多くの日本人が抱える悩みである膝の痛みや違和感。
その中でも「膝を伸ばすと痛い」「膝をうまく伸ばせない」という人は多いですよね。そこで今回の記事では、膝の内側や外側など部位別の痛みの原因や、ご自宅でできる簡単な対処法をご紹介します。
最後まで読み進めることで、膝関節に関する悩みが少しでも解決できればと思いますので、ぜひご覧ください。
まずは膝関節の働きを理解しよう
痛みや対処法について理解を深めるために、まずは膝関節の仕組みを確認しましょう。
膝関節とは太ももの骨である「大腿骨(だいたいこつ)」と、すねの骨「脛骨(けいこつ)」、膝のお皿とも呼ばれる「膝蓋骨(しつがいこつ)」の3つの骨で構成されます。凸型の大腿骨が凹型の脛骨のくぼみにはまることで、膝を曲げる、伸ばすなどの動きが行えます。
膝蓋骨の役割は「前方の衝撃から膝を守る」、「膝を伸ばすために重要な筋肉である大腿四頭筋(だいたいしとうきん)の働きをサポートする」の2つです。膝蓋骨がスムーズに動くことで、膝の曲げ伸ばしを行いやすくなります。
また、大腿骨と脛骨の間には「半月板」という軟骨がついています。歩く、立つなど膝関節に荷重がかかる際にクッションのように負担を分散するなど、スムーズな膝の動きに必要不可欠な存在です。
さらに太ももの前につく筋肉「大腿四頭筋」は外側広筋(がいそくこうきん)、中間広筋(ちゅうかんこうきん)、内側広筋(ないそくこうきん)、大腿直筋(だいたいちょっきん)の4つの筋肉で構成されます。膝を伸ばしたり、体を支えたりする役割があり、人間の体にとって重要な筋肉の1つと言えるでしょう。
しかし、重要な筋肉で使用する機会が多いからこそ、痛みを起こしやすいと言われています。
【部位別】膝を伸ばすと痛みが出てしまう原因とは?
膝を伸ばすと痛みが出る場合に、考えられる原因を痛みの場所ごとに解説します。
ご自身の膝の痛みに当てはまるものを確認して、次項にて紹介する対処法を試してみてくださいね。
皿の上(裏)の痛み:膝蓋大腿関節症
膝蓋骨と大腿骨が接触する部分には、摩擦による負担を軽減するために軟骨がついています。その軟骨のおかげで、膝関節はスムーズな動きを行えます。
加齢や脱臼などが原因で軟骨がすり減ったり、骨が変形したりすることで皿の上に痛みが生じる病気が膝蓋大腿関節症(しつがいだいたいかんせつしょう)です。
以下の症状が見られる方は、膝蓋大腿関節症である可能性が高いです。
- お皿を圧迫した状態で膝を伸ばすと痛みが出る
- 膝の曲げ伸ばしでお皿の骨に引っかかり感がある
- 膝の曲げ伸ばしでお皿の周りに痛み・違和感がある
皿の下の痛み:膝蓋下脂肪体炎
膝蓋骨の下には膝蓋下脂肪帯(しつがいかしぼうたい)と呼ばれる組織があります。膝蓋下脂肪帯炎は膝のけがや炎症などが原因で膝蓋下脂肪体が硬くなることで、膝の曲げ伸ばしの際に皿の下に痛みを生じます。
以下の症状が見られる方は、膝蓋下脂肪体炎である可能性が高いです。
- お皿の下をつまむと痛みを感じる
