レセプトが返戻されると再請求する手間が増えるうえ、報酬を受け取る時期が通常よりも1か月以上遅れます。経営の負担となる上に、保険者からの信用低下にもつながるため、レセプトの返戻はなるべく避けることが大切です。
そこで当記事では、レセプトの返戻に関する基礎知識や対処法、返戻に対する再請求にの方法ついて詳しく解説します。
レセプトの返戻について
整骨院が提出したレセプトは、審査支払機関(支払基金と国保連)と保険者により、正しく請求されているかどうかをチェックされます。チェックの結果、請求内容が不適切な場合や何らかの疑義が生じた場合はレセプトが差し戻され、これを「返戻」と呼びます。
柔道整復師におけるレセプトとは
柔道整復師は、「柔道整復施術療養費支給申請書」のことを便宜上レセプトと呼んでいます。医療機関で扱われるレセプトと柔道整復師が扱うレセプトは異なるため、混同しないように注意しましょう。
レセプトの本来の意味は診療報酬明細書のことであり、厚生労働省でも次のように定義されています。
レセプトとは、保険診療を行った医療機関が、患者一人一人の診療報酬(医療費)を、
審査支払機関を経由して保険者に請求を行う際の明細書であり、業務上の負傷・疾病(労 災保険の適用)及び健康診断等の保険外の診療記録はない。 |
柔道整復師は医師のように診療を行うわけではないため、診療報酬を保険者に対して請求することはありません。そのため、柔道整復施術療養費支給申請書を患者様に代わって保険者に提出することになります。
レセプトの返戻とレセプトの査定の違い
レセプトの取り扱いで間違われやすい、レセプトの「返戻」と「査定」の違いについて解説します。
レセプトの返戻
返戻とは、提出したレセプトが審査支払機関から差し戻されることです。
柔道整復師が提出したレセプトが返戻される理由としては、記載項目に不備や不明点が確認されたり、医療行為の適否について判断ができなかったりすることなどが挙げられます。
差し戻されたレセプトは指摘された項目を修正して再請求できますが、療養費の支払い月が遅れます。
レセプトの査定
査定とは、提出したレセプトについて審査支払機関と保険者によって不適当と判断され、療養費の請求自体が認められなかったり、減額して支払われたりすることです。
査定されたレセプトは返却されず再請求もできないため、返戻よりも厳しい扱いです。査定の判断に納得できない場合は、審査支払機関に再審査を申し立てることができます。
返戻や査定に適切に対応するためには、カルテに過去の施術内容や患者の症状の推移を記入することが大切です。またレセプト自体を間違いなく作成することも大切でしょう。
次の記事では接骨院や整骨院におけるレセプトの作成方法について解説しているので、参考にしてください。
参考:接骨院・整骨院のレセプト作成はどうすればいい?保険請求する際の流れや方法を解説します!
レセプトの主な返戻理由
レセプトの主な返戻理由は次のとおりです。
- 事務手続き上の間違い
- 柔道整復師による誤った請求
- 同一月に同一負傷名で他の医療機関を受診
- 請求内容が労災に該当
- 近接部位での請求
それぞれについて事例を交えて解説します。
事務手続き上の間違い
レセプトの返戻理由で最も多いのは、事務手続き上の間違いでしょう。番号や記号の誤記や署名の不備など、事務手続き上の間違いがあると返戻されます。
月初めの来院日には、必ず患者様に保険証を提示していただき、保険者変更の有無や有効期限を確認しましょう。また保険者が同じでも、記号や番号が変更されている場合もあるため、しっかりと確認してください。
また個人情報に関わる部分は後日確認することが難しいため、レセプトの返戻を防ぐためにも日頃からチェックすることをおすすめします。
たとえば受診される方が家族の扶養に入っている場合は、注意が必要です。柔道整復師療養費支給申請書には患者様自身が記名する必要がありますが、そこには被保険者名を記入してもらう必要があるのです。
被保険者名には多くの場合、世帯主を記入する必要があるため、扶養に入っている人が自分の名前を記入しないように注意しましょう。
利き手にケガを負っているなどの理由で署名ができない方には、柔道整復師が代筆することが認められています。この場合は、被保険者の拇印や三文判が必要です。
柔道整復師による誤った請求
柔道整復師による誤った請求によって、レセプトが返戻される事例も多発しています。例えば次のような誤りが見られます。
- 患者様の訴える負傷部位と施術箇所が一致しない
- 誤った療養費の金額を記載している
- 患者様の来院日を誤って記載している
以上の場合、レセプトの返戻対象となる可能性が高いです。提出前に、カルテと比べながらレセプトに誤りがないか確認しましょう。
また3か月以上にわたって施術を行う場合は、施術日数が長期にわたる理由や回復の見込みについて説明する必要があります。
同一月に同一負傷名で他の医療機関を受診
患者様が保険を利用する場合は、同じ部位の同じ症状に対して整骨院と病院で同時に治療を受けられません。
