鍼(針)治療はなぜ効果がある?痛みを改善するメカニズムや効き目が出るまでの期間を解説

肩が凝ったり腰が痛くなったりした際に、「鍼(針)治療」を選択肢に入れる方もいるでしょう。

鍼は江戸時代より前から日本に存在するものの、「痛そう」「怖い」といったイメージから治療を受けたことがない方もまだまだ多いです。そして「鍼治療は効果がない」と思っている方も少なくありません。

しかし個人差はあるものの、肩こりや腰痛、その他の慢性的な痛みや不調に対し著効を示すケースも存在します。

そこで当記事では、鍼治療のメカニズムや効果が出やすい疾患、鍼治療を受ける上での注意事項について解説していきます。最後まで目を通すことで鍼治療の効果が分かるので、痛みを治すための選択肢が1つ増えるでしょう。

【東洋医学】鍼(針)治療とはどんな技術?

鍼灸院で鍼治療を行っている様子

鍼(はり)」は東洋医学に分類される技術の1つです。

髪の毛ほどの細い鍼を、身体中に点在するポイント(ツボ)に刺入して自然治癒力を活性化させることで、痛みや不調の改善を図ります。

奈良時代に中国より鍼の技術が伝わり、その後日本で独自の発展を遂げました。そして近年では医療分野はもちろん、スポーツ分野美容分野でも鍼の技術が活用されています。

現在の日本では「医療類似行為」に分類され、症状によっては保険適用も可能です。

鍼治療はなぜ効くの?メカニズムを解説

膝周辺に鍼を打ってもらっている男性

なぜ、鍼を身体に刺すことで痛みや不調が改善するのでしょうか?治療では「痛みや不調の元に対して直接鍼を打つ」というわけではありません。

しかし、鍼の刺激で「異物が入ってきた」と体内が感じ取ることで、「血行が促進される」「鎮痛物質が脳内に放出される」といった反応が起こり、結果として痛みや不調が改善するのです。

鍼を受けたことがない方にとってはイメージしにくく、どこかとっつきにくいかもしれませんが、仕組み自体はシンプルだと言えるでしょう。

そして、鍼を打った際に身体の中で起こる主な反応は以下のとおりです。

  • 血行が促進される
  • 脳内に鎮痛物質が放出される
  • 自律神経のバランスが調節され内臓の働きが活発化される

血流が促進されれば、身体中に酸素が行き届くので筋肉のコリも改善しやすいです。また脳内で鎮痛物質が放出されれば、文字通り痛みが減り、気分が上がります。

さらに自律神経のバランスが整えば身体がリラックスできて、内臓の働きも活発になり新陳代謝が促進されるでしょう。

つまり鍼の刺激によって、自ら治ろうとする「自然治癒力」が活性化することに他なりません。したがって投薬時のような副作用は少ないので、身体に優しいとも言えるでしょう。

鍼(針)治療は何に効くの?

鍼ってどういった症状に効くの?」と思う方もいるでしょう。

鍼治療が効く代表的な痛みや不調は以下の通りです。

  • 肩こり・五十肩
  • 腰痛・ぎっくり腰
  • 頭痛
  • 顎関節の痛み
  • 膝痛
  • 手首の痛み(腱鞘炎)
  • 筋肉痛
  • 首の痛み

そのほかにも、冷え性胃腸の疲れ改善に鍼が用いられることもあります。また顔に鍼を打つことで「リフトアップ」「顔色が良くなる」などの美容効果も期待できます。

このように、鍼が効く症状は多岐に渡るといえるでしょう。

WHO(世界保健機構)では、40を越える症状・疾患に対して鍼の効果が確認されており、その中には「難聴」や「バセドウ病」「動脈硬化症」といった、内臓に関係する症状(病気)も含まれています。

ただしWHOで効果が認められたとはいえ、必ずしも明確な形で症状改善が確認されたわけではありません。また症状の原因そのものが鍼によってなくなるわけでもないので注意が必要です。

医師の同意があれば保険が効く場合もある

鍼灸には保険適用も認められており、料金を低くおさえながら施術を受けられます。ただし医師の同意が必ず必要で、適応が認められるのは以下の疾患のみです。

  • 神経痛
  • リウマチ
  • 五十肩
  • 頚腕症候群
  • 腰痛症
  • 頚椎捻挫後遺症

医師の同意がなく、上記に当てはまらない症状の場合は自費施術になります。ちなみに、同様の疾患を治療するケースがある「整骨院・接骨院」での保険適用とは異なる点が多いので認識しておきましょう。

参考記事:【接骨院・整骨院のかかり方】健康保険の適用範囲と注意事項を解説

鍼の効果と灸の効果の違いは?