- 膝を伸ばすとお皿の下が痛い
- 膝の手術をした後にお皿の下に痛みが出ている
参考記事:膝の皿の下が痛い原因とは?痛みを治す方法や予防にも効果的なストレッチを紹介
膝の内側の痛み:半月板損傷、変形性膝関節症
半月板損傷とは膝を衝撃から守るクッションの役割がある半月板に、ヒビが入ったり割れたりすることで、膝の内側に痛みが出現する病気です。
症状は痛みの他にも、膝を曲げ伸ばしする際に引っかかる感覚や、「ロッキング現象」と呼ばれる急に膝が伸ばせなくなる症状が挙げられます。
以下の症状が見られる方は、半月板損傷である可能性が高いです。
- 膝の曲げ伸ばしで膝の内側に痛みや引っかかり感がある
- 膝が腫れて水が溜まっている
- 急に膝が固まって曲げ伸ばしが行えなくなる
次に変形性膝関節症は、軟骨のすり減りにより膝の内側に痛みが生じる病気です。徐々に進行する病気なので、治療をせずにいると変形が加速してしまいます。
また、変形により膝の曲げ伸ばしがうまくできず、痛みで歩行ができなくなることも少なくありません。
以下の症状が見られる方は、変形性膝関節症である可能性が高いです。
- 歩き初めなどの動きはじめで膝の内側の痛みが出る
- 膝が曲がりきらず正座ができない
- 階段の上り下りができない
参考記事:【膝の内側の痛み】4つの原因の見分け方と対処法をわかりやすく解説
参考記事:【半月板損傷】膝のロッキングを自分で治すのは危険?適切な治療方法を解説
膝の裏側の痛み:筋肉の硬さによる影響
膝の裏側には「ハムストリングス」や「腓腹筋(ひふくきん)」、「ヒラメ筋」と呼ばれるさまざまな筋肉がついています。それら筋肉が何らかの原因で硬くなっている場合に、膝の裏の痛みや膝をうまく伸ばせないなどの症状として出現することがあります。
以下の症状が見られる方は、筋肉の硬さによる影響である可能性が高いです。
- 階段の下りのみで膝の裏側に痛みが出る
- 膝を伸ばそうとすると膝の裏に違和感を覚える
参考記事:膝裏が痛いのはなぜ?痛みや腫れの原因と自分で行える治し方(ストレッチ等)を解説
膝の外側の痛み:腸脛靭帯炎
腸脛靭帯(ちょうけいじんたい)とは、大腿骨から膝の外側を通って脛骨上部までに位置する靭帯です。ランニングなど膝の曲げ伸ばしを繰り返すことで、腸脛靭帯は大腿骨の上を前後に動きます。
その際に、骨と靭帯の間に摩擦が生じ、炎症を起こしてしまう状態が腸脛靭帯炎です。ランニングやロードバイクをする人の発症が多いため、別名「ランナー膝」とも呼ばれています。
以下の症状が見られる方は、腸脛靭帯炎による影響である可能性が高いです。
- 運動後に膝の外側に痛みが出たが、休むと痛みが消える
- 普段あまり運動をしないが、急に負荷の大きい運動をして膝の外側に痛みが出る
参考記事:【膝の外側が痛い】痛みの原因とストレッチなどの対処法について詳しく解説!
膝を伸ばすと痛みが出る場合に効果的なストレッチを解説!
ご自身の痛みに当てはまる症状は見つかったでしょうか?
