背中が痛む病気は多岐にわたりますが、痛みの現れ方や痛む部位が異なります。
肩から腰にかけて広範囲にわたり痛みが出るケースもあれば、背骨近くがピンポイントで痛むケースもあります。あるいは背中の片側が痛んだり、痛み以外の症状が現れたりするケースも。
こういった痛み方の違いが、原因を見分けるための判断材料になるでしょう。
そこで当記事では、背中や背骨が痛む原因を「痛みが現れる範囲」で分けて解説します。
最後まで目を通すことで、あなたの背中がなぜ痛むのか見当がつけやすくなるはずです。ぜひ参考にしてみてください。
背中の広範囲に痛み・しびれが出る病気
最初に、背中全体に広く痛みが出る病気について解説します。ご自身の背中の痛みと照らし合わせてみましょう。
なお、以下の項目より解説しているのはあくまで一例で、他にも該当する疾患はあります。
したがって、正確な原因を知るには病院への受診が必須なので、あらかじめ把握しておいてください。
椎間板ヘルニア(頚椎・胸椎・腰椎)
背中の広範囲にわたって痛みが広がり、手足のしびれも伴う疾患が「椎間板(ついかんばん)ヘルニア」です。
人間の背骨(脊椎)は、椎体(ついたい)が重なり形成されます。そして、椎体と椎体の間に挟まりクッションの役割をする椎間板(ついかんばん)が変形し神経を圧迫することでヘルニアが起こります。
椎間板ヘルニアは、発症する部位に応じて「頚椎(けいつい)椎間板ヘルニア」「胸椎(きょうつい)椎間板ヘルニア」「腰椎(ようつい)椎間板ヘルニア」に分類されるのでおさえておきましょう。
椎間板ヘルニアの主な原因は、「姿勢の悪さ」「スポーツや重労働による背骨の負荷」「喫煙」「加齢」などです。また腰椎椎間板ヘルニアの場合、「肥満」も関係してきます。
背中の痛みに加え、手や脚がピリピリとしびれる場合は、椎間板ヘルニアかもしれないとお考えください。
参考記事:腰椎椎間板ヘルニアとは?痛みを和らげる方法をわかりやすく解説!
ぎっくり背中
背中に急に痛みが現れるのが「ぎっくり背中」です。正式には「筋筋膜性疼痛症候群(きんきんまくせいとうつうしょうこうぐん)」という名称が付いています。
背中の筋膜が傷つくことで炎症が起こり、背中全体に痛みが広がります。なお、筋膜の損傷が大きいと、手足のしびれが現れるケースがあるので注意してください。
ぎっくり背中の主な原因は「運動不足」「姿勢の崩れ」「疲労の蓄積」「重い物を持った」などです。
もし、「背中に寝違えたような痛みが急に現れた」「身体を伸ばしたり捻ったりした際に痛みが現れた」といった場合は、ぎっくり背中の可能性を考えましょう。
参考記事:ぎっくり背中の治し方は?どうしたら楽になるの?原因と対処法について専門家が解説!
背骨の周辺にピンポイントで痛みが出る病気
続いて、背骨の周辺にピンポイントで痛みが現れる病気について解説します。
骨そのものには痛覚はなく、筋肉のように疲れて凝ることもありません。
したがって背骨の1箇所だけが痛むという場合、「背骨の変形・炎症」「背骨に付く靭帯が痛む」などが考えられます。
では見ていきましょう。
椎間関節症
まず考えられるのが、背骨の椎体と椎体が構成する椎間関節(ついかんかんせつ)に炎症や変形が起こる「椎間関節症」です。
椎間関節症では、肩甲骨の間(胸椎)や、腰に該当する背骨(腰椎)の近くにピンポイントで痛みが現れます。特に「身体を反った際に痛みが現れる」のが特徴です。
椎間関節症は「加齢」「運動や労働による負荷の蓄積」などによって起こるほか、「産後」に発症するケースもあります。
参考記事:【症状別】腰を反らすと痛い場合の対処法を3分で解説
棘上靭帯炎
先ほどから度々お話ししている、背骨を構成する椎体の後方(背中側)には、「棘突起(きょくとっき)」という部位があります。
なお、棘突起は体表から触れることが可能です。背中の中央の膨らみが棘突起に該当します。
この棘突起をつなぐ「棘上靭帯(きょくじょうじんたい)」が炎症を起こすことで痛みを生じるのが「棘上靭帯炎」です。
