脚にかけての痛みやしびれが現れる病気の1つが「腰椎椎間板(ようついついかんばん)ヘルニア」です。
腰椎椎間板ヘルニアと診断を受けたあと、家や職場でどのように過ごしたら良いのかわからないこともありますよね。
痛みやしびれが重く日常生活に支障をきたす方もいれば、症状が軽く経過観察と言われる方もいますが、症状レベルに関わらず、悪化を避けるために「避けるべき行動」がいくつか存在します。
そこで当記事では、痛みやしびれの悩みを早期に解決できるよう、腰椎椎間板ヘルニアの方がやってはいけないことを5つ紹介していきます。
最後まで読んでいただければ、やってはいけないことだけでなく、痛みやしびれの改善に効果的なストレッチも学べます。
「ヘルニアって何に気をつければいいの?」「動くと痛みやしびれが悪化しそうで怖い」という方はぜひ参考にしてみてください。
腰椎椎間板ヘルニアとはどのような病気か?
では、腰椎椎間板ヘルニアの対処法をより理解するため、まずは基本的な知識を深めていきましょう。
人間の背骨は椎骨(ついこつ)と呼ばれる骨が積み重なってできています。以下の図にあるように、椎骨と椎骨の間には、水分を多く含んだゼリー状の骸核(ずいかく)と、それを取り囲む線維輪(せんいりん)と呼ばれる軟骨組織でできた椎間板(ついかんばん)があります。
椎間板の役割は立つ・座るなど生活動作の中で、さまざまな姿勢に応じて椎体に加わる圧力を分散させ、衝撃を和らげることです。したがって椎間板には常に負荷がかかっており、負担が大きくなりすぎると損傷してしまうことがあります。
結果、損傷により椎間板(髄核)が飛び出し神経を圧迫することで、痛みやしびれなどの症状が現れるのです。これが「ヘルニア」という病気で、腰の高さで起こるケースが腰椎椎間板ヘルニアに該当します。
参考文献:腰椎椎間板ヘルニアとは?痛みを和らげる方法をわかりやすく解説!
腰椎椎間板ヘルニアの原因や症状について知ろう
では、腰椎椎間板ヘルニアはどのようなことが原因で起きてしまうのか、引き起こされる症状と合わせて解説します。
多くの腰椎椎間板ヘルニアでは「加齢による椎間板の変形」や、重いものを持つ・悪い姿勢で過ごすなど「椎間板への負担」が原因です。
具体的には以下のような方が発症しやすい傾向にあります。
- 長時間のデスクワークをされている方
- 頻繁に重い荷物を持つ、運ぶことがある方
- 中腰で作業することが多い方
腰椎椎間板ヘルニアで現れる症状は、「腰からお尻、足にかけての痛み・しびれ」「力の入りにくさ」で、悪化すると「排尿障害」が現れるケースも。
ではなぜ腰の神経が圧迫されているのにも関わらず、お尻や足に痛みが生じるのでしょうか?
腰の神経は下半身にもつながっており、神経が圧迫されることで下半身にも影響が出てしまいます。結果、痛みやしびれなどの症状が出現してしまうのです。
【禁忌】腰椎椎間板ヘルニアでやってはいけないこと5つ
腰椎椎間板ヘルニアについて知識を深めたところで、ここから腰椎椎間板ヘルニアの方がやってはいけないことを5つ解説していきます。
症状緩和や再発防止のために、自身に当てはまる項目があれば改善していきましょう。
長時間のデスクワーク
腰椎椎間板ヘルニアは、背中を丸めた姿勢で痛みが出ることも多いです。
とくに、デスクワークは猫背の姿勢(背中が丸まった姿勢)になりやすく、腰への負担が増えます。実は、真っすぐ立っているときと比べて、背中を丸めた姿勢で座っている状態は腰への負担が約2倍大きくなります。
ですので、デスクワークの機会が多い方は以下の項目に注意しましょう。
- パソコン作業をするときは、モニターを目線の高さまで上げる
- モニターに近づきすぎないよう、適切な間隔を保つ
- 肘、膝は90°に保ち、足全体を床につける
参考記事:猫背を治す方法とは?姿勢改善にオススメのストレッチ・筋トレを詳しく紹介!
重たいもの持つ
重たいものを持つと腰へ負担がかかります。加えて、背中を丸く曲げた姿勢で重たいものをもつと、腰への負荷はより大きくなります。2)
また、育児中の方も注意が必要です。たとえば、赤ちゃんを抱っこするときに片方の腰に乗せたり、低い位置で抱っこしたりしていませんか?
