お尻の左右の膨らみの間にある「しっぽ」のような骨が尾てい骨です。かつて、人間にしっぽが生えていた痕とも言われています。
そして、この尾てい骨には負担がかかりやすく、痛くなるケースがあります。とくに長時間イスに座っている方や、自転車に乗る方は注意が必要です。
また骨折したり、重篤な病気が現れたり、痒(かゆ)みを感じたりすることも。自分自身の尾てい骨を目にする機会がほとんどないからこそ、気をつけるべきでしょう。
当記事では、尾てい骨の構造から、痛みや不調の原因と効果的なセルフケア方法を解説します。
最後まで目を通すことで、尾てい骨が痛くなった際に適切な対処ができます。ぜひ参考にしてください。
尾てい骨とは?どこにあるの?
最初に、尾てい骨について解説します。
尾てい骨とは、骨盤の背中側に位置する「仙骨(せんこつ)」の下に付く、小さく尖った骨です。仙骨と尾てい骨がつながる部位には「仙尾関節(せんびかんせつ)」と名称が付いていますが、実際はほとんど動きません。
したがって、首・背中・腰・骨盤とつながる脊椎(背骨)の最も下側に位置するのが尾てい骨になります。
ただし座った際、最初に床に付くのは尾骨ではなく「坐骨(ざこつ)」です。尾骨と坐骨は混同しがちなので、念のため認識しておいてください。
なお、尾てい骨は「尾骶骨」と漢字表記されます。そして、尾てい骨の正式名称は「尾骨」です。そのうえで、本記事では尾てい骨と表記します。
尾てい骨に付く筋肉
補足として、尾てい骨に付く筋肉を把握しておきましょう。
尾てい骨に付く筋肉は、「大殿筋(だいでんきん)」と「骨盤底筋(こつばんていきん)」の2つです。
大殿筋は、尾てい骨を含む骨盤後面から大腿骨の外側にかけて付き、股関節の動きに作用します。
骨盤底筋は、骨盤の底に付く筋肉で、内臓を支えたり、排尿作用などをコントロールしたりするはたらきがあります。
【立ち上がる時・座る時】尾てい骨が痛くなる原因とは?
そんな尾てい骨が、なぜか痛くなる場合があります。
一般的に、立った姿勢で尾てい骨が痛むケースは少なく、イスに座っている時やイスから立ち上がる時に痛みを感じやすいです。
では以下より、尾てい骨が痛くなる原因を解説します。ご自身の状態と比較しつつ、当てはまっているかを確認しながらご覧ください。
参考記事:座ると尾てい骨が痛いのはなぜ?痛みの原因・ストレッチなど実践しやすい治し方を解説
お尻をぶつけた・転んだ(打撲・骨折)
まず考えられるのが、「お尻を強く打った」ことで痛みが現れているケースです。具体的には「転倒」が考えられます。
例えば「浴室で転んだ際にお尻を床に強打した」「イスに座り損ねてお尻を床に打った」など、こういった経験はありませんか?
あるいはスノーボードを行った際に、大きく転んだりしていないでしょうか?
軽い打撲などで済めばまだ良いですが、打ち方によっては、尾てい骨にヒビが入っていたり折れていたり、「骨折」している可能性もあります。
なお、骨折した際は「押すと飛び上がるほど痛い」「離れた部位を叩くと折れた部位が響く」などの症状が現れるのである程度目安になります。とはいえ、骨折と打撲の違いを正確に見分けるのは困難なので、早めに病院を受診するべきです。
尾てい骨周辺に「しびれ」などの後遺症が残ってしまう可能性もあるので、放置することは避けてください。
参考記事:骨折を早く治す方法とは?骨折が治るしくみや治癒に必要な期間について解説
参考記事:打撲ができたら病院に行くべき?骨折かもしれない危険な症状と対処法を紹介
お尻への負荷の蓄積
普段の生活習慣により、お尻への負荷が蓄積することで尾てい骨が痛むケースもあります。
なかでも要注意なのが「悪い姿勢で座る」ことです。先ほどお話ししたように、基本的に座面に当たる骨は「坐骨」ですが、姿勢が崩れると尾てい骨が座面に当たってしまいます。
例えば、イスの背もたれに寄り掛かるように浅く座ることで、尾てい骨が座面に当たってしまうでしょう。また、背中が丸まり「猫背」になると、骨盤が後ろに傾いてしまい尾てい骨が座面に当たります。
短時間ならまだしも、長時間にわたって崩れた姿勢で座れば、尾てい骨に体重が乗るので、負荷が増えることは想像に難くありません。十分注意が必要です。
ほかには、腰が反りすぎた「反り腰」が癖になっていると、就寝時に仰向けで寝た際、尾てい骨が布団に当たることがあります。毎晩、数時間にわたって尾てい骨が布団にあたれば、負荷が蓄積して痛みだしてしまうでしょう。
くわえて、自転車の運転もお尻に衝撃が伝わりやすく、尾てい骨を痛める原因になり得ます。毎日長距離を自転車で移動する方は、注意が必要です。
参考記事:猫背を治す方法とは?姿勢改善にオススメのストレッチ・筋トレを詳しく紹介!
