膝への負担が蓄積して発症するのが「ジャンパー膝」です。
競技レベルが徐々に上がる中学生~高校生にかけて発症するリスクが高く、痛みを我慢して無理な運動を続けることで症状は進行します。重症化すると手術が必要となる可能性もあり、長期的な運動制限を余儀なくされるケースも。
ジャンパー膝の改善にあたっては、運動制限や柔軟性の改善など適切な対処法を行うことが重要です。発症後の競技への早期復帰はもちろん、再発予防にもつながるでしょう。
そこで当記事では、ジャンパー膝の原因やストレッチなどの対処法、予防法について詳しく解説します。
当記事を参考にすることで最適な対処法が見つかり、運動時に感じる膝の痛み緩和に役立ちます。ぜひ最後までご覧ください。
ジャンパー膝(膝蓋腱炎)とはどのようなもの?
ジャンパー膝は、ジャンプやダッシュ、ストップなどの動作を繰り返し行うことで、太ももとスネの内側をつなぐ「膝蓋腱(しつがいけん)」に負担がかかり、炎症を起こすスポーツ障害の一つ1)です。
バレーボールやバスケットボール、サッカーなどの膝に負担がかかりやすい競技に発症例が多いです。とくに、競技レベルが徐々に上がる中学生〜高校生にかけて発症するリスクが高い傾向にあります。
主な症状として、「膝の前面」や「お皿の下部分」に生じる痛みや腫れなどが挙げられます。また、膝を曲げた状態と伸ばした状態の両方で、お皿の上や下部分を押すと痛みが出る「圧痛」を感じるケースが多いです。
参考記事:膝の皿の下が痛い原因とは?痛みを治す方法や予防にも効果的なストレッチを紹介
【重症度分類】自分の症状をチェックしよう
ジャンパー膝は、痛みの程度によって下記の表のように4つの重症度に分類されています。現れる症状に応じて重症度を決めることで、適切な治療方法や運動制限の程度を決定することが可能です。
下記の表を参考に、自分の重症度をチェックしてみましょう。
重症度 | 状態 |
軽傷(ステージ1) | 運動時に痛みを感じるが、運動に支障はない |
中等症(ステージ2) | 運動時・運動後に痛みを感じるが、運動に支障はない |
重症(ステージ3) | 痛みが常にあり、運動に支障が出ている |
最重症(ステージ4) | 膝蓋腱の断裂により、日常生活に支障が出ている |
ジャンパー膝(膝蓋腱炎)とオスグッドの違い
オスグッド病はジャンパー膝と同じく、膝の使い過ぎによって痛みを生じるスポーツ障害です。
症状は似ていますが、オスグッドは太ももの筋肉がつく、脛骨粗面(お皿の下にある脛の骨)が筋肉に引っ張られて痛みを生じる2)ため、痛みの原因が異なります。そのため、ジャンパー膝はお皿の真下に痛みを感じますが、オスグッド病ではお皿から指2〜3本分下に痛みを感じやすいです。
また、オスグッドは身長が伸びやすい成長期に発症するリスクが高いです。体の成長に合わせて適切な負荷量の運動を続けることで、自然に治ることが多いと言われています。
参考記事:オスグッド・シュラッター病とは?痛みの原因と対処法を解説
ジャンパー膝(膝蓋腱炎)の主な3つの原因とは?
