2022年に行われた厚生労働省の調査によれば、体に感じる不調として男女ともに「腰痛」がトップに挙げられています。1)
それほど多くの方を悩ませている腰痛ですが、どのようなセルフケアで症状を和らげることができるのでしょうか?
当記事では、腰が痛くなるおもな原因と、どなたでも簡単に行える腰痛の対処法を紹介しています。再発を防止する予防策も解説していますので、ぜひ最後までご覧ください。
腰痛のおもな原因として挙げられるもの
腰痛への適切なケアが行えるように「なぜ腰に痛みが生じるのか」。その原因をこちらで確認していきましょう。
筋肉の凝り
腰痛の多くは、筋肉の凝りから起こると言われています。
筋肉の凝りによって血行が悪くなり、腰部周辺に発痛物質が放出されることで、痛みに繋がってしまうのです。
日常生活において筋肉が凝る要因としては、以下のものが挙げられます。
- 運動不足
- ストレス
- 不良姿勢(猫背、反り腰)
- 長時間の同じ姿勢
筋肉の凝りから生じる腰痛であれば、セルフケアにより症状の緩和が見込めます。
「仕事終わりなど1日の終わりに腰痛を自覚しやすい」「腰痛はあるが病院の検査で異常はみられない・腰や足にシビレはない」といった場合は、筋肉の凝りが腰痛の原因に考えられるでしょう。
参考記事:【筋肉が原因となる腰痛】筋筋膜性腰痛とは?見分け方と対処法を解説!
骨・椎間板の障害
腰痛の原因となる背骨の問題としては、おもに「腰椎椎間板ヘルニア」と「腰部脊柱管狭窄症」が挙げられます。
腰椎椎間板(ようついついかんばん)ヘルニアとは、椎骨と椎骨の間にある椎間板(ついかんばん)が潰れて、内部から髄核(ずいかく)と呼ばれる組織が飛び出し神経を圧迫する状態です。ヘルニアの原因としては、肥満や喫煙、不良姿勢などが考えられています。
一方の腰部脊柱管狭窄症(ようぶせきちゅうかんきょうさくしょう)は、背骨内にあるトンネル状の脊柱管(せきちゅうかん)が狭くなり、周辺の神経を圧迫している状態です。加齢にともなう靭帯の肥厚(ひこう)や、骨棘(こつきょく:骨が変形して棘のようになる状態)の形成などが脊柱管狭窄症のおもな原因に挙げられます。
足にしびれや痛みの症状がみられたら、椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症が疑われます。ヘルニアの場合は前かがみ、脊柱管狭窄症の場合は歩行時や腰を反らせた際に症状が出やすいことが特徴です。
骨や椎間板の障害による腰痛は、軽度のものであればセルフケアで症状の緩和が期待できます。
しかし、下肢の強いしびれや歩きにくさ、排尿・排泄障害などがありましたら、手術が必要となる場合もあるため、早めに医療機関を受診してください。
※重度の場合に限らず、足の痛みやしびれなどが出ている際は、一度医療機関で検査を受けて原因を確認してください。
参考記事:【腰椎椎間板ヘルニア】やってはいけないこと5つ!予防に効果的なストレッチも紹介
参考記事:【要注意】脊柱管狭窄症でやってはいけないことは?自宅で出来るストレッチも解説!