万が一、膝に腫れや熱が見られる場合は、炎症症状を抑えることが最優先になります。痛みの強いうちは無理な運動を避け、アイシングを行い炎症症状を抑えましょう。
またここからは、身体に負担かけずに行うことができる、膝の痛みに効果的なストレッチを解説します。ぜひ痛みのない範囲で試してみてくださいね。
膝蓋下脂肪体モビライゼーション
膝蓋下脂肪帯の硬さが原因でお皿の下に痛みが生じる方向けの運動です。膝蓋下脂肪帯を柔くできれば、膝を伸ばした際に組織をスムーズに動かすことができ痛みの軽減につながります。
とくにお皿の下に痛みが見られる方は試してみてください
STEP1:片足を伸ばし膝のお皿の下をつまみましょう
STEP2:もう一方の手で膝のお皿をつまみましょう
STEP3:つまんだ手を左右反対方向へ動かしましょう
STEP4:痛みのない範囲で繰り返し動かしましょう
※膝を完全に伸ばせず、膝の裏と床に隙間ができるようであれば、丸めたタオルを入れると楽な姿勢がとれます。
※モビライゼーションとはマッサージと同じ意味です。
膝蓋骨モビライゼーション
本来、膝蓋骨は膝の曲げ伸ばしに伴い上下方向へ柔軟に動いています。しかし、膝蓋骨に付着するさまざまな組織が硬くなることで動きが制限されてしまい、結果として膝蓋骨周囲の痛みを招いてしまいます。
膝蓋骨のマッサージを行うことで周囲の組織を柔らかくし、痛みを改善させましょう。
STEP1:片足を伸ばし両手で膝のお皿をつまみましょう
STEP2:お皿を左右交互に動かしましょう
STEP3:お皿を上下交互に動かしましょう
STEP4:痛みのない範囲で繰り返し動かしましょう
※膝を完全に伸ばせず、膝の裏と床に隙間ができるようであれば、丸めたタオルを入れると楽な姿勢がとれます。
※モビライゼーションとはマッサージと同じ意味です。
腓腹筋ストレッチ
膝を伸ばすと痛い場合は、可動域にも問題があり、完全に膝を伸ばすことができない方が多いです。膝の裏側には腓腹筋やヒラメ筋といった筋肉が走行しているため、ここの筋肉を柔らかくすることで膝の伸展可動域を改善させることができます。
STEP1:壁に手をつきましょう
STEP2:足を大きく前方に開きましょう
STEP3:前方の足に体重を乗せましょう
STEP4:ふくらはぎが伸びた状態を保持しましょう
STEP5:ゆっくりと戻しましょう
STEP6:繰り返し実施しましょう
※踵が床から離れないように注意しましょう
タオルつぶし運動
大腿四頭筋の筋力低下は、変形性膝関節症をはじめとする膝関節疾患を進行させる1)と言われています。炎症が落ち着き痛みが軽減してきたら、比較的膝関節に負担のかからないこちらの運動を始めましょう。
STEP1:片膝を伸ばして座りましょう
STEP2:膝の裏にタオルを入れて膝を伸ばします
STEP3:膝裏でタオルを潰すように太ももに力を入れます
STEP4:数秒間力を入れ繰り返し実施します
STEP5:お皿を上に持ち上げるように意識します
※なるべく姿勢は正して行いましょう
大腿筋膜張筋ストレッチ
腸脛靭帯炎が疑われる方には、大腿筋膜張筋(だいたいきんまくちょうきん)のストレッチがおすすめです。
腸脛靭帯はお尻にある大殿筋(だいでんきん)や大腿筋膜張筋とつながっていて、それらの筋肉が働くことで腸脛靭帯が緊張します。ストレッチにより靭帯の緊張を緩和させ、痛みのある部分へのストレスを減らしましょう。
ランニングやウォーキングなどの有酸素運動の前後に実施することで、ケガの予防に効果的です。
STEP1:壁に両手をつきましょう
STEP2:片足を斜め前方へ出しましょう
STEP3:お尻を側方へ移動させましょう
STEP4:元の姿勢に戻りましょう
STEP5:股関節の外側が伸びた状態を保持しましょう
膝を伸ばすと痛みが出るのを予防するには?