ここからは、ジャンパー膝の主な3つの原因について解説します。自分に当てはまるものがないか、ぜひチェックしてみてください。
ジャンプやダッシュなどによる繰り返される膝への負担
ジャンパー膝の原因として最も多いのが、スポーツ時のジャンプやダッシュ、ストップ動作などによる繰り返される膝への負担です。膝の屈伸動作を繰り返すことで、膝蓋腱に強い牽引力が加わり、炎症を引き起こします。
大腿四頭筋(だいたいしとうきん)の柔軟性低下
太ももの前面につく「大腿四頭筋」の柔軟性が低下した状態で運動を続けることで、膝蓋腱に負担がかかってしまいます。とくに、身長が伸びやすい成長期の場合、骨の成長に筋肉の柔軟性が追いつかず、ジャンパー膝を引き起こす可能性が高いです。
また年齢にかかわらず、柔軟性が低下している状態で急にランニングやウォーキングなどの運動を始める場合も注意しましょう。
股関節周りの筋力低下による体の不安定さ
膝への繰り返される負担によって痛みを生じるジャンパー膝ですが、動きの癖や筋力のバランスによって膝に負担がかかりやすくなっている可能性も高いです。
たとえば、ジャンプやストップ動作の基本となるスクワットの姿勢では、膝が内側に入る「Knee in(ニーイン)」と呼ばれる姿勢をとりやすいので注意が必要です。動作中につま先と膝が同じ方向を向くように注意することで、再発予防にもつながるでしょう。
ジャンパー膝(膝蓋腱炎)の対処法を重症度別に解説
ここからは、先ほど説明した表をもとに、それぞれの重症度に合ったジャンパー膝の対処法について解説します。簡単にできる方法を紹介するので、ぜひ症状に合わせて適切な方法を試してみてください。
【軽傷】運動後にストレッチやアイシング・動作の見直しを行おう
運動に支障がない程度の痛みである軽傷の場合は、一般的にスポーツを制限する必要はないでしょう。
ただし、運動後のストレッチやアイシングなどのケアを行い、症状の悪化を防ぐ必要があります。ジャンパー膝は膝蓋腱の炎症であるため、温めるより保冷剤やアイスバッグを使用して冷やした方が症状改善に効果的です3)。
また、先ほど説明した「Knee in(ニーイン)」を含めた動作の見直しを行うことで、症状改善後の再発予防につながります。
ストレッチの詳しい方法は、次項で詳しく解説するので、ぜひチェックしてみてください。
【中等症】膝に負担のかかる運動は制限しよう
運動時に支障がない程度の痛みがある中等症の場合は、膝に負担のかかる運動を一度制限する必要があります。膝への負担を減らすことで重症化を防ぎ、早い段階での競技復帰を目指せます。
柔軟性向上を目的としたマッサージやストレッチ、膝に負担がかからない体づくりを目指しましょう。
また、膝のサポーターやテーピングは痛みの緩和に一定の効果が期待できます。ただし、使用することで痛みを感じにくくなり、炎症を起こした状態で運動を続けてしまう可能性もあります。
くれぐれも、無理をして運動を続けないよう注意しましょう。
【重症・最重症】スポーツを中止して病院へ受診しよう
膝の痛みにより、運動や日常生活に支障がある重症・最重症の場合は、一度運動を中止して整形外科病院へ受診しましょう。
病院を受診し、レントゲンや超音波などの検査を行うことで、明確に膝の状態を把握できます。さらに、膝の状態に合った痛み止めや湿布などの処方や、運動指導などの適切な治療を受けられます。
とくに、長期間痛みが続いている場合は、早い段階で病院を受診し、適切な治療を受けて早期の競技復帰を目指しましょう。
ジャンパー膝(膝蓋腱炎)の重症化や再発を予防するストレッチなどトレーニングを紹介!
ジャンパー膝の重症化や再発を予防するためには、膝への負担を軽減させることが重要です。
ここからは、ジャンパー膝の原因となる柔軟性低下の改善に効果のあるストレッチや、動作の改善に役立つトレーニングを紹介します。ぜひ、痛みの程度を確認しながら試してみてください。
もも裏のストレッチ
まずは、太ももの後面にある筋肉を伸ばす「ジャックナイフストレッチ」を紹介します。
太もも後面の筋肉の柔軟性が低下することで、骨盤が後ろに傾き、膝の前面につく「大腿四頭筋(だいたいしとうきん)」に負担がかかりやすくなるのです。そこで、ジャックナイフストレッチを行うことで膝への負担を軽減できる動作の見直しにもつながります。
症状が改善した後も、再発予防として継続して行いましょう。
STEP1:足首をつかみしゃがみましょう
STEP2:太ももとお腹をつけたまま膝を伸ばしましょう
STEP3:太もも後面の伸びを感じましょう
STEP4:元の姿勢に戻り、繰り返し実施しましょう
※太ももとお腹が離れないよう注意しましょう
太もも前面のストレッチ
次に、太ももの前面が伸びる「大腿四頭筋ストレッチ」を紹介します。炎症症状が強い時期には、痛みが出る場合もあるため、反動をつけずに深呼吸をしながら行いましょう。
また、身長が伸びやすい成長期に硬くなりやすい筋肉の一つのため、ストレッチは痛みのない場合でも左右同様に行ってください。
STEP1:横向きの姿勢となりましょう
STEP2:下の足を直角に曲げ、もう一方の足を後方からつかみましょう
STEP3:後方へ引っ張りましょう
STEP4:元の姿勢に戻りましょう
STEP5:繰り返し実施しましょう
STEP6:太もも全面の伸びを感じながら行いましょう
※腰が反らないように注意しましょう
両脚スクワット
「スクワット」は、膝への負担を軽減する動作の再学習や、筋力の左右差改善に効果的です。先ほど説明した「Knee in」や、骨盤が後ろに傾く「猫背姿勢」に注意して、膝の前面の筋力に頼り過ぎない体づくりを目指しましょう。
一人で実施するときは、鏡の前で自分の動作を確認しながら行うのがオススメです。
STEP1:肩幅に足をひらきます
STEP2:膝とつま先が同じ方向を向くように揃えましょう
STEP3:はずみをつけずに沈み込み、ゆっくりと戻りましょう
STEP4:繰り返し行いましょう
※膝が内側に入らないよう注意しながら行いましょう
※腰や背中が丸まらないようにしましょう
ジャンパー膝(膝蓋腱炎)はどれくらいで治る?
