「歩き始めにアキレス腱が痛む」
「アキレス腱が痛くて、ランニングができない」
など、アキレス腱の痛みにお悩みではありませんか?
体をよく動かすスポーツ選手はもちろんのこと、とくに運動をしていない方でもアキレス腱に痛みを抱えているケースは少なくありません。歩行など日常動作にも支障が出てくる可能性があるため、なるべく症状が軽いうちからケアを始めていくことが大切です。
そこで本記事では、アキレス腱の痛み(アキレス腱炎)を早く治すための対処法を解説していきます。簡単にできるストレッチ方法も紹介していますので、ぜひご参照ください。
アキレス腱が痛い!考えられるのはアキレス腱炎
アキレス腱に痛みを感じる際、症状としてまず考えられるのは「アキレス腱炎」です。アキレス腱炎とは、繰り返しの負荷により、アキレス腱に炎症や変性を生じた障害を指します。
アキレス腱炎への適切な対処が行えるよう、痛みが起こる原因や症状について理解を深めていきましょう。
アキレス腱炎の原因
アキレス腱炎のおもな原因には、オーバーユース(足首の使いすぎ)が考えられています。
アキレス腱は、ふくらはぎの筋肉と踵(かかと)の骨とを結んでいる腱です。歩行やランニングをするときに地面を蹴り出したり、ジャンプの着地時に足にかかる衝撃を緩和したりする役割があります。
運動による繰り返しの負荷でアキレス腱に微細な損傷が積み重なり、修復が追いつかなくなることで炎症へとつながってしまうのです。
とくに運動量が急に増加したタイミングにて、アキレス腱炎を発症するケースが多いです。
また加齢の影響もあり、40歳以降の方であれば、運動による負担がなくてもアキレス腱痛を抱える可能性があります。
そのほか、アキレス腱炎を引き起こすのは、以下の要因が考えられています。
- 体重の増加
- 扁平足(足の裏が平になっている状態)
- クッション性の低い靴の使用
- 硬い路面を走るなど練習環境の影響
予防の際に大事になりますので、ご自身に当てはまる項目がないか一度確認してみてください。
参考記事:アキレス腱の痛み・腫れ・違和感の原因はアキレス腱炎?適切な対処法をわかりやすく解説!
アキレス腱炎の症状
アキレス腱炎のおもな症状は、ふくらはぎから踵にかけての痛みです。とくに踵の上部、2〜6cmの間に痛みが出やすくなっています。
その他、次のような症状がみられる場合は、アキレス腱炎の可能性が高いです。
- 「朝、寝起きの一歩目」「椅子からの立ち上がり」など動作開始時にアキレス腱に痛みや違和感がある
- 歩行やつま先立ちなど、ふくらはぎの筋肉に力を入れた際にアキレス腱に痛みが出現する
- アキレス腱を押したり、揉んだりすると痛みがある
- アキレス腱に局所的な腫れや発赤(赤くなること)、熱感がある
動き始めに痛みが出やすいことが、アキレス腱炎の特徴になります。しかし、軽症のうちは一度動き出すと痛みが軽くなってくるため、そのまま使い続けて悪化させないようにすることが重要です。
参考記事:【なぜ?】歩くとアキレス腱が痛い原因とは?関係する足首周辺の症状と対処法を紹介
アキレス腱周囲炎もある
アキレス腱は、パラテノンと呼ばれる膜状の組織に包まれています。パラテノンには、「アキレス腱に血液を供給する」「外部からの衝撃からアキレス腱を保護する」といった役割があります。
このパラテノンに繰り返しの負荷がかかり、炎症を起こした状態が「アキレス腱周囲炎」です。
腱自体に炎症を起こしたアキレス腱炎と併発しているケースも多いため、両者を区別することは困難です。したがって、基本的にはアキレス腱周囲炎とアキレス腱炎は同じ症状と考え、同様の対処を行っていく形になります。
【要確認】アキレス腱炎と似たケガや病気について