同一部位・同一負傷に対して整骨院と病院の両方から保険請求があった場合、病院の請求が優先されます。医師にかかっている期間は、患者様は医師の管理下にあると判断されるためです。
この期間中、柔道整復師が施術を行っても問題はありませんが、支払いは自費扱いとなります。
1か月以内に他の医療機関への通院履歴がない場合でも、「投薬期間」が重なっている期間は医師の管理下にあるとみなされ、療養費が支払われない可能性があるため注意しましょう。
患者様のなかには、保険を利用して整骨院と病院を同時に通えないことを知らない方も多くいらっしゃいます。受付時に病院の受診や投薬の有無を確認したり、院内の貼り紙で周知したりして返戻を受けないように対策をすることが重要です。
請求内容が労災に該当
仕事上のケガは労災扱いになるため、健康保険を使って施術を受けられません。レセプトの受傷理由欄に、誤って仕事中のケガであることを記入しないようにしましょう。
仕事上のケガを誤って健康保険で請求した場合、返戻依頼を出して労災として請求をし直す必要があります。
近接部位での請求
柔道整復師の保険システムには、近接部位と呼ばれる考え方があることを知っておきましょう。近接部位とは、近接した負傷部位についてはまとめて療養費を請求する仕組みです。
たとえば腰と臀部(お尻)は近接部位であるため、両方を打撲した場合は1部位として扱う必要があります。また背中は胸部と近接部位にあたるため、両方を挫傷した場合は1部位として扱います。
他にもさまざまな部位が近接部位となるため、該当パターンを把握しておくことが大切です。
返戻されたレセプトの再請求について
ここでは返戻されたレセプトについて、再請求する方法や具体的な請求の流れ、再請求期限について解説します。
返戻レセプトの再請求方法
レセプトの請求方法は紙レセプト、電子レセプトで方法が異なります。
紙レセプトの場合、支払機関より送られたレセプトの写しと返戻(調整)内訳書を確認し、必要に応じて追記したり、誤記を修正したりします。原則としてレセプトは印刷し直さず、返戻された写しをそのまま使用しましょう。
やむを得ず新たに作成する場合は、古いレセプトを添付します。
レセプトをレセコンで管理している場合も支払機関から返戻書類を紙媒体で送付してもらえますが、オンライン上でのダウンロードが推奨されています。ダウンロードしたレセプトのデータをレセコンに出力すれば、オンラインでの再請求が可能です。
ただし、使用するレセコンのシステムによって手順が異なります。不明点がある場合は、直接メーカーや代理店に確認をとりましょう。
オンラインでの提出以外に、データを入れた光ディスクによる提出も認められています。光ディスクで提出する場合は、医療機関コードや提出年月日などの必要な情報をフェルトペンなどで記入し、ケースに入れて送ります。
なお、保険者によって記載事項や修正方法が異なる可能性があります。再申請に疑問点が生じた場合、提出前に保険者へ問い合わせするようにしましょう。
また「〇〇柔道整復師会」や「〇〇柔道整復師協会」などの保険請求団体に加入している場合は、返戻レセプトの再申請業務についてサポートを受けられることがあります。団体に加盟している場合は、担当者に問い合わせてみるとよいでしょう。
レセプト再請求の流れ
返戻レセプトの再請求から療養費支払いまでの流れについて、1月に保険施術をした場合を例に説明します。
- 1月分として請求されたレセプトは、2月中に審査支払機関と保険者によって審査されます。
- 審査の結果、何らかの疑義があり確認が必要と判断された場合、3月初旬を目途にレセプトが返戻されます。
- 受け取ったレセプトの内容を修正し、月遅れレセプトとして3月10日までに審査支払機関へ再請求を行います。
- 3月中に審査支払機関と保険者が再審査を行い、レセプトの内容に問題がなければ、4月に診療報酬が支払われます。
返戻のない通常の請求であれば、報酬は3月に支払われます。返戻を受けた場合、最短で再請求の手続きを行ったとしても、支払いが1か月程度遅延します。
返戻レセプトの再請求期限
療養費に関する請求期限について、法律には次のように記されています。
保険料等を徴収し、又はその還付を受ける権利及び保険給付を受ける権利は、二年を経過したときは、時効によって消滅する
引用:健康保険法第193条 |
以上によると、レセプトの請求期限は受診された方が料金を支払った日から起算して2年間です。この期限は返戻分にも適応されるため、返戻されたレセプトは受け取り次第なるべく早めに再請求するよう心がけましょう。
レセプトが返戻されても慌てずに対応しよう
以上、レセプトの返戻や再請求の手続きについて解説しました。
「手続きが面倒だ」、「査定額が少額だからかまわない」などの理由で、返戻されたレセプトの再請求をされない方もいらっしゃるようです。
しかし保険者からの信用が低下することや、翌月以降のレセプト業務に支障が出ることを考えると、あまり得策とはいえません。最悪の場合、厚生局からの指導や監査が入る可能性があります。
返戻されたレセプトには欠かさず再請求を行い、返戻の再発予防策を講じて、日ごろからレセプト業務の改善を心がけましょう。
<参照元>