日常生活に大きな影響を及ぼすのが「骨盤の横に現れる痛み」です。
「骨盤の上を押すと痛い」「左右どちらか片方の骨盤が痛む」「歩くと痛い」など、症状の現れ方もさまざま。痛めた理由に関して心当たりがあるならまだしも、何も心当たりがなければ不安になるのも無理はないでしょう。
当記事では、骨盤の横が痛い原因について解説します。最後まで目を通すことで、なぜ骨盤の横が痛むのかについておおよその見当がつくはずです。
ぜひ参考にしてください。
骨盤の横が痛む原因を解説
さっそく、左側・右側の骨盤の横が痛む原因を解説します。
ただし、以下より挙げる原因や疾患はあくまで一例です。正確な原因を知るには医療機関で検査を受ける必要があります。
その点を把握して頂いたうえで、参考として読み進めてみてください。
骨や靭帯の変性
まず考えられるのが、骨盤の形成に関係する骨や靭帯の変性です。「加齢」や「生活習慣」、あるいは「出産」などがきっかけになって起こります。とくに、骨盤の横の痛みが長く続いている場合、骨や靭帯の変性が原因である可能性が考えられます。
ここで、具体的な疾患(病気)をいくつか紹介しますので、ご自身の痛みと照らし合わせてみてください。
仙腸関節障害
骨盤の中央部分で、「仙骨(せんこつ)」と「腸骨(ちょうこつ)」によって形成されるのが「仙腸関節(せんちょうかんせつ)」です。背骨を支える・負担を緩和するために大切な部位で、関節と名称がついているものの、数ミリしか動きません。
そして、仙腸関節が不安定になることで発症するのが「仙腸関節障害(せんちょうかんせつしょうがい)」です。骨盤の横や後ろ側に痛みが出たり、下肢にかけて痛みやしびれが出たりします。
仙腸関節障害の要因としては、「中腰での作業」「悪い姿勢」「スポーツによる衝撃」「妊娠・出産」などです。
変形性股関節症
いわゆる「足の付け根」に該当する股関節が変形し、骨がこすれあったり、筋肉に負荷がかかったりして痛みが現れるのが「変形性股関節症(へんけいせいこかんせつしょう)」です。
骨盤周りの痛みはもちろん、臀部(お尻)の痛みや、足を引きずるように歩く「跛行(はこう)」が現れるケースもあります。
変形性股関節症は、「加齢」「体重増加(肥満)」「スポーツでの酷使」がきっかけで発症するほか、生まれつき股関節が脱臼していたため発症するケースもみられます。男女比で見ると、女性に発症する割合が多いです。
参考:股関節痛の原因は何?痛みと関連する病気とストレッチ・筋トレ法を専門家が解説!
参考:【理学療法士監修】変形性股関節症の痛みを和らげる効果的なストレッチを紹介!
大腿骨頭壊死
骨盤にはまっている大腿骨の先端「大腿骨頭(だいたいこっとう)」に血流が巡らなくなり、壊死(えし)してしまう疾患が「大腿骨頭壊死」です。
大腿骨頭が壊死を起こし、その後に陥没したり変形したりすることで、股関節周辺に痛みが発生します。つまり、痛みが現れるまでに時間差が生じやすいので注意しましょう。
そして大腿骨頭壊死は、骨折や脱臼など原因が明らかな「症候性大腿骨頭壊死」と、原因が不明な「特発性大腿骨頭壊死」に分かれます。
なお、特発性大腿骨頭壊死は難病に指定されています。
骨盤輪不安定症
女性に発症する骨盤の痛みの1つが「骨盤輪不安定症(こつばんりんふあんていしょう)」です。
骨盤の内側で、「仙骨」と左右の「寛骨(かんこつ)」と「恥骨結合(ちこつけつごう)」によって形成されるのが「骨盤輪」で、それぞれの骨は靭帯でつながっています。
そして骨盤部への負担増加や妊娠中のホルモン分泌などで骨盤輪の安定が崩れることで、骨盤周りやお尻に痛みが出ます。
骨折や打撲などの外傷
骨盤部分の骨折や打撲といった外傷が痛みの原因かもしれません。
たとえば、「スポーツで骨盤の横を激しくぶつけた」「階段で転倒して骨盤を打った」などです。ほかにもさまざまなケースが考えられます。
とはいえ、外傷が発生した瞬間について覚えていない場合もあるでしょう。高齢者の場合は、軽くぶつけただけで骨が折れてしまうケースも少なくありません。
