「腰の痛み」「下肢のしびれ」などの症状が出て、歩行動作に支障をきたす病気が「腰椎(ようつい)すべり症」です。腰椎すべり症が悪化すれば手術が必要になるかもしれません。ですがその前に、いかに症状を悪化させないかを考えましょう。
そのために、「やってはいけないこと」を把握しておく必要があるのです。
当記事では、腰椎すべり症でやってはいけない、避けるべき行動について解説します。後半では、症状緩和に役立つストレッチ・エクササイズを紹介しました。
最後まで目を通すことで、腰椎すべり症で気をつけるべき点がわかり、症状悪化を防げるでしょう。
ぜひ参考にしてください。
腰椎すべり症とはどういった病気?
はじめに、腰椎すべり症について把握しておきましょう。
腰椎すべり症とは、腰の高さの背骨である「腰椎(ようつい)」がずれる病気です。腰椎は「椎体(ついたい)」という骨が5つ重なって構成されています。その椎体がずれることで、神経が通る「脊柱管(せきちゅうかん)」が狭まり、痛みやしびれ(坐骨神経痛)が現れるのです。
なお、すべり症が起こりやすい場所は腰椎の4番目・5番目です。
また、一口に腰椎すべり症といっても2つの種類があります。、スポーツなどが原因で「腰椎分離症(ようついぶんりしょう)」という病気から続発する「分離すべり症」と、椎体と椎体の間に挟まる椎間板(ついかんばん)の変性によって生じる「変性すべり症」です。
ただ稀に、生まれつき椎体がずれている「形成不全すべり症」も存在します。そして腰椎すべり症が悪化するとどうなるかというと、痛みやしびれから歩けなくなったり、感覚が麻痺したり、日常生活に大きな影響を及ぼします。
なお、椎体のずれは見た目からは判断できません。また、腰椎すべり症と「脊柱管狭窄症(せきちゅうかんきょうさくしょう)」では現れる症状が似ています。したがって、まずは医療機関で検査を受け、正確な原因を把握するのが大切です。
参考:【腰から片側の足にかけての痛み】坐骨神経痛の原因と3つの対処法を専門家が解説!
参考:【腰痛分離症】予防に効果的なストレッチ・リハビリ方法を解説!
参考:【要注意】脊柱管狭窄症でやってはいけないことは?自宅で出来るストレッチも解説!
腰椎すべり症は自然に完治しない?
腰椎すべり症の根本が解消される、つまり「ずれた背骨(腰椎)が自然に元に戻る」ことは残念ながらほぼありません。
ただし、背骨がずれていたとしても痛みが出ないケースも存在します。また、すべり症になったら必ず重症化するわけではないです。
日常生活に支障をきたすほど症状が悪化すれば、手術が検討される場合もあり得ます。ただ、比較的軽症の場合は「日常生活の中でいかに症状を緩和するか」を考えることになります。
まずは病院への受診を優先しよう
まずは病院への受診を優先しましょう。痛みを我慢する・放置するのは避けるべきです。先述したように、腰椎すべり症と類似した病気がいくつか存在します。腰の痛みやしびれの原因が正確に判明したほうが安心できますよね。
精密な検査を受けることで、原因が特定できます。そのうえで、お医者さんのアドバイスを聞きながら、その後の対応を検討してみてください。
【悪化防止】腰椎すべり症でやってはいけないこと
ここから、腰椎すべり症になった際にやってはいけないことについて解説します。
まずは、症状を悪化させないことが大事です。以下より紹介する行動をできるだけ行わないよう気をつけることをおすすめします。
腰に負担がかかる激しい運動
痛みが強いうちは、走る・跳ねるといった激しいスポーツは一旦控えたほうが良いです。また、バーベルスクワットやベンチプレスなど、負荷が強い筋力トレーニングも控えましょう。
ただし、腰椎すべり症になった後、運動が一切できなくなるということではありません。痛みが軽減されていけば、徐々にスポーツや筋トレを再開することは可能でしょう。
とはいえ、痛みが強いうちは激しい運動を休むべきです。そのあと、症状の様子をみながら主治医に相談してみてください。
腰を反らす・ひねるストレッチ
ストレッチ自体は、腰椎すべり症で現れる痛みやしびれの緩和に有効です。ただし、やり方によっては逆効果になってしまいかねません。
腰椎すべり症において、やってはいけないストレッチをおさえておきましょう。
まず、腰をひねる・反らすストレッチは避けるべきです。腰椎に負荷がかかってしまう可能性が考えられます。また、無理やり伸ばすような強引なストレッチも行うべきではありません。痛みやしびれが悪化するリスクが大きいです。
腰をひねったり反らしたりする動きはせず、優しくゆっくりストレッチを行うように心がけてみてください。ストレッチ方法については、後ほど詳しくご紹介します。
なお、フォームローラー(筋膜を伸ばすローラー健康グッズ)で腰椎を刺激することも避けましょう。
すべり症部位へのマッサージ
すべり症が起こっている部位へのマッサージ(揉みほぐし)も避けるのが望ましいです。