アキレス腱に痛みが生じるケガに「アキレス腱断裂」があります。名前の通り、アキレス腱を断裂してしまうケガです。繰り返しの負荷で生じるアキレス腱炎とは違い、アキレス腱断裂は踏み込み動作やジャンプなど、一度の外力で発生するケースがほとんどです。
その他、「とっさの動作をしたとき、アキレス腱にバットで殴られたような衝撃があった」「なんとか歩けるけど、走ったり、つま先立ちになったりはできない」といった場合は、アキレス腱断裂を疑ってください。
また、足底筋膜炎(そくていきんまくえん)やシーバー病によって、踵周辺が痛むケースもあります。ただし、同じ踵の痛みであっても、症状が出現する部位が異なります。
- 足底筋膜炎:足の裏側、土踏まずの踵寄りが痛む
- シーバー病:踵の骨自体が痛む
なお、シーバー病は10歳前後の子ども(とくに男児)に発症が多い点も、アキレス腱炎と見分けるポイントとなるでしょう。
さらに、痛風によっても、足首に腫れや痛みをともなう可能性があります。ご自身で症状を判断することは難しいため、アキレス腱付近に原因のよく分からない痛みや腫れが出ている際は、一度医療機関で状態を診てもらいましょう。
参考記事:歩くと足の裏が痛いのは足底腱膜炎?痛みの原因とセルフケアを解説
参考記事:【かかとが痛い】シーバー病を早く治す方法とは?簡単なストレッチ・筋トレを解説
アキレス腱の痛みを放っておくとどうなる?
アキレス腱の痛みが、自然と改善していくケースも中にはあります。
しかし、多くは放置すると症状が長期化してしまい、治るまでに半年から数年以上かかる「難治性(なんちせい)アキレス腱炎」へとつながることも。
また症状が悪化した場合、スポーツができなくなるばかりか、アキレス腱の強い痛みで歩けないなど日常生活に支障が出てくる可能性もあります。
早期発見するほど治りは早いと言われていますので、アキレス腱炎が疑われる際は、なるべく素早いケアを心がけてください。
【早めに始めよう】アキレス腱炎の対処法・治し方
先述したように、アキレス腱炎を放置すると、症状が長引く可能性があります。アキレス腱の痛みや違和感がありましたら、早急に次のような対処を行いましょう。
運動量を減らす
症状が強く出ている急性期においては、安静が大事になります。ランニングやジャンプ、ダッシュなどアキレス腱に負担のかかる運動はなるべく控えてください。
また、肉体労働などで立ちっぱなしになる方は、20〜30分おきに5分程度の休憩をとることで定期的に足を休ませ、アキレス腱への負担を減らしていきましょう。
アイシングを行う
アキレス腱に腫れや熱があれば、氷水を当ててアイシングしましょう。15〜20分の冷却を1日に数回行ってください。(冷やしすぎにならないよう、45分程度の間隔をあけてください)
冷やすことで炎症が落ち着き、痛みも軽減しやすくなります。
湿布を貼る
アキレス腱の痛みがある箇所に湿布(ロキソニンテープ)を貼りましょう。湿布に含まれる消炎鎮痛成分が肌から浸透して、痛みを軽減する効果を期待できます。
なお、アキレス腱への湿布の貼り方ですが、以下の方法を参考にしてみてください。
- 湿布を縦に2つに折ります
- 下から指2本分くらいあけた箇所に、ハサミで切れ込みを入れます
- 切れ込み部分を踵に当て、上下に伸ばしながら貼ります
かかとを開けるようにして湿布を貼ることで、足首を動かしても湿布がはがれにくくなります。ぜひお試しください。
テーピングを貼る
アキレス腱炎には、踵の骨からふくらはぎにかけて貼るテーピングがおすすめです。以下の手順で行えば、一人でも楽にテープを貼ることができるでしょう。
まずは5cm幅のキネシオテープをご用意ください。
- 45cmほどの長さにテープをカットします(踵から膝裏少し下あたりまでの長さで調整してください)
- テープの端を5cmほどはがします
