「運動中に歩けなくなるほど脛(すね)が痛い」「運動後に脛に熱感や腫れ、赤みがある」など運動中や後に、脛の痛みなどの症状に悩んでいませんか?
こういった痛みは、シンスプリントという病気が原因かもしれません。
シンスプリントは、スポーツによる筋肉の過度な使いすぎが原因で発症するスポーツ障害の1つです。重症化すると、スポーツ復帰までに2〜3ヶ月かかることもあり、適切な休息とケアが必要となります。
そこで今回の記事では、シンスプリントによる脛(すね)の痛みの主な原因やケア方法(治し方)を解説します。ぜひ最後までお付き合いください。
そもそもシンスプリントとは?
シンスプリントとは、脛骨(けいこつ)という脛(すね)の骨にある骨膜に炎症を起こすけがで、別名、「脛骨過労性骨膜炎」とも言われます。走る、飛ぶを繰り返し行うバスケットボールやサッカー、バレーなどのスポーツで発症しやすいスポーツ障害です。
症状はスポーツ中やスポーツ後に、脛内側の中央から下方1/3部分にズキズキとした痛みが出現し、進行すると安静にしていても痛みが出現します。また、患部が腫れたり熱をもったりするほかに、指で押すと痛みが強くなる圧痛が見られることもあります。
練習量を減らすことで痛みが軽減しますが、再び練習を始めると再発を繰り返す方も多いケガです。また、痛みや腫れを放置したままスポーツを続けることで、重症化するケースも少なくありません。重症化した場合は、スポーツへの復帰までに2〜3ヶ月の時間を要すると言われています1)。
そこで、シンスプリントの原因となる要因を取り除き、ストレッチやトレーニングで予防することが重要です。
シンスプリントの主な3つの原因とは?
ここからは、シンスプリントの主な3つの原因について詳しく解説します。ご自身に当てはまる原因があるか、チェックしながら読み進めてください。
運動量の急激な増加や運動内容の変化
シンスプリントを発症する1番多い原因として、運動量の増加や運動内容の変化による筋肉の使い過ぎが挙げられます。その結果、シンスプリントの原因となる骨膜に炎症が生じて発症してしまうことに。
とくに、新入生やシーズン開始時期、久しぶりにスポーツを再開した人などは注意が必要です。というのも久しぶりの運動は、足首を含めた足の柔軟性の低下や筋力不足が生じているためです。そしてトレーニングに慣れてきたころに疲労が蓄積して、発症リスクが高まってしまいます。
不適切な運動環境
屋外でスポーツをする場合は、地面環境が変化することで、足への負担が大きくなります。道路などのアスファルトはもちろん、人工芝のグラウンドもコンクリートの上に人工芝が敷かれているので地面が固い場合が多いです。そして固い地面で走る、跳ぶなどの動きを繰り返すことで足に衝撃が加わり、シンスプリントなどのスポーツ障害が起きやすくなってしまいます。
また、ソールのすり減ったシューズやクッション性の低いシューズを履き続けることも、足に過剰な負担がかかってしまうので注意が必要です。そのため定期的にシューズの中敷きやソールを確認して、必要があれば自分の足に合ったシューズに買い替えるとよいでしょう。
足関節を含めた足の可動域制限や筋力低下
足首につく「ヒラメ筋」や「後脛骨筋(こうけいこつきん)」などの筋肉が硬くなることで、足関節の動く範囲が制限され、脛骨にある骨膜(こつまく)にストレスがかかります。さらに、股関節や膝関節の柔軟性や筋力低下により、脛にストレスが加わることが痛みの原因となるケースもあります。
また、足裏のアーチ機能が低下する「偏平足」や「回内足(足首が内側を向いている状態)」の方もシンスプリントを発症するリスクが高いと言われています。アーチ機能が低下することで足の裏がうまく衝撃を吸収できず、足関節周囲の筋肉への負担がかかってしまうのです。
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シンスプリントが疑われるときに必要なケア・治し方
ご自身に当てはまる原因は見つかりましたでしょうか?ここからは、シンスプリントが疑われるときに必要なケアを、症状や時期別に解説していきます。
歩くと痛いなど重症の場合は病院を受診しよう
「歩くだけで痛みがある」「脛の腫れが強い」など重症の場合は、運動を中止して整形外科病院を受診しましょう。病院でレントゲンや超音波、MRIなどの検査を行うことで、シンスプリントと似た初期症状が出現する疲労骨折との鑑別ができます。
