スポーツ中や日常生活におけるとっさの動きで発生する可能性のあるケガが「アキレス腱断裂」です。
アキレス腱を断裂してしまうと、手術をしてもスポーツ復帰までに半年ほどかかると言われています。
完全に防げるものではありませんが、断裂の前兆が出ている段階でしっかり対策しておきたいですよね。
そこで本記事では、アキレス腱断裂につながり得る危険な症状を解説しています。
また、断裂を防止するためのセルフケアも紹介していますので、アキレス腱に不安をお持ちの方はぜひ参考にしてみてください。
【基礎知識】アキレス腱断裂とは?
アキレス腱断裂は、その名の通りアキレス腱を断裂してしまうケガになります。
アキレス腱とは、ふくらはぎにある腓腹筋(ひふくきん)とヒラメ筋の腱が合わさってできる腱です。踵(かかと)の骨に付着しており、おもに腓腹筋、ヒラメ筋の働きを足関節に伝えて、足首を底屈(ていくつ:つま先を下に向ける動き)させる役割があります。
ジャンプや地面の蹴り出しなど、ふくらはぎの筋肉が強く収縮したときにアキレス腱が伸ばされ、断裂してしまうおそれがあります。したがって、アキレス腱断裂は、ふくらはぎの筋肉に急激な負荷がかかるスポーツ中に起こるケースがほとんどです。
また年代でみると、中年以降の方にアキレス腱断裂が発生しやすい傾向があります。加齢にともない腱が変性してもろくなってしまうためです。
【要チェック】アキレス腱が切れる前兆を解説
運動中に予兆なく切れてしまう場合もありますが、アキレス腱断裂が起こる前に次のような違和感を覚える方が多いです。
- 寝起きにアキレス腱が固まっている
- 朝の一歩目や動き出しでふくらはぎ、アキレス腱に痛みを感じる
- 反対側の足と比べてアキレス腱が腫れている(コブ上に盛り上がっている)
- つま先立ちしたときにアキレス腱に硬さや違和感がある
アキレス腱断裂は重度のケガとなるため、スポーツ復帰までに長い期間が必要となります。もし上記のような異変を感じる際は、放置せず早めに対処を行っていきましょう。
参考記事:【なぜ?】歩くとアキレス腱が痛い原因とは?関係する足首周辺の症状と対処法を紹介
【要注意】アキレス腱が切れやすい人の特徴
アキレス腱断裂が生じやすい方には、いくつかの特徴があります。以下の項目に当てはまる方は断裂のリスクが高いため、注意を払っておくことをおすすめしています。
激しいスポーツをしている人
普段からハードな運動をしている方は、繰り返しの負荷でアキレス腱に微細な損傷が積み重なり、断裂につながるケースがあります。
ジャンプや蹴り出し動作が多いバドミントン、バレーボール、バスケットボール、サッカー、剣道など、アキレス腱に負担がかかりやすいスポーツは要注意です。
中高年の人
先ほども説明したように、加齢の影響から40〜50代の方にアキレス腱断裂が多くなっています。
アキレス腱の柔軟性と強度が低下していますので、中高年層の方は激しい運動でなくとも、アキレス腱を断裂するおそれがあります。
扁平足の人
足裏のアーチ構造(土踏まず)には、接地時にかかる足への衝撃を緩和する役割があります。
そのため、土踏まずが潰れて扁平足になっている方は、そうでない方と比較してふくらはぎやアキレス腱に強い負担がかかり、断裂を引き起こしやすい傾向があります。
参考記事:扁平足にはどんなデメリットがある?扁平足の原因や自分でできる改善法も解説
【切れるとどうなる?】アキレス腱断裂の症状
アキレス腱が切れた際は、足関節の後方に突然の痛みを感じます。
受傷時の衝撃は「後ろから足首を誰かに蹴られた」「バットで殴られた」などと表現されることが多いです。
また、痛みとともに患部の腫れやへこみを生じる場合があります。
時間が経過して受傷直後の痛みが引いたあとは、歩けるようになる方もいます。しかし、ふくらはぎの筋肉の力が踵に伝わらなくなるため、歩行は可能でもつま先立ちはできなくなることがアキレス腱断裂の特徴になります。
※腓腹筋、ヒラメ筋以外にも足首を動かす筋肉はあるため、アキレス腱が切れても体重を支えたり、地面を蹴り出したりすることはある程度可能です。
アキレス腱断裂を予防するセルフケア
アキレス腱が切れる前兆が出ている方は、次のようなケアを行い事前に断裂を防いでいきましょう。
前兆があるときは運動量を減らす
アキレス腱付近に痛みや硬さを感じる際は、運動量を減らしてなるべくアキレス腱に負担をかけないようにしましょう。症状が緩和するまでは、ふくらはぎの筋肉が強く収縮するジャンプやダッシュ、ランニングのような運動は避けるべきです。
また、患部が腫れている場合は、氷水を当ててアイシングを行うと良いでしょう。冷却により炎症を抑える効果を期待できます。
初期の段階でしっかり安静にできていれば、その分痛みや腫れも早期に改善しやすくなります。
ストレッチでふくらはぎをやわらかくする
痛みの様子をみて、ふくらはぎの筋肉(腓腹筋)をストレッチしましょう。腓腹筋の緊張をゆるめることで、アキレス腱が引っ張られるストレスを緩和できます。
腓腹筋は、足首を背屈(はいくつ:つま先を足の甲側に曲げる動き)することでストレッチを加えられます。簡単にできるストレッチ方法をこのあと解説しますので、ぜひご参照ください。
参考記事:アキレス腱の痛み・腫れ・違和感の原因はアキレス腱炎?適切な対処法をわかりやすく解説!