- 立った状態で、アキレス腱付着部(踵の下方)にテープの端を貼ります
- 踵からアキレス腱、ふくらはぎの真ん中にかけて、テープを上に貼っていきます
テープを引っ張る必要はありません。踵からふくらはぎに向けて、そのまま流すように貼ってください。アキレス腱やふくらはぎの中央部分に貼ってから、少し外側に伸ばすようにして貼るとシワができにくくなります。
なお、こちらのテーピングはアキレス腱炎の予防にも有効です。ぜひ活用してみてください。
マッサージをする
ご自身の手を使い、ふくらはぎの筋肉やアキレス腱の周辺をほぐしていきましょう。
マッサージを行うことでアキレス腱への血流が良くなるため、炎症の治癒を早める効果が期待できます。
とくにアキレス腱炎に対しては、ふくらはぎの緊張をゆるめる「飛陽(ひよう)」や、足首周辺の痛みに有効な「崑崙(こんろん)」を刺激すると良いでしょう。
- 飛陽:外くるぶし後方のくぼみから上に指を滑らせ、ふくらはぎの筋肉に当たる箇所にあるツボ
- 崑崙:外くるぶしとアキレス腱の間のくぼみにあるツボ
上記のツボを「少し痛いけど、気持ち良く感じる強さ」で押してみてください。毎日コツコツと刺激することで、効果を実感できるはずです。
また、アキレス腱をほぐす簡単なマッサージ方法もありますので、このあと詳しくご紹介していきます。
ストレッチをする
無理のない範囲で、ふくらはぎの筋肉をストレッチしましょう。腓腹筋(ひふくきん)、ヒラメ筋の柔軟性を高めることで、アキレス腱の痛みもひきやすくなります。
マッサージの方法とあわせて、ストレッチの方法もこのあと動画付きで詳しくご紹介いたします。
アキレス腱の痛みに効果的なストレッチ・マッサージ
それでは、アキレス腱炎の方におすすめのストレッチやマッサージの方法をみていきましょう。
どれも簡単にできますので、ぜひ実践してみてください。
腓腹筋ストレッチ
ふくらはぎの表層に位置する、腓腹筋(ひふくきん)を伸ばすストレッチです。腓腹筋をやわらかくすることで血流を改善できるほか、アキレス腱にかかるストレスも軽減できます。
STEP2:足を大きく前方に開きましょう
STEP3:前方の足に体重を乗せましょう
STEP4:ふくらはぎが伸びた状態を保持しましょう
※踵が床から離れないように注意しましょう
ふくらはぎの伸びを感じながら行ってください。痛みがある側だけではなく、左右のバランスを良くするために反対側も同じようにストレッチしておきましょう。
ヒラメ筋ストレッチ
腓腹筋と同様、ふくらはぎに付着するヒラメ筋を伸ばすストレッチです。膝を曲げた状態で足首を反らせることで、ヒラメ筋をストレッチできます。
STEP2:膝を曲げ体重を前方に乗せましょう
STEP3:ふくらはぎが伸びた状態を保持しましょう
STEP4:元の姿勢に戻り、繰り返し実施しましょう
※踵を床から離さないように注意しましょう
痛みがある側だけでなく、反対側も同じ要領でストレッチしてください。
アキレス腱周囲組織のセルフマッサージ
踵の後面にある、脂肪組織をほぐすマッサージです。アキレス腱周辺の組織をやわらかくし、腱が伸び縮みしやすい状態を作ることで負担を軽減します。
STEP2:つまんだ状態で数秒間上下に動かしましょう
STEP3:つまんだ状態で足首を上下に動かしましょう
STEP4:つまむ位置を上下に移動して、2.3のマッサージを繰り返します
※痛みのない範囲で実施しましょう
アキレス腱のどこか一部ではなく、広い範囲をマッサージでほぐしていきましょう。しかし、炎症を強めるおそれがあるため、マッサージは腫れや痛みが引いてから行うことをおすすめします。
アキレス腱の痛みが続く場合は病院へ
