野球を続ける際の大きな妨げになる症状が「野球肘」です。とくに投手で野球肘に悩んでいる方は少なくありません。
野球肘になってしまうと、投球動作はもちろん日常生活にも大きな影響を及ぼします。成長期の若い野球プレーヤーはなおさらです。
できるだけ長く野球を楽しむために、野球肘に対する知識を深めるべきでしょう。
当記事では、野球肘の概要や原因、早く改善するためのセルフケア方法・治し方を解説します。
最後まで目を通すことで、野球肘になってしまった場合の適切な対処法が理解できるでしょう。
野球肘とはどういった症状なの
野球肘は、野球の投球動作が原因で発症する肘の痛みの総称です。「投球障害肘」と呼ばれることもあります。
野球肘になってしまうと、肘を動かした際に痛みが出たり、動かしにくくなったり、しびれが出たりします。ポジションで言うと、やはりピッチャーが最も野球肘になりやすいです。
野球肘が、パフォーマンス低下につながることは言うまでもありません。
現在、都道府県によっては成長期の野球選手を対象に「野球肘検診」が実施されています。もちろんプロ野球でも、過去に何人かの有名投手が野球肘で欠場を経験しました。
野球肘になる原因とは?
なぜ、野球肘になってしまうのでしょうか。
大きな原因は「投球動作のやり過ぎ」です。過度な投球動作によって疲労や負担が蓄積した結果、肘の関節の靭帯や神経を損傷してしまいます。
野球の試合では、100球近く投球する場合もあります。長時間にわたって全力でボールを投げれば、肘に負担がかかることは想像に難くありません。
またボールを速く投げようとすれば、手首のスナップを強く効かせる必要があり、結果的に肘に負担がかかってしまうことにも。
他には、肘に負担がかかるような投球フォームが原因で野球肘になるケースも多いです。
たとえば、球を持って振りかぶる際に肩の位置よりも肘が下がっていたり、ボールが手を離れる直前に肘が前に出すぎたり、ほんの少しの身体の使い方で肘への負担は増します。
もし投球フォームが原因で肘が痛むと気づいたとしても、パフォーマンスを優先したいがために、そのままのフォームで投げ続けたとしても不思議ではありません。
しかし、それでは野球肘が悪化してしまうでしょう。
つまり野球肘を治療するためには、投球数のコントロールやフォームの修正が不可欠です。
野球肘の種類を解説
野球肘は大きく3種類に分かれ、それぞれ痛む部位や特徴が異なります。
以下より解説しますので、ぜひ参考にしてください。
内側型野球肘
肘の内側に痛みが出る野球肘は「内側型野球肘」に分類されます。
肘の内側にある「内側上顆(ないそくじょうか)」という骨が折れたり炎症を起こしたりするほか、肘の内側に付く靭帯や神経に傷がつくケースが存在します。
内側型野球肘は小学生・中学生の野球プレイヤーに発症しやすいです。とはいえ、外側・後方野球肘に比べて早期復帰できる可能性は高いといえます。
外側型野球肘
肘の外側に痛みが出る野球肘は「外側型野球肘」に分類されます。
外側型野球肘も小学生・中学生プレイヤーに発症しやすく、肘関節の外側に付く軟骨が炎症を起こすことが多いです。軟骨の炎症が進むと、軟骨が剥がれ落ち、肘関節内に入ってしまうケースもあります。(関節ねずみ)
内側型野球肘に比べて、外側型野球肘は長期化する例も多いです。当然、投球できない期間も長くなるでしょう。
また先述の「関節ねずみ」を発症した場合は、関節鏡視下手術で取り除かなければならないケースも出てきます。
後方型野球肘
肘の後ろ(肩に近い部位)が痛む野球肘が「後方型野球肘」です。
肘を曲げた際に出っ張る「肘頭(ちゅうとう)」という尖った骨が骨折したり、他の骨と衝突することで痛みが起きたりします。
成長期の野球選手が発症する他、成人以降の野球プレイヤーでも発症する可能性があります。
外側型野球肘と同じく、完治までに期間を要するケースが多いので、あらかじめ把握しておきましょう。
野球肘の完治までどのくらい期間が必要?
