歩くときや立ち上がるときに、太ももの付け根にズキッとした痛みを感じた経験はありませんか?
この部位の痛みは、股関節や筋肉、神経、リンパなど多くの要因で起こります。中には放置すると重症化する病気が隠れていることもあり、早期の判断と対応が重要です。
本記事では、太ももの付け根が痛くなる主な原因と、自宅でできるセルフケア、病院に行くべき症状の見極め方についてわかりやすく解説します。痛みに悩んでいる方はぜひ、参考にしてみてください。
太ももの付け根が痛いときに考えられる主な原因
太ももの付け根の痛みは、股関節や周囲の筋肉、神経、リンパ節など、複数の部位の異常が関係している可能性があります。
原因を正しく見極めることで、適切な対処や再発予防につながります。ここでは、日常的によく見られる4つの主な原因を紹介します。
参考記事:足の付け根(股関節)の片方が痛い原因は?女性に多い疾患とセルフケア方法
股関節のトラブルによる痛み
股関節は体重を支える重要な関節で、歩行や階段の昇降など多くの動作に関わります。軟骨のすり減りや変形、炎症などが起こると、太ももの付け根やお尻周辺に痛みが現れます。特に「変形性股関節症」は中高年の女性に多く、進行すると動作制限が強くなり、日常生活に支障をきたします。
筋肉や腱の損傷・炎症
太ももや股関節周辺の筋肉・腱は、急な動きや無理な運動で損傷しやすい部位です。スポーツ時の肉離れや、長時間の同じ姿勢による過緊張が原因になることもあります。損傷や炎症がある場合は、押すと痛みが強くなったり、腫れや熱感を伴うことがあります。
神経の圧迫や炎症
腰から太ももにかけて走る神経が圧迫されたり炎症を起こすと、太ももの付け根に痛みやしびれが生じます。代表的な例が「坐骨神経痛」や「大腿神経痛」です。神経痛の場合は、鋭い痛みや電気が走るような感覚が特徴で、長引くと歩行にも影響します。
リンパの腫れや炎症による痛み
太ももの付け根には大きなリンパ節があり、感染症や炎症が起こると腫れて痛みを感じることがあります。特にリンパ節が炎症を起こすと、触れるだけで痛みが増すことが多く、場合によっては発熱を伴うこともあります。長引く場合は早めの医療機関受診が必要です。
放置すると危険な病気の可能性
太ももの付け根の痛みは軽度であれば自然に回復することもありますが、中には進行すると重大な障害をもたらす病気が隠れていることがあります。
特に以下の4つは放置せず、早期発見・早期治療が重要です。
変形性股関節症
股関節の軟骨がすり減り、関節の形が変形する病気です。初期は立ち上がりや歩き始めのときに痛みを感じ、進行すると安静時にも痛みが出ます。放置すると歩行が困難になり、手術が必要になるケースもあります。
参考記事:変形性股関節症でやってはいけないことは?生活での注意点やストレッチ方法も解説
慢性関節リウマチ
自己免疫の異常で関節に炎症が起こる病気です。股関節を含む複数の関節に痛みや腫れが出ることがあり、朝起きたときにこわばる症状が特徴です。放置すると関節が破壊され、日常生活に大きな支障をきたします。
大腿骨頭壊死症
大腿骨の先端部分(骨頭)に血液が行き渡らなくなり、骨組織が壊死する病気です。原因不明の場合もありますが、ステロイド薬の長期使用や大量飲酒がリスクになります。壊死が進行すると股関節の動きが制限され、人工関節置換手術が必要になることがあります。
鼠径ヘルニア
お腹の中の臓器や腸の一部が、足の付け根(鼠径部)から皮膚の下に飛び出す状態です。子どもから高齢者まで幅広く発症し、初期は膨らみや違和感だけですが、悪化すると激しい痛みや腸閉塞を起こす危険があります。
太ももの付け根の痛みに対する自宅ケア方法
軽度の痛みや一時的な違和感であれば、自宅でのセルフケアによって改善が期待できます。ただし、痛みが強い場合や長引く場合は無理をせず医療機関を受診してください。ここでは、痛みが軽いときに行えるストレッチや運動、筋力維持の方法を紹介します。
痛みが軽いときに行うストレッチ
股関節周囲の筋肉をやさしく伸ばすことで血流が改善し、痛みやこわばりの軽減につながります。反動をつけず、痛みを感じない範囲で行いましょう。
腸腰筋ストレッチ
STEP1:膝立ちの状態で片足を大きく前に出しましょう。
STEP2:踏み出した足に体重をのせ、後方の股関節の付け根を伸ばします。数秒間姿勢を保持しましょう。
STEP3:ゆっくりと元の姿勢に戻りましょう。
