日常生活の中で、ふとした瞬間に腕がズキズキと痛むことはありませんか?
その痛みが断続的に続く場合、単なる疲労や筋肉痛ではなく「神経痛」の可能性も考えられます。
特に首や肩、肘などの神経や関節のトラブル、さらにはストレスや自律神経の乱れが原因となることもあります。
本記事では、腕のズキズキする痛みの主な原因とそれに関わる神経系の仕組みを専門的視点から解説。症状の見極め方や、今すぐできるセルフケア方法もご紹介します。痛みの正体を知り、早めの対処に役立ててください。
腕がズキズキ痛むのはなぜ?考えられる主な原因
腕がズキズキ痛む原因は、神経の圧迫や関節・筋肉のトラブル、さらにはストレスによるものまで多岐にわたります。ここでは主な原因をわかりやすく解説します。
首や肩の神経圧迫による神経痛
腕の痛みで最も多い原因のひとつが「神経圧迫」です。特に頸椎(首の骨)や肩の周囲で神経が圧迫されると、その神経がつながっている腕に痛みやしびれが生じます。
頸椎症性神経根症の可能性
中高年層に多く見られる「頸椎症性神経根症」は、加齢に伴う椎間板の変性や骨の変形が原因で、神経が圧迫される病態です。
症状としては、片側の首から肩、腕にかけての痛みやしびれ、力が入りにくいといったものが挙げられます。痛みはズキズキと周期的で、じっとしていても痛むことがあります。
胸郭出口症候群との関連
若年層や女性に多くみられる「胸郭出口症候群」も要注意です。これは首と肩の境目にある神経や血管の通り道が、筋肉や肋骨により圧迫されることで発症します。
パソコン作業やスマートフォンの使用が多い現代人に増えているとされ、腕のズキズキした痛みに加えて、手のしびれや握力低下が伴うことも。
参考記事:左首から肩にかけての痛みの原因は?何科を受診?対処法と3つのおすすめストレッチを解説!
手や肘の使いすぎ・関節のトラブル
腕を酷使するような作業をしている方に多いのが「過使用障害」です。テニス肘(外側上顆炎)や腱鞘炎、関節リウマチの初期症状などがこれに該当します。
肘から下のズキズキ痛は腱や関節のサインかも
肘や手首の関節周囲にある腱や靭帯が炎症を起こすと、ズキズキとした痛みが継続します。特に利き手に負担がかかりやすく、日常の動作(パソコン操作や家事)で悪化する傾向があります。
安静にしていても痛みが取れない場合は、関節や腱の損傷が進行している可能性があります。
参考記事:【理学療法士監修】テニス肘を自分で治す方法|ストレッチと予防法を徹底解説
筋肉疲労による痛み
スポーツや重量物の持ち運びをした後に、筋肉の緊張が強くなると「遅発性筋肉痛」や筋膜の過緊張による痛みが出ることがあります。
これもズキズキした痛みの原因となることがありますが、適切な休息やストレッチにより数日で軽快するのが特徴です。
参考記事:筋肉痛を早く治すには?効果的なストレッチ・マッサージ方法を徹底解説
ストレスや自律神経の乱れによる影響
意外と見落とされがちなのが、心身のストレスが影響するケースです。ストレスや睡眠不足が続くと自律神経のバランスが乱れ、神経の過敏性が高まり、ズキズキするような痛みを引き起こすことがあります。
ストレスが引き起こす“神経の興奮”
不安や緊張が長く続くと、交感神経が優位な状態になり、筋肉のこわばりや血行不良が生じます。これにより神経が刺激され、実際には損傷がないにもかかわらず、強い痛みを感じることがあるのです。
このような状態は「心因性疼痛」や「慢性疼痛症候群」とも呼ばれ、心理的アプローチも必要になります。
睡眠と自律神経の密接な関係
十分な睡眠がとれないと、副交感神経の働きが弱まり、回復モードに切り替わらなくなります。その結果、身体全体が常に緊張した状態になり、痛みが慢性化していくリスクが高まります。
神経痛の見分け方と代表的な症状
ズキズキ、ビリビリ、ピリピリ——そんな表現がぴったりな痛みは、もしかすると神経痛かもしれません。他の痛みとどう違うのか、判断に迷う方も多いでしょう。ここでは神経痛特有の症状や、筋肉痛や打撲との違いについて詳しく解説します。
神経痛の典型的な感覚とは?