「悪い姿勢」や「スポーツ・労働による身体の酷使」が発症の要因になります。
もし、「背骨の真ん中が痛む」という場合は、棘上靭帯炎かもしれません。
骨折
そのほか、背骨周辺がピンポイントで痛むケースとしては「背骨の骨折」が考えられます。
「転倒して背中を打った」や「壁などに背中を強くぶつけた」といった際に、背骨が折れたりヒビが入ったりする場合があります。
また、骨粗しょう症(骨の強度が低下する病気)が原因で発症する「脊椎圧迫骨折(せきついあっぱくこっせつ)」では、これといった衝撃がなくても背骨の骨折が起こり得るので注意が必要です。
したがって、身体を酷使しておらず疲れてもいないのに、急に背骨が痛くなった時は骨折の可能性を考えましょう。
参考記事:骨折を早く治す方法とは?骨折が治るしくみや治癒に必要な期間について解説
【要注意】背中の片側が痛む・痛み以外の症状も複数現れる病気
背中が痛む場合、特に注意を要するのが内臓や細胞、血液などに関係する疾患です。
以下のような疾患には注意が必要だといえます。
- 多発性骨髄腫(たはつせいこつずいしゅ)
- 椎体関節炎症(ついたいかんせつえんしょう)
- 狭心症(きょうしんしょう)
- 胆石症(たんせきしょう)
- 腎盂腎炎(じんうじんえん)
- 十二指腸潰瘍(じゅうにしちょうかいよう)
こういった病気の診断は病院でしかできません。個人で見分けることは不可能です。
とはいえ、「貧血」「息切れ」「食欲不振」「排尿時の痛み」「発熱」など、背中の痛みやしびれ以外の症状が見られる場合は要注意だと認識してください。
なお、内臓の病気が原因の場合、背中の片側に痛みが現れるケースがあります。
参考記事:背中の左側が痛いのは内臓の病気かも?考えられる原因と対処方法を解説
参考記事:背中の右側の痛みは内臓が原因!?考えられる原因と適切な対処法
放置は禁物!まずは病院の受診が最優先
繰り返しお伝えしているように、痛みの原因を正確に知るには病院を受診する必要があります。よって背中の痛みの程度にかかわらず、できるだけ早く病院で診察を受けてください。
背中が痛む原因が特定できれば、具体的な対処法がわかります。
なお、何科に行けばよいか分からない場合は、まず「整形外科」もしくは「内科」を受診するのがおすすめです。
背中・背骨の痛みに効くセルフケアを紹介
ではここから、背中や背骨の痛み緩和に有効なセルフケアを紹介します。
ストレッチや筋トレなどのエクササイズから日常生活で心がけるポイントまで、どれもすぐに始められるので、ぜひ取り入れてみてください。
ただし、痛みの原因によっては思うような効果が得られない場合もあります。また、効果が出るまではある程度時間がかかるので、把握のうえでご覧ください。
痛みが強いうちは安静にする
背中の痛みが強いうちは、安静に過ごすことを心がけましょう。無理に動かすと痛みが悪化する可能性があります。
通勤中や仕事中なども、背中に響かないように慎重に動く必要があるかもしれません。
また就寝時は、できるだけ仰向けの姿勢で眠ることを心がけてみてください。うつ伏せは背中への負担が大きくなるのでおすすめしません。
あわせて、背中の下の方(腰のあたり)が痛む場合は、膝下にクッションを挟むのも有効です。
ほかには、背中用サポーターの着用も検討する価値があるでしょう。ただし、どうしてもかさばるので、普段の生活に支障がないか確認したうえで購入してみてください。
参考記事:腰が痛い時の寝方とは?腰の痛み別に正しい寝姿勢を紹介
「冷やす」or「温める」
背中を冷やしたり温めたりするのも効果的です。
背中の痛みが強いうちは、炎症をおさえるために、痛む部位を冷やすように心がけてみてください。なお冷却効果の面から、冷湿布よりも氷嚢(氷を入れる袋)を当てる方がおすすめです。
そして、痛みが引いてきた段階で今度は背中を温めましょう。血流改善が期待できます。
温める際は、ホットパックや温シャワーを用いるのがおすすめです。
ゆっくりとストレッチする