内臓や血管系の病気
腎盂腎炎や急性膵炎、急性胃炎、胃十二指腸潰瘍、大動脈解離といった、内臓や血管系の病気も腰痛の原因として挙げられます。
病気による腰痛の症状には、以下のような特徴があります。
- 突然激しい痛みが生じる
- 安静にしていても痛みが変わらない
- 動作にかかわらず痛みが悪化する
- 強い腹痛や吐き気をともなう
命に関わる可能性もあるため、腰痛とともに上記のような体の異変を感じる際は、早急に医療機関を受診してください。
腰痛を和らげる4つの対策
腰痛の原因が、筋肉や骨、椎間板にある場合は、セルフケアにより症状の緩和が見込めます。
ご自身でも簡単にできる対処法としては、次のようなものが挙げられます。
湿布を貼る
痛みを感じる箇所に湿布を貼ってください。湿布に含まれる消炎鎮痛成分が肌から浸透し、痛みを軽減する作用を期待できます。
湿布は医療機関から処方してもらうほかに、市販でも購入することが可能です。
しかし、湿布は一時的に痛みを抑えているにすぎません。腰痛を和らげるためには、湿布だけに頼りすぎず、下記で紹介するセルフケアも合わせて行うようにしましょう。
体を温める
ホットパックやカイロなどを当てて、腰や背中のあたりを温めましょう。温めると筋肉の凝りがほぐれ、血の巡りが良くなることで、発痛物質が体外に排出されやすくなります。
また、湯船に浸かることも腰痛の緩和に有効といわれています。筋肉の緊張をゆるめるためにも、ぬるめのお湯に15分ほどゆっくりと浸かりましょう。
しかし、急激に発症した腰痛の場合、温めると症状が悪化することも。「激しい痛みがある」「触ってみて熱くなっている」など炎症症状がみられましたら、氷水で冷やすと痛みを緩和できる場合があります。
ツボを押す
腰痛を和らげるツボには「腎兪(じんゆ)」「志室(ししつ)」「太衝(たいしょう)」などが挙げられます。親指を使い、5秒5〜10セットほど気持ちよく感じる強さで、上記のツボを刺激していきましょう。
腎兪は、おへその真裏あたり、ウエストのくびれた部分の背骨から指2本分外側にあるツボです。左右2箇所にあります。
志室は、腎兪よりさらに指2本分外側にあるツボになります。
そして太衝は足の甲、足の親指と人差し指の骨が交差するあたりにあるツボになります。
無理のない範囲でストレッチを行う
ストレッチを行うことで、腰痛の原因となる筋肉の凝りをほぐせます。また、ストレッチで股関節や体幹の動きをやわらかくしておくと、椎間板や背骨にかかる負担を軽減することができます。お風呂上がりなど、体が温まったタイミングでストレッチをすると、無理なく筋肉を伸ばせるでしょう。
ストレッチの具体的な方法については、下記にて詳しく紹介いたします。
【誰でも簡単】腰痛を和らげるためのおすすめストレッチ3選
先ほど説明した腰痛の原因に合わせて、以下のようなストレッチを実施していきましょう。
筋肉の凝りに対しては脊柱起立筋ストレッチ
脊柱起立筋(せきちゅうきりつきん)は、骨盤から背骨にかけて付着している、姿勢を維持するための筋肉です。
脊柱起立筋を伸ばすことで凝りが和らぎ、痛みの軽減につながるでしょう。
背中の筋肉がじっくりと伸びるように意識して行ってください。
STEP2:つま先に向かって両手を伸ばしましょう
STEP3:元の姿勢に戻りましょう
片方のストレッチが終わりましたら反対側も同様に行い、左右でバランスよくストレッチしましょう。
骨・椎間板が原因の場合は下半身のストレッチ
椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症による腰痛には「ハムストリングスストレッチ」「腸腰筋ストレッチ」がおすすめです。
・ハムストリングスストレッチ
ハムストリングスは、太ももの裏側に付着する筋肉群のことです。ハムストリングスの柔軟性を高めることで骨盤の後傾が改善し、椎間板や脊柱にかかる負担の緩和が期待できます。
STEP2:可能な限り膝を伸ばしましょう
STEP3:元の姿勢に戻ります
STEP4:繰り返し実施しましょう
※もも裏の筋肉が伸びるのを感じながら実施しましょう
片側のストレッチが終わりましたら反対側も同様に行い、左右でバランスよくストレッチしましょう。
・腸腰筋ストレッチ
腸腰筋(ちょうようきん)は、股関節の前面に付着するインナーマッスル(深層筋)です。上半身と下半身をつなぐ腸腰筋を緩めることで体幹が安定し、腰部にかかる負担を軽減できます。
STEP2:前方の足に体重を乗せましょう
STEP3:元の姿勢に戻りましょう
STEP4:繰り返し実施しましょう
※股関節の付け根の伸びを感じながら実施しましょう
※腰を反らさないように注意しましょう
背中をまっすぐ伸ばしたまま、骨盤を前方に移動するように意識することで、股関節の前面を伸ばしやすくなります。
参考記事:【1日たった5分】腰痛改善に必要な簡単ストレッチを原因とあわせて紹介!
【要注意】腰痛の人がやってはいけないこととは?