膝の痛みの原因はさまざまですが、軽い症状であれば日々の生活を意識するだけで予防できるものもあります。以下の3つのポイントを抑えて、膝の痛みを予防しましょう。
過度な体重には要注意
成人の過度な体重増加は膝関節の痛みやこわばりに影響し、手術が必要となる可能性も増加する2)と言われています。また、肥満体型であるとさらに関節部に負担がかかり、O脚が進んでしまいます。膝への負担を軽減させるために、適切な体重を保てるようコントロールしましょう。
体重コントロールのためには、「食事」と「運動」の2つのアプローチが重要です。
食事:カロリーを抑えつつ、必要な栄養素をバランスよく摂取しましょう。特に「ビタミン」や「ミネラル」などを含む代謝を向上させる食材がおすすめです。また、同じ食事量であっても急がずしっかりと噛むことで、満腹感を得られます。
運動:体重コントロールのためには、運動も必要不可欠です。ただし、急な運動や膝に負担のかかるハードな運動をすることで、痛みが悪化することも。ウォーキングや水泳などの有酸素運動3)や、関節運動を伴わない筋トレなど痛みの生じないメニューを選択しましょう。
体重を支える筋肉を強化
先述した通り、膝の痛みを改善させるためには体重を支える大腿四頭筋の強化が必要4)です。
痛みがある時はどうしても活動量が減ってしまいますが、過度な休養は筋力低下を引き起こしてしまいます。そのため、無理のない範囲で可能な運動を続けましょう。
先ほど紹介した「タオルつぶし運動」は荷重がかからず、関節運動を伴わないため膝の痛みを感じにくい運動の1つですよ。
ストレッチを習慣化し筋肉を柔らかくしよう
スムーズな膝の動きには、筋肉の柔軟性が重要です。とくに、高齢者の方や運動不足の方は毎日のストレッチを習慣化しましょう。
ストレッチの目的は、筋肉を伸ばして動きやすくすることであるため、膝に過剰な負担がかかることはありません。筋力トレーニングや有酸素運動の準備運動としてもおすすめです。
しかし、仕事や家事を行いながらストレッチを毎日続けることはとても大変ですよね。毎日続けるためには、時間と場所を決めることが大切です。
たとえば、「お風呂上がりにリビングで」や「運動前後にトレーニングルームで」などと決めて、ストレッチを習慣化しましょう。1週間、1ヶ月と続けば効果が実感できるはずです。
膝を伸ばすと痛みが出る場合は何科を受診するのが適切?
今回説明したストレッチやトレーニングを行っても、膝の痛みが変わらないようであれば、早急に整形外科に受診することをおすすめします。レントゲンやMRI、エコーなどで検査をすることで痛みの原因が明確になるでしょう。
膝の病気やケガは早期に適切な治療を行うことで、症状の進行を防ぐことができます。しかし、治療を行わずに放置すると症状が進行し痛みで歩けなくなったり、手術が必要となったりする可能性も。
もし、下記のような症状に心当たりがあれば、整形外科の医師に相談してみましょう。
- 歩けないほどの痛みがある
- 正座やあぐらができない
- 膝に水が溜まって腫れている
まとめ
今回の記事では、膝を伸ばすと痛い場合の原因と対処法を紹介しました。
膝の痛みは筋力低下や筋肉の硬さ、オーバーワークにより生じることが多いです。症状によっては膝の曲げ伸ばしができない、歩けないというケースも。
まずはご自身の症状に合わせて適切なストレッチや筋トレ、体重コントロールを行い、膝への負担を軽減させましょう。
本記事があなたの痛みの改善にお役立ていただけますと幸いです。
参考文献
1)Bahram Mohajer, Mahsa Dolatshahi, Kamyar Moradi, Nima Najafzadeh, John Eng et al.Role of Thigh Muscle Changes in Knee Osteoarthritis Outcomes: Osteoarthritis Initiative Data.Multicenter Study.2020;305:770-169-178.
2)P Solanki, S M Hussain, J Abidi, J Cheng, J L Fairley, M J Page, F M Cicuttini, A E Wluka et al.Association between weight gain and knee osteoarthritis: a systematic review.2023 ;31:300-316.
3)変形性膝関節症の管理に関するOARSI勧告 OARSIによるエビデンスに基づくエキスパートコンセンサスガイドライン.日本内科学会雑誌第106巻第1号.