整体師が一人で開業する利点は、スタッフに支払う人件費がないため費用を抑えられることや、自己資金に応じて柔軟に開業スタイルを変えられることです。
自分の生活費と店舗運営に必要な経費を確保すれば、整体院を経営できます。比較的リスクを抑えて開業できるため、一人で開業する整体師も目立ちます。
しかし実際に開業しようと思い立っても、何から始めるべきかわからない方も多いのではないでしょうか。
そこで本記事では、一人で整体師として開業するために必要な手順を詳しく解説します。さらに1000万円を達成する方法も紹介するので、ぜひ最後までご覧ください。
一人で整体院を開業する際にやるべきこと
一人で整体院を開業する場合は、次の手順で進めるとよいでしょう。
- ターゲットを決める
- 物件を選定する
- 内装のコンセプトを考える
- 初期費用を割り出す
- 備品の購入を計画する
- 運用コストを見積もる
- メニューと価格を設定する
- 事業計画書を作成する
- 開業資金を調達する
- 整体院開業の準備を進める
各ステップについて分かりやすく解説します。
ターゲットを決める
まずは整体院のターゲットを決めましょう。ターゲットを決めると、整体院のコンセプトやメニュー、価格の設定がスムーズです。ターゲットを決めるにあたって次の項目を考えてみてください。
- 年齢層
- 性別
- 収入
- 家族構成
- 職業
- 来院動機
以上の項目を考えたら、ターゲットをもとに物件を選びましょう。
物件を選定する
まずは、ターゲットを集客しやすい物件を選定しましょう。
たとえば、スポーツに励む10代の学生を集客したい場合は、学校の近くや通学路の途中に整体院を構えると集客しやすくなります。
一方でOLを集客する場合は、オフィス街や駅の近くなどが集客しやすいと考えられます。他にもターゲットによって集客しやすい立地条件が異なるので、ターゲットの行動範囲を考慮して物件を選ぶとよいでしょう。
また準備できる資金を考慮しつつ、自宅とマンションの一室、テナントなどから開業形態を決めましょう。
自宅で開業する
自己資金が限られる場合は、自宅での開業を検討するとよいでしょう。敷金や毎月の家賃が不要なので、比較的少ない資金で開業できます。
一方で立地を決められない点がデメリットです。自宅がターゲットを集客しづらい場所にある場合は、インターネットやチラシなどを工夫して集客できるようにしましょう。
マンションの一室で開業する
マンションの一室を借りると、テナントよりも比較的安価に開業できます。一人で整体院を開業する場合、ベッド一台を置けるスペースがあれば運営できるので、マンションの一室で開業する整体師も多いです。
マンションの一室で開業する場合、契約するマンションが商業利用できるかどうかを確認しましょう。また通りからは整体院の存在が分かりづらいため、SNSやホームページ、チラシなどを活用して整体院を認知してもらうための方法も考える必要があります。
テナントを借りる
テナントを借りて開業する場合、敷金や家賃、内装工事費などまとまった資金が必要です。計画的に自己資金を貯めたうえで、借り入れの検討も必要でしょう。整体院の居抜き物件を借りると、内装工事費を大幅に抑えられます。
初期費用や固定費がかかる反面、ターゲットに合わせた立地で開業したり、整体院の前を通る人に整体院を認知してもらったりできる点が魅力です。まとまった資金を準備できる場合は、テナントを借りて開業するとよいでしょう。
内装のコンセプトを考える
物件を選んだら、ターゲットに合わせて内装のコンセプトを考えましょう。
たとえば照明を落としてくつろげる空間を演出すると、仕事で疲れて癒しを求めるキャリアウーマンを中心に集客しやすくなるかもしれません。ベッドやインテリアに重厚感を持たせて、高単価の施術を好む女性を集客するのも1つの手段です。
または家族構成に子どもが含まれる場合は、キッズスペースや授乳室を設置すると、集客しやすくなるでしょう。このようにターゲットに応じて、内装のコンセプトを考えることが大切です。
初期費用を割り出す
物件の選定を済ませ、内装のコンセプトを考えたら、初期費用を割り出しましょう。
物件を契約する場合は、価格交渉をすると費用を抑えられます。とくに古い物件を借りる場合は、内装工事に費用がかかるため価格交渉で家賃を減らすことをおすすめします。