野球肘の治療は、長期期間続く場合が多いです。
症状によって差はありますが、3か月から6か月はかかると考えておきましょう。長いと1年以上かかるケースもあり得ます。
短期間で野球肘が完治することはほとんどありません。また治療期間中は、投球動作を控える必要も出てきます。
もちろん本人の努力や心がけ次第で、復帰時期が早まる可能性は十分あります。
野球肘によって投球ができなくなっても、決して腐らずモチベーションを保つことが大切です。
競技に復帰!自分で実践できる野球肘の治し方・ケア方法
野球肘を早く治すためには、ご自身でセルフケアを続けることが大切です。
ここから、野球肘の改善に効果のあるケア方法をご紹介します。
いずれもすぐに始められるので、ぜひ実践してみてください。
痛みが引くまで安静を心がける
肘の痛みを我慢したまま競技を続けていては、野球肘は悪化するばかりです。
したがって痛みが引くまで、肘を安静に保つことを意識しましょう。その間は思うように練習ができないかもしれません。
しかし長い目で見た場合、投球を休む期間を設けることはプラスになるはず。
もちろん投球練習をしない期間も、別の筋肉のトレーニングや走り込みなどは可能です。肘を使えない状況の中で、できるトレーニングを続けましょう。
ストレッチ・マッサージを続ける
毎日ストレッチやマッサージを行うことも大変効果的です。筋肉の血流が良くなることで、肘の痛みの早期改善が期待できるでしょう。
では、おすすめのストレッチ・マッサージを3つご紹介します。
1つ目は、前腕(ぜんわん)前面のストレッチです。
STEP2:反対側の手を添えましょう
STEP3:手を手前に引きましょう
STEP4:元の姿勢に戻りましょう
STEP5:繰り返し実施しましょう
※腕の前面が伸びている状態を保持しましょう
※手首に痛みがある場合は肘を曲げてもOKです
上記のストレッチを行うことで、前腕(肘と手首の間部分)の筋肉が効率よく伸びます。結果的に肘の筋肉もほぐれるでしょう。
2つ目は、前腕外側部分のマッサージです。
STEP1:前腕外側を反対側の手でつまみましょう
STEP2:腕をつまみながら内側に回しましょう
STEP3:繰り返し実施しましょう
軟部組織と呼ばれる部位をほぐすことで、肘の疲れや痛みの改善が期待できます。
3つ目は広背筋(こうはいきん)のストレッチです。
STEP1:両手を繋いで万歳しましょう
STEP2:片側のお尻に重心をのせ反対側へ体を傾けましょう
STEP3:元の姿勢に戻りましょう
STEP4:繰り返し実施しましょう
※反対側のお尻に重心をのせましょう!
背中の筋肉を伸ばすことで肩の可動性が向上し、肘下がりの投球フォームを改善することができます。
練習前や練習後にストレッチを取り入れるのも効果的ですし、お風呂上がりにストレッチを行うこともおすすめです。ぜひ続けてみてください。
リハビリとして筋トレを行う
肘のリハビリとして筋力トレーニングを取り入れることも大切です。
野球肘の改善はもちろん、プレーにも活きてくるでしょう。とはいえ、肘の筋トレを行うと逆に痛みが悪化してしまうリスクもあります。
そこで、背中の筋トレを行いましょう。以下より、効果が高い筋トレを2つ紹介します。
1つ目は、僧帽筋(そうぼうきん)下部Yエクササイズです。
STEP1:うつ伏せとなり片手を伸ばしましょう
STEP2:伸ばした手を上方へ挙げましょう
STEP3:ゆっくり下ろしましょう
STEP4:繰り返し実施しましょう
※可能な限り高く挙げましょう
※肘が曲がらない様に注意しましょう
2つ目は、僧帽筋中部Tエクササイズです。
STEP1:うつ伏せとなり両手を広げましょう
STEP2:肩甲骨を寄せながら腕を持ち上げましょう
STEP3:ゆっくり下ろします
STEP4:繰り返し実施します
※可能な限り高く挙げましょう
※肘が曲がらない様に注意しましょう
上記の筋トレなら、肘の痛みを悪化させる心配はありません。そして投球動作につながる肩甲骨周りの筋肉を効率よく刺激できるので、ぜひ実践してみてください。
サポーターを着用する
野球肘専用のサポーターを着用することもおすすめです。肘を固定することで、投球時の肘への負担を軽減できるでしょう。
肘の部分だけ保護されているサポーターもあれば、上腕から前腕にかけて保護されているサポーターも存在します。
また手からはめるタイプや、テープで巻くタイプなど、仕様も異なります。
サイズやデザインを比較しながら、ご自身に合うサポーターを選んでみましょう。
野球肘が治らない・再発を繰り返す場合は整形外科を受診しよう
何度もお話しているように、野球肘は競技だけでなく日常生活にも影響を及ぼしかねない症状です。
もし野球肘が改善しない、再発を繰り返すという場合は早めに整形外科を受診しましょう。詳しく検査して原因を把握し、お医者さんにアドバイスをもらってください。
野球に詳しいお医者さんであれば、復帰できる時期やリハビリでの注意点も教えてくれるはず。決して自己流で解決しようとせず、専門家の診断を受けましょう。
まとめ
野球肘は、野球の投球動作で発症する肘の不調や痛みの総称です。野球肘になってしまう原因は投球動作による負荷の増加や、負担が大きいフォームを続けることにあります。
野球肘は「内側型野球肘」「外側型野球肘」「後方型野球肘」の3種類に分けられます。完治するまでに半年や1年かかるケースも多く、場合によっては手術が必要です。
できるだけ早期に競技復帰を果たすために、ぜひストレッチや筋トレ、サポーターの着用などを実施しましょう。
また痛みが引かない場合は、整形外科で診察してもらうことも大切です。
では当記事を参考に、野球肘への対策を万全にして野球を楽しみましょう。
【参考文献】
1)鶴田 崇, 渡辺 裕介, 湯朝 友基, 張 敬範, 江本 玄, 緑川 孝二:CATとHFTの客観的基準値をもとめて投球障害肘に着目して
2)東海スポーツ障害研究会:投球フォームチェックの一致率の検討
3)一般社団法人 日本肘関節学会
4)Kevin E. Wilk,:Rehabilitation of the Overhead Athlete’s Elbow
5)公益社団法人 日本整形外科学会:症状・病気をしらべる(野球肘)