参考記事:反り腰を改善!原因から治し方を簡単なストレッチをまじえ解説
妊娠による身体の変化
女性特有の尾てい骨の痛みも存在します。
妊娠中、「リラキシン」という女性ホルモンの分泌によって妊婦の骨盤の関節や靭帯(じんたい)が緩みやすくなります。これは出産に備えるためです。
そして骨盤の関節や靭帯が緩み、尾てい骨に負荷がかかることで、痛みが現れるケースがあります。なお、リラキシンは出産後に分泌が減りますが、数カ月は作用が続きます。
もし、妊娠中や出産後に「尾てい骨の上が痛い」と感じる場合は、女性ホルモンの作用によるものかもしれないと考えましょう。
重篤な病気
なかには、重篤な病気によって尾てい骨に痛みが現れる場合もあります。
尾てい骨に現れる病気の例は以下の通りです。
・子宮内膜症(しきゅうないまくしょう)
・馬尾腫瘍(ばびしゅよう)
・仙骨脊索腫(せんこつせきさくしゅ)
・毛巣瘻(もうそうろう)
上記の中には、発症する確率が低い病気も含まれますが、油断は禁物です。
したがって、尾てい骨の痛み以外に「排便時の痛み」「夜間の痛み」「足のしびれ」などが見られた場合は、すぐに病院を受診してください。
「皮膚がかゆい」などの症状が現れる病気もある
「尾てい骨の横がかゆい」など、皮膚に関する病気が発生する可能性もあります。
例えば発汗、あるいは便座の温水洗浄の使いすぎがきっかけで発症する「肛門周囲皮膚炎」や、高齢者に現れることがある「臀部角化性苔癬化皮膚(でんぶかっかせいたいせんかひふ)」などです。
少しの間だけ尾てい骨がかゆいだけなら問題はないでしょうが、かゆみが続くようなら注意が必要です。
痛みや不快感を放置しないで!早めに病院を受診しよう
ここまで見てきたように、尾てい骨が痛む原因はさまざまです。そして、ご自身で原因を判断するのが難しいケースがほとんどだといえます。
そこで、早めに病院を受診するのが大切です。医療機関での検査でしか正確な原因はわかりません。決して、尾てい骨の痛みや違和感を放置しないようにしましょう。
なお、尾てい骨の部位からして、何科に受診すればよいか迷ってしまう場合もあります。目安として、痛みであれば「整形外科」を、かゆみであれば「皮膚科」や「肛門科」を受診してみてください。
尾てい骨の痛み緩和に効くセルフケア
ここから、尾てい骨の痛み緩和に効果的なセルフケアを紹介します。
なかには準備が必要な方法や、ある程度の努力が必要な方法があります。しかし、継続すれば徐々に効果が現れ、尾てい骨の痛みを改善できるでしょう。
ぜひ取り入れてみてください。
尾てい骨への負荷・衝撃を減らす
まず考えるべきは、「いかに尾てい骨への負荷や衝撃を減らすか」です。尾てい骨にかかる体重を減らしつつ、尾てい骨を床や座面につけないように工夫するのが効果的だといえます。
以下より、日常生活で実践可能な方法をいくつか見ていきましょう。
良い姿勢を心がける
まず悪い姿勢を矯正し、良い姿勢を心がけるのが大切です。
「猫背」や「反り腰」を改善することで、座った姿勢で尾てい骨が座面に当たらなくなったり、仰向けで寝た際に床や布団に尾てい骨が当たらなくなったりします。
すると、尾てい骨への衝撃や負荷を減らすことにつながります。
なお、良い姿勢とは、背骨が正しく湾曲している状態です。過度に胸を張ったような、いわゆる「気をつけ」のポーズではありません。
そして、良い姿勢には頭の位置が大切になります。
胸を適度に張りながら、頭を意識的に後ろ(後頭部側)に引くように意識しましょう。耳と肩が縦にまっすぐ揃っているかを目安にしてみてください。
姿勢をチェックするために、周りの方に写真を撮ってもらったり、姿勢矯正用アプリを用いるのも良いかもしれません。
とくに長時間デスクワークを行っている際に、姿勢が崩れがちです。慣れるまで時間を要しますが、そのうち自然と良い姿勢をキープできるようになるでしょう。
参考記事:【簡単】姿勢を良くする方法4選!猫背や反り腰を改善して正しい姿勢を保つには
イスや自転車などの「座面」を柔らかくする
普段使用しているイスの座面や自転車のサドルを柔らかくできないか見直してみてください。お尻との接地部分が固いと、それだけ尾てい骨への負荷が大きくなってしまいます。
イスに座る際は、クッションを使用するのがおすすめです。尾てい骨が浮く形状のクッションも多数販売されています。
また、お尻が痛くなりにくい柔らかいサドルもいくつか販売されています。ご自身の自転車のタイプに合わせて選んでみるのも良いでしょう。
できる範囲でダイエットを行ってみる
不摂生などで体重が増えすぎると、尾てい骨にかかる負荷が大きくなります。体重増加が気になっている方は、できる範囲でダイエットに取り組んでみてはいかがでしょうか?
