野球肩でボールを投げる瞬間に痛い!症状の種類と原因・予防法や治し方を紹介

野球選手を悩ませる症状の一つが「野球肩」です。

ボールを投げる瞬間に肩に痛みが走る症状で、一度発症すると、競技パフォーマンスに大きな影響を及ぼしかねません。野球を長く続けるために、野球肩への対処法について知っておく必要があるでしょう。

そこで当記事では、野球肩の種類や治療までにかかるおおよその期間、セルフケア方法を解説します。

最後まで目を通すことで野球肩について理解が深まり、適切な予防やケアができるようになるでしょう。

野球肩(投球障害肩)とはどういった症状なの?

野球肩とは、腕を上から強く振った際に肩周辺に生じる症状の総称です。「投球肩」「投球障害肩」と呼ばれることもあります。

その名の通り、野球の投球動作によって生じるケースが多いです。

プロ野球や高校野球で、野球肩に悩む選手は少なくありません。野球肩が原因で戦線離脱を余儀なくされるというケースも。

その他、バレーボールやテニス、水泳などの競技でも発症するケースが見られます。つまり、腕を頭の上まで挙げる動作が見られる、いわゆる「オーバーヘッドスポーツ」を行う場合は十分注意する必要があるでしょう。

野球肩の種類

野球肩には症状が出る部位や原因によって、いくつかの種類に分かれます。

以下より、野球肩の種類とそれぞれの特徴を解説します。

インピンジメント症候群

野球肩の肩のインピンジメント

投球動作によって、肩を構成する骨と骨が衝突して痛みを引き起こす症状を「インピンジメント症候群」と呼びます。

野球肩の中でも発症する確率が高い症状で、肩が60°〜120°の角度にある時に痛みが出るのが特徴です。

痛くなる部位は肩の後ろの外側が多く、前面が痛くなるケースは少ないです。

上腕骨骨端線離開(リトルリーグショルダー)

10歳〜15歳の成長期の野球プレイヤーに見られる症状が「上腕骨骨端線離開」です。「リトルリーグショルダー」と呼ばれる場合もあります。

投球時の腕をひねるフォームやフォロースルー時の負荷によって、上腕骨の骨端線という部位がずれることで、肩の前側に痛みが出ます。

骨端線は骨の成長にとって重要なので、肩を休ませるなど適切な対処が必要になってくるでしょう。1か月ほど安静にすることで痛みが改善するケースが多いです。

ルーズショルダー(肩関節不安定症)

肩の動きを制限する靭帯や関節包が緩いことによって起こる症状が、「ルーズショルダー」です。「肩関節不安定症」とも呼びます。

先天的に肩の可動範囲が広い方に起こりやすいです。

肩の可動範囲が広いことは投球動作にとってプラスな面もありますが、脱臼を繰り返したり、ボールを投げたあとに肩に違和感が残ったりします。

腱板損傷

肩への負荷によって、肩を動かすために欠かせない「回旋筋腱板」が損傷もしくは切れてしまう症状が「腱板損傷」です。

回旋筋腱板(棘上筋・棘下筋・小円筋・肩甲下筋)の図

腱板損傷になると肩の激しい痛みが出たり、肩を挙げられなかったり、投球動作だけでなく日常生活に大きな影響を及ぼしかねません。

腱板損傷が症状が消失するまでに、半年以上かかる場合もあります。

肩甲上神経損傷

ボールを投げる際に、肩甲骨の上部にある肩甲上神経が圧迫されたり損傷されたりする症状が「肩甲上神経損傷」です。

肩甲上神経の図

肩甲上神経損傷になると、肩の疲労感や肩が上がりにくい、筋肉の萎縮などが見られます。その他に肩が腫れたりしびれが出たりするケースも少なくありません。

投球時のフォロースルー時に肩甲上神経が損傷する可能性が高いので注意が必要です。

肩甲上神経損傷が完治するまで、1年以上かかる場合もあります。

野球肩の原因とは?

野球肩の原因として、まず考えられるのは「肩の酷使」です。

野球選手の場合、練習や試合でほとんど休まずボールを投げ続けることは珍しくありません。肩への負担が蓄積した結果、野球肩が発症してしまいます。

野球以外の競技の場合でも、プレーに夢中になり、つい肩を酷使してしまうことは多いもの。強豪チームであればなおさらでしょう。

その他の原因は、「肩に負担がかかるフォーム」です。

肩に負担がかかるフォームでボールを投げ続ければ、靭帯や腱板などが損傷することは想像に難くありません。

ましてや慣れたフォームを直すことは決して簡単ではないもの。肩に負担がかかると分かっていても、良いプレーを優先しようとすれば、そのままのフォームで投げ続けてしまうでしょう。

また「肩の筋力不足」によって、負荷に耐えられなくなった結果、野球肩が発症する場合もあります。

野球肩はどのくらいの期間で治るの?

