妊娠中はお腹が大きくなるだけでなく、さまざまな身体の変化が起こる時期です。今までにはなかった痛みや不調などのトラブルが出てくる方も多いでしょう。
現在あなたが「お尻の付け根が痛い」「お尻の奥が痛くて歩けない」といった症状に悩んでいる場合、坐骨神経痛(ざこつしんけいつう)が痛みの原因かもしれません。坐骨神経痛は妊娠中に起こりやすいため、妊婦さんはとくに注意が必要です。
そこで当記事では、妊娠中に起こりやすい坐骨神経痛の原因と対処法を解説しています。
本記事を読むことで、あなたに合った最適な対処法が見つかり、坐骨神経痛の緩和にお役立ていただけます。ぜひ最後までご覧ください。
妊娠中に起こりやすい坐骨神経痛とはどんな病気?
坐骨神経痛とは、腰から骨盤内を通り足にかけて走っている「坐骨神経」が原因となって起こる症状です。お尻から太ももの裏、また外側にかけて走るような痛みやしびれが出現することが特徴的です。
坐骨神経が筋肉や背骨(脊柱)などのなんらかの組織により圧迫を受けたり、神経に損傷・炎症が起きたりすることで、坐骨神経痛が発生します。
坐骨神経痛の原因となる代表的な病気は、腰の背骨に関係する腰椎椎間板(ようついついかんばん)ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症(ようぶせきちゅうかんきょうさくしょう)、またお尻の筋肉が関係している梨状筋(りじょうきん)症候群などが挙げられます。
とくに妊娠中は、出産に向けて身体の準備を行うため、骨盤周りの組織が大きく変化する時期です。その結果、骨盤の緩みやズレが起こり、坐骨神経が骨や組織に圧迫され、痛みを引き起こすリスクが増えます1)。
参考記事:【腰から片側の足にかけての痛み】坐骨神経痛の原因と3つの対処法を専門家が解説!
参考記事:【意外と知らない】坐骨神経痛とは?間違える病気と自宅でできるセルフチェック方法を解説
【要注意】妊婦さんに坐骨神経痛が起こりやすいのはなぜ?
坐骨神経痛は妊婦さんでなくても起こり得ますが、とくに妊娠中に起こりやすい原因について具体的に説明します。
ホルモンバランスの変化
妊娠中は、子宮を緩める「リラキシン」というホルモンの分泌量が増えます。
リラキシンは、子宮だけでなく骨盤周りの靭帯にも働くため、結果として骨盤の関節である仙腸関節(せんちょうかんせつ)を緩めてしまいます。
本来であれば、骨盤は靭帯と筋肉により安定していますが、リラキシンの影響で靭帯が緩むと、筋肉(梨状筋)への負担が高まり緊張状態に。その結果、梨状筋(りじょうきん)の下を通っている坐骨神経が圧迫され、坐骨神経痛につながるのです。
リラキシンは妊娠初期に分泌量がピークに達するため、早い段階から坐骨神経痛を訴える方もいるでしょう2)。
参考記事:梨状筋症候群を知り尽くす!原因や症状、痛みを治すストレッチを専門家が紹介
子宮の増大による圧迫
子宮の大きさは妊娠の経過に伴い、妊娠前と比較し20〜30倍にまで大きくなります1)。子宮は坐骨神経の上に位置しているため、子宮が大きくなることで坐骨神経が圧迫され、痛みが出現しているケースも。
また最終的には子宮の重さも、妊娠していない時と比較し約20倍にもなると言われており、臓器を支えている骨盤底筋へ掛かる負担も大きくなります1)。
骨盤底筋は、坐骨神経痛の原因となる梨状筋とつながりがあり、骨盤底筋に対する負荷が高まることで、梨状筋にも同じく負担が掛かり緊張状態に。
よって、緊張状態になった梨状筋に坐骨神経が圧迫され、痛みにつながる可能性があります。
姿勢の変化
妊娠中は、お腹が大きくなることで重心が前上方に移動すると言われています。そして、重心の位置が変わることで、姿勢にも影響を及ぼします。