とくに、うつ伏せの姿勢で腰回りの筋肉を押されると腰椎にも負荷がかかり、症状が悪化するリスクがあります。「強揉み」を行う施術者であれば、なおさらです。もちろん、すべり症状を起こしていない部位へのマッサージであれば問題ありません。
したがって、マッサージを受ける場合は、腰椎すべり症と診断された旨を施術者に伝えるようにしてみてください。
長時間の立ち仕事・重いものを持つ仕事
長時間立ったままの仕事や、重いものを運ぶ仕事にも注意が必要です。立った姿勢で集中して作業する、あるいは重い荷物などを持つ際に踏ん張ることが、腰への負荷を増やすのは想像に難くないでしょう。
時間が経つにつれて、徐々に腰が痛くなったり足がしびれてきたりすることが考えられます。もし、腰椎すべり症が重症化している場合、痛みの程度にあわせて仕事を休む・あるいは別の仕事に替えることも必要になってくるかもしれません。
悪い姿勢でのデスクワーク
背中が丸まった「猫背」や、腰が反りすぎた「反り腰」など、悪い姿勢にも注意しましょう。背骨が前や後ろに曲がることで重心が傾き、腰への負荷が増えてしまうからです。
とくに、悪い姿勢での長時間のデスクワークは腰への負荷が大きく、腰椎すべり症では とりわけ避けるべき行動といえます。
作業が忙しかったり疲れていたりする時ほど、姿勢が崩れやすいです。ぜひ普段から良い姿勢を心がけましょう。
参考:猫背を治す方法とは?姿勢改善にオススメのストレッチ・筋トレを詳しく紹介!
参考:反り腰を改善!原因から治し方を簡単なストレッチをまじえ解説
歩く姿勢にも注意しよう
あわせて、歩く際の姿勢にも注意が必要です。下を向くように歩いたり、顎が上がった姿勢で歩いたりしていませんか。こういった姿勢で歩くことで、腰への負荷が増えてしまう可能性があります。
仕事などで毎日長距離を歩く方ほど、姿勢に意識を向けるのが大切です。
不規則な生活(肥満・喫煙など)
乱れた生活習慣も症状悪化につながるので注意しましょう。たとえば、偏った食事や過度な飲酒は肥満につながります。体重が増えるとそれだけ腰椎への負担が増え、痛みやしびれが増しやすいです。
また、寝不足や喫煙は身体の緊張を生み、血液の流れが悪くなるきっかけになります。血流悪化によって発痛物質が生まれたり神経が興奮したりするので、やはり症状が悪化してしまいます。
あらためて生活習慣を見直すのが大切です。
腰椎すべり症の改善・緩和に効果的なセルフケア
ではここからは、腰椎すべり症で現れる症状を軽減するために効果的なセルフケアを紹介していきます。ストレッチなどの運動だったり、日常生活での意識だったり、ぜひ習慣として取り入れてみてください。
腰に負担をかけないストレッチ
先ほど触れたように、腰を反らしたりひねったり、無理に伸ばそうとしたりしなければ、ストレッチは効果的です。
ストレッチを行うことで血流が良くなり、痛みの改善につながります。また、じっくり行うことでリラックス効果も期待できます。
では、おすすめのストレッチを動画付きで紹介しますので、さっそく実践してみてください。
1つ目は「腸腰筋(ちょうようきん)ストレッチ」です。
STEP2:膝を曲げ前方の足に体重をのせます
STEP3:元の姿勢に戻ります。
STEP4:繰り返し実施しましょう
※股関節の伸びを感じながら実施してみてください
※腰を反らさないように注意しましょう
上記のストレッチは、足を持ち上げる・体幹を安定させる働きを持つ「腸腰筋(ちょうようきん)」を柔らかくする効果があります。仕事中の休憩時間などに実施するのもありでしょう。
2つ目は「膝抱えストレッチ」です。
STEP2:腰を丸めるようにお腹に引き寄せます
STEP3:姿勢を数秒保持します
STEP4:元の姿勢に戻ります
※腰が伸びるのを感じながら実施しましょう
※丸めたタオルを腰の下に入れるとさらに伸びます
上記のストレッチを行うことで、背中を反らせる際に作用する「腰部脊柱起立筋(ようぶせきちゅうきりつきん)」を柔らかくできます。就寝前や起床時に行うのも良いかもしれません。
紹介したストレッチは、いずれも簡単で腰椎へ負担をかけずに行えます。定期的に続けてみましょう。
腰に負担がかからない運動
腰に負担がかからない適度な運動は、腰椎すべり症の緩和に有効だといえます。時間を見つけて運動を行ってみましょう。
たとえば「水中ウォーキング」は、水中の浮力が働くので腰へ負荷をかけずに運動が可能です。近所にプール施設があれば、定期的に利用するのはいかがでしょうか。
歩くことに支障がない場合は、通常のウォーキングやフィットネスバイクの使用も有効です。痛みの様子をみつつ、決して無理はしないように注意してください。
立っている・座っている時の姿勢を良くする
普段の姿勢を良くすることも大切です。背中が丸まったり反りすぎたりすることで、腰へ負荷がかかってしまいます。そこで、ご自身の姿勢をあらためて見返してみましょう。