肩を酷使するピッチャー

野球肩は原因や痛めた部位によって、治療にかかる期間は異なってきます。

炎症のみの比較的軽症な野球肩なら、1週間ほど休めば治ることもあります。たとえば学生の時以来に野球を行い、「久しぶりに投げると肩が痛い」といった場合は、休むことで痛みは自然と引いていくでしょう。

しかし腱や神経が損傷している場合、改善までに3か月から半年かかるケースも珍しくありません。また根本的な原因が改善されていなければ、すぐに再発する可能性が高いです。

痛みを我慢してプレーを続けていては、野球肩は改善しません。

十分な休息を設けたり、セルフケアを続けたりすることが重要になってきます。

野球肩のセルフケア方法

ではここから、野球肩に効果のあるセルフケア方法を解説します。

野球肩を早く治すため、野球肩を予防するため、ぜひ実践してみてください。

アイシング

アイシング用のサポーター(氷嚢)

野球肩における痛みを和らげるために、アイシング(冷やす)を行うことが効果的です。

練習後にアイシングを行うことで肩の熱を下げたり、炎症を抑えたりする効果が期待できます。アイシング用のサポーターもいくつか販売されているので、ぜひ利用してみてください。

肩のストレッチを行う

肩のストレッチが、野球肩の改善や予防に効果的です。練習の前後に取り入れてみましょう。

以下より、おすすめのストレッチを2つご紹介します。

1つ目は「広背筋」のストレッチです。

投球動作に関係の深い腕の筋肉、背中の筋肉が効率よく伸びます。椅子に座りながら簡単にできるので、ぜひ継続してみてください。

2つ目は「三角筋」のストレッチです。

上記のストレッチによって、投球動作に関係する肩の外側の筋肉(アウターマッスル)を伸ばせます。

ストレッチとアイシングをセットで行うことも効果的です。ぜひ継続してみてください。

肩の筋力トレーニングを行う

肩の筋力トレーニングも、野球肩の治療や予防に効果が期待できます。

ここから、おすすめの筋力トレーニングを紹介します。

まず「肩関節外旋運動」です。

このトレーニングによって、投球時に肩の安定性を保つのに不可欠なインナーマッスルの筋肉を効率よく刺激できます。

続いて、「僧帽筋下部エクササイズ」です。

こちらのトレーニングでは、投球動作に必要な肩甲骨の安定性をアップできます。

どちらのトレーニングも、自宅で簡単に実践できるでしょう。

呼吸を止めずに、腕をゆっくり大きく動かすように意識してみてください。

十分な休息をとる

先述したように、野球肩の大きな原因は肩の酷使です。練習と同じくらい、十分な休息が大切になってきます。

そこで、肩をしっかり休める時間を設けましょう。とくに動作に支障が出るくらい肩が痛い場合は、意識的に投球動作を行わないようにするべきです。

練習が思うようにできないとなると、焦るのも無理はありません。しかし、肩を使わない練習を行うなど、できることは多くあります。

指導者と相談しながら、練習メニューを決めていきましょう。

フォームのチェック・修正を行う

野球肩を改善するにあたって、投球フォームのチェック・修正も大切になってきます。

できるだけ肘や肩に負担をかけずに投げるために、上半身の使い方はもちろん、下半身の使い方や重心移動を見直すことも重要です。

もちろんフォームを変えることで、パフォーマンスに影響する可能性も否定できません。指導者のチェックのもと、長く続けられる適したフォームを見つけましょう。

痛みが強い場合は必ず整形外科を受診する

これまで紹介してきたような、ご自身で行うセルフケアは大切です。

ただし、痛みが強い・痛みが引かない場合は、早急に整形外科などの医療機関で診てもらいましょう。詳しく検査してもらうことで、痛みの原因がより鮮明になります。

とくに10代の方は、将来のためにも医療機関で検査を受け、お医者さんのアドバイスをもらい適切なケアを行うことが重要です。

野球経験者、もしくはスポーツ障害に詳しい先生に診てもらえれば理想的。おすすめの整形外科をチームの指導者に聞いてみるのも良いでしょう。

もし整形外科の診察時間に間に合わない場合、接骨院・整骨院の先生に施術してもらう方法もあります。

とはいえ、できるだけ精密な検査が可能な整形外科を受診することがおすすめです。

まとめ

野球肩はその名の通り、野球選手は発症するケースが多い痛みです。ただし、他のスポーツ種目でも発症する可能性はあるので注意しましょう。

野球肩には骨に原因がある症状や、靭帯や神経を損傷することで起こる症状など、種類は多岐に渡ります。ただ原因は何であれ、痛みが発症する背景には肩の使い過ぎが存在する場合がほとんど。

したがって、野球肩を発症したら肩を休めるとともに、フォームのチェックや修正が必要です。そのうえで肩のストレッチ、肩の筋力トレーニングに取り組みましょう。

競技ができない中でも、地道にリハビリに取り組むことで、完治までにかかる期間を短くできます。

それでは当記事を参考に、野球肩への準備を万全にして競技に取り組みましょう。

【参考文献】
1)一般社団法人 日本臨床整形外科学会:投球肩
2)日本臨床スポーツ医学会:高校野球選手の肩,肘,腰部障害の有病割合と特徴―福島県での検討―
3)特定非営利活動法人 愛知県理学療法学会:投球後のアイシングが肩関節に及ぼす影響
4)慶應義塾大学 医学部スポーツ医学総合センター:成長期の野球肘・野球肩に注意!治療期間の過ごし方と予防法
5)原 正文.投球障害肩のリハビリテーション治療
6)Harald Binder 1, Mark Schurz, Silke Aldrian, Christian Fialka, Vilmos Vécsei:Physeal injuries of the proximal humerus: long-term results in seventy two patients