カルテというと、病院で用いられているものというイメージをお持ちの鍼灸師も多いはず。
ところでそのカルテは、鍼灸院に導入する必要はあるのでしょうか?また、カルテを導入することにはどんなメリットがあるのでしょう?
そこで当記事では、鍼灸院でカルテを用いなければいけない事例や、カルテを導入するメリット、また鍼灸院で用いられる電子カルテなどについて紹介したいと思います。
そもそも鍼灸院にカルテは必要?
鍼灸院でカルテを導入するメリットについて解説する前に、そもそも、鍼灸院にカルテは必要かどうかについて見ていきましょう。
自由診療の鍼灸院ではカルテ不要
結論から言うと、自由診療のみを行っている鍼灸院であれば、原則としてカルテは必要ありません。自由診療とは、保険を用いずに全額を患者さんの自己負担として行う施術を指します。カルテは日本語で「診療録」と呼ばれており、医師法第24条において、医師が診療をおこなった際に記入する義務があると定められています。
鍼灸師は医師ではないため、施術をおこなってもカルテに記入する義務はないというわけです。ちなみに、広い意味でとらえた場合、医師が記入する診療録だけでなく、検査記録などもカルテに含まれます。
保険診療の鍼灸院ではカルテが必要
原則として鍼灸院でカルテの記入義務はありませんが、例外もあります。その例外が、保険診療で鍼灸の施術を行っているケースです。鍼灸院では、特定の病気に関して保険を用いた施術が認められています。保険を用いた施術が認められている疾患としては、頚腕症候群やリウマチ、五十肩、神経痛などがあげられています。
ただし、鍼灸院で保険を用いた施術をおこないたい場合、あらかじめ鍼灸院で出している同意書に対し、医師から必要事項を書いてもらう必要があります。
鍼灸院のカルテにおける記入事項
一方で自由診療の鍼灸院であっても、カルテを導入することにはたくさんのメリットがあります。鍼灸院でカルテを導入するメリットについては後程詳しく解説するとして、ここでは、鍼灸院で用いるカルテに対して、患者さんに記入してもらうべき事項を紹介します。
患者さんの個人情報
鍼灸院で用いるカルテにも病院と同様に、患者さんの個人情報を記入してもらう必要があります。キャリアを積んだ鍼灸師の方であれば、患者さんの年齢や性別、訴えられている症状などから、ある程度の見立てを行うことも難しくありません。
また、携帯電話の番号を控えておけば、キャンセル待ちの際に連絡を取ることが可能です。そして、後述するように誕生日などの際に患者フォローにもつなげられます。
既往歴
既往歴とは、患者さんが何歳の時にどんな病気にかかったかという、「今までの病気に関する歴史」のようなものです。既往歴も、実際に鍼灸の施術をおこなう際に、大きなヒントとなります。
たとえば、生まれたときに先天性股関節脱臼を患っており、中年期以降に股関節痛を訴え患者さんが鍼灸院へ来院された場合、変形性股関節症を発症している疑いがあるという見立てが可能です。
また、内科系の疾患の既往歴がある場合、どの経絡に施術をおこなえば効果的なのかを判断する基準ともなります。
気になる症状
患者さんが自覚している症状をしっかりと記入してもらうことも大切です。特に主訴(患者さんのメインの悩み)は絶対に外さないようにしましょう。患者さんによっては「肩もこるし頭も痛い、腰が痛むこともあるし、そういえば最近寝つきが悪い」など、いろいろな症状を訴えられることがあります。
そのような方の主訴(例えば頭痛)をしっかり押さえておかないと、頭痛が改善しているのに「腰痛が改善していない」などと、施術効果を認めない結果につながりかねません。
服用している薬
患者さんが服用している薬も、施術をおこなうにあたってのヒントとなります。例えば、リーゼやデパスといった薬を服用している場合、自律神経系の疾患を患っている可能性があります。
また、ロキソニンやボルタレンなど、鎮痛薬をたびたび服用している場合、鎮痛薬の副作用によって何かしらの症状を引き起こしている可能性も。東洋医学の施術師であっても、ある程度は医薬品の効用・副作用を知っておくと良いでしょう。
治療歴
何らかの症状を訴えて患者さんが来られた場合、その症状の治療歴も記入してもらいましょう。どのような治療を受けたのか、どの程度のペースで病院やその他の治療院に通ったのか、手術の経験はあるのかなどを記入してもらいます。
自由診療の鍼灸院に訪れる患者さんの多くが、「どこに行っても症状が改善しなかった」という方です。かつて通った病院や治療院よりも短い期間で症状が改善すれば、それだけ患者さんの信頼を得ることにつながります。そのためにも、治療歴は必ず記入してもらいましょう。
その他の気になること
患者さんは鍼灸院に大きな期待と不安を抱え来院されています。そのため、上記の事項だけでなく、何か気になることがあればすべて記入してもらいましょう。
患者さん自身はたいしたことではないと思っていることでも、専門家にとっては重要なヒントになるケースがあります。
鍼灸院でカルテを導入するメリット
それでは次に、自由診療の鍼灸院でカルテを導入するメリットを見ていきたいと思います。
症状変化を把握しやすい