片方の腰や低い位置で抱っこすることは、体の中心で抱っこするよりも椎間板への負担が大きくなります。
日常的に重たいものを持つ機会のある方は以下に注意しましょう。
- 重いものを持ち上げるときは、背中を丸めず膝もしっかりと曲げる
- なるべく体に近い位置で物を持つ
- 赤ちゃんを抱っこするときは、抱っこ紐を使用する
腰に負担がかかる運動(スポーツ)
スポーツを行う上で、腰を曲げたりひねったりする動きは非常に大切です。ですが、頻繁に腰を曲げる・ひねることで椎間板への負荷が大きくなります。
したがって、腰椎椎間板ヘルニアの方がスポーツを行うと、痛みやしびれが悪化する可能性もあるのです。
たとえば、以下のような腰を使う・衝撃が強いスポーツは控えましょう。
- 腰を激しく使うダンス
- 野球やゴルフなど腰をひねるスポーツ
- アメリカンフットボールなどの激しいスポーツ
- ウェイトリフティングなどの重たい物を持つスポーツ
痛みがある部分のマッサージ
腰や背中、足などに痛みがあると家族にマッサージをしてもらったり、マッサージを受けに行ったりする方もいるのではないでしょうか?
しかし、腰椎椎間板ヘルニアでの痛みやしびれの原因は筋肉のコリではなく、神経の圧迫です。
専門知識のないセラピストによるマッサージ(揉みほぐし等)やカイロプラクティック(背骨や骨盤を調整し体のゆがみを治す手法)は、痛みやしびれを悪化させる恐れがあります。
ですので、腰椎椎間板ヘルニアによる痛みやしびれを改善するには、専門家の指示のもと適切な運動やストレッチを行いましょう。
参考記事:【見極め】カイロプラクティックと整体の違いとは?施術の意味や選び方をわかりやすく解説
参考記事:整骨院(接骨院)とマッサージ店は何が違う?施術目的や保険適用の違いを詳しく比較
喫煙
最後にやってはいけないことは、喫煙です。喫煙は肺への影響が大きいとされていますが、実は腰椎椎間板ヘルニアとも大きく関わっているのです。1)
理由としては、ニコチンが椎間板周囲の細かい血管を収縮させるからです。血管が収縮することで、血液の流れが悪くなり椎間板に必要な栄養がうまく運ばれなくなります。
さらに、喫煙をすることで、ビタミンCという栄養素が吸収されにくくなります。ビタミンCは椎間板のコラーゲンという物質を作るのに必要です。コラーゲンは、椎間板の主成分の一つであり、椎間板の強さや柔軟性を保つ役割があります。
喫煙によってビタミンCの不足が生じると、椎間板は変形しやすくなるのです。
再発のリスクを減らすためにも禁煙することが大切です。
腰椎椎間板ヘルニアは安静にした方が良い?
では、腰椎椎間板ヘルニアと診断された場合、安静にしていたほうが良いのでしょうか?
腰椎椎間板ヘルニアと診断された場合、安静にしているよりも早期に活動を再開した方がその後の回復は良好とされています。3)
したがって、適度な運動は腰椎椎間板ヘルニアの方にとって大切なのです。
ただし、痛みやしびれなど症状の度合いによって異なるため、すべての方に当てはまるわけではありません。自己判断で活動を再開するのではなく、必ず専門医の指示を受けましょう。
【簡単】腰椎椎間板ヘルニアの予防・再発防止に効果的なストレッチを紹介!
