脚を鍛えるトレーニングの1つとして有名な「スクワット」ですが、実施するにあたっての懸念点が「膝が痛いこと・痛くなること」です。
もしかしたら、これまでにスクワットで膝を痛めた経験がある、あるいは「スクワットをやると膝が壊れる」という旨の話を耳にしたことで、スクワットを行うことに躊躇する方もいるかもしれません。
しかし一方で、疾患としての「膝の痛み」を緩和する方法としてスクワットは有効なのです。つまり、スクワットは膝周りの筋肉を鍛える方法として有効であるものの、実施する際には注意を要するといえます。
そこで当記事では、「スクワットと膝の痛み」について、2つの方向から詳しく解説します。
前半では、スクワットを行う中で膝が痛くなる原因とその解決法について、後半では、膝痛を含む下肢症状の改善にスクワットを活用する際の注意点をお話ししました。
最後まで目を通すことで、安心・安全にスクワットができるようになり、また下肢の症状の早期改善にも役立つでしょう。
ぜひ最後までお読みください。
【効果あり】スクワットはどんな運動?
最初に、スクワットという運動について解説します。
スクワットという言葉には「しゃがむ」「かがむ」という意味があり、その名の通り筋トレにおけるスクワットとは、立った姿勢から膝を曲げ伸ばしする運動を指します。
そしてスクワットは、膝を曲げる角度によって呼び方が変わるケースがあります。以下を参考にしてみてください。
- クォーター:膝を少しだけ(45度程度)曲げる
- ハーフ:膝を直角(90度程度)に曲げる
- パラレル:太ももが床と並行になる角度まで曲げる
- フル:限界まで腰を落とす
なお、ダンベルを手に持って行うスクワットを「ダンベルスクワット」、フィットネスジムなどでバーベルを担いで行うスクワットを「バーベルスクワット」と呼びます。
正しいスクワットのやり方
ではここで、正しいスクワットのフォームを動画で解説します。
STEP2:腰を深く落とし膝を90度程度まで曲げます
STEP3:元の姿勢に戻ります
STEP4:繰り返し実施しましょう
※膝が内側に入らないように注意してみてください
上記の方法で行えば、スクワットは大変効果的なエクササイズです。ただし、フォームが崩れると膝を痛める原因になるので注意してください。
詳しくは後ほど解説します。
スクワットの効能・鍛えられる筋肉をチェック
ここで、スクワットで鍛えられる筋肉について解説します。
スクワットを行うことで、太もも前側の「大腿四頭筋(だいたいしとうきん)」、太もも裏側の「ハムストリングス」、お尻の後面に付く「大殿筋(だいでんきん)」が鍛えられます。
つまり、膝の曲げ伸ばしに必要な筋肉全般に効果があるといえるでしょう。ゆえに、下肢の病気や怪我のリハビリなどにもスクワットが取り入れられています。
スクワットをすると膝が痛い!考えられる原因と解決策を解説
高い効果が見込めるスクワットですが、「スクワットすると膝の上が痛い」「スクワットしている最中ずっと膝が痛い」「膝からミシミシという音がした」など、膝の痛みに悩む方が多いのも事実です。
膝が痛くなってしまってはトレーニングに集中できません。スクワットを避けたくなるのも無理はないでしょう。
ここから、スクワットで膝を痛める原因と解決策を見ていきます。
1.膝のお皿がつま先より前に出ている
スクワットで膝を痛める原因で多いのが「フォームの崩れ」だと言えます。
まず考えられるのが、膝を曲げてしゃがむ際に、つま先のラインより膝が前に出るというものです。
膝のお皿が前に出過ぎると膝へ過剰な負荷がかかり、痛みが発生してしまいます。
加えて、お尻の筋肉や太もも裏の筋肉に効きにくくなり、スクワットの効果が下がってしまいかねません。
【解決策】お尻を引きながら股関節から先に曲げる
スクワットを行う際に膝を先に曲げると膝が前に出てしまいがちです。
そこで、お尻を後ろに引きながら股関節から先に曲げるように意識してみてください。
「股関節から先に曲げ、次に膝を曲げる」このように順番を意識するだけで、つま先のラインから先に膝が出にくくなります。また、お尻や太もも裏の筋肉にしっかり効きます。
股関節を曲げる動作をイメージする際に役立つのが「ヒップヒンジ」という運動です。
STEP2:股関節を90度程度曲げましょう
STEP3:元の姿勢に戻ります
STEP4:繰り返し実施しましょう