神経痛の特徴は「鋭く」「突発的」「電気が走るような」感覚です。日常生活の中で何気ない動作をした瞬間に、チクッとした痛みが腕を走った経験がある方は、神経痛の可能性が高いかもしれません。
とくに「ピリピリ」「ビリビリ」とした表現を用いる人が多く、感覚異常やしびれを伴うことがよくあります。これは神経が何らかの理由で刺激されたり、圧迫されたりして興奮状態にあることが原因です。
また、持続的ではなく「断続的に痛む」というのも神経痛の特徴です。ズキズキと痛む時間があるかと思えば、突然痛みが消えることもあります。このように痛みの強弱が大きいことが、筋肉痛や炎症とは異なる点です。
神経障害性疼痛との違い
似たような痛みに「神経障害性疼痛(neuropathic pain)」がありますが、これは糖尿病や帯状疱疹の後遺症、脊髄損傷など、神経そのものが損傷して起こるもので、神経痛よりも複雑です。
一方、神経痛は神経が一時的に圧迫されたり、刺激されたことで起きる一過性のものが多く、適切な治療やセルフケアで改善が見込めます。
神経の走行と痛みの場所を照らし合わせる
どの神経が関与しているかを見極めるには、痛みの場所も重要です。たとえば、首から肩、腕にかけての痛みであれば、頸椎から出る神経が原因の可能性が高くなります。
特定の指にしびれがある場合、それが「正中神経」「尺骨神経」「橈骨神経」のどれに該当するかによって、問題のある部位をある程度特定できます。こうした神経の分布と症状を結びつけることは、早期診断と的確な治療に役立ちます。
神経痛と間違えやすいその他の症状
一見すると神経痛に見えて、実は別の原因による痛みだったというケースも少なくありません。代表的なのが「筋肉痛」や「打撲」などの筋肉由来の痛みです。
筋肉痛や炎症との違い
筋肉痛は、動かしたときや力を入れたときに痛むのが特徴です。とくに運動後や、慣れない動作をした翌日に強くなる傾向があります。ズキズキというより「鈍く重い」感じや「張っている」感覚が主体です。
一方、神経痛は安静時にも突然痛みが走ることがあり、筋肉を動かしていなくても症状が出るのが特徴です。この違いが、両者を見分けるポイントになります。
誤診を防ぐためには
誤診を防ぐには、「いつから痛むのか」「どのような痛みか」「どこに痛みがあるか」「動かすとどうなるか」といった情報を正確に記録しておくことが有効です。
特に神経痛の場合、しびれや冷感、熱感といった感覚の異常も併せてメモしておくと診察時に非常に役立ちます。
何科に行くべき?腕がズキズキ痛むときの適切な受診先
腕のズキズキする痛みが続いたり、しびれを伴ったりする場合、まず気になるのが「何科にかかればいいのか?」という点です。
間違った診療科に行ってしまうと、適切な治療が遅れてしまうことも。本項では、症状別に受診すべき診療科の選び方や、受診のタイミングについて解説します。
神経痛が疑われる場合は「整形外科」が基本
腕のズキズキした痛みに加え、しびれや感覚の異常がある場合は、まず整形外科の受診が基本となります。
整形外科では、レントゲンやMRIなどの画像診断により、神経や骨、関節の状態を詳しく調べることができます。
痛みが慢性化しているなら「ペインクリニック」も選択肢に
数週間以上にわたり痛みが続いており、日常生活に支障をきたしている場合には、「ペインクリニック」の受診も検討しましょう。
ペインクリニックでは、痛みを専門に扱う医師が、薬物療法や神経ブロック注射など、より積極的な痛みの緩和策を提供してくれます。
ペインクリニックでできること
- 神経ブロックによる痛みのコントロール
- 慢性痛に対する鎮痛薬や抗うつ薬の処方
- ストレスや心理的要因への対応(心療内科との連携)
特に、整形外科での治療であまり改善が見られない場合には、セカンドオピニオン的な役割としてペインクリニックの活用が効果的です。
急を要する症状がある場合は速やかに受診を
以下のような症状が見られる場合は、自己判断せず、できるだけ早く医療機関を受診してください。
- 急に激しい痛みが出現した
