むちうちとは?代表的な症状や首の痛みを治すセルフケアを専門家が解説

追突や衝突といった強い衝撃を受けた際に起こる、首まわりの症状を「むちうち」と言います。むちうちは、頚椎(けいつい:首の骨)周辺の組織を痛めているにもかかわらず、最初は症状を自覚しにくいという特徴があります。

また、むちうちによる首の痛みはあるものの、どう対処すれば良いか分からない方も多いことでしょう。

そこで本記事では、むちうちのメカニズムや症状、痛みを改善するためのセルフケア(ストレッチ)を詳しく紹介しています。
当記事を最後まで読むことで、むちうちへの知識が深まり、むちうちになった際にもスムーズな対処ができるでしょう。

むちうちとはどういった状態?

むちうちは、急激な外力を受けることで頚椎まわりの靭帯や筋肉、腱を損傷したり、神経が障害されたりした状態とされています。
突然の衝撃で、頸部の過屈曲(勢いよく頭が前に倒れる動き)と過伸展(勢いよく頭が後ろに倒れる動き)が強制されて、むちうちが発生します。

むちうちのメカニズムを説明した図

交通事故由来のむちうちが多くなっていますが、ラグビーなどコンタクトスポーツによりむちうちになる場合もあります。

ちなみに受傷時に首がむちのようにしなるため「むちうち」と呼ばれていますが、正式な傷病名ではありません。病院を受診した際には「外傷性頸部症候群(がいしょうせいけいぶしょうこうぐん)」「頚椎捻挫(けいついねんざ)」などと診断されます。

これはむちうち!?むちうちの代表的な症状例

むちうちでは、一般的に次のような症状がみられます。

首の痛み、動かしにくさ

首の痛み動かしにくさが、むちうちの主要な症状です。頚椎周辺の靭帯や筋肉、腱といった組織を損傷し、炎症を起こすことで痛みや可動域の制限につながります。

首、肩、背中の張った感じ

首や肩、背中まわりの張り感もむちうちの症状のひとつです。事故の衝撃をこらえるために筋肉が強くこわばり、凝りが生まれることが考えられます。

頭痛

むちうちから頭痛を引き起こすケースも見受けられます。
首まわりの筋緊張から頭部への血行が悪くなったり、事故の衝撃で自律神経が障害されたりすることで、頭痛につながるのではないかと考えられています。

手のしびれ、力の入りにくさ

頚椎周辺の腫れで神経が圧迫され、手のしびれ脱力感などを生じる場合があります。
また、頭が振られた際に中枢神経である頸髄(けいずい)に傷がつき、手だけではなく足に症状が出てくるケースもみられます。

自律神経症状

首がむちのようにしなった際、衝撃で頚椎周辺の自律神経が障害されてしまう場合があります。自律神経のバランスが崩れることで、耳鳴り吐き気めまい倦怠感などさまざまな症状を引き起こす可能性があります。

痛みは遅れて出てくる?むちうちが疑われる際はすぐに病院へ

医師がレントゲンを見ている写真

症状が遅れて出てきやすいことが、むちうちの特徴の一つです。
首まわりの組織を痛めているにもかかわらず、事故から数時間〜数日経過して症状を感じ始めることがあります。

はっきりとした原因は分かっていませんが、事故後は興奮状態になっていることが、痛みを感じにくい要因に考えられています。
交感神経(活動状態の時に優位になる自律神経)の働きでアドレナリンが大量に分泌され、痛みが一時的に抑えられてしまうのです。

受傷直後は、特に異変を感じない場合もあるでしょう。しかし、自覚症状が乏しいからといって放置してはいけません。
重度の損傷を負っているケースもあるため、事故などで首に衝撃が加わった際は、早めに医療機関でレントゲンなどの検査を受けるようにしてください。

時期に合わせた対処が重要!むちうちへの正しいセルフケア

むちうちは、頚椎周辺の靱帯や筋肉を痛めて炎症が起きている状態になります。そのため捻挫や骨折といった外傷と同様、患部の状態にあわせてケアを進めていくことが重要です。

むちうちの症状を早期に改善するためにも、痛めた直後の「急性期」と、炎症が落ち着いてきた「慢性期」で次のような対処を行いましょう。

参考記事:首のむちうちの治し方 |必ず押さえておきたい対処法をポイント解説!