また、シンスプリントは炎症症状を抑えることが治療の第一歩となります。痛みが強い場合は、必要に応じて湿布や痛み止めなどの鎮痛消炎剤が処方されるので、用法・用量を確認して適切に服用しましょう。
急性期は患部の安静が第一
スポーツ中に痛みが出現してから48時間〜72時間(2〜3日間)を「急性期」と言い、急性期は患部の安静により炎症を抑えることが第一優先となります。急性期に適切な処置を行うことで、受傷後の痛みや腫れなどの炎症症状が抑えられ、スポーツへの早期復帰につながります。
また、急性期の処置方法は自分でも簡単に行える「RICE処置」を行いましょう。RICEとはRest(安静)・Icing(冷却)・ Compression(圧迫)・Elevation(挙上)の頭文字を並べたものです。とくに氷を使用したアイシングやアイスマッサージは、急性期以外でも練習後に行うと、炎症を抑えることができます。
負荷のかからないストレッチや筋トレから運動を再開しよう
急性期を終えて痛みや腫れなどの炎症症状が落ち着いたら、足への負担となっている原因を探り、再発しないよう徐々に運動を再開していきます。まずは、負荷のかかりにくいストレッチや筋トレから始めましょう。
次項では、シンスプリントの治療に効果的なストレッチやトレーニングを紹介しているので、柔軟性の低下や筋力不足を感じる方は確認してみてください。
シューズや中敷きなど運動環境を見直すことも重要
自分の足に合わないサイズのシューズや、踵(かかと)のすり減ったシューズを使用している場合は、シューズ等の運動環境の見直しを行いましょう。
また、「偏平足」や「回内足」などの疑いがある場合は、インソール(靴の中敷き)をシューズに入れることで症状が改善することがあります。一人一人に合う物を作成する必要があるので、整形外科病院に受診し相談してみてください。
シンスプリントの治療に効果的な5つのストレッチやトレーニングを紹介
ここからは、柔軟性の低下や筋力不足によってシンスプリントが起こる方におすすめの、ストレッチやトレーニングを解説します。ぜひ患部に痛みが出ない範囲で試してみてください。
腓腹筋(ひふくきん)ストレッチ
腓腹筋とはふくらはぎに付いている、走ったりジャンプをしたりするときに作用する筋肉です。腓腹筋の柔軟性が低下すると、足首を反らす動きが制限されてしまいます。シンスプリントの痛みだけではなく、腓腹筋の硬さは膝や腰の痛みの原因ともなりうるので、運動の前後でも必ず行いたいストレッチの1つとなるでしょう。
腓腹筋が柔らかくなると、体を丸めたり反らしたりという体幹の柔軟な動きの改善にもつながります。
STEP1:壁に手をつきましょう
STEP2:足を大きく前方に開きましょう
STEP3:前方の足に体重を乗せましょう
STEP4:ふくらはぎが伸びた状態を保持しましょう
STEP5:ゆっくりと戻しましょう
STEP6:繰り返し実施しましょう
※踵が床から離れないように注意しましょう
後脛骨筋(こうけいこつきん)ストレッチ
足首を安定させる作用のある後脛骨筋は柔軟性が低下すると、脛の骨膜を引っ張り痛みなどの炎症症状を引き起こしてしまいます。シンスプリントによる痛みが落ち着いても、再発を防ぐためにストレッチを続けましょう。
STEP1:両手で足首を持ち足首を反らせましょう
STEP2:足首をさらに斜め後方へ反らせましょう
STEP3:数秒間姿勢を保持しましょう
STEP4:ふくらはぎの内側が伸びるのを感じましょう
タオルギャザー
足の裏のアーチがない偏平足や回内足が疑われる方は、地面からの衝撃をうまく吸収できずシンスプリントになりやすいです。足裏のアーチを改善させる方法の1つとして、テニスボールを使用した「足裏マッサージ」や足指を使ってタオルをたぐりよせる「タオルギャザー」が役立ちます。
STEP1:タオルを床に置き踵で踏みましょう
STEP2:指を握りタオルを引き寄せます
STEP3:タオルを元の位置に戻しましょう
STEP4:踵の位置は変えないように注意しましょう
両脚ヒールレイズ
筋力低下により足首の安定性が低下している場合、ふくらはぎの筋肉である「腓腹筋」や「ヒラメ筋」を鍛えるトレーニングを行いましょう。正しい姿勢でトレーニングを行うことで、競技中のパフォーマンス向上にもつながります。ただし、患部に負荷のかかるトレーニングとなるので、痛みを確認しながら慎重に行ってください。
STEP1:壁に手をつきましょう
STEP2:できる限り踵を高く上げましょう
