比較的早くスポーツの復帰が可能です。
反対に症状を放っておくと、骨折が治りにくくなり手術が必要になるケースもあります。
そのため腰椎分離症になりやすい人の特徴をしっかりと理解し、自身や子どものリスクを知っておくことも重要です。
これから紹介する特徴にあてはまる場合、腰に異常を感じたらすぐに専門の医療機関を受診しましょう。
過度なスポーツ活動により身体を酷使
腰椎分離症は、スポーツを行っている若年者に多発します。
特に野球やサッカー・バレーボールなど、身体をひねる動作やジャンプ動作の繰り返しが、腰痛分離症を発症する原因となるのです。
その割合は一般の発生率では5%程度ですが、スポーツ選手では30〜40%と多くを占めています。1)
そこでスポーツに熱中するあまり、身体に無理な負担がかからないよう運動前後のストレッチなどしっかり行いましょう。
遺伝的要因3)
腰椎分離症は、兄弟や姉妹間で共に発生することが知られており、遺伝的な要因が関係していると考えられています。
また遺伝的に骨が弱く細い方は、骨折しやすいともいわれています。
そのため家族で腰椎分離症の経験者がいる場合は、より注意が必要です。
【リハビリ方法】予防に効果的なストレッチと体幹トレーニング
腰痛分離症の原因は、過度な運動による負担の積み重ねです。
そこで腰椎分離症を予防するためには、腰への負担を減らしてあげることが重要になります。
股関節を中心とした柔軟性の改善と、腰の負担を軽減するための筋肉の強化を行っていきましょう。
下半身の柔軟性を高めるストレッチ3種
股関節周囲の筋肉は、骨盤の動きをサポートする重要な役割を担っています。
しかし、筋肉が硬くなることで腰椎の動きへ悪影響を及ぼすことも。
中でも、腸腰筋(ちょうようきん)や大腿四頭筋(だいたいしとうきん)、ハムストリングスが硬くなることで、骨盤の動きが制限され腰椎に過剰な負担がかかってしまいます。
以上のことをふまえて、ここでは各筋肉別のストレッチ方法を解説していきます。
- 太もも前面のストレッチ
太もも前面には大腿四頭筋という筋肉が存在します。
大腿四頭筋は歩くとき膝を伸ばしたり、膝を安定させる役割を持ちます。
また股関節を介して骨盤と連結しているため、大腿四頭筋が硬くなると骨盤・腰椎の動きが阻害され腰への負担が大きくなるのです。
そこで筋肉の柔軟性を高めるストレッチを行い、腰の負担を軽減しましょう。
STEP1:横向きの姿勢となりましょう
STEP2:下の足を直角に曲げ、もう一方の足を後方から掴みましょう
STEP3:後方へ引っ張りましょう
STEP4:太ももの前面の伸びを感じながら行いましょう
※腰が反らないように注意しましょう
- 股関節付け根のストレッチ
股関節の付け根には、腸腰筋と呼ばれる筋肉が存在します。
腸腰筋はインナーマッスルに分類され、深い位置にある筋肉です。
そして足を持ち上げたり、体幹を安定させるなど正しい姿勢を保つ役割もあるのです。
腸腰筋は股関節前面を経由し腰椎まで伸びています。
また腸腰筋が硬くなると腰椎の動きが制限され、腰への負担が大きくなるのです。
腰椎分離症のリスクを軽減するため、筋肉の柔軟性を高めましょう。
STEP1:片膝立ちの姿勢になりましょう
STEP2:前方の足に体重をのせましょう
STEP3:元の姿勢に戻り、繰り返し実施しましょう
STEP4:股関節の付け根の伸びを感じながら実施しましょう
※腰が反らないように注意しましょう
- もも裏のストレッチ
もも裏には、ハムストリングスと呼ばれる筋肉が膝裏から骨盤まで伸びています。
ハムストリングスは膝を曲げたり、足を後ろ側に反らす役割を担っています。
そのためハムストリングスが硬くなると膝が曲がり、骨盤が後ろに傾く姿勢となり動きが悪くなるのです。
さらに骨盤は腰椎をサポートしているため、骨盤の動きが悪くなると腰椎への負担が大きくなります。
そこでハムストリングスの柔軟性を高め、腰への負担を軽減していきましょう。
STEP1:仰向けとなり片足を抱えましょう
STEP2:可能な限り膝を伸ばしましょう
STEP3:元の姿勢に戻り、繰り返し実施しましょう
STEP4:もも裏の筋肉が伸びているのを感じながら実施しましょう
※太ももがお腹から離れないように注意しましょう
身体の安定性を高める体幹トレーニング
腰椎への負担を減らすため、筋肉別のストレッチ方法を解説いたしました。
しかし柔軟性が上がっても、腹筋や背筋の筋力が弱いと腰への負担は大きく、腰椎分離症のリスクは高まります。
ストレッチだけでなく、体幹の筋力トレーニングも合わせて行いましょう。
STEP1:四つ這いになりましょう
STEP2:肩の真下、股関節の真下に手と膝をつきます
STEP3:対角線上の手足を伸ばしましょう
STEP4:肘・膝が曲がらないように注意しましょう
※腰が反らないように注意しましょう
腰椎分離症の発症からスポーツ復帰まではどのくらい?
