「突然、足の付け根が内側だけズキッと痛む」「歩くたびに片側が引きつる感じがする」
そんな不調を感じたことはありませんか?一見ささいな違和感でも、足の付け根の痛みには見逃してはいけない身体のサインが隠れていることがあります。
特に女性に多く見られるこの症状は、筋肉や関節の問題だけでなく、婦人科系疾患が関与している可能性もあるため注意が必要です。
本記事では、「足の付け根が内側だけ痛い」という症状の背景にある代表的な5つの原因について、体の構造や性別特有の問題を交えながら解説します。痛みの種類や部位から、自分の症状に当てはまるケースを把握し、適切な対処へとつなげるための第一歩としてご活用ください。
足の付け根の内側が急に痛むのはなぜ?考えられる原因を解説
突然足の付け根が痛くなったとき、最初に思い浮かぶのは筋肉痛や軽いケガかもしれません。しかし実際には、筋肉の損傷だけでなく、神経、リンパ節、内臓疾患など多岐にわたる原因が存在します。特に女性の場合は、ホルモンや骨盤の影響が関係することも少なくありません。
ここでは、足の付け根の内側が痛む際に考えられる代表的な5つの原因を順に見ていきましょう。
筋肉や腱の損傷による痛み
日常の動作や運動中のちょっとした動きで、内転筋や腸腰筋といった股関節周囲の筋肉が過度に伸ばされて損傷することがあります。特に運動不足の人が突然ストレッチをしたり、荷物を持ち上げたときなどに起こりやすく、痛みは片側に集中しやすいのが特徴です。
腱や筋膜の炎症が起こると、歩くたびに鈍い痛みが続いたり、立ち上がるときにズキンとした鋭い痛みが出たりします。数日安静にしても改善しない場合は、整形外科での診察が必要です。
リンパの腫れ・詰まりが影響している場合
足の付け根、特に内側には「鼠径リンパ節」というリンパの集まるポイントがあります。ここが風邪やウイルス感染、生理周期などの影響で腫れると、押すと痛む・違和感があるといった症状が現れます。
また、長時間のデスクワークや立ち仕事で血流やリンパの流れが滞ると、足のむくみやリンパの詰まりによる痛みが発生することもあります。リンパの腫れが長期間引かない場合には、内科や婦人科での検査を受けることが望ましいです。
鼠径ヘルニアの可能性
腹部の臓器が鼠径部(足の付け根のあたり)からはみ出す「鼠径ヘルニア」も痛みの原因になります。男性に多いと思われがちですが、出産経験のある女性や高齢の女性にも見られます。
押すと痛みがあり、立ち上がったときに膨らみが出てくることが特徴で、場合によっては脱腸のように見えることも。放置すると腸閉塞などのリスクを伴うため、違和感を感じたらすぐに医師の診察を受けましょう。
婦人科系の疾患(子宮・卵巣)に伴う関連痛
子宮内膜症や卵巣嚢腫といった婦人科疾患は、直接的に骨盤周囲に痛みを引き起こすだけでなく、神経を介して足の付け根の内側に関連痛として現れることがあります。
このような痛みは、生理前後や排卵期に悪化しやすく、「じわじわ続く鈍痛」や「片側だけが周期的に痛む」といった特徴がある場合には、婦人科での検査が勧められます。
股関節の炎症や変形性股関節症
股関節自体に問題がある場合も、足の付け根に強い痛みを感じます。中でも女性に多いのが「変形性股関節症」。これは関節の軟骨がすり減ることで炎症が起こり、関節の動きが制限されていく疾患です。
歩き始めや立ち上がりのときに痛みが走ったり、股関節を回す動きに引っかかりを感じる場合は注意が必要です。初期には違和感程度でも、徐々に進行して日常生活に支障をきたすため、早期の対策が大切です。
参考記事:変形性股関節症でやってはいけないことは?生活での注意点やストレッチ方法も解説
足の付け根の内側が痛むときに現れるその他の症状とは
足の付け根の痛みは、それ単独で現れるとは限りません。周囲の関節や筋肉、神経と密接につながっているため、他の部位にも不快な症状が広がることがあります。
また、動かしたときの反応や痛みの種類によって、原因をある程度推測できるケースもあります。ここでは、足の付け根の内側に痛みが出た際に併発しやすいその他の症状について解説します。
歩くとズキッとする・可動域が狭まる
足の付け根の痛みがあると、普段何気なく行っている「歩く」「立ち上がる」といった動作が困難になることがあります。特に歩行時にズキッとする痛みが走る場合、股関節周囲の炎症や関節内の摩擦が強くなっていることが考えられます。