内装工事費を抑えるためのコツは、複数の業者に見積を取ることです。質と価格のバランスを考えつつ、適した業者を選定してください。床のタイル設置やカーテンなど自分で施工できる場合は、DIYを検討するのもおすすめです。
備品の購入を計画する
整体院を開業する際に購入すべき備品は、次のとおりです。
・施術用のベッド
・待合室の椅子
・カルテなどを入れる棚
・カーテン
・エアコンやストーブ
・受付のデスク
・パソコンや冷蔵庫などの家電
施術ベッドや待合室の椅子、カルテを入れるための棚、インテリアなどを含めると、備品だけで100万円を超えることもあります。
必要な備品は漏らさずに開業資金に含めるようにしましょう。
運用コストを見積もる
次に整体院の運用コストを見積もりましょう。運用コストとは、整体院を経営するうえで毎月必要になる費用です。一人で整体院を開業する場合、主に次の項目が考えられます。
- 人件費
- 地代家賃
- 水道光熱費
- 広告宣伝費
- 消耗品費
- 借り入れの返済(融資を受けた場合)
運用コストを見積もる際のポイントは、一人で開業する場合も自分の生活費としてしっかりと人件費も考えることです。無理なく生活できる金額を人件費として見積もりましょう。
メニューと価格を設定する
メニューを決める際はターゲットを考慮しつつ、コンセプトに一貫性をもたせましょう。
たとえばターゲットの来院動機がリラクゼーションなのか、症状の改善なのかによって考えられるメニューが大きく異なります。両方を意識してメニューを考えると整体院のコンセプトがズレて、ターゲットへの訴求力が低下するので注意しましょう。
ターゲットの来院動機をリラクゼーションと症状改善のどちらかに絞って、コンセプトに一貫性を持たせてください。
価格を設定する場合は、前項の運用コストから毎月必要な売上を計算して、その売上から価格を逆算することが大切です。安価な価格を設定すると集客には有利ですが、経営が破綻することがあります。最低限必要な売上を把握して、施術メニューの価格を決めましょう。
次の記事では稼げる整体師になるための価格設定の考え方についても解説しているので、参考にしてください。
参考:整体師の年収相場はいくら?働き方別給与と収入アップの方法を徹底解説!
事業計画書(創業計画書)を作成する
ここまでで考えた計画をもとに事業計画書を作成しましょう。新規開業のために作成する事業計画書は創業計画書とも呼ばれており、主に次の事項を記載します。
- 創業の動機
- 経営者の略歴等
- 取扱商品・サービス
- 取引先・取引関係等
- 従業員
- お借入の状況
- 必要な資金と調達方法
- 事業の見通し
「取扱商品・サービス」の欄には、前項で考えたターゲットや施術メニュー、価格を記入する箇所があります。「必要な資金」には、設備資金や運転資金を記入する箇所があり、そこには初期費用と運用コストで計算した金額をもとに記入します。
創業計画書は、日本政策金融公庫のホームページからダウンロードできるので、まずは記入してみるとよいでしょう。
▼創業計画書
出典:日本政策金融公庫
各種書式ダウンロード|日本政策金融公庫
営業形態が整体院と近い業種として美容業があります。美容業の創業計画書の記入例を掲載しますので、参考にしてください。
記入方法が分からない場合は、地域の商工会議所や商工会に相談するのもおすすめです。
開業資金を調達する
一人で整体院を開業する場合は、開業資金の調達先として日本政策金融公庫が第一選択肢となります。前項で記入した創業計画書を持って、日本政策金融公庫の窓口に借り入れを相談するとよいでしょう。
開業資金を借りる際には、自己資金を準備するのが一般的です。「2022年度新規開業実態調査」によると、2022年に新規開業した事業者における資金調達額の内訳は次のとおりでした。
資金調達の方法 | 調達額 | 割合 |
自己資金 | 271万円 | 23.8% |
配偶者・親・兄弟・親戚 | 49万円 | 4.2% |
友人・知人など | 52万円 | 3.1% |
金融機関などからの借り入れ | 882万円 | 65.1% |
その他 | 20万円 | 3.8% |
合計 | 1,274万円 | 100% |