間違った体の使い方をしていると、腰の痛みをより強めてしまうかもしれません。とくに腰痛を繰り返している方は、次の点を意識して腰痛の悪化を防いでいきましょう。
前かがみ動作(腰椎椎間板ヘルニアの方)
医療機関で腰椎椎間板ヘルニアと診断されている方は、前かがみになることはなるべく避けてください。
普通に立っている時と比較して、立位や座位に関わらず前屈になると約1.5倍ほど椎間板への負荷が増加すると言われています。椎間板の過度な圧迫により、ヘルニアの症状が増悪するおそれがあります。2)
普段の動作や姿勢はもちろんのこと、ヘルニアを進行させないようストレッチにおいても背中が丸くならないように気をつけましょう。
体を反らせる動作(腰部脊柱管狭窄症の方)
腰部脊柱管狭窄症と診断されている方は、腰を反らせる動作を避けましょう。腰を反らせると脊柱管の隙間がより狭まり、しびれや痛みといった症状が悪化する可能性があります。3)
反対に、前かがみになると脊柱管が広がり神経の圧迫が緩和するため、脊柱管狭窄症の症状が辛いときは前傾姿勢をとると良いでしょう。
勢いをつけて行うストレッチ
腰痛へのセルフケアとして、ストレッチは非常に有効です。しかし、勢いをつけて筋肉を伸ばそうとすると、より筋肉の緊張を強めたり、筋線維・筋膜を痛めたりする可能性があります。
ストレッチを行う際は、呼吸をしながらゆっくり筋肉を伸ばすように意識してください。
重たいものを持つ
可能な限り、重たいものを持ち上げる動作は避けましょう。前かがみで重たいものを持ち上げようとすると、腰部周辺の筋肉や椎間板に負担がかかり、腰痛へと繋がってしまうためです。
仕事や家事でどうしても重量物の持ち運びが必要な場合は、背中からではなく膝から体を屈めるように意識することで、腰にかかる負担を緩和できます。
長時間の同一姿勢
体を動かさない時間が長く続くと、同じ姿勢を維持するために筋肉の緊張が強まり、凝りが生まれやすくなります。とくに座っているときのほうが、立っているときよりも腰部への負担が強いと言われています。2) 4)
筋肉の凝りや脊柱へのストレスを緩和するためにも、デスクワークや車の運転など、30分〜1時間を目安に休憩をとり「立ち上がって軽く歩く」「ストレッチをする」などして、こまめに体を動かすようにしましょう。
日常生活で行える腰痛の予防策
症状が和らいだとしても、以前と同じ生活を続けていては再び腰痛になる可能性があります。日常生活において以下のような予防策を行い、腰痛を再発させないようにしっかりケアをしていきましょう。
参考記事:即効性のある腰痛の治し方とは?再発予防にオススメのストレッチや体操も紹介
適度な運動(ストレッチ・筋トレ)を行う
痛みや凝り感があるときに限らず、ストレッチは毎日の習慣にすることがおすすめです。上記で紹介した脊柱起立筋やハムストリングス、腸腰筋の柔軟性を高めておくことで、腰痛の予防が期待できます。
また、腰部にかかる負担を減らすためには、姿勢を支える筋力を鍛えることも大事です。腰痛の予防には、腹筋や背筋など体幹の筋力を重点的に鍛えましょう。
不良姿勢にならないように気をつける
腰痛を予防するには、背中の伸びた姿勢を普段から意識しましょう。骨盤をまっすぐ立て、頭頂部が天井から吊るされるようなイメージを持つと、腰部に負担のかかりにくい正しい姿勢をキープできます。
反対に腰部の筋肉を強ばらせるため、「猫背」や腰が強く反った「反り腰」にはならないようにお気をつけください。
参考記事:反り腰を改善!原因から治し方を簡単なストレッチをまじえ解説
参考記事:【簡単】姿勢を良くする方法4選!猫背や反り腰を改善して正しい姿勢を保つには
体にあった寝具を使う
寝ているときに頭部が前に出ていたり、腰が強く反っていたりする場合は、一度枕の高さやマットレスの硬さなどを見直してみると良いでしょう。まっすぐ立っているときと同様の姿勢で寝ることが、理想といわれています。
また、寝ているときに腰が痛む方は「膝下にクッションを置いて膝を軽く曲げるようにする」「膝の間に枕をはさんで、横向きに寝る」といった工夫により腰痛を予防できる場合があります。
参考記事:腰が痛い時の寝方とは?腰の痛み別に正しい寝姿勢を紹介
まとめ
今回の記事では、腰痛のおもな原因や、痛みを和らげるためのセルフケアについて解説しました。
腰痛の多くは、筋肉の凝りから起こることが考えられています。痛みを慢性化させるほど改善にも時間がかかるため、ストレッチを中心になるべく軽症のうちから対策を始めていきましょう。
それでは、あなたが悩まれている腰痛の改善に、当記事が役立てば幸いです。
【参考文献】
1)厚生労働省:2022(令和4)年 国民生活基礎調査の概況(世帯員の健康状況)
2)知能機械力学研究室 清岡嵩大 椎間板に加わる負荷の推定方法の研究
3)腰部脊柱管狭窄症診療ガイドライン2021(改定第2版)
4)厚生労働省:腰痛は何故起きる?