肩から腕にかけて痛みを感じると、物を持ち上げる動作や着替えなど、普段は意識しない動作がつらくなるため、日常生活に支障が出て生活の質が下がってしまいます。
この痛みは単なる肩こりや疲れによるものだけでなく、五十肩(肩関節周囲炎)や頸椎症などの病気が隠れていることもあります。原因によって対処法や治療法が異なるため、正しい知識を持つことが重要です。
本記事では、肩から腕の痛みの主な原因と、病気の見分け方、自宅でできる改善方法を詳しく解説します。
肩から腕の痛みの主な原因
肩から腕に広がる痛みは、大きく分けて「筋肉疲労や肩こり」「関節や腱のトラブル」「神経の圧迫や炎症」の3つに分類されます。それぞれの特徴を知ることで、痛みの原因を推測しやすくなります。
筋肉疲労や肩こりによる痛み
デスクワークやスマホの長時間使用などで、同じ姿勢を続けることは肩や腕の筋肉に負担をかけます。この負担が積み重なると血流が悪くなり、筋肉がこわばって痛みや重だるさが生じます。特に肩甲骨周りの筋肉が硬くなると、首や腕にも影響が及びやすくなります。早めのストレッチや休憩で予防できますが、放置すると慢性化しやすい点に注意が必要です。
参考記事:肩こりがひどい原因とは?重症度チェックから解消法まで徹底解説!
関節や腱のトラブル
五十肩(肩関節周囲炎)、腱板損傷、石灰沈着性腱板炎などは、肩関節やその周囲の腱・靭帯に炎症や損傷が起こる病気です。これらは特定の動作で強い痛みを感じることが多く、夜間に痛みが悪化して眠れなくなる場合もあります。炎症が進むと関節の動きが制限され、腕が上がらない、後ろに回せないといった症状が出るため、早期の治療が大切です。
参考記事:五十肩(肩関節周囲炎)を早く治す方法とは?痛みの改善に効果のあるストレッチや体操を紹介
神経の圧迫や炎症
頸椎症性神経根症や頸椎椎間板ヘルニアなどでは、首の神経が圧迫されることで肩から腕にかけて鋭い痛みやしびれが広がります。手の感覚が鈍くなったり、細かい動作がしにくくなることもあります。神経症状は放置すると回復が難しくなるため、早めの診断と適切な治療が不可欠です。
参考記事:頚椎椎間板ヘルニアでやってはいけないことは?症状チェックや対処法も解説
五十肩と頸椎症の違い
肩から腕にかけての痛みは、五十肩(肩関節周囲炎)と頸椎症でよく見られますが、原因や症状の出方に明確な違いがあります。間違った自己判断で対処すると、回復が遅れたり悪化することもあるため、まずは特徴を理解しておくことが重要です。
五十肩の特徴と症状
五十肩は、肩関節周囲の靭帯や腱、関節包と呼ばれる袋状の組織に炎症が起こることで発症します。以下は五十肩の主な概要です。
- 発症年齢は40〜60代が中心
- 肩を動かしたときに強く痛む
- 初期は夜間に痛みが悪化しやすく、眠れないこともある
- 症状が進むと腕を上げられない、背中に回せないなど動きが制限される
特徴的なのは「肩の動きに伴う痛み」と「可動域の制限」です。炎症期・拘縮期・回復期の3段階を経て数か月〜1年で改善することが多いですが、適切なリハビリをしないと可動域制限が残る場合もあります。
頸椎症の特徴と症状
頸椎症は、首の骨(頸椎)の老化や変形、椎間板の劣化などにより神経が圧迫される病気です。以下は頸椎症の概要です。
- 中高年に多いが、若年でも発症することがある
- 肩だけでなく、首や腕、手にまで症状が広がる
- しびれや感覚の低下、握力低下など神経症状が伴いやすい
- 首を反らす、長時間同じ姿勢を取るなどで症状が悪化
頸椎症では「肩関節の動き自体は比較的保たれる」ことが多く、痛みに加えて腕や手のしびれ、力の入りにくさが見られる場合は要注意です。
肩から腕の痛みに対する自宅での改善法
肩から腕の痛みは原因によって対処法が異なりますが、軽度であれば自宅ケアで症状が和らぐこともあります。ただし、神経症状や急激な悪化がある場合は自己判断せず、すぐに医療機関を受診してください。
背骨と肩の柔軟性を高めるストレッチ
肩や腕の筋肉は、日常生活の動作や姿勢のクセによって固まりやすく、血流が滞ることで痛みやこりを引き起こします。特に肩甲骨周りや胸の筋肉をほぐすことで、可動域が広がり、肩から腕への負担が軽減されます。ストレッチは痛みの予防だけでなく、症状の改善にも効果的です。無理に大きく動かすと炎症が悪化するため、必ず痛みのない範囲で行いましょう。