以上から金融機関から借り入れて開業資金をカバーする場合、全体のなかで占める割合は平均で65.1%です。つまり残りの35%程度は、金融機関からの借り入れ以外の方法で開業資金を準備する必要があります。
日本政策金融公庫で借りる場合も、開業資金のすべてを融資してもらうのは難しいです。融資の相談に行く前に、自己資金を準備するなどして融資以外の方法で開業資金の3割~4割を確保しましょう。
整体院開業と集客の準備を進める
開業資金が準備できたら内装業者に改装費を支払ったり、店舗の賃貸契約を結んだりして、開業の準備をしましょう。
開業の準備と同時に集客も進めましょう。集客をする際は、はじめにホームページとチラシを作成するとよいでしょう。
ホームページを作成する
可能であれば、はじめのホームページは自分で作成するのもおすすめです。現在は、WIXやJimdoなどの無料で簡単にホームページを作成できるツールがあります。テンプレートが準備されているので、それに画像や文字を入れるだけでホームページを作れます。
もう少し凝ったホームページを作成したい場合は、ワードプレスを活用するのもよいでしょう。インターネット検索やYouTubeなどで作り方を調べると、いろいろなやり方が紹介されているので、ぜひお試しください。
開業してすぐの整体院のホームページには、たとえば次のような情報を載せます。
・営業日時
・住所/アクセス
・電話番号
・施術者の紹介
・施術内容
また整体院のホームページを作成する場合は、景品表示法や薬機法に違反しないように注意しましょう。「地域No.1」や「完治する」、「施術を受けただけでマイナス10kg」などの誇張した表現や医療行為と誤認されるような表現を用いると指導を受けるケースもあります。
チラシを作成する
新規開業にはチラシも有力な集客ツールです。チラシを近隣住民に配布すると、来店につながることもあるでしょう。
チラシで宣伝する場合は、開業する直前かオープン日に合わせて、店舗の住所や施術内容、さらには割引券などを掲載すると効果的です。ホームページのQRコードを掲載しておくと、チラシに載せられなかった情報を顧客にアピールできます。
チラシもホームページと同様に、誇張した表現や医療行為と誤認されるような表現を載せると、役所から指導を受けることがあるため注意しましょう。次の記事では、整体院が注意すべき広告表現を紹介しているので、参考にしてください。
参考:整体院が注意すべき広告表現とは?チラシに「治療」と書いたらダメな理由
整体院の開業に資格は不要
整体師として開業する際には、とくに資格は不要です。
しかし整体師と関連のある資格を取得すると、顧客からの信頼性を集めやすくなり、有利に集客できます。整体師として開業する上で、顧客の信頼を集められる資格は以下のとおりです。
【国家資格】
・柔道整復師
・あん摩マッサージ師
・はり師・きゅう師
・理学療法士 など
【民間資格】
・カイロプラクティック
・スポーツ整体
・リフレクソロジー
・国際ホリスティックセラピー
・東日本療術師教会
・日本セラピスト認定協会
・MTC療術師協会
以上の資格を取得するためには、時間とコストがかかります。予算を考慮したうえで、取得を検討するとよいでしょう。
一人整体師の開業を失敗させないためには
一人整体師の開業を失敗させないためには、次の点を意識してください。
- ブランディングをする
- 継続できる適切な価格を設定する
- スキルアップする
それぞれについて解説します。
ブランディングをする
一人整体師の開業を成功させるためには、まずしっかりと店舗の「ブランディング」を行うことが大切です。
ブランディングとは、顧客に商品やサービスの価値を認識してもらいながら、他店との差別化を目指すことです。
整体師として自分をブランディングする場合、まずはターゲットに対してどのような価値を提供できるかを考えることが大切です。整体師として一人で開業する場合、できる限りターゲットを絞り特定の顧客に価値を理解してもらうと、ブランディングにつながります。
ブランディングに成功するとコアな客層が生まれるため、リピート数が伸びて売上が安定しやすくなります。
継続できる適切な価格を設定する
最初に設定した価格を後から変更すると、顧客の信頼を失う可能性があります。そのため開業当初から、施術メニューの価格設定には慎重になることが大切です。
