突然ですが、あなたは交通事故やスポーツなどの強い衝撃で首を痛めた経験はありますか?
多くの方はこのような強い衝撃により、筋肉や靭帯が損傷を受けることで炎症や痛みが引き起こされ、日常生活に支障をきたす場合があります。こういった怪我を「むちうち」と言います。
むちうちは適切な対処をしないと、症状を悪化させるだけではありません。さらに治癒までの期間が長くなり、日常生活だけでなく仕事などにも影響を与えてしまいます。
そこで当記事では、首のむちうちの症状や原因、適切な対処法について専門家が詳しく解説します。
最後まで読んでいただければ、首のむちうちによる痛みの軽減に役立てていただけます。ぜひお付き合いください。
首のむちうちが起こる原因
首のむちうちは、頸椎(けいつい)の急激な前後の動きや衝撃によって引き起こされます。
たとえば、自動車事故やスポーツの怪我、または転倒などの外的な力が加わることで起こるケースが多いです。
ただし、首のむちうちは外傷だけでなく、日常生活での悪い姿勢や筋肉の緊張、ストレスなどによっても引き起こされることもあります。
そのため、普段の姿勢や動きにも注意が必要です。
参考記事:むちうちとは?代表的な症状や首の痛みを治すセルフケアを専門家が解説
首のむちうちにより引き起こされる症状4つ
それでは、首のむちうちがどのようにして起こるのかを理解したところで、ここからは引き起こされる症状4つを解説していきます。
動かすと痛い【頚椎捻挫型】
頚椎捻挫(けいついねんざ)型は、首に強い力が加わったときに起こる急性の外傷です。たとえば、交通事故やスポーツ中の急激な衝撃などが原因となることが多いです。
このとき、首の筋肉や靭帯などが一瞬で大きく引っ張られることによって、頚椎の周りの筋肉や靭帯、軟骨や椎間板などに損傷が生じます。
これが頚椎捻挫型むちうちのメカニズムです。このタイプのむちうちの症状には、首の痛み、しびれ、頭痛、肩のこり、腕の痛みなどがあります。
腕のしびれが出現する【神経根症状型】
神経根症状(しんけいこんしょうじょう)型のむちうちは、頸椎の捻挫や打撲によって神経根が圧迫されたり、椎間板や靭帯、筋肉などが損傷することで炎症を起こしたりした状態です。
これらの圧迫によって、脳からの信号が正常に伝わらなくなり、手や腕のしびれや痛み、筋力低下などの症状が現れることも。
そのため神経根症状型のむちうちは、頸椎捻挫型よりも神経の圧迫が強く、症状もより出やすい傾向にあります。
耳鳴り・頭痛・吐き気が出現する【バレー・リュー症状型】
バレー・リュー症状型は、はっきりとしたメカニズムはわかっていません。しかし、頸椎捻挫型とは異なり、直接的な外力が加わったわけではなく、体内の自律神経バランスが崩れることによって起こると考えられています。
それにより、耳鳴りや頭痛、めまい、吐き気などの自律神経症状が現れるのです。
手足の感覚異常が出現する【脊髄症状型】
脊髄症状(せきずいしょうじょう)型は、首の後ろの筋肉や靭帯が伸びることで起こります。
そのため、首の後ろの部分にある頸椎が過度に伸び、脊髄が引っ張られて損傷を受けることがあるのです。この損傷により脊髄が圧迫されることで、手足の感覚や運動に障害が生じる場合もあります。
具体的な症状には、手足のしびれ、痛み、力の低下、歩行困難などが挙げられます。
脊髄症状型むちうちは、首の捻挫によって起こる他のタイプと比べて重症な場合が多く、治療には専門医の診断と適切な治療が必要です。
首のむちうちの適切な対処法
首のむちうちは日常生活での怪我や事故などで起き、首周りの筋肉や靭帯、神経が損傷を受けることによって引き起こされます。そのため適切な対処法がなされない場合、症状が悪化したり長引いたりすることもあるのです。
そこで以下、首のむちうちに対する適切な対処法について解説していきます。
症状が出てから2〜3週間は安静にしよう
症状が出てから2〜3週間は、首のむちうちによる炎症を抑えるために、できるだけ安静にして過ごすことが望ましいです1)。
ただし首のむちうちは個人差がありますので、一概に2〜3週間とは言い切れません。症状が改善されるまで安静期間が必要な場合もあります。
症状が重度である場合や症状が改善されない場合には、専門医に相談することをお勧めします。
痛みの緩和とともに日常生活へ復帰しよう
さきほど、むちうちにおいて痛みや違和感がある場合、安静に過ごすことが望ましいと解説しました。
しかし、完全に動かさないことは、身体機能の低下や身体を動かさないこと(不動)による別の痛みが引き起こされる可能性もあります2)。
なので、痛みが緩和してきたタイミングで早期に日常生活に戻るようにしましょう。
一時的な症状の緩和には湿布が効果的
湿布は一時的な症状の緩和に効果的な方法の一つで、急性期、亜急性期、慢性期とむちうちにおける時期にあわせ使い分けするとよいです。
まず、交通事故を受けた直後の急性期には、患部が熱をもったり腫れたりして炎症が起きていることもが多いはず。この時期には冷湿布などで患部を冷やし、炎症や痛みを和らげることが大切です。
しかし、炎症が治まった後の亜急性期以降には、温湿布が適しています。患部を温めることで血流を良くし、傷を負った筋肉の修復を早める効果が期待できます。
ただしこれらはあくまでも目安であり、湿布の使用については自己判断ではなく、専門医の指導のもとで行うことが重要なので注意しましょう。
【簡単ストレッチ】首のむちうちを早く治すために自宅でできること