胸張り運動
STEP1:背中を丸め手を前方に出しましょう。
STEP2:胸を張り肩甲骨を寄せるように、手を後ろに引きましょう。
STEP3:背中を丸め手を前方に出しましょう。
STEP4:胸を張り肩甲骨を寄せるように、手を後ろに引きましょう。
上位頸椎屈曲運動
STEP1:人差し指で顎に触れましょう。
STEP2:顎を引きながら後頭部を後方へ移動させましょう。
STEP3:ゆっくりと戻しましょう。
注意点:頭を傾けないように注意しましょう。
広背筋ストレッチ
STEP1:両手を頭の上で組みましょう。
STEP2:体を真横に傾け、背中・脇腹を伸ばしましょう。数秒間姿勢を保持しましょう。
STEP3:ゆっくりと元の姿勢に戻ります。
注意点:傾ける方向と反対側へ重心を移動させましょう。
姿勢改善とデスク環境の見直し
デスクワークやスマホ操作で猫背姿勢が続くと、首から肩、腕にかけての筋肉や関節に常に負担がかかります。悪い姿勢は五十肩や頸椎症の発症・悪化を招くため、作業環境の調整が重要です。日常的に正しい姿勢を意識することで、肩や腕の痛みの予防・再発防止が期待できます。
- パソコン画面は目線の高さに設定
- 肘や肩がリラックスできる椅子・机の高さに調整
- 30分〜1時間ごとに立ち上がって軽く肩を回す
肩と首の負担を減らす生活習慣
日常の小さなクセや習慣も、肩や首への負担を積み重ね、慢性的な痛みを引き起こします。正しい荷物の持ち方や寝具の選び方、血行を促す習慣を取り入れることで、筋肉や関節の健康を保ちやすくなります。特に慢性的な肩こりや痛みを抱えている人ほど、毎日の生活動作を見直すことが大切です。次のことに気をつけて、日常生活を送ってみてください。
- 重い荷物は片側だけで持たず、分散して持つ
- 就寝時は高さの合った枕を使用する
- 適度な運動や入浴で血行を促進する
病院を受診すべき症状の目安
肩から腕の痛みが軽度で一時的なものであれば経過観察も可能ですが、以下のような場合は早めに整形外科などを受診してください。
痛みやしびれが数週間以上続く場合
肩から腕の痛みやしびれが長く続く場合、単なる疲れや一時的な炎症ではなく、関節や神経の病気が進行している可能性があります。放置すると可動域がさらに制限され、慢性化するリスクが高まります。以下の項目に心当たりがないかチェックしてみましょう。特にしびれや感覚の鈍さを伴う場合は、神経障害が進んでいるサインかもしれません。
- 徐々に痛みが強くなっている
- 腕や手のしびれ、感覚の鈍さがある
- 安静にしても改善しない
急に痛みが強くなった場合や日常生活に支障が出る場合
ある日突然強い痛みが出たり、日常生活の動作が困難になったりする場合は急性の炎症や損傷、神経圧迫などが起きている可能性があります。この場合、自己判断でのマッサージやストレッチは症状を悪化させることがあるため、以下の項目が当てはまる人は早期の受診が必要です。
- 洗髪や着替えなど日常動作が困難
- 急激な激痛で腕が動かせない
- 夜間も眠れないほど痛い
まとめ
肩から腕にかけての痛みは、五十肩や頸椎症など原因がさまざまです。肩の動きに伴う痛みや可動域制限があれば五十肩の可能性が高く、しびれや感覚の低下を伴う場合は頸椎症が疑われます。軽度であればストレッチや姿勢改善など自宅ケアで和らぐこともありますが、症状が長引いたり悪化する場合は、早めに医療機関を受診することが回復への近道です。
【参考文献】
1)Joseph D Zuckerman 1, Andrew Rokito:Frozen shoulder: a consensus definition
2)Nobuhara K, Sugiyama D, Ikeda H, Makiura M. Contracture of the shoulder. Clin Orthop Relat Res. 1990 May;(254):105-10. PMID: 2323126.
3)村木 孝之:肩関節周囲炎 理学療法ガイドライン,理学療法学43(1).67-72.2016
4)日本整形外科学会 頚椎椎間板ヘルニア