これまで紹介したセルフケアを行なっても1週間以上症状が改善しない、もしくは痛みが悪化するといった場合は、医療機関の受診を検討してみてください。
アキレス腱炎については、まず整形外科に相談すると良いでしょう。
レントゲンや超音波、MRIなどによる画像検査を行い、アキレス腱の状態に合わせた治療を行います。
繰り返しになりますが、無理をするほど症状が長引きやすくなります。「いつか良くなるだろう」と放置せず、痛みが続く際は早めにお医者さんに診てもらってください。
【再発させない】アキレス腱の痛みを予防する方法
日常的にハードな運動をしている方であれば、アキレス腱炎が再発するリスクがあります。予防のためにも、痛みが改善した後も次のようなケアを継続して行なっておきましょう。
ウォーミングアップとクールダウンをしっかり行う
スポーツを開始する前には、軽いジョギングやストレッチ、体操などウォーミングアップを入念に行いましょう。筋肉の柔軟性を高めたうえで運動を始めることにより、アキレス腱にかかる負担を軽減できます。
また、スポーツの疲労を翌日以降になるべく残さないよう、クールダウンもしっかり行うことがおすすめです。ストレッチでその日使った筋肉をゆっくり伸ばし、血流を良くしておきましょう。
ストレッチを習慣化する
足の痛みや筋肉の張りを感じたときだけでなく、予防のためにストレッチは毎日の習慣にしておきましょう。筋肉をやわらかい状態にしておくことで、アキレス腱炎のリスクを軽減できます。
運動の前後を含め、お風呂上がりなど体の温まったタイミングでストレッチを行うと、筋肉を伸ばしやすくなります。アキレス腱の痛みを予防するには、上記で紹介したふくらはぎの筋肉を中心に、股関節の動きもやわらかくしておくことをおすすめします。
クッション性のある靴を選ぶ
底が薄い靴では足に強い衝撃がかかるため、アキレス腱を痛めやすくなります。
したがって、ランニングやジャンプなどアキレス腱に負担のかかるスポーツをしている方は、底が厚いクッション性のある靴をなるべく使用すると良いでしょう。
インソールを入れる
靴底にインソールを入れることでも、足にかかる衝撃をやわらげられます。
とくに土踏まずが潰れている扁平足の方は、足裏のアーチ構造が低下しているため、アキレス腱やふくらはぎに負担がかかりやすくなっています。
扁平足で足に疲れが溜まりやすい、痛みが出やすいといったお悩みのある方は、アーチをサポートするインソールを入れてみることもおすすめです。
参考記事:扁平足にはどんなデメリットがある?扁平足の原因や自分でできる改善法も解説
まとめ
今回の記事では、アキレス腱が痛くなる「アキレス腱炎」の原因や対策をメインに解説しました。
アキレス腱炎は、初期の段階から処置できると、その分早期に症状は改善しやすくなります。しかし、反対に無理に使い続けてしまうと、長期化してしまうケースも少なくありません。
最終的に断裂につながるリスクもありますので、アキレス腱の痛みは軽視しないようにお気をつけください。
それでは当記事が、あなたのお悩みの解決に役立てば幸いです。
【参考文献】
1)Evelyn Bass, LMT Tendinopathy: Why the Difference Between Tendinitis and Tendinosis Matters
2)Achilles Pain, Stiffness, and Muscle Power Deficits: Midportion Achilles Tendinopathy Revision 2018
3)M Kvist 1:Achilles tendon injuries in athletes
4)https://www.nhs.uk/live-well/healthy-body/tips-to-prevent-rsi/