そこで、まずは痛む部位を鏡でチェックしてみてください。皮膚が変色する、いわゆる「あざ」になっていませんか。もし、あざができている場合は、まずは応急処置として入念にアイシング(冷却)を行いましょう。
参考:骨折を早く治す方法とは?骨折が治るしくみや治癒に必要な期間について解説
参考:打撲ができたら病院に行くべき?骨折かもしれない危険な症状と対処法を紹介
内臓の病気
そのほかに考えられるのが、内臓の病気です。
内臓が病気になり、身体のさまざまな部位に痛みが現れる症状を「放散痛」と呼びます。そして「婦人科系」の病気や「腎臓」の病気によって、左骨盤部の痛み・右骨盤部の痛みが現れる可能性があります。
具体的な病名は医師にしか分からないので、「痛み方」「痛み以外の症状の有無」についてご自身で確認してみてください。
「どんなときも痛み方が変わらない」「痛みが増し悪化し続けている」という場合や、痛み以外に「吐き気」「発熱」「便秘」「食欲不振」が現れている場合は要注意です。
骨盤の横の痛みを放置するのはやめよう
原因が何であれ、骨盤の横が痛む状態を放置するのは避けるべきです。もし放置すれば、痛みが長引いたり、症状が悪化して痛みが増したりするでしょう。
多くの場合、処置をしないまま痛みが自然に改善されていくことはほぼありません。
言うまでもなく、骨盤の痛みは仕事や睡眠、車の運転などさまざまな場面に影響します。ぜひ、早めの対処を心がけるべきです。
【優先】まずは病院を受診しよう
先ほど解説したように、骨盤の横の痛みが現れる疾患は多岐に渡ります。そして原因について、ご自身で判別するのが難しいケースも多いです。
したがって、病院への受診を最優先に考えてください。精密な検査によって、痛みの原因が正確に特定されるはずです。
忙しいなかで時間を作るのは難しいかもしれませんが、少しでも早く原因を把握し、対処することが大切ではないでしょうか。なお、「何科に行けばよいか分からない」という場合、まず整形外科を受診しましょう。
骨盤の横の痛みはどのくらいで改善する?
骨盤の横の痛みがどれほどの期間で改善するかは、痛みの原因(疾患)によって異なります。
打撲・骨折が原因の痛みであれば、長くても3か月ほどで改善するケースが多いです。ただし、外傷の程度によって変わってきます。
そして、骨や靭帯の変性・内臓の病気が原因の場合、半年以上もしくは1年以上かかるケースもあり得ます。加えて、痛みが重症化していて自然治癒が難しい場合は、手術が必要になるかもしれません。
骨盤の横が痛い時に効果的なセルフケア
病院にて重篤な病気ではないと診断を受けたあとは、骨盤周りの安定性を高めたり骨盤への負担を減らしたりするために、セルフケアを続けましょう。
ではここから、骨盤の横の痛みの緩和に効く運動・姿勢矯正法を紹介します。
いずれも特別な準備は必要なく、すぐに実践可能です。ぜひ日常生活のなかに取り入れてみてください。
骨盤・股関節のストレッチ
まず、手軽かつ効果が期待できるのが骨盤・股関節のストレッチです。
ゆっくり筋肉を伸ばすことで、骨盤や股関節周りの血流が良くなります。また、関節の動きがスムーズになるメリットもあります。
ただし、ストレッチの効果が期待できるのは「骨や靭帯の変性」といった、筋肉の硬さが痛みに関係するケースのみです。「打撲や骨折などの外傷(痛み、腫れが強い時期)」「内臓の病気」が原因で現れる痛みには効果が期待できないので、あらかじめ把握しておいてください。
では、おすすめのストレッチを2つ紹介します。
1つ目は「大殿筋(だいでんきん)ストレッチ」です。
STEP2:お尻を斜め後方へ動かします
STEP3:元の姿勢に戻ります
STEP4:お尻の伸びを感じながら繰り返しましょう
こちらのストレッチを行うことで、お尻に付く「大殿筋(だいでんきん)」を柔らかくできます。
2つ目は「座位四股(ざいしこ)」です。
STEP2:骨盤を前方に倒します
STEP3:元の姿勢に戻ります
STEP4:内ももの伸びを感じながら繰り返しましょう
※腰が丸まらないように注意してみてください
上記のストレッチは、股関節の内側に付く「内転筋群(ないてんきんぐん)」を柔らかくする効果があります。