また、股関節の可動域が狭くなり、足を大きく前に出せない、段差を越えるのがつらいなどの違和感を感じた場合、変形性股関節症の初期症状や関節包炎の可能性も否定できません。痛みが続くほど関節の動きが制限されるため、早期の対応が重要です。
足を内側にひねると痛みが出る
何気なく足をひねったとき、または靴下を履くような動作で痛みが強くなる場合は、股関節の内旋動作に関連する筋肉や関節の異常が関係していることがあります。これは、内転筋の緊張や腸腰筋の炎症、股関節の滑膜炎などが関与している可能性があります。
特に、座った状態から足を内側に動かしてみて痛みが出るようなら、関節内部に軽い炎症が起きているサインかもしれません。日常生活で痛みを再現できる動作がある場合は、動作をメモして医療機関での説明材料にしましょう。
痛みが片側だけで繰り返す場合
足の付け根の痛みがいつも同じ片側だけに出る場合は、体の使い方や筋力のアンバランスが原因となっていることがよくあります。たとえば、片方の足に重心をかける癖がある、骨盤にゆがみがあるなど、無意識の生活習慣が痛みを引き起こしていることも。
また、痛みが周期的に現れる場合は、婦人科系の影響や自律神経の乱れも視野に入れる必要があります。慢性的に片側の痛みが続いているときは、整形外科とともに婦人科でのチェックもおすすめです。
女性に多い足の付け根の痛み、その原因は?
足の付け根の痛みは、性別によって原因が異なることもあります。特に女性は、ホルモンの変動、妊娠・出産、更年期など、ライフステージごとに体の変化が大きいため、特有の要因で痛みが起きやすい傾向があります。ここでは、女性に特に多いとされる足の付け根の痛みの原因を解説します。
女性特有のホルモンバランスの乱れ
月経周期に伴って女性ホルモンが変動すると、自律神経や血流、筋肉の緊張度にも影響を与えます。その結果、足の付け根や骨盤周囲に違和感や痛みを感じることがあります。特に排卵期や月経前は、プロゲステロンというホルモンの影響でむくみや筋肉のこわばりが起こりやすく、股関節周囲が重だるく感じることも。
ホルモンバランスの変化による痛みは慢性化しやすいため、生活リズムの見直しや、ストレスケアも対策の一部になります。
更年期による筋肉や関節の不調
40代後半から50代にかけて訪れる更年期は、女性ホルモン(エストロゲン)の急激な減少により、骨や関節、筋肉の機能が低下しやすくなります。これにより、股関節や足の付け根まわりに痛みや違和感を覚える方が増えてきます。
また、更年期は筋肉量も落ちやすいため、姿勢の崩れや体のゆがみにもつながりやすく、結果として一方の足だけに負担がかかって片側の痛みが強く出ることもあります。対策としては、適度な運動やカルシウムの摂取、ホルモン補充療法などが挙げられます。
妊娠・出産による骨盤のゆがみ
妊娠中、体はリラキシンというホルモンの影響で靱帯がゆるみ、骨盤が開いて赤ちゃんを支える体勢になります。この変化が出産後も戻りきらず、骨盤のゆがみとして残ると、足の付け根や腰、背中などに痛みを引き起こすことがあります。
特に育児中は、片手抱っこや無理な姿勢が続くことで左右のバランスが崩れ、片側の足の付け根に集中して負荷がかかることも。産後の骨盤ケアや専門的なストレッチで、ゆがみを改善することが大切です。
急な痛みにどう対応すればいい?応急処置と自宅ケア方法
突然、足の付け根に鋭い痛みを感じたとき、どのように対応すればよいか迷う方も多いはずです。
痛みの強さや続く期間によって対処方法は異なりますが、まずは症状を悪化させないための初期対応が非常に重要です。このセクションでは、自宅でできる応急処置から、医療機関に相談すべき判断基準までを丁寧にご紹介します。
安静・冷却・市販薬での初期対応
まず行うべきは「痛みを悪化させないこと」です。無理に動かすと炎症が広がり、症状が長引く原因になります。可能であれば患部に負担がかからないよう姿勢を整え、安静にしましょう。
痛みや腫れがある場合は、保冷剤や氷のうなどで軽く冷やすことで炎症を抑えることができます。1回15〜20分を目安に、皮膚にタオルなどを挟んで行うと安全です。また、痛みが強くて日常生活に支障が出るようなら、ロキソニンやイブなどの市販の消炎鎮痛剤を使用してもよいでしょう。
ただし、冷やしすぎや長期的な薬の使用は逆効果になることもあるため、あくまで短期的な応急処置として考えてください。
ストレッチや軽めの運動の注意点