急性期は安静にして冷やす

むちうちで首を痛めた直後は、なるべく安静を心がけましょう。
また、炎症症状が強く出ている際には、アイシングも有効です。熱感のある箇所に氷水や保冷剤などを当てて、10〜15分ほど冷やしてください。

冷却には血管を収縮させて炎症を抑える作用のほか、神経の伝達速度を遅らせることで痛みを鎮める作用も期待できます。

しかし、冷やしすぎは筋肉をこわばらせて、血流を悪くしてしまう場合があります。そのためアイシングは、炎症が強く出ている時期に限るようにしましょう。

強い痛みがある場合は湿布を貼る

首や肩まわりに強い痛みを感じる際は、湿布を貼りましょう。湿布に含まれる消炎鎮痛成分が肌から浸透し、痛みを緩和する効果を期待できます。

しかし、湿布は一時的に痛みを抑えているだけで、患部を治しているわけではありません。湿布だけに頼らず、ストレッチなどセルフケアも合わせて行うようにしましょう。

慢性期は温める、ストレッチをする

患部の状態にもよりますが、痛めてから数日〜1週間を目安に急性期の炎症は落ち着きます。慢性期になりましたら、入浴やホットパックなどで体を温めていきましょう。温めると筋肉の緊張がやわらぎ、血流が促されることで、首の痛みや動かしにくさが改善されやすくなります。

また、ストレッチで筋肉を伸ばすことでも、症状の早期回復につながります。むちうちに対する具体的なストレッチの方法は、このあと詳しく解説していきます。

むちうちの症状を早期改善できるおすすめストレッチ3選

それでは、むちうちに効果的なストレッチ(運動)を3つ紹介します。
状態をみながら、無理のない範囲で行うようにしてください。

胸張り運動

首から肩、背中にかけて広く付着する「僧帽筋(そうぼうきん)」の中部線維と肩甲骨の内側に付着する「菱形筋(りょうけいきん)」を動かす運動です。

僧帽筋、菱形筋を動かすことで背中や肩まわりの柔軟性が高まり、首にかかる負担を軽減できます。また、筋肉のポンプ作用(筋収縮によって血液を押し出す作用)が働くことで血流が良くなり、痛めた組織に酸素や栄養が運ばれやすくなります。

背骨の運動(回旋)

上半身をひねることで、胸椎(きょうつい:背骨の背中部分)の可動域を広げていく運動です。胸椎の動きを良くすると、その上に乗っている首や肩まわりの緊張もほぐれてくるため、症状の回復を促すことができます。

動画内でも解説されていますが、体をひねる際は下半身が動かないようにお気をつけください。片方を10回ほど行ったら、反対側も同様に行いましょう。

チンインエクササイズ

首の前側、深部に付着する「頸部深層屈筋(けいぶしんそうくっきん)群」を動かすエクササイズです。頸部深層屈筋群を動かすことで頭の位置が安定してくるため、首まわりにかかる負担を軽減できます。

顎を引く際には、首が曲がらないように気をつけましょう。

むちうちはどれくらいで治るもの?

首を痛めている女性の写真

むちうちの改善には、平均で3ヶ月(12週間)ほどかかります。しかし、組織の損傷具合にもよるため、期間は一概に言えません。

数週間で元の状態まで回復するケースもあれば、半年以上症状が取れずに症状固定(これ以上治療を続けても改善が見込めない状態)になってしまう方もいます。

しかし、患部がどのような状態であれ、受傷後に適切な処置ができていないと治りを遅くしたり、後遺症を残すリスクを高めたりしてしまいます。むちうちが疑われる際には、上記で解説したセルフケアをしっかり行うことが大切です。

むちうちでやってはいけない危険なこととは?

むちうちに対して、やってはいけないことがいくつかあります。状態が悪化して回復を遅らせる可能性がありますので、十分ご注意ください。

病院に行かず放置する

むちうちでは神経の損傷など、重度の障害が起きているケースもあります。
「特に痛みはないから大丈夫」と安易な判断はせず、医療機関で検査と適切な処置を受けるようにしてください。

無理に首を動かす

無理に首を動かすことで、靭帯や筋肉、神経などの損傷を広めてしまう場合があります。
特に炎症が出ている急性期は、ストレッチをはじめ、首を動かして痛みを確認することもなるべく控えるようにしましょう。

痛めた直後に体を温める

体を温めることで、炎症が悪化するおそれがあります。急性期の痛みが強い時期は入浴は避けて、シャワーで済ませることがおすすめです。

安静にしすぎてしまう

痛めた直後は、安静が大事です。しかし、2週間以上の長期の安静は、症状の改善を遅らせると言われています。

痛みを我慢して動かす必要はありませんが、強い炎症が引きましたら、安静にしすぎず仕事や家事などなるべく通常の生活を送ることが推奨されています。

まとめ

今回の記事では、むちうちの概要と痛みを早く治すための対処法をメインに解説しました。

むちうちは、外見でケガをしたと自覚しにくいかもしれませんが、早期の改善を目指すには痛めた直後から適切な処置を行っていく必要があります。
また、首に強い衝撃を受けた際には、早い段階で一度医師の診察を受けておくことが推奨されます。

それでは本記事が、あなたのお悩み解決に役立てば幸いです。

【参考文献】
1)公益社団法人 日本整形外科学会 むち打ち症
2)公益社団法人 日本整形外科学会 外傷性頸部症候群
3)Borchgrevink GE, Kaasa A, McDonagh D, Stiles TC, Haraldseth O, Lereim I. Acute treatment of whiplash neck sprain injuries. A randomized trial of treatment during the first 14 days after a car accident. Spine (Phila Pa 1976). 1998 Jan 1;23(1):25-31. doi: 10.1097/00007632-199801010-00006. PMID: 9460148.