※腰を丸めないように注意してみてください
2.膝が内側に入ってしまっている
膝が足の甲より内側に入ったままスクワットを行うと、膝関節の正常な動きが妨げられ、膝が痛くなる原因になります。
それだけでなく、股関節の動きにも影響が出るので、腰を痛めてしまうリスクも上がります。
【解決策】太ももを「外に張るイメージ」を持つ
足の甲の外側に膝を出してスクワットするために、「太ももを外に張る(股関節を開く)」というイメージを持ってみてください。これだけで、膝が内側に入りにくくなるでしょう。
よりイメージしやすくするために、太もも部分にチューブを巻き、チューブが常に張った状態でスクワットを行う方法もおすすめです。
ほかには、太ももを外に張る感覚を得るために、「クラムシェル」という運動が参考になります。
STEP2:両足を合わせたまま股関節を開きます
STEP3:元の姿勢に戻ります
STEP4:繰り返し実施しましょう
※骨盤が開かないように注意してみてください
こちらの運動は、お尻の外側に付く「中殿筋(ちゅうでんきん)」や、お尻の後面に付く「梨状筋(りじょうきん)」を鍛えるのに有効です。
そこで、まずはじめにクラムシェルを行い「股関節を開く感覚」を掴んでから、スクワットに応用してみましょう。
3.足首が硬い
そのほか、膝を痛める原因として多いのが「足首が硬い」ことです。
足首が硬いと、膝関節をスムーズに深く曲げられません。すると足首と膝をつなぐ筋肉が過度に緊張し痛みが生じます。
なかでも「パラレルスクワット」「フルスクワット」を行う際に膝が痛くなりやすいので注意しましょう。
【解決策】スクワットの深さを調節する
足首の硬さが原因だと思われる方は、まずスクワットの深さを調節してみましょう。
スクワットを行う目的にもよりますが、「クォーター」や「ハーフ」でも十分に効果が見込めるものです。そして、足首の硬さを気にせずに行えます。
現在行っているスクワットより、膝を曲げる角度を浅くするだけで解決できるかもしれません。
【解決策】踵の下にプレートを挟む
中には、どうしても「パラソル」もしくは「フル」でスクワットしたい方もいるでしょう。
その場合は、踵の下にプレート(バーベルに付ける平たい重り)などを挟む方法がおすすめです。
このように工夫することで踵が床から少し浮くので、膝を深く曲げた際も足首の角度にゆとりが生まれ、楽にスクワットができます。
ただし、踵の下にプレートを挟むことで膝が前に出やすくなるリスクがあるので、注意したうえで行ってみてください。
4.負荷が大きすぎる
ほかに考えられるのは、「負荷が大きすぎる」ことです。
たとえ正しいフォームでスクワットを行ったとしても、体力に合わない強い負荷がかかれば膝が痛くなります。
運動習慣がある方ならまだしも、初めて筋トレを行う方は十分な注意が必要です。決して過度な強度でスクワットをするべきではありません。
【解決策】支えを使ってスクワットしてみる
体力に自信がない方は、まず手すりや椅子など支えを使ってスクワットしてみましょう。支えがあれば、より軽い負荷でスクワットできます。
まずは支えを使いながらスクワットを続けてみて、慣れてきた段階で支えを外し、自力でスクワットを行ってみてください。
ここで、支えを使ったスクワット方法を動画で解説します。
STEP2:股関節と膝関節を深く曲げましょう
STEP3:元の姿勢に戻ります
STEP4:転倒に注意して行いましょう
※腰が曲がらないように注意してみてください
上記のスクワットなら膝を痛めるリスクは少なくなります。そして正しいフォームで行えば十分に筋肉を刺激できます。
ぜひ参考にしてみてください。
スクワットによって膝を痛めたらどうするべき?
もしスクワットをしている最中に膝が痛くなったら、すぐにトレーニングを中止するべきです。
そして膝の痛みが引くまでは、スクワットはもちろん、ランニングなども控えましょう。もし無理すると、膝の痛みが長引き長期間治らない可能性もあります。
今後を考えた場合、休むことも大切なはず。筋トレができない間は、ストレッチを入念に行ったりサポーターを巻いたりして早期回復に努めましょう。
痛みが改善され、トレーニングを再開する際は、あらためてスクワットのフォームを確認してみてください。
もし、フォームが乱れていた場合は修正を行い、怪我の再発防止に努めましょう。
膝痛などの下肢の疾患に対しスクワットは有効?