重症度によってさまざまですが、ジャンパー膝の症状改善には、数週間から数か月かかると言われています。
ただし、炎症症状が改善していない状態で無理に運動したり、ストレッチやアイシングなどのケアを怠ったりした場合、症状が重症化する・あるいは長期化するケースも少なくありません。また、原因となる柔軟性の低下や筋力低下などを改善しなければ、症状が再発してしまう可能性も。
早期に競技へ復帰するためにも、ジャンパー膝が疑われる場合はまず整形外科へ受診し、適切な治療を受けましょう。
ジャンパー膝(膝蓋腱炎)が疑われる際にやってはいけないこととは?
ジャンパー膝が疑われる際に、重症化や再発を防ぐために注意するべきポイントがあります。ご自身に当てはまらないか、確認してみましょう。
膝の痛みを放置して運動を続ける
ジャンパー膝の原因として、最も多いのが繰り返される膝への負担によるものです。そのため、膝の痛みを感じている状態で運動を続けても、症状が改善することはありません。
痛みを我慢しながら運動を続ければ、さらに症状は進行するでしょう。重症度によっては手術の適応となる可能性もあり、スポーツ復帰までに長い時間を要することになります。
少しでも膝に痛みを感じたら、放置せずに適切なケアを行いましょう。
痛みが落ち着いたらストレッチなどのケアを中止する
痛みが引いたからと行って、ストレッチなどのケアを止めてしまうことはおすすめしません。スポーツを継続する以上、再び膝を痛めるリスクが常にあるからです。
ジャンパー膝の症状が落ち着いた後も、運動後のストレッチなどのケアを継続して行うことで再発を予防できます。膝に負担のかからない体づくりを目指し、症状の再発を防ぎましょう。
まとめ
今回は、ジャンパー膝の原因や対処法、再発予防について解説しました。
ジャンパー膝は、繰り返される膝への負担が原因となり、痛みを放置することで症状が悪化してしまいます。運動時のパフォーマンスを最大級に高めるためにも、運動制限や柔軟性の改善などの適切な対処を行うことが重要です。
また、当記事で紹介したストレッチなどのケア方法を参考にしていただき、継続して実施することで再発の予防にもつながるでしょう。
それでは当記事が、あなたの膝の痛みを改善するお役にたてれば幸いです。
参考文献
1)市原 英,西野衆文,福田 崇:ジャンパー膝を有する大学男子バレーボール選手に対する筋疲労の影響の検討~筋硬度および跳躍高の変化に着目して~,日本臨床スポーツ医学会誌第29 巻(1), 2021.30-37
2)塩田 真史:Osgood-Schlatter 病の病態と治療 発症から復帰までの現状と今後の課題,日本アスレティックトレーニング学会誌第4巻(1),2018.29-34
3)綾田 練,白木 仁,福田 崇 他:ジャンパー膝に対する運動後のアイシングの効果,体力科学56,2007,125-130
4)岡崎 壮之:ジャンパー膝
5)Aaron Schwartz, MD,*† Jonathan N. Watson, MD,† and Mark R. Hutchinson, MD†:Patellar Tendinopathy
6)Evelyn Bass:Tendinopathy: Why the Difference Between Tendinitis and Tendinosis Matters
7)D P Richards 1, S V Ajemian, J P Wiley, R F Zernicke:Knee joint dynamics predict patellar tendinitis in elite volleyball players
8)Henk van der Worp 1, Mathijs van Ark, Saskia Roerink, Gert-Jan Pepping, Inge van den Akker-Scheek, Johannes Zwerver:Risk factors for patellar tendinopathy: a systematic review of the literature