腕を上げると肩が痛い場合の対処法!『五十肩』や『腱板断裂』など原因別に解説!

肩の痛みにはさまざまな要因があります。

ただの肩こりであれば、日常生活に支障をきたさない場合もありますが、中には痛みで肩を上げることも難しく、眠れないケースもあるでしょう。

そこで今回の記事では、腕を上げると肩が痛い場合の主な要因を解説し、症状別の対処方法をお伝えします。

本記事をご覧いただき、日頃悩まれている肩の痛みの適切な対処方法を身につけ、少しでも痛みの軽減にお役立ていただけますと幸いです。

最後までぜひお付き合いください。

肩を上げるために必要な身体の働きとは?

肩の痛い女性の画像

まずはじめに、肩が痛いことに対する対処法の理解を深めるため、肩を動かすためのメカニズム(仕組み)を解説していきます。

上腕骨(うでの骨)・肩甲骨の理想的な動き

肩を上げるには、上腕骨(じょうわんこつ)と肩甲骨の複合的な動きが重要です。

わかりやすく表現すると、肩を動かす時に上腕骨が一定の角度に達すると、肩甲骨も一緒に動いてくるということです。このように肩を上げる際には、上腕骨と肩甲骨が複合的に助け合って動いており、この肩の動きを「肩甲上腕リズム」と呼びます。

この肩甲上腕リズムが正しく機能していることで、スムーズに肩を動かすことができるのです。

肩甲上腕リズムを解説した画像

肩関節を安定させる『回旋筋腱板(かいせんきんけんばん)』の働き

肩周りには、さまざまな筋肉があります。その中でも、肩関節を安定させるために重要なのが回旋筋腱板です。

回旋筋腱板は肩甲下筋(けんこうかきん)、棘上筋(きょくじょうきん)、棘下筋(きょっかきん)、小円筋(しょうえんきん)の4つの筋肉で構成されています。

これらの筋肉は、上腕骨を肩甲骨へ引き寄せ安定させる働きを担っています。そのため、回旋筋腱板を痛めると肩の安定性が失われ、動きが悪くなってしまうのです。

回旋筋腱板を解説した画像

腕を上げると肩が痛い場合に考えられる2つの原因

腕を上げると痛い場合に考えられる一般的な原因は大きく2つに分類されます。

ご自身に当てはまる原因を押さえて、適切な対処方法を実践しましょう!

関節周りの炎症により発症する肩関節周囲炎(いわゆる五十肩・四十肩)

肩関節周囲炎とは、加齢による関節の摩擦や肩を上げる動作の繰り返しにより、肩関節周りの組織に炎症が生じ痛みが出現する病気です1)

肩関節周囲炎を解説した画像

さきほど解説した肩甲上腕リズムに問題があり、肩に負担がかかることで出現しやすくなります。

発症は40〜50歳代に多いことから、別名「四十肩」「五十肩」と呼ばれることも。また、さまざまな論文において、糖尿病の既往がある場合は、肩関節周囲炎につながりやすいと報告されています。

以下の3つの動きに制限がある方は、肩関節周囲炎の可能性があります。

  • 手を上げることができない
  • 手を背中にまわすことができない
  • 肘を90度に曲げた状態で、腕を外側に回すことができない

肩を安定させる筋肉の損傷で生じる腱板断裂

腱板断裂とは加齢によって回旋筋腱板の強度が低下した状態2)で、重いものを持ったり、腕を上げる機会が多い方に発症しやすい病気です。

腱板断裂損傷をを解説した画像

この回旋筋腱板の異常は、60歳以上では30%、80歳以上の方では62%に見られるそうです3)しかし、痛みなどがない無症状の方も多く、全ての方が日常生活に支障をきたす訳ではありません。

また、比較的若年層の方においても、転倒や転落などの外傷によって腱板断裂が起こることもあります。

そして以下の項目に当てはまる方は、腱板断裂が考えられます。

  • 転倒時に手を着いてしまったなど思い当たる節がある
  • 両手を繋ぎながらであれば手を上げられる
  • 肩に力が入らない

【原因別】腕を上げると肩が痛い場合の対処方法

ご自身に当てはまる症状は見つかりましたでしょうか?

ではここからは、腕を上げると痛い場合の対処方法を原因別に解説していきます。

肩関節周囲炎は時期別に対処法が異なる

肩関節周囲炎の治療は、一般的に保存療法(リハビリなど)が選択されます。

また、症状の回復過程において炎症期(痛みが強い時期)、拘縮期(肩の動きが悪くなる時期)、回復期(症状が改善してくる時期)の3つのフェーズに分類することができ、対処方法も異なります。

炎症期(痛みが強い時期)

炎症期の最も特徴的な症状として知られているのが「夜間痛」です。夜間痛とは、肩関節周りの組織に炎症が起き、横向きになると眠れないほどの痛みが出現する症状を言います。

この時期には肩の運動は避け、日常生活で痛みが出ない工夫をする必要があります。

とくに寝る姿勢に注意しましょう。枕を使用して頭を楽な位置に保ち、腕は脇腹の近くに置くようにしてください。そして、肘が肩よりも下に落ちないようにタオルなどを入れて高さを保ちましょう。