妊娠中に多い姿勢としては、身体を後ろに倒し骨盤を前に出す姿勢(Sway Back姿勢)や反り腰姿勢です。
本来の正しい姿勢では、背骨はS字状に緩やかな曲線を描いています。しかし骨盤を前に出す姿勢や反り腰姿勢では、背骨のS字の曲線が正しい場所からズレているため、腰の背骨から出ている坐骨神経にも負担が掛かります。
妊娠中に最適な坐骨神経痛を軽減するための対処法
次に、坐骨神経痛が起こってしまった際の対処法について解説します。
坐骨神経痛は、普段の生活環境が大きく影響する症状です。普段の生活で何気なく行なっている動作を少し工夫するだけで、痛みが軽減するかもしれません。
ぜひご自身の生活を思い浮かべながら、読み進めていきましょう。
負担の少ない姿勢で寝る
妊娠後期に入りお腹が大きくなってくると、仰向けで寝ることが難しくなるため、横向きで上の足を前に出す姿勢(シムス位)で寝る方が多いでしょう。
横向きでの寝姿勢は、腰や内臓、血流などの視点から見ると良い姿勢です。しかし同時に、左右の骨盤の位置が乱れやすい姿勢でもあります。
そのため、抱き枕の使用がおすすめです。抱き枕を使用することで、左右の骨盤の位置がズレにくく、坐骨神経の負担も軽減します。
参考記事:腰が痛い時の寝方とは?腰の痛み別に正しい寝姿勢を紹介
正しい姿勢で座る
妊娠中は、座って過ごす時間が増えるかもしれません。またお腹が大きくなるため、椅子の背もたれに寄り掛かるような姿勢で座る方が多い傾向です。
腰が丸くなっている姿勢で座ると、腰の背骨(脊柱)のクッション(椎間板)に圧が掛かり、坐骨神経が圧迫されます。また、骨盤が倒れることで坐骨神経が引っ張られ、痛みにつながる可能性もあります。
そこで以下の点に注意して座ってみましょう。
- 猫背や骨盤の傾きを防ぐために深く腰掛ける
- 足をしっかりと床につけて座る
また、背中にクッションや枕を入れることで、上記のような姿勢で座りやすくなるのでおすすめです。
参考記事:長時間の座り過ぎは要注意!腰痛悪化の原因と対策を紹介
骨盤ベルトを使用する
妊娠中に骨盤ベルトを装着することにより、骨盤の関節(仙腸関節)の緩みが減少すると言われています3)。よって、骨盤の緩みにより坐骨神経痛が起きている場合には、骨盤ベルトを使用するのも一つの方法です。
骨盤ベルトを装着する際は、腰骨(体の前から触った時に出っ張っている骨)の下につけることがポイントです。
ただし、骨盤ベルトに頼りきってしまうとご自身の筋肉で支える力が弱くなってしまうため、筋肉のトレーニングも並行して行なうと良いでしょう。
有酸素運動や筋力トレーニングを行う
妊娠中に有酸素運動や筋力トレーニングを行うことで、坐骨神経痛が軽減すると報告されています。4)
正確なメカニズムはまだわかっていない部分も多々ありますが、有酸素運動を行うことで、痛みの苦痛を抑えるホルモン(βエンドルフィン)が分泌されると言われています4)5)。
体調が良い時は散歩をしたり、医師からの許可が出ていればマタニティ向けのヨガやピラティス、ダンスなどのクラスに参加してみても良いでしょう。
また、骨盤周りを安定させる筋力トレーニングも効果的です。骨盤周りの筋肉がつくことで、骨盤のズレや梨状筋の過度な緊張を予防でき、坐骨神経痛の軽減につながる可能性があります。
ストレッチを行う
普段の生活で座っている時間が長かったり、運動不足が続いたりして身体が硬くなっている方は、ストレッチを行いましょう。
ストレッチを行い骨盤や股関節周りの筋肉、また坐骨神経の滑りが良くなると、坐骨神経の圧迫が軽減し、痛みの改善につながります。
実際の方法は以下に解説しますので、動画を見ながら行なってみましょう。
関連記事:坐骨神経痛でやってはいけないことは?つらい症状を軽くする簡単ストレッチも紹介!