STEP3:繰り返し実施しましょう
STEP4:膝をしっかりと伸ばした状態で実施しましょう
※踵が斜めに上がらないように注意しましょう
※痛みがある場合は曲げた状態を保持しましょう
スプリットスクワット
足首周りの筋力低下だけではなく、膝や股関節周りの筋力低下もシンスプリントの原因となります。お尻の筋肉である「大殿筋(だいでんきん)」や太ももの後面につく「ハムストリングス」、太ももの前面につく「大腿四頭筋(だいたいしとうきん)」を鍛えるスプリットスクワットを行うことで足の安定性を強化し、足首への負担を減らしましょう。
STEP1:片脚を大きく前方に出しましょう
STEP2:両膝を曲げて腰を深く落としましょう
STEP3:ゆっくり元の姿勢に戻り繰り返し実施します
STEP4:膝を曲げる際に前方の足へ体重を乗せましょう
※膝をつま先より前に出さないように注意しましょう
※体がふらつかないように注意しましょう
シンスプリントの予防につながるテーピング方法を紹介
シンスプリントの再発防止や予防のためには、スポーツ時のテーピングがおすすめです。テーピングで患部を圧迫することで、痛みやストレスの緩和が期待できます。
足首~ふくらはぎは自分でテーピングを行うことは難しいので、コーチや家族に頼んで貼ってもらうとよいでしょう。今回、以下の動画では、50mmのキネシオテープと75mmのバンテージテープを使う方法を紹介します。
STEP1:立方骨(りっぽうこつ)※の辺りから足底を通して下腿内側に貼りましょう
STEP2:同様の場所から開始し1/2ずらして貼りましょう
STEP3:圧痛部位を確認しその上で交わるようにクロスさせます
STEP4:1/2程度重ねて再度クロステープを貼りましょう
STEP5:クロスさせたテープの上にバンテージテープを巻きましょう
※立方骨は、外くるぶし前方のくぼみから、指2本分ほど前方・指1本分ほど下方に指を滑らせたところあたりにある骨のことです。
シンスプリントによる脛の痛みはどのくらいの期間で治る?
シンスプリントによる脛の痛みは、重症度や治療によって治るまでの期間は異なります。スポーツ復帰までの目安は、初期段階であれば2週間程度、重症であれば2〜3ヶ月程度かかると言われています1)。治療が完了していない状態でスポーツに復帰すると、再発するリスクが高くなるので注意が必要です。
休む期間は必要か?
「何もしていないのに痛む」「歩くだけで痛みがある」といった場合は、患部の痛みや炎症を改善させることを第一優先するために、スポーツを休む期間を設けましょう。
また、運動後や運動中に痛みがある場合は、患部に負担がかからないように運動量を調節する必要があります。たとえば、水泳やエアロバイク、足首以外のストレッチがおすすめです。
その後、痛みが軽減すればウォーキングなど軽い運動から始めましょう。足首のトレーニングやジャンプをしても痛みが出なくなればランニングに進むなど、徐々に段階を踏んで復帰することが重要です。
走りながら治す方法はあるのか?
先述した通り、シンスプリントはオーバーユースが原因となることがほとんどなので、痛みがある場合はスポーツを休む期間が必要となります。しかし、プロスポーツ選手はもちろん、大会が近い学生などスポーツを休めない状況の方もいるでしょう。
そのような方々も、症状の重症度によって、走りながら痛みを軽減できるケースがあります。とくに、シンスプリントの原因が筋肉の柔軟性によるものであれば、運動を続けながらアイシングやストレッチ、マッサージによって改善できることが多いです。
ただし、運動を続けることで重症化するリスクもあります。そのため確実に回復するためには、整形外科に受診し医師と相談しながら正しい治療方針を決定する必要があるでしょう。
まとめ
今回の記事では、シンスプリントの治し方をテーマに、痛みの原因やケア方法を解説いたしました。シンスプリントによる脛の痛みの原因は、柔軟性の低下や筋力不足、不適切な運動環境などが挙げられ、原因別に適切な対処法でケアする必要があります。
また、治療が完了していない状態で復帰すると、シンスプリントは再発する可能性が高いです。段階を踏んでトレーニングを再開し、確実にスポーツ復帰できるよう慎重に行いましょう。
それでは、シンスプリントによる脛の痛みの改善に、本記事をお役立ていただけますと幸いです。
参考文献
1)八木茂典 :シンスプリントの重症度分類と治療,Sportsmedicine 2010 NO.126,p21-22