腰椎椎間板ヘルニアは数か月で自然に回復していくことが多い一方、再発する可能性もあります。
ある研究では、動きに制限が出るほどの腰痛を経験した人のほとんどは、その後も再発を繰り返すとされており、1年後の再発率は24%〜80%とも言われています。4)
再発を予防するためにも、日頃から体のメンテナンスを行うことは大切です。
それでは、自宅でも簡単にできるストレッチを紹介します。
背骨の柔らかくする体幹前面ストレッチ
まず初めに解説するのは、「腹直筋(ふくちょくきん)」の緊張を和らげるストレッチです。
一般的に、腹直筋は「腹筋」と呼ばれ、体を曲げる・体幹を安定させる働きがあります。また柔軟性を保つことで、体を反らせる動きが円滑に行えます。
しかし、腹直筋が硬くなると体を反らせず、前かがみの姿勢になりやすくなるのです。
以上の理由から、背骨を柔らかくするには、背中の筋肉だけでなく腹直筋のストレッチも有効なのです。
前かがみの姿勢を改善し椎間板の負担を減らすため、腹直筋の緊張を和らげましょう。
STEP1:手をついてうつ伏せになりましょう
STEP2:肘を伸ばして体を後方へ反らせましょう
STEP3:元の姿勢に戻りましょう
STEP4:腹筋の伸びを感じましょう
※痛みに注意して行いましょう
骨盤の動きを良くするハムストリングスストレッチ
「ハムストリングス」はもも裏にある筋肉で、膝を曲げ伸ばしする働きがあります。
そのほか、骨盤の動きにも関わっているため、ハムストリングスが硬くなると骨盤の動きも悪くなります。さらには骨盤の動きが悪くなることで、痛みやしびれが悪化する可能性も。
では、なぜ骨盤の動きが悪くなると痛みやしびれが悪化するのでしょうか。理由は、骨盤の上に腰椎があり、骨盤の動きと連動して腰椎が動くためです。
たとえば、背筋を真っすぐにしようとすると、骨盤も真っすぐ立ち上がるように動きます。
ですが、ハムストリングスが硬くなると骨盤は後ろへ倒され、骨盤の動きと連動している腰椎も後ろに丸くなるように動くのです。その結果、腰が曲がり前かがみの姿勢となりやすくなるため、椎間板への負担が大きくなります。
ハムストリングスの柔軟性を保ち、椎間板の負担を減らしましょう。
STEP1:仰向けで片足を抱えます
STEP2:可能な限り膝を伸ばします
STEP3:もも裏の筋肉が伸びるのを感じながら実施しましょう
STEP4:元の姿勢に戻り繰り返し実施しましょう
※太ももがお腹から離れないように実施しましょう
体幹の安定性を高める下肢伸展挙上(四つ這い姿勢)
最後に、体幹の安定性を高めるための運動を解説します。
体幹部の安定性に関係する筋肉の1つが、「腹横筋(ふくおうきん)」です。腹横筋は身体の深層に付く「インナーマッスル」に該当し、鍛えることで椎間板への負担を減らせます。
そこで、おすすめの運動が「下肢伸展挙上」です。ぜひ実践してみてください。
STEP1:四つ這いとなりましょう
STEP2:片足をまっすぐ後方へ伸ばしましょう
STEP3:元の姿勢にもどります
STEP4:体がふらつかないように注意しましょう
※腰を反らないように注意しましょう
腰椎椎間板ヘルニアはどのくらいでよくなる?早く治す方法はあるのか?
最後に、腰椎椎間板ヘルニアがどのくらいで良くなるのか、早く治す方法があるのかを解説していきます。
まず、腰椎椎間板ヘルニアはほとんどの場合、数か月程で飛び出た椎間板が消滅します。1)そして椎間板の消失と同時に、痛みやしびれなどの症状がなくなることもあります。
しかし、神経が圧迫される期間が長いと、痛みやしびれ、さらには足の筋力低下や日常に支障をきたす症状などが残ることもあります。悪化が進むと手術が適応となるケースもあるのです。
次に、腰痛椎間板ヘルニアを早く治すには、日頃のケアと早期の活動再開が大切です。2)痛みやしびれに注意しつつ、ストレッチや普段通りの生活を送るように心がけましょう。
まとめ
今回は腰椎椎間板ヘルニアの方がやってはいけない5つのことを解説しました。
最後に当記事をまとめると、
- 腰椎椎間板ヘルニアは、神経の圧迫によって痛みやしびれが出ている
- 原因は椎間板への負荷や変形によるもの
- 前かがみの姿勢、重いものをもつ、椎間板への負担が大きい運動、マッサージ、喫煙はやってはいけない
- 腰椎椎間板ヘルニアを早く治すためにも、安静期間は短く普段通りの生活を送ることが大切
となります。
腰椎椎間板ヘルニアは再発する可能性もあるため、日頃からストレッチや負担の少ない運動で背中や腰回りの筋肉を鍛えておきましょう。
それでは、当記事があなたの痛み、しびれ軽減のお役に立てれば幸いです。
参考文献
1)腰椎椎間板ヘルニアガイドライン2021
2)伊藤俊一. “腰椎椎間板ヘルニア 理学療法診療ガイドライン.” 理学療法学 42.6 (2015): 530-535.APA
3)Wilke HJ, Neef P, Caimi M, Hoogland T, Claes LE. New in vivo measurements of pressures in the intervertebral disc in daily life. Spine (Phila Pa 1976). 1999 Apr 15;24(8):755-62. doi: 10.1097/00007632-199904150-00005. PMID: 10222525.
4)Huy, Damian, et al. “Epidemiology of back pain.” Best practices and research. Clinical Rheumatology 24.6 (2010): 769-781.