妊婦さんでも行える!坐骨神経痛を軽減する簡単ストレッチ3選
それでは実際に、妊娠中でも行えるストレッチを解説します。
必ずかかりつけの医師の運動許可が出ていることと、その日の体調に問題がないことを確認した上で行なっていきましょう。
股関節の付け根のストレッチ
反り腰姿勢の妊婦さんは、股関節の付け根が硬くなっているケースをよく見かけます。
というのも、股関節の付け根にある「腸腰筋(ちょうようきん)」は腰の背骨に付着しているため、硬くなることでS字カーブの乱れをさらに助長してしまうのです。その結果、坐骨神経が伸ばされるなどのストレスが掛かり、坐骨神経痛につながります。
腸腰筋をストレッチし、正しい背骨のカーブを取り戻すことで、痛みを軽減させましょう。
STEP1:片膝立ちの姿勢になりましょう
STEP2:前方の足に体重をのせましょう
STEP3:元の姿勢に戻りましょう
STEP4:繰り返し実施しましょう
※腰を反らさないように注意しましょう!
参考記事:【簡単】姿勢を良くする方法4選!猫背や反り腰を改善して正しい姿勢を保つには
お尻のストレッチ
お尻の筋肉(梨状筋)が硬くなると、坐骨神経が圧迫されます。梨状筋の柔軟性を取り戻すことで、坐骨神経の圧迫を緩和させましょう。
STEP1:片脚を反対側の太ももの上に乗せましょう
STEP2:骨盤を前方へ倒し姿勢を保持しましょう
STEP3:元の姿勢に戻りましょう
STEP4:繰り返し実施しましょう
※腰が丸まらないように注意しましょう!
背骨のストレッチ
背骨や骨盤周りの筋肉をストレッチし、柔軟性を上げることで、坐骨神経の圧迫を軽減させます。
また、坐骨神経痛の方は神経自体が硬くなっていたり、周りの組織との滑りが悪くなっていたりすることも。そのため背骨のストレッチを行うことは、坐骨神経自体の伸びを良くしたり、周りの組織との滑りを良くするという面からも効果的です。
STEP1:仰向けとなり両手を真横へ広げましょう
STEP2:両膝を閉じたまま片側へ倒しましょう
STEP3:元の姿勢に戻ります
STEP4:繰り返し実施しましょう
※肩が床から離れない様に注意しましょう!
この運動の注意点として、膝は床につかないようにしましょう。また、お腹はねじりすぎないように気をつけ、足の重みをコントロールしながらゆっくりと倒していくことがポイントです。
さらに、息を吐きながら足を横に倒し、呼吸は止めないように行うことで痛みなくできるでしょう。
妊娠中に坐骨神経痛が起こったら何科を受診?
妊娠中に坐骨神経痛が起こってしまったら、整形外科を受診しましょう。
また、整形外科を受診する前には、かかりつけの産婦人科で現在の妊娠経過や運動しても良い状況なのかを必ず確認するようにしてください。
もしくは最近では、産婦人科に理学療法士が在籍している場合もあります。いずれにしても一度、かかりつけの産婦人科で相談してみることをおすすめします。
まとめ
今回は、妊婦さんに多い坐骨神経痛の原因と対処法について解説していきました。
妊娠中は、通常時に比べてホルモンバランスが変化したり、子宮が大きくなったりする影響で、坐骨神経痛を発症しやすくなります。
痛みが出てしまうと辛いですが、日常生活での過ごし方や姿勢を意識することで、症状の改善や悪化予防につながります。
さらに、坐骨神経痛を軽減する効果的なストレッチも解説しました。妊娠中でも行えるものを紹介していますので、習慣化して取り組むことで、マタニティライフを快適に過ごしましょう。
それでは本記事が、あなたの坐骨神経痛を改善するのに役立てば幸いです。
参考文献
1)Daneshwari Kokkalaki:Prevalence of Sciatica in Pregnancy and Its Impact on Quality of Life-A Cross Sectional Study.International Journal of Science and Healthcare Research,Vol.7; Issue: 2; April-June 2022
2)Disi ES. Sciatica in Early Pregnancy With Coexisting Uterine Leiomyoma and Tarlov Cyst: A Case Report. Cureus. 14(8), 2022
3)Mens JM,et al:The mechanical effect a pelvic belt in patients with pregnancy-related pelvic pain.Clin Biomech 21(2)122-127,2006
4)Aparicio VA, Marín-Jiménez N, Flor-Alemany M, Acosta-Manzano P, Coll-Risco I, Baena-García L. Effects of a concurrent exercise training program on low back and sciatic pain and pain disability in late pregnancy. Scand J Med Sci Sports. 2023 Jul;33(7):1201-1210.
5)河合克尚:身体活動の効果と心身健康科学,変化する健康科学ー時代を超え、領域を超えてー第34回学術集会,2022