とくに価格を低くし過ぎないように注意しましょう。価格を低くすると値下げができないので、集客のために打ち出せる施策が限定されます。低価格のなかで売上を伸ばそうと多くの顧客に対応した結果、体調を崩す恐れもあるため注意してください。
一方で価格を高めに設定すると、仮に集客が振るわなかった場合でも、お試しキャンペーンやイベントなどで一時的に価格を抑える集客戦略をとれます。価格を決める際は、競合店とのバランスを考えつつ、可能な限り高めに設定するとよいでしょう。
スキルアップする
整体師として一人で店舗の運営を続けるためには、スキルアップを続けて顧客に満足してもらうことが大切です。
セミナーに参加したり、本を読んだりして技術を向上させるとよいでしょう。
顧客に上質なサービスを提供すると良い評判が広がり、紹介による集客が期待できます。施術スキルに満足した新規顧客は繰り返しリピートしてくれるため、広告費をかけずに整体院の売上を伸ばせる可能性があります。
一人整体師として開業して1日10人で年収1000万円を達成する方法
一人整体師として開業すると、工夫次第で年収1000万円を達成することも可能です。しかし施術単価を3000円など低価格にすると、1000万円の達成は難しいため注意しましょう。1日10人で年収1000万円を達成するための施術単価を解説するので、参考にしてください。
年収1000万円の達成に必要な施術単価を計算する方法
開業して年収1000万円を達成するために、まずは必要な収入を月収に換算してみましょう。
月収=1000万円÷12ヵ月=約84万円
さらに年収1000万円の達成に必要な月の売上を計算するための式は、次のとおりです。
1000万円の達成に必要な月の売上=1ヵ月の経費+84万円
以上から、1000万円を達成するために必要な価格は次の式で計算できます。
1000万円の達成に必要な施術単価=(1ヵ月の経費+84万円)÷(1日の来院人数×1ヵ月の営業日数)
1日の来院人数は、営業時間と1回の施術時間から割り出すとよいでしょう。各項目に数値を当てはめて計算すると、1000万円を達成するために必要な施術単価を計算できるのでお試しください。
1日10人で年収1000万円を達成するために必要な施術単価
具体例として、次の条件を想定してみます。
- 1ヵ月の経費:20万円
- 1日の来院人数:10人
- 1ヵ月の営業日数:22日
以上の条件を式に当てはめると次のとおりです。
施術の価格=(20万円+84万円)÷(10人×22日)=4727円
つまり施術の単価を4700円以上に設定しなければ、年収1000万円の達成は難しいと考えられます。しかし現実には、それ以上に高単価に設定する必要があると思われます。
一人で整体院を開業すると、受付から顧客の誘導、施術、アフターフォローのすべてを1人で行います。仮に1人の顧客対応にかける時間を60分と想定した場合、9時~21時の12時間営業を続けても、かなり忙しく動き回ることになります。働く時間が長すぎて、体調を崩してしまうかもしれません。
そのため8000円や1万円とさらに単価を上げつつ、対応人数や営業時間を減らした方が、1000万円の達成はより現実的です。
とはいえ開業当初は自分の施術に自信が持てずに、施術単価を高額に設定できない方も多いのではないでしょうか?そのような場合は、施術以外の付加価値を付けるのもおすすめです。
たとえばリハサクを導入すると、顧客に動画を共有して自宅でセルフケアに取り組んでもらったり、姿勢分析で施術の効果を実感してもらったりできます。
付加価値があることで高単価でも施術に納得してもらえるので、リハサクの併用も検討してみてください。
一人整体師の開業に関するまとめ
今回は、一人で整体院を開業する際にやるべきことを11のステップに分けて解説しました。一人で整体院を開業すると、自己資金や目的に応じて柔軟に開業形態を選べる点が魅力です。
自己資金を準備できない場合は、まずは自宅で開業して開業資金を低めに抑えるとよいでしょう。自己資金に余裕がある場合は、テナントを借りてターゲットに合わせて内装にこだわるのもおすすめです。
また一人で整体院を開業して年収1000万円など高所得者を目指す場合は、施術単価を高く設定することがポイントです。開業してすぐで施術スキルに自信がない場合は、付加価値を付けて顧客の満足度を高めつつ高単価施術を提供するとよいでしょう。