とはいえ、自身の姿勢を目にする機会は少ないはず。まずは、スマホなどでご自身の姿勢を撮影してみるのをおすすめします。
そのうえで、適度に胸を張りつつ、肩と耳が縦にまっすぐ揃うように心がけてみてください。首の位置が整うことで自然と良い姿勢となり、腰への負担が軽減するはずです。
参考:【簡単】姿勢を良くする方法4選!猫背や反り腰を改善して正しい姿勢を保つには
寝方を工夫する
就寝時の姿勢(寝相)も腰への負担に関係します。具体的には、「腰を反らすような寝相」はできるだけ避けるのが望ましいです。
寝返りを打つとはいえ、腰が反ったまま数時間は固定されるので、腰椎への負荷を増やしてしまいかねません。うつ伏せはもちろん、仰向けや横向きであっても腰が反らないように注意してください。
したがって、「身体を丸めるように眠る」「仰向けの姿勢で足の下にクッションを挟む」などの寝相がおすすめです。
眠りやすい姿勢は人それぞれで、そのうえ睡眠中なので微調整は難しいでしょう。とはいえ、腰椎すべり症の改善には大事なので、できる範囲で注意してみてください。
腰用コルセットを着用する
腰用コルセットの着用も効果的です。コルセットで腰回りを適度に固定することで、腰椎への負担を減らせます。立ち仕事や、重いものを運ぶ仕事に従事している方は、ぜひ腰用コルセットを使いましょう。
コルセットはネットショップや、ドラッグストアで購入可能です。そしてコルセットを選ぶ際は、サイズや質感、通気性をチェックしてみてください。
ただし、コルセットは補助であって、症状を改善する効果はありません。まずは継続的なストレッチや姿勢改善に取り組み、そのうえでコルセットの使用を考えましょう。
参考:コルセットは寝る時に外すべき?就寝時・寝起きの腰痛を改善するセルフケアも紹介
規則正しい生活習慣を心がける
先述したように、生活習慣の乱れも腰椎すべり症が悪化する原因になります。
痛みやしびれや腰椎への負荷の増加につながるのが、身体の緊張や体重増加(肥満)です。肥満の原因になる「過食・偏った食事」「過度な飲酒」や、身体の緊張が生まれる「寝不足」「喫煙」はやめて、規則正しい生活を心がけましょう。
生活習慣を改善する方法はいくつかありますが、「日記をつける」方法がおすすめです。1日の終わりに「今日はつい食べすぎた」「お酒を飲みすぎた」など簡潔に書き残します。あるいはチェックリストを設け、達成できた項目にチェックを入れる方法も良いでしょう。
日記をつけることで自身の悪い習慣が見えやすくなり、改善ポイントが見つかりやすくなります。
他には、「飲食店に足を運ばない」「コンビニに行く回数を減らす」「就寝前はスマホを使わない」「禁煙外来・減酒外来を利用する」といった方法もおすすめです。こういった地道な方法が、結果的に腰椎すべり症の緩和につながります。長い目で見て続けていきましょう。
まとめ
腰が痛む・足がしびれる場合、まずは病院を受診して検査を受けましょう。原因を特定することが先決です。本文で触れたように、ずれた腰椎が元通りになるケースはほぼありません。
しかし、腰椎すべり症でやってはいけないことに注意し、ご自身でセルフケアを続ければ症状を緩和することが可能です。腰の痛みや脚のしびれが軽減できれば、より楽に生活できるでしょう。
それでは当記事が、あなたの悩み解決に役立てば幸いです。
【参考文献】
1)Yusuke Sugimura 1, Naohisa Miyakoshi 1, Seiya Miyamoto 1, Yuji Kasukawa 1, Michio Hongo 1, Yoichi Shimada:Prevalence of and factors associated with lumbar spondylolisthesis in patients with rheumatoid arthritis
2)S Seitsalo 1, K Osterman, M Poussa:Scoliosis associated with lumbar spondylolisthesis. A clinical survey of 190 young patients
3)P Violas 1, G Lucas 2:L5S1 spondylolisthesis in children and adolescents
4)腰部脊柱管狭窄症診療ガイドライン策定委員会:腰部脊柱管狭窄症診療ガイドライン改訂第 2 版(案)
5)小薗 直哉, 山下 彰久, 原田 岳, 渡邊 哲也, 池村 聡, 上田 幸輝, 宇都宮 健, 白澤 建藏:先天性腰椎すべり症の1例
6)Paul Gagnet,⁎ Kent Kern, Kyle Andrews, Hossein Elgafy, and Nabil Ebraheim:Spondylolysis and spondylolisthesis: A review of the literature