ここまで、スクワットの際に現れる膝の痛みについて解説してきました。ここからは、膝の痛みを含む下肢の疾患に対してのスクワットについて解説します。
下肢の疾患(痛み)は多岐にわたりますが、痛みが和らいだ段階で行うリハビリとして、スクワットが広く取り入れられています。
スクワットが有効な疾患は、「変形性膝関節症(へんけいせいひざかんせつしょう)」や「半月板損傷(はんげつばんそんしょう)」、「内側・外側側副靭帯損傷(がいそく・ないそくそくふくじんたいそんしょう)」といった膝の痛みだけにとどまりません。
スクワットの効果が期待できる疾患の例は以下のとおりです。
- 腰椎圧迫骨折(ようついあっぱくこっせつ)
- 股関節唇損傷(こかんせつしんそんしょう)
- 変形性股関節症
- 中殿筋・ハムストリングス肉離れ
スクワットを行うことで、脚の筋力がアップし安定性が増すので、脚への負担が減り痛みの緩和につながります。
ほかには、「脚の血流が改善する」「膝関節や股関節の動きがスムーズになる」といった効果も期待できます。
フォームや負荷の量に注意すれば、スクワットは下肢の痛みの緩和に有効だといえるでしょう。
痛みの緩和目的でスクワットを行う際の注意点
痛みの緩和を目的にスクワットを行うにあたって、注意すべき点がいくつかあります。
まず、お医者さんやリハビリの先生のアドバイスや忠告を必ず守ってください。運動の許可が出ないうちはトレーニングするべきではありません。
そのうえで、痛みが強いうちはスクワットを行うのは避け、ある程度痛みが引いてきた段階で始めてみましょう。
そして、はじめのうちはクォーターやハーフでスクワットを行ってみてください。痛みの程度によっては、支えを使ったスクワットを行うのがおすすめです。
もちろん、痛みがぶり返したら直ちに運動を中止してください。くれぐれも、無理はしないように心がけましょう。
【動画】スクワットだけじゃない!下肢の疾患に効果的なエクササイズ
中には「スクワットが向いていない気がする」「スクワットの代わりになる別のエクササイズが知りたい」という方もいるはず。
そこで、膝に負担がかからない筋トレをいくつか紹介します。
もちろんフィットネスジムに通う必要はありません。自宅にいながら行えるので、さっそく実践してみましょう。
タオルつぶし運動
1つ目に紹介するのは「タオルつぶし運動」です。
STEP2:膝の裏にタオルを入れて膝を伸ばします
STEP3:膝裏でタオルを潰すように太ももに力を入れます
STEP4:数秒間力を入れ繰り返し実施しましょう
※膝のお皿を持ち上げるように意識しましょう
※なるべく姿勢を正して行ってみてください
SLRエクササイズ
2つ目に紹介するのは「SLRエクササイズ」です。
STEP2:膝を伸ばしたまま上方へ持ち上げましょう
STEP3:ゆっくり戻します
※膝が曲がらないように注意してみてください
上記のエクササイズによって、「大腿四頭筋」を鍛えることが可能です。
なお、SLRとは「下肢伸展挙上」を指す「Straight Leg Raising」の略語になります。SLRエクササイズは筋トレ以外にストレッチとしても活用できます。
お尻上げ運動
3つ目に紹介するのは「お尻上げ運動」です。
STEP2:お尻を持ち上げましょう
STEP3:ゆっくりと下ろします
※腰を反らさないように注意しましょう
※身体が一直線になるまでお尻を持ち上げてみてください
このエクササイズは、お尻の後ろ側に付く「大殿筋(だいでんきん)」や、太もも裏に付く「ハムストリングス」の筋力アップに効果が期待できます。
また「姿勢の改善」にもつながるので、ぜひ継続してみてください。
まとめ
スクワットは、単にしゃがんで立ち上がるだけの種目ではありません。フォームにおいていくつか注意点があります。
もしフォームが崩れると膝の痛みにつながってしまうでしょう。
しかしながら、正しいフォームで行えば、脚の筋力アップに有効な筋トレ方法です。また、膝や股関節の症状の緩和にも効果を発揮します。
本文を参考にしながら、ぜひスクワットに取り組んでみてください。それでは当記事が、少しでもあなたのお役に立てば幸いです。
【参考文献】
1)Maria Grazia Benedetti ,1Giulia Furlini,1Alessandro Zati,1and Giulia Letizia Mauro2:The Effectiveness of Physical Exercise on Bone Density in Osteoporotic Patients
2)Graeme Hoit 1, Daniel B Whelan 1 2, Tim Dwyer 1 3, Prabjit Ajrawat 1, Jaskarndip Chahal 1 4:Physiotherapy as an Initial Treatment Option for Femoroacetabular Impingement: A Systematic Review of the Literature and Meta-analysis of 5 Randomized Controlled Trials
3)Matt Schmerl 1, Henry Pollard, Wayne Hoskins:Labral injuries of the hip: a review of diagnosis and management
4)Gabriela Hernández-Molina 1, Stephan Reichenbach, Bin Zhang, Michael Lavalley, David T Felson:Effect of therapeutic exercise for hip osteoarthritis pain: results of a meta-analysis
5)Christopher J Mehallo 1, Jonathan A Drezner, Jeffrey R Bytomski:Practical management: nonsteroidal antiinflammatory drug (NSAID) use in athletic injuries
6)Timothy Brindle,* John Nyland,corresponding author† and Darren L. Johnson*:The Meniscus: Review of Basic Principles With Application to Surgery and Rehabilitation
7)Hongbo Chen, Xiaoyan Zheng, Hongjie Huang, Congying Liu, Qiaoqin Wan & Shaomei Shang:The effects of a home-based exercise intervention on elderly patients with knee osteoarthritis: a quasi-experimental study