- 痛みとともに発熱、腫れ、赤みがある
- 腕に力が入らず、物を落とすことが増えた
- 手指の動きに明らかな異常がある
これらの症状は、神経以外の疾患(感染症、腫瘍、血管トラブルなど)による可能性もあります。特に「がんの転移」や「内臓疾患による関連痛」といった重大な病気が隠れているケースもあるため、見逃しは禁物です。
自宅でできる!腕の神経痛を和らげるセルフケア・エクササイズ
腕のズキズキした痛みが神経痛によるものであっても、すぐに病院に行けない時や、日常的なケアとして取り入れたいのが「セルフケア」です。
ここでは、自宅で簡単に実践できるストレッチやエクササイズ、マッサージ法を専門的視点から紹介します。継続することで症状の緩和や予防にもつながります。
肩甲骨まわりをほぐす簡単ストレッチ
肩甲骨周辺の筋肉が硬くなると、神経の通り道が圧迫され、腕への神経伝達に支障が出ることがあります。以下のようなストレッチは、神経の圧迫を軽減し、痛みの緩和に効果的です。
胸張り運動
STEP1:背中を丸め手を前方に出しましょう。
STEP2:胸を張り肩甲骨を寄せるように、手を後ろに引きましょう。
STEP3:背中を丸め手を前方に出しましょう。
STEP4:胸を張り肩甲骨を寄せるように、手を後ろに引きましょう。
首・腕を支える筋肉を鍛えるトレーニング
筋力の低下は姿勢の崩れを引き起こし、神経への圧迫につながることがあります。体幹やインナーマッスルを鍛えることで、神経へのストレスを減らし、再発の予防にもつながります。
チンインエクササイズ
STEP1:うつ伏せの状態から肘を立て上半身を支えましょう。
STEP2:頷くように顎を軽くひきましょう。
STEP3:ゆっくりと戻します。繰り返し実施しましょう。
注意点:首を丸めないように注意しましょう。
これを1日3セット行うことで、首の深層筋が鍛えられ、頸椎の安定性が高まります。結果として神経への圧迫が軽減され、腕の痛みの改善につながります。
腹式呼吸
STEP1:仰向けとなった状態でお腹に触れ収縮を感じましょう。
STEP2:鼻から息を吸いお腹を膨らませましょう(3秒間)
STEP3:口から息を吐きお腹に力を入れましょう(6秒間)
注意点:腰が丸まらないように注意しましょう
腹横筋や多裂筋など、姿勢を安定させるインナーマッスルが強化され、首〜肩〜腕の負担が軽減されます。
まとめ
腕のズキズキした痛みは、神経痛をはじめとする様々な異常のサインかもしれません。
原因を明確にせず放置すると、症状が慢性化したり、生活の質が大きく下がる恐れも。正しい知識をもとに原因を見極め、セルフケアを取り入れつつ、必要に応じて早めに専門医を受診することが、回復への第一歩です。
日頃の姿勢やストレス対策も含めて、再発予防まで視野に入れた対処を行いましょう。
【参考】
1)Freischlag J, Orion K. Understanding thoracic outlet syndrome. Scientifica (Cairo). 2014;2014:248163. doi: 10.1155/2014/248163. Epub 2014 Jul 20. PMID: 25140278; PMCID: PMC4129179.
2)Jones MR, Prabhakar A, Viswanath O, Urits I, Green JB, Kendrick JB, Brunk AJ, Eng MR, Orhurhu V, Cornett EM, Kaye AD. Thoracic Outlet Syndrome: A Comprehensive Review of Pathophysiology, Diagnosis, and Treatment. Pain Ther. 2019 Jun;8(1):5-18. doi: 10.1007/s40122-019-0124-2. Epub 2019 Apr 29. PMID: 31037504; PMCID: PMC6514035.
3)頚椎症性神経根症 日本整形外科学会