鍼灸院でカルテを導入するメリットとしては、患者さんの症状変化を把握しやすいことが挙げられます。とくに、自由診療の鍼灸院だからこそ、カルテを導入することに意味があります。
たとえば、初めての来院時に伺っていた症状が2回目の来院時にどの程度改善しているのか、カルテを記入しておくことで容易に症状変化の把握が可能です。
よほど記憶力の良い方ならともかく、1日に何人もの施術を行っていると、どの患者さんにどのような変化があったのか、正確に把握することが難しくなるケースも。
また、カルテを記入しておくことで、患者さんの「全然変わらない」という声を防ぐことができます。
たとえば初回の来院時に、腰痛のために立った状態で靴を履くのも困難だったとしましょう。その患者さんが2回目に来院したとき、立った状態で靴を履いているのに「全然変わらない」といった場合、「でも前回は靴を立ったまま履けませんでしたよ」と、患者さんの納得する形で施術効果をアピールすることが可能です。
患者フォローが容易になる
自由診療の鍼灸院運営を軌道に乗せるためには、リピーターの確保が欠かせません。新規の患者さんも当然必要ですが、核となるのはリピーターの存在です。
その際にカルテが無いと、患者さんの住所もメールアドレスも分からず、こちらから連絡を取る術がありません。
カルテに患者さんの住所や誕生日などを記載いただければ、初回の来院後に感謝の手紙やアフターケアの方法を書いたDMの送付もできますし、誕生日やお正月に割引券などの送付も可能となります。患者さんが来なくなるもっとも単純な理由が、単に「忘れていた」というものです。
そのような事態を避けるためにも、カルテを記入してもらい、定期的に患者フォローをおこなう必要があるのです。
説得力が増す
施術のたびにカルテを記入しておくことで、長いスパンでの症状変化を追うことが可能です。たとえば、春先になると毎年調子が悪くなる患者さんがいたとします。
その際にカルテを見ながら「○○さんは4月にいつも体調を崩しているから、この期間はしっかりと施術に通うように」と説明することで、施術の必要性に対する説得力が増すことになるでしょう。
施術計画を立てやすい
定期的に来院してもらい、施術をした後の症状変化を記入しておくことで、施術計画が立てやすくなります。
自由診療の鍼灸院に訪れる患者さんにとって、もっとも気になることの1つが「いつになったらこの症状はよくなるのか」という点です。
そこで、気象予報士が天気図を見て今後の天気を予想するように、鍼灸師も施術による変化を追うことで、症状についての将来予想が可能となります。
電子カルテを導入する鍼灸院も増加している
インターネットが主流となった昨今、電子カルテを導入する鍼灸院も増えてきています。では、鍼灸院で用いられる電子カルテにはどのような特徴があるのでしょう。
電子カルテを導入するメリット
電子カルテを導入する最大のメリットは、ペーパーレスを実現できる点が挙げられます。
紙のカルテの場合、年月を重ねるとどんどん増えていき、施術院のスペース圧迫、紙の紛失、過去カルテの検索が大変になるでしょう。電子カルテであれば、そのような心配がありません。
また、患者さんの情報をすべてデータベースに乗せることができるため、必要なときに必要な情報を取り出すことが容易になります。もちろん、患者フォローを行う際にも強い味方となります。
たとえば、名前ではなく誕生月で検索することで、その月に誕生日を迎える患者さんだけに、バースデーメールやDMの送付が容易に行えます。また、登録している患者さん全員に対し、一斉にメールを送ることも可能ですし、複数院を経営している方であれば、経営分析を行うことも可能です。
鍼灸院で用いられる電子カルテとは
鍼灸院で用いられる電子カルテには、オンプレミス型(自社運用型)のものや、クラウド型のものがあります。オンプレミス型にはカスタマイズが自由で、グループ間のシステムとの連携が容易というメリットがありますが、初期費用が高額となるデメリットがあります。
クラウド型は初期費用が安価で、災害復旧も比較的容易というメリットがあります。ただ、月額の費用が変動制であり、カスタマイズは制限付きとなっています。
そこで、個人で行っている鍼灸院ならクラウド型の方が使いやすいでしょうし、多店舗を運営するのであれば、オンプレミス型の方が後々便利でしょう。
整骨院・接骨院を運営していくうえで欠かすことのできないことの1つが、カルテの作成および保管です。カルテには患者様の個人情報が記されているため、厳重な管理下での保管が求められます。
そこで今回はカルテの保管方法や保管期間、多くの施設で活[…]
鍼灸院のカルテに関するまとめ
最後になりますが、保険を用いた施術をおこなっている鍼灸院を除けば、原則としてカルテを記入する義務はありません。ただ、カルテが無いというのは、患者フォローができないことと同義です。
そして、患者フォローとあわせ治療の質向上の観点から、自由診療の鍼灸院であってもカルテの導入を前向きに検討してみるとよいでしょう。
<参考元>
http://www.japaneselawtranslation.go.jp/law/detail_main?re=&vm=1&id=2074
https://www.harikyu.or.jp/general/insurance.html