首のむちうちを早く治すために、自宅でできる簡単なストレッチがあります。しかし、痛みのある部分に直接ストレッチや運動をすることは、逆効果になる場合があります。
なぜなら、むちうちによって首の筋肉や靭帯が炎症を起こしているため、患部に直接刺激を加えることは炎症を悪化させる恐れがあるからです。
そこで大切なのは、痛みのある部分以外の運動を中心に実施することです。これから紹介する以下の運動で、痛みのある部分以外の筋肉が硬くならないようにしていきましょう。
胸張り運動
胸張り運動が効果的である理由は、胸を張ることで首の筋肉や関節の周りの筋肉が緩み、痛みやこりを和らげることができるからです。
まず、胸張り運動は僧帽筋(そうぼうきん)と呼ばれる大きな筋肉を動かす運動です。僧帽筋は上部、中部、下部の3つの線維維に分けられ、その中でも首と肩甲骨をつなぐ中部線維を大きく動かすことができます。
むちうちによって首の筋肉が過剰に緊張してしまうと、首と肩甲骨をつなげる筋肉の血行が悪くなるため、運動を行い血流を改善していくことが大切です。
また、胸張り運動は姿勢改善にも効果があります。正しい姿勢を保つことで首の筋肉にかかる負担が減り、むちうちの再発予防にもつながります。
STEP1:両手を前方へ伸ばしましょう
STEP2:胸を張りながら肩甲骨を内側へ寄せましょう
STEP3:背中を丸めながら両手を前方へ伸ばしましょう
STEP4:繰り返し実施しましょう
※顎を引きながら運動を行いましょう
背骨の運動(回旋)
この運動は体をひねる運動で、首への負担を軽減する効果があります。具体的には、体をひねる運動により胸椎(きょうつい:背中の高さの背骨)の可動域を広げることができ、首や背骨周囲の筋肉にかかる負担を軽減し、筋肉の緊張をほぐすことが可能です。
さらに運動により血流が良くなることで、筋肉や神経に必要な酸素や栄養素が運ばれやすくなり、回復をうながすことができます。
ただしむちうちの状態によっては、ひねる運動を行うことができない場合もあります。症状が重い場合や慢性化している場合には、医師や理学療法士の指導のもとで運動を行うことが重要です。
STEP1:両手を胸の前で組みましょう
STEP2:足を閉じたまま体をひねりましょう
STEP3:元の姿勢にもどり、繰り返し行いましょう
STEP4:上半身をなるべく大きくひねりましょう
※足が開かないよう注意しましょう
チンインエクササイズ
むちうちの場合、首の前面の深い筋肉を鍛えることが重要です。
首の前面にある筋肉は、頭を支える役割を担っています。そのため、首の前面にある筋肉が弱まると首が安定せず、痛みや違和感が生じることもあります。
また、悪い姿勢をとることで首や肩に余分な負荷がかかり、症状を悪化させることも。
そこで、チンインエクササイズによって筋力を強化して、首にかかる負荷を軽減していきましょう。
STEP1:両肘をついたうつ伏せ姿勢になりましょう
STEP2:顎を軽く引きましょう
STEP3:頭を後方へ引くイメージで運動を行いましょう
STEP4:繰り返し実施します
※首が丸まらないように注意しましょう
首のむちうちはどのくらいで治る?目安となる治療期間
むちうちの症状は、事故後最初の2〜3か月で回復することが示されています3)。これは、身体の自然な治癒力が作用して、痛みや不快感が徐々に軽減していくためです。
しかし、この2〜3か月後からは症状改善のスピードが鈍化し、回復が停滞状態になることがあります。そのため、早期に適切な治療を行うことが重要であるとされています。
ただし、治療期間は個人差があり治療開始のタイミングや治療方法、痛みの強さや生活環境などによって異なるため一概には言えません。
できるだけむちうちを早く改善するには、専門の医師に相談して、症状の重さや個人の体質に合わせた治療を行う必要があります。
まとめ
今回は首のむちうちの原因やメカニズムについて説明し、適切な対処法を紹介しました。
首のむちうちは、交通事故やスポーツなどで首が激しく揺れることによって起こります。
また、症状によって以下の3つのタイプに分けられます。
- 頚椎捻挫型:首を動かすと痛みを伴う
- バレー・リュー症状型:耳鳴りや頭痛、吐き気などの症状が現れる
- 脊髄症状型:手足の感覚異常が起こる
痛みを軽減するために、湿布やストレッチなどの対処法を行い、できるだけ早く日常生活に戻るようにしましょう。
当記事が、あなたの痛み緩和に役立つことを願っています。
参考文献
1)日本整形外科学会雑誌「むちうち症の診療ガイドライン(第3版)
2)Borchgrevink GE, Kaasa A, McDonagh D, Stiles TC, Haraldseth O, Lereim I. Acute treatment of whiplash neck sprain injuries. A randomized trial of treatment during the first 14 days after a car accident. Spine (Phila Pa 1976). 1998 Jan 1;23(1):25-31. doi: 10.1097/00007632-199801010-00006. PMID: 9460148.
3)Physiotherapy management of whiplash-associated disordersJournal of PhysiotherapyVolume 60, Issue 1, March 2014, Pages 5-12