無理のない範囲でエクササイズを行うのも大切です。特に「ストレッチ」は効果的だといえます。
ストレッチを行うことで背中の血流が良くなったり背骨の動きがスムーズになったりするので、痛みの早期改善が期待できるでしょう。
痛みの様子に合わせた、おすすめストレッチを紹介します。
痛みが強い時期におすすめなのは「ヒップロール」です。
STEP2:両膝を閉じたまま片側へ倒します
STEP3:元の姿勢に戻ります
※腰の筋肉の伸びを感じながら実施してみてください
※肩が床から離れないように注意しましょう
こちらのストレッチを行うことで、「脊柱起立筋(せきちゅうきりつきん)」が柔らかくなります。背中を大きく動かさずに行えるメリットがあります。
背中の痛みが減り動かせるようになったら、「胸郭回旋運動(きょうかくかいせんうんどう)」を実施しましょう。
STEP2:両手を伸ばして合わせましょう
STEP3:上半身を捻り片手を反対側の床につけます
STEP4:元の姿勢に戻ります
※背中をしっかりと捻りましょう
※膝が床から離れないように注意してみてください
適度な筋力トレーニングを行う
痛みの原因によっては、背中の筋力トレーニングが効果的です。
背中の筋肉を鍛えることで、血流が良くなったり背中の安定感が増したりするので痛みの改善につながります。
ただし、無理は禁物です。痛みが強いうちは無理に行うべきではありません。また器具を使った筋トレでは負荷を調節するのが難しいです。
そこで、無理なく行えるおすすめの筋トレを紹介します。
「胸郭回旋運動(正座)」です。
STEP2:片手を頭の後ろに回します
STEP3:肘を外側に開きながら上半身を捻りましょう
STEP4:肘を内側へ閉じます
※目線は肘の方向へ向けましょう
姿勢を整えて負担を減らす
背中の筋肉や背骨に負荷がかかる要因の1つが、悪い姿勢です。電車のつり革につかまっているときや、オフィスで作業しているときの姿勢を見直してみましょう。
例えば、背中が丸まった「猫背」や、背中が反りすぎた「反り腰」、首が前に出過ぎた「ストレートネック」は背中の緊張を生み、痛みの発症につながります。
したがって、姿勢の矯正が大切だといえます。
すぐできるのが「頭の位置」を意識する方法です。頭を後ろに引きながら、肩と耳が縦に一直線に並ぶように心がけてみましょう。
これだけで重心がニュートラルな位置に乗り、背中への負担が少ない正しい姿勢になります。ぜひ試してみてください。
参考記事:猫背を治す方法とは?姿勢改善にオススメのストレッチ・筋トレを詳しく紹介!
参考記事:反り腰を改善!原因から治し方を簡単なストレッチをまじえ解説
参考記事:首が前に出る姿勢(ストレートネック)の原因は?ストレッチや筋トレでの治し方を解説
まとめ
仕事中や就寝時など、背中に現れる痛みは日常生活に影響しやすいです。早く改善できればそれに越したことはないでしょう。
背中の痛みは多種多様で、見分けがつきにくいのも事実。ですが、本文で紹介したように「痛みが出る範囲」「痛み方」で、原因について推測できる部分もあります。
もちろん、まずは病院の受診が最優先です。そのうえで、日常生活での姿勢に気をつけながらストレッチや筋トレを続け、背中の痛みの早期改善に取り組んでみてください。
それでは当記事が、あなたの悩みを改善する手助けになれば幸いです。
【参考文献】
1)腰椎椎間板ヘルニア診療ガイドライン策定委員会:腰椎椎間板ヘルニア診療ガイドライン改訂第 3 版
2)公益社団法人 日本整形外科学会:「胸椎椎間板ヘルニア」
3)日本ペインクリニック学会:Ⅳ D 筋・筋膜性疼痛症候群
4)田中 寿人, 笠原 貴紀, 秋山 菜奈絵:腰部椎体後方支柱におけるMRI脂肪抑制画像での高輝度変化の検討
5)山下 敏彦:椎間関節性腰痛の基礎
6)高橋 和久:腰椎椎間関節障害
7)一般社団法人 日本骨折治療学会:骨粗鬆症による脊椎圧迫骨折
8)国立研究開発法人 国立がん研究センター:多発性骨髄腫の病気について
9)日本リウマチ学会:脊椎関節炎(SpA)