腰椎分離症を発症してから、スポーツ復帰までの期間はリハビリ施設の方針や重症度によってもさまざまです。
そのためスポーツ復帰までの期間を明言することはできません。
しかし一例として紹介すると、ある報告ではコルセットを使用して一定期間休養した後、下半身のストレッチや体幹の筋力トレーニングを行うことで、約3か月でスポーツに復帰した報告や6か月後には試合に復帰した報告などもあります。4)
いずれにせよ腰椎分離症が疑われる場合は、専門の医療機関で詳細な検査を行い医師の指示のもと適切なリハビリを行う必要があります。
腰椎分離症でやってはいけない3つのこと
さてここまでは、腰椎分離症に対する予防方法などをお伝えしてきましたが、さらに受傷後に気をつけるべき3つのポイントも解説していきましょう。
痛みを我慢し無理な運動をする4)
腰椎分離症は一定期間の活動制限が必要であると報告されています。
それは安静が必要な時期に無理な運動をおこなうと、骨折している部分に負荷がかかるためです。
骨折部位に負荷がかかると、分離の悪化や骨折の治りを妨げたりする可能性があります。
とくに腰を伸ばしたりひねったりする動作は禁物です。
またスポーツを行っている方は競技復帰への気持ちが強く、焦ることもあるでしょう。
しかし「急がば回れ」という言葉もあるようにまずは安静に努め、より確実に治していきましょう。
コルセットの装着期間を守らない
腰椎分離症は初期の治療として、骨折部への負担がかからないようコルセットの装着を行います。
これにより腰の動きを制限し、症状の悪化を回避するのです。
しかし痛みが軽くなれば、コルセットは動きにくいと感じるかもしれません。
ですが骨折の治りよりも先に痛みが軽くなるため、完全に治っているわけではないのです。
そこで自己判断でコルセットの使用を中止したりせず、必ず医師の判断に従いましょう。
痛みを引き起こすストレッチ・筋トレ
腰椎分離症は発症したことに気が付かないケースも多いです。
そのため、ただの腰痛と判断し、痛い部分のマッサージや腰を捻るようなストレッチを行ってしまう場合もあります。
また骨折を悪化させてしまう恐れもあるため、自己判断で痛い部分のマッサージやストレッチは行わないようにしましょう。
ただし筋肉の柔軟性低下は腰椎分離症だけでなく、さまざまな成長期特有の怪我の要因になるのです。
適切な指導のもとで、下半身や骨折部以外のストレッチを行うことは重要です。
まとめ
今回は若年者に多くみられる、腰椎分離症について解説していきました。
腰椎分離症はスポーツなどで腰に負担がかかることで発症するため、日々のケアによってリスクを減らすことができます。
そこで適切なストレッチ・リハビリ方法を理解し、正しく予防していきましょう。
それでは当記事が、あなたの痛み解消のお役にたてれば幸いです。
参考文献
1)Gagnet P, Kern K, Andrews K, Elgafy H, Ebraheim N. Spondylolysis and spondylolisthesis: A review of the literature. J Orthop. 2018 Mar 17;15(2):404-407. doi: 10.1016/j.jor.2018.03.008. PMID: 29881164; PMCID: PMC5990218.
2)平野 明・竹林 隆・吉本 正・井田 幸・山下 隆・中野 和也 (2012). スポーツ活動に関連する思春期の腰椎分離症における臨床および画像所見の特徴。ジャーナル・オブ・スパイン、2012年、1-3。
3)Wynne-Davies R, Scott JH. Inheritance and spondylolisthesis: a radiographic family survey. J Bone Joint Surg Br. 1979 Aug;61-B(3):301-5. doi: 10.1302/0301-620X.61B3.383720. PMID: 383720
4)-石谷 勇人- 腰椎分離症を呈する成長期スポーツ選手の競技復帰状況 Jpn J Rehabil Med Vol. 58 No. 1 2021:81-85