まずは「食べる量に注意する」「夜遅くに食事をしない」「適度な運動を行う」「代謝を良くするために水を多く飲む」など、できることから始めてみてください。
言うまでもないことですが、ダイエットを行うことで、尾てい骨の痛み以外のさまざまな不調が改善される可能性があります。したがってメリットは大きいので、ぜひ始めてみましょう。
尾てい骨周辺を冷やす・温める
症状にもよりますが、尾てい骨を冷やしたり温めたりする方法も効果的です。
痛い部分を冷やすことで炎症を抑える効果があります。そして痛む部位を温めることで、血流を良くする効果が期待できます。
おおまかな目安として、骨折や打撲を負った直後は入念に冷やすことが大事です。氷を入れた氷嚢を尾てい骨に当てて冷却を行ってみてください。
痛みが出てからある程度時間が経過している場合は、温水シャワーやホットパックで尾てい骨を温めましょう。
ストレッチでお尻周りの筋肉を伸ばす
尾てい骨周りに付く筋肉のストレッチを行うのも効果的です。ストレッチには「血流改善」「リラックス」といった効果が期待できます。
ただし、痛みの原因によっては効果が現れない場合もあります。また、もし痛みが悪化したら、すぐにストレッチを中断してください。
では、おすすめのストレッチを紹介します。
「梨状筋ストレッチ」です。
STEP2:骨盤を前方に倒し姿勢を保持しましょう
STEP3:元の姿勢に戻ります
STEP4:繰り返し実施しましょう
※腰が丸まらないように注意してみてください
こちらのストレッチを行うことで、股関節を外側に回す「梨状筋(りじょうきん)」が柔らかくなります。
ストレッチを行う際は、「呼吸を止めない」「力まない」ことを心がけましょう。
尾てい骨の痛みはどのくらいの期間で改善する?
尾てい骨の痛みが改善するまでの期間は、原因によります。また個人の体質や生活の環境にも左右されるので、一概にはいえません。
尾てい骨への負担が原因で現れている痛みであれば、1週間ほどで改善するケースもあります。
ただし、尾てい骨の骨折や妊娠・出産が原因で現れる痛みは、改善までに3か月以上要する場合があるとお考えください。そして重篤な病気であれば、さらに期間を要する場合もあり得ます。
詳しくは、病院でお医者さんに質問してみるのが確実です。
とはいえ、セルフケアを行うことで改善までの期間を短くすることは可能なので、ぜひ続けていきましょう。
まとめ
おそらく普段は、尾てい骨を意識することは少ないでしょう。
しかしながら、尾てい骨が痛くなったりかゆくなったりすれば、座る・立ち上がるなどの動作がしにくくなるので、日常生活への影響は避けられません。
繰り返しになりますが、尾てい骨に違和感を覚えたら、そのまま放置せず病院を受診しましょう。そのうえで、尾てい骨への負荷や衝撃を減らすためにセルフケアを実施してみてください。
それでは当記事が、あなたが抱えるお悩み解決につながれば幸いです。
【参考文献】
1)平元奈津子:成人期にみられる男女の身体変化と症状*─妊娠,出産と男女の更年期─2)公益社団法人 日本整形外科学会:「脊髄腫瘍」
3)平松 隆, 白石 公祐, 小野 哲生:Pilonidal cyst の2例