肩関節周囲炎急性期の寝る姿勢を解説した画像

体操に関しては痛みのない範囲で実施します。首や背中など筋肉が硬くなりやすいので、緊張を和らげるストレッチ・運動などが効果的です。

僧帽筋ストレッチ

STEP1:片手を後方へ回しましょう
STEP2:もう一方の手で肩を抑えましょう
STEP3:首を斜め前方へ倒しましょう
STEP4:肩甲骨から首筋が伸びた状態を10秒間程度保持しましょう
※姿勢は正して行いましょう

胸張り運動

STEP1:両手を前方に伸ばしましょう
STEP2:胸を張りながら肩甲骨を内側へ寄せましょう
STEP3:背中を丸めながら両手を前方へ伸ばしましょう
STEP4:繰り返し実施します
※痛みのない範囲で実施してください

拘縮期(肩の動きが悪くなる時期)

拘縮期には痛みは緩和してきていますが、肩関節まわりの組織が硬くなり動かせる範囲が狭くなってきます。そのため、硬さを最小限に抑えることを目的に、無理のない範囲で肩関節を動かす運動を実施しましょう。

テーブルサンディング

STEP1:タオルの上に手を置きましょう
STEP2:タオルを滑らせ手を前方に動かしましょう
STEP3:元の姿勢に戻ります
STEP4:繰り返し実施しましょう
※背中を丸めないように注意しましょう

回復期(症状が改善してくる時期)

回復期では、痛みや動かしにくさが改善されていきます。炎症期〜拘縮期で肩の動きが損なわれ、背中や腰の筋肉が硬くなり肩を上げる範囲に制限が残ります。

動かせる範囲の左右差をなくすためにストレッチを行いましょう。

広背筋ストレッチ

STEP1:両膝をつき斜め側方へ両手をつきましょう
STEP2:手をついたまま体を後方へ動かします
STEP3:脇腹が伸びた状態を10秒間程度保持しましょう
STEP4:元の姿勢に戻り、繰り返し実施します
※痛みのない範囲で実施しましょう

五十肩・四十肩を一瞬で治す方法はあるのか?

結論からいうと、すぐに治る方法はありません。

肩関節周囲炎の患者に対してリハビリの効果を検証した論文では、適切なリハビリを行うことで69%の患者が12ヶ月で可動域が改善、89%の患者が24ヶ月で改善したと報告されています4)一般的には肩の動きに左右差がなくなるまで、12ヶ月〜24ヶ月程度の期間が必要になります。

痛みで日常生活への支障が出てしまっている方もいらっしゃるかとは思いますが、焦らず適切な治療を行っていくことが大切です。

参考記事:五十肩(肩関節周囲炎)を早く治す方法とは?痛みの改善に効果のあるストレッチや体操を紹介
参考記事:四十肩を早く治す方法が知りたい!痛み緩和に有効なストレッチや寝方・ツボを解説

肩関節腱板断裂

腱板断裂は回旋筋腱板(インナーマッスル)の損傷が原因です。インナーマッスルを鍛えることで、断裂した腱への負担を減らしていきましょう。

肩関節内外旋運動

STEP1:タオルを準備してテーブルに置きましょう
STEP2:脇を閉じてタオルに手を置きます
STEP3:タオルを左右に動かしましょう
STEP4:リズムよく繰り返し実施します
可能な範囲で大きく動かしましょう

肩が痛い場合にやってはいけないこととは?

以下より、肩が痛い時にやってはいけないことを解説していきます。

痛みが緩和してくるとつい無理な動きをしてしまいがちですが、痛みが出現する動作は基本的には控えるように心がけましょう。

腕を上げて行うスポーツ

野球や水泳、テニスなどは腱板断裂が多くみられるスポーツです。特に水泳は、浮力で負担がかからないイメージもありますが、泳ぐ時の腕や肩への負担は大きいので控えましょう。

また、野球やテニスなど頭上でボールを投げる、打つなどのスポーツもなるべく控えることをおすすめします。

参考記事:野球肩でボールを投げる瞬間に痛い!症状の種類と原因・予防法や治し方を紹介

無理に腕の可動域(動かせる範囲)を広げる体操

肩の動きが悪くなった際に、無理に腕を動かすことで可動範囲を広げようと考える方もいらっしゃいます。しかし、無理な運動はかえって逆効果です。さらなる筋の損傷を助長してしまう可能性もございます。

焦らずに適切なストレッチを実施していきましょう。

参考記事:【動画で解説】座ったままで肩こり解消!簡単にできる肩甲骨ストレッチを紹介

まとめ

腕を上げると肩が痛い場合の対処方法について、原因別に解説いたしました。

腕を上げると肩が痛む要因はさまざまです。誤った対処方法を行うことで、症状が悪化してしまう可能性もあります。なので、ご自身の症状にあてはまるものを探し、適切な対処方法やトレーニングを行いましょう。

本記事があなたの痛みの改善にお役立ていただけますと幸いです。

参考文献

1)Dias R, Cutts S, Massoud S. Frozen shoulder. BMJ. 2005 Dec 17;331(7530):1453-6.
2)H.Horng-Chaung, Influence of rotator cuff tearing on glenohumeral stability, Journal of Shoulder and Elbow Surgery,1997, p413-422
3)Dang A, Davies M. Rotator Cuff Disease: Treatment Options and Considerations. Sports Med Arthrosc Rev. 2018 Sep;26(3):129-133
4)Hand C, Clipsham K, Rees JL, Carr AJ. Long-term outcome of frozen shoulder. J Shoulder Elbow Surg. 2008 Mar-Apr;17(2):231-6