注意点:腰を反らないように注意しましょう。
股関節周囲の柔軟性を高める運動
お尻周りのストレッチや、内もものストレッチは股関節の可動域を広げるのに役立ちます。柔軟性が高まると動作時の負担が減り、痛みの予防にもつながります。
大殿筋ストレッチ
STEP1:片足を反対側の膝にのせ、両手でつかみましょう。
STEP2:抱えた膝を反対側の肩の方向へ寄せましょう。お尻の筋肉が伸びた状態を保持しましょう。
STEP3:ゆっくりと元の姿勢に戻りましょう。
注意点:背中が丸くならないように注意しましょう。
座位四股
STEP1:椅子に浅く腰掛け両足を大きく開きましょう。
STEP2:両膝をおさえて骨盤を前方に倒しましょう。
STEP3:ゆっくりと元の姿勢に戻りましょう。
注意点:腰が丸くならないように注意しましょう。
筋力を保つための簡単トレーニング
股関節や太もも周りの筋力低下は痛みを悪化させる原因になります。仰向けで膝を立て、ゆっくりとお尻を持ち上げる「ヒップリフト」や、片脚を伸ばして太ももに力を入れる「タオルつぶし運動」など、負担の少ない筋トレを日常に取り入れましょう。
ヒップリフト
STEP1:仰向けになり、両膝曲げましょう。
STEP2:ゆっくりとお尻を持ちあげましょう。
STEP3:お尻をゆっくり降ろし、元の姿勢に戻ります。繰り返し実施しましょう。
注意点:腰を反らないように注意しましょう。
タオルつぶし運動
STEP1:片脚を伸ばし、タオルを膝下に入れる
STEP2:タオルを床の方向に押しつぶす
STEP3:ゆっくりと力を抜く
注意点:背中が丸くならないように注意する
病院に行くべき症状の目安
太ももの付け根の痛みは、軽度なら自宅ケアで改善する場合もありますが、以下のような症状があるときは自己判断せず、できるだけ早く医療機関を受診してください。早期対応が後遺症の予防につながります。
痛みが数日以上続く場合
安静にしても痛みが改善せず、数日から1週間以上続く場合は、変形性股関節症や関節リウマチなどの慢性的な病気が進行している可能性があります。特に片方だけの痛みが長引く場合は注意が必要です。
急激に痛みが強くなった場合
歩行や立ち上がりが困難になるほど痛みが強くなった場合や、急にズキッと強い痛みが出た場合は、大腿骨頭壊死症や鼠径ヘルニアなど、緊急の治療が必要な病気の可能性があります。早急な受診をおすすめします。
まとめ
太ももの付け根の痛みは、股関節や筋肉、神経、リンパなどさまざまな原因で起こります。軽度の痛みであればストレッチや運動で改善することもありますが、痛みが長引く、急に悪化する、歩行に支障がある場合は放置せず病院を受診することが大切です。
早期に原因を特定し、適切な治療と予防策をとることで、健康的な日常生活を取り戻すことができます。本記事があなたの痛みの原因の軽減に、少しでもつながることを願っています。
【参考文献】
1)Hip osteoarthritis and risk factors in elderly Korean population1
2)Hernández-Molina G, Reichenbach S, Zhang B, Lavalley M, Felson DT. Effect of therapeutic exercise for hip osteoarthritis pain: results of a meta-analysis. Arthritis Rheum. 2008 Sep 15;59(9):1221-8. doi: 10.1002/art.24010. PMID: 18759315; PMCID: PMC2758534.
3)Crow JF, Pearce AJ, Veale JP, VanderWesthuizen D, Coburn PT, Pizzari T. Hip adductor muscle strength is reduced preceding and during the onset of groin pain in elite junior Australian football players. J Sci Med Sport. 2010 Mar;13(2):202-4. doi: 10.1016/j.jsams.2009.03.007. Epub 2009 Jul 9. PMID: 19546030.