ウォーミングアップ・クールダウンを入念に行う
スポーツ前には、ウォーミングアップをしっかりと行いましょう。体の柔軟性や連動性を高めたうえで運動を開始することにより、アキレス腱にかかる負担をやわらげられます。
また、運動後にクールダウンを行うと、疲労回復を促すことが可能です。疲れを溜めて筋肉や腱を固くしてしまわないよう、ストレッチやジョギング、マッサージなどで体をほぐしておきましょう。
アキレス腱断裂を予防するおすすめストレッチ・筋トレ
それでは、アキレス腱の断裂を予防するストレッチやトレーニング方法をご紹介します。
痛みが出ている場合は、無理のない範囲で行うように気をつけてください。
セルフマッサージ(アキレス腱)
踵の後面(アキレス腱付近)にある脂肪組織をほぐすマッサージです。アキレス腱の硬さをとり、伸び縮みしやすい状態を作ることで、断裂の防止へとつなげていきます。
STEP2:つまんだ状態で数秒間上下に動かしましょう
STEP3:つまんだ状態で足首を上下に動かしましょう
※痛みのない範囲で実施しましょう
一箇所だけではなく、手の位置を動かしてアキレス腱の広い範囲をほぐしていきましょう。
腓腹筋ストレッチ
ふくらはぎを形作る腓腹筋を伸ばすストレッチです。腓腹筋の柔軟性を高めることで、アキレス腱にかかる負担を軽減できます。
STEP2:ふくらはぎが伸びた状態を数秒間保持しましょう
STEP3:力をゆるめましょう
STEP4:繰り返し実施しましょう
※痛みのない範囲で行いましょう
ふくらはぎの伸びを感じながら行いましょう。痛みや違和感がある側を伸ばしたら、左右のバランスを整えるために反対側の腓腹筋もストレッチしてください。
等尺性足関節底屈運動
等尺性足関節底屈運動(とうしゃくせいそくかんせつていくつうんどう)は、腓腹筋を鍛えるためのトレーニングです。
腓腹筋を鍛えると、運動時にかかる衝撃をふくらはぎで上手く支えられるようになるため、アキレス腱への負担もやわらげられます。
STEP2:右足はつま先を伸ばす方法に力を入れ押し合う(右を鍛えたい場合)
STEP3:ゆっくりと力を抜き、繰り返し実施します
STEP4:足首が動かないように5秒間力を入れます
※足首はなるべく直角のまま実施しましょう
※つま先を伸ばし過ぎないように注意しましょう
片側を10回ほど行ったら、左右のバランスを整えるために反対側も同様に行いましょう。
まとめ
アキレス腱を切ってしまうと、長期間の治療とリハビリが必要になります。
断裂を防ぐためにも、予兆をしっかりとチェックして対策は早めに始めることをおすすめしています。
また、アキレス腱を痛めやすい方は、普段からの予防も大事です。症状が出ているときに限らず、ストレッチやトレーニングなどのセルフケアは日常的に行っておきましょう。
それでは、本記事があなたのお悩みの解決に役立てば幸いです。
【参考文献】
1)Jpn J Rehabil Med 2019;56:796-799:アキレス腱断裂からのスポーツ復帰 寺本篤史
2)日本スポーツ整形外科学会(JSOA) 「スポーツ損傷シリーズ 9.アキレス腱断裂」
3)Ann Ganestam 1, Thomas Kallemose 2, Anders Troelsen 3, Kristoffer Weisskirchner Barfod 3:Increasing incidence of acute Achilles tendon rupture and a noticeable decline in surgical treatment from 1994 to 2013. A nationwide registry study of 33,160 patients