骨盤周りの筋力トレーニング
ストレッチとあわせて、適度な筋力トレーニングを行うのも有効です。筋トレを行い骨盤周りの筋肉を刺激することで、血流が良くなるほか、骨盤周りの安定性が高まり、痛みの緩和につながります。
ただし、骨盤周りの筋トレも、外傷や内臓の病気によって生じる痛みに対しては効果が期待できないので注意してください。
以下より、簡単にできるトレーニングを紹介します。
1つ目は「ヒップリフト」です。
STEP2:お尻を持ち上げましょう
STEP3:ゆっくり下ろします
STEP4:繰り返し実施しましょう
※身体が一直線になるまで身体を持ち上げてみてください
上記の筋トレは、「大殿筋」と太もも裏に付く「ハムストリングス」を鍛える効果があります。
2つ目は「骨盤底筋(こつばんていきん)エクササイズ」です。
STEP2:両手でお腹を触り、息を吸いながらお腹を膨らませます
STEP3:息を吐きながら肛門と膣を締めましょう
※息を吐く際は骨盤を軽く丸めましょう。
こちらの筋トレは、骨盤の底面に付く「骨盤底筋」を鍛えるのに効果的です。
立っている時・座っている時の姿勢を整える
日常生活のなかで、骨盤周りへ負荷がかかる場面は多いもの。痛みを緩和するには、いかに骨盤への負担を減らすかが大切です。
そこで、立っている時・座っている時の姿勢を見直してみましょう。
背中が丸まった「猫背」や、腰が反りすぎた「反り腰」など、悪い姿勢が続くことで骨盤に負荷がかかりやすくなります。
まずは、周りの方にスマホで撮影してもらったり、姿勢チェック用アプリを用いたりして、ご自身の姿勢を把握してみてください。もし姿勢が崩れている場合は矯正に取り組むことをおすすめします。
なお、背骨をまっすぐに立てる、いわゆる「気をつけ」の姿勢が正しいわけではありません。横から見て、背骨がS字状に湾曲しているのが人体にとって正しい姿勢です。
それを踏まえたうえで、胸を適度に張りながら、横から見て肩と耳が縦にまっすぐに並ぶように意識してみてください。
このように姿勢を整えることで、骨盤への負荷が軽くなるでしzょう。
参考:【簡単】姿勢を良くする方法4選!猫背や反り腰を改善して正しい姿勢を保つには
まとめ
左または右の骨盤の横が痛む原因は多岐にわたります。
痛みの程度が軽いと、ついそのまま放置しがちですが、痛みが悪化したり、重篤な病気の発見が遅れたりするリスクが高くなってしまいます。
繰り返しになりますが、できるだけ早めに病院を受診するべきです。要心するに越したことはありません。
そのうえで、ストレッチや筋トレ、姿勢矯正など、セルフケアを続けてみてください。時間はかかるかもしれませんが、骨盤の痛みの緩和が期待できるでしょう。
それでは当記事が、あなたのお悩み解決につながれば幸いです。
【参考文献】
1)Nicholas J Murphy , Jillian P Eyles , David J Hunter:Hip Osteoarthritis: Etiopathogenesis and Implications for Management
2)D T Felson 1, R C Lawrence, P A Dieppe, R Hirsch, C G Helmick, J M Jordan, R S Kington, N E Lane, M C Nevitt, Y Zhang, M Sowers, T McAlindon, T D Spector, A R Poole, S Z Yanovski, G Ateshian, L Sharma, J A Buckwalter, K D Brandt, J F Fries:Osteoarthritis: new insights. Part 1: the disease and its risk factors
3)Dinesh P Thawrani 1, Steven S Agabegi, Ferhan Asghar:Diagnosing Sacroiliac Joint Pain
4)特発性大腿骨頭壊死症診療策定委員会:特発性大腿骨頭壊死症診療ガイドライン 2019