痛みが落ち着いてきたら、関節の柔軟性を保つために軽めのストレッチを始めても良いタイミングです。ただし、痛みが完全に引く前に無理をして動かすと、再び炎症が起きることもあります。
特に股関節まわりは可動域が広く、無理な角度や反動のある動きは危険です。ゆっくりとした呼吸とともに、筋肉を伸ばすことを意識して行いましょう。正しい姿勢で行うことが大切なので、不安な場合は理学療法士や専門家の指導を受けるのが安全です。
痛みが強いときに病院へ行く目安
以下のような場合は、早めに整形外科や婦人科での診察を受けることをおすすめします。
- 何日も痛みが引かない
- 歩くのが困難なほど痛い
- 熱感や腫れが強い
- 股関節を動かすたびに激痛が走る
- 生理周期に合わせて強い痛みが繰り返される
これらは単なる筋肉の疲労ではなく、関節や内臓に関わる病気の可能性があるサインです。適切な診断と早期の治療によって、長引く不調を防ぐことができます。
自宅でできるセルフストレッチ|痛み予防と再発防止に
足の付け根の痛みを繰り返さないためには、普段から筋肉や関節の柔軟性を保つことが重要です。
特に内転筋や股関節まわりの筋肉は、柔軟性が低下すると姿勢が崩れ、負担が偏りやすくなります。このセクションでは、自宅でも無理なく行えるセルフストレッチを3つご紹介します。どれも簡単にできるものばかりなので、ぜひ日常に取り入れてみてください。
内転筋をゆるめるストレッチ
内ももにある「内転筋群」は、足を閉じる・踏ん張るといった動作に深く関与しています。この筋肉が硬くなると、足の付け根の内側に緊張が集中し、痛みを引き起こす原因となります。
股関節内転筋ストレッチ
STEP1:両足の足底を合わせましょう。
STEP2:肘を太ももに当て、体を前方へ傾けましょう。太ももが伸びた状態を保持します。
STEP3:元の姿勢に戻りましょう。
強く押し込まず、「気持ちよく伸びる範囲」で行うことがコツです。内ももがゆるむと股関節の動きもスムーズになります。
鼠径部・股関節の柔軟性を高める運動
鼠径部(足の付け根)や股関節の前側をゆるめることで、骨盤の前傾や姿勢の崩れを防げます。長時間のデスクワークで固まりやすい部分なので、こまめなケアが効果的です。
腸腰筋ストレッチ
STEP1:膝立ちの状態で片足を大きく前に出しましょう。
STEP2:踏み出した足に体重をのせ、後方の股関節の付け根を伸ばします。数秒間姿勢を保持しましょう。
STEP3:ゆっくりと元の姿勢に戻りましょう。
注意点:腰を反らないように注意しましょう。
毎日できる簡単なセルフケア
痛みを予防するためには、日常生活の中でできる「ながらケア」も有効です。たとえば、テレビを見ながら内ももを押してほぐしたり、お風呂あがりに軽くストレッチを取り入れるだけでも筋肉の緊張は和らぎます。
また、骨盤を支える「体幹筋(インナーマッスル)」を鍛えることも、足の付け根への負担を減らす上で非常に有効です。ドローイン(お腹をへこませる深呼吸)や骨盤の前後スイングなど、簡単な運動を習慣にすることで再発リスクを大きく下げることができます。
まとめ
足の付け根の内側が突然痛くなる原因は、筋肉や関節の問題だけでなく、リンパや婦人科系の疾患など多岐にわたります。
特に女性はホルモンバランスや骨盤の影響を受けやすく、痛みを感じやすい傾向があります。応急処置としては安静や冷却、市販薬が有効で、症状が続く場合は早めの受診が大切です。
予防には日常的なストレッチやセルフケアが効果的なので、痛みを繰り返さないためにも、体と向き合う時間を持つことをおすすめします。
【参考文献】
1)Altman R, Alarcón G, Appelrouth D, Bloch D, Borenstein D, Brandt K, Brown C, Cooke TD, Daniel W, Feldman D, et al. The American College of Rheumatology criteria for the classification and reporting of osteoarthritis of the hip. Arthritis Rheum. 1991 May;34(5):505-14. doi: 10.1002/art.1780340502. PMID: 2025304.
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