鍼と合わせて用いられるのが「お灸(きゅう)」です。

艾(ヨモギ)から作った「モグサ」を燃やすことでツボを温める技術で、鍼と同様に中国から日本に伝わり、人々に親しまれてきました。

鍼とお灸には共通点があり併用するケースも多いですが、大きな違いは「熱」の有無です。お灸は熱を生むことができるので、鍼に比べて「体質改善」や「免疫力向上」に向いている傾向があります。

その他にも、冷えると悪化する痛みや不調に対しては、鍼よりもお灸が向いています。患者さんの中には「鍼よりお灸のほうが好き」という方も少なくありません。

鍼治療で効果が出るまでどれくらいかかるのか?

鍼を打った直後に、本格的な効果が出ることはほとんどありません。なぜかというと、鍼刺激によって身体の反応が起こった後に徐々に効果が現れるからです。

したがって、一晩経ってから翌日以降に本格的な効果が出始めるとお考えください。体質によっては1日以上経ってから徐々に効果が出てくるケースもあります。

施術直後に最も効果が出やすい整体やマッサージとは異なるので把握しておきましょう。また鍼を受けた直後は、まだ痛みは残るかもしれませんが、通常は時間の経過とともに痛みが軽減されます。

【好転反応】一時的に体調が悪くなる場合もある

鍼治療後、急に眠くなったりだるくなったりすることがあります。これは「好転反応」と呼ばれ、身体が良い状態に変化する過程で起こる現象です。

好転反応を経て痛みや不調が治ることも少なくないので、慌てずに様子をみましょう。通常、好転反応は1日以内に収まるので安心してください。

参考記事:鍼治療後の好転反応を解説!いつまで続くか・適切な対処法や過ごし方・危険なケースまで

鍼治療はどのくらいの頻度で受けるべき?

鍼灸師がディスポ鍼を刺入している

鍼治療はどのくらいの頻度で受けるべきなの?」と思う方もいるでしょう。

対応する疾患の症状にもよるので一概には言えませんが、2週間に1回のペースで治療することを考えてみてください。身体の自然治癒力を活かす技術なので、治療回数が多ければ良いというわけではありません。

もちろん急性の痛み(ぎっくり腰など)を治療する場合は連日、鍼治療した方が良い場合もあります。治療院の場所やご自身のご都合を考慮しながら、定期的に鍼治療を受けてみましょう。

鍼治療のデメリット・注意点を解説

多くの痛みや不調に対し改善効果を期待できる鍼治療ですが、良い面ばかりではありません。

ここから、鍼治療のデメリットや注意点を解説します。

鍼を打った際に「痛い」場合もある

はじめて鍼治療を受けた方が「予想と違って痛くなかった」と話すことは多いです。通常は施術者が鍼を打つ際に、患者の皮膚に圧をかけ刺入時の痛みを抑制するので、患者は鍼が刺さった感覚を感じない場合がほとんど。

とはいえ、毛穴に入ったり患者が鍼に対して敏感だったりした場合は、痛さを感じてしまうこともあるのであらかじめ把握しておきましょう。

【ズーン】鍼独特の「響き(ひびき)」は効いているサインの1つ

痛みとは異なる、鍼独特の感覚として「響き」があります。

響きとは、筋肉に鍼が刺さった後に「ズーン」と重く感じたり、筋肉がビクンとなったりする現象です。筋肉の硬結(コリ)が強い部位に鍼が当たった際に響きが起こりやすく、施術者によっては意図して響きを起こす場合もあります。

中には、響きを痛みと勘違いする患者も少なくありません。しかし、響きは鍼が効いている1つの目安なので安心してください。

鍼を抜いた後に出血する場合もある

鍼の刺入・抜鍼時に出血するケースは少ないです。しかし血管に鍼が当たると、皮膚から出血したり内出血を起こしたりする場合があります。

ただ出血が起こったとしても、数日で治るので特別心配する必要はありません。

鍼治療が効きやすい人と効きにくい人がいる

鍼治療も他の治療方法同様にある程度、体質に左右されます。1回の鍼治療で劇的な効果が見られる方もいれば、1回の鍼治療ではほとんど効果が見られない方もいます。

したがって「他の治療では治らなかったから鍼治療を試したい」と思っていても、期待したほどの効果が出ない場合もあるので把握しておいてください。

事故が起こる可能性が決して0ではない

稀ながら、皮膚内で鍼が折れてしまう「折鍼事故」や、打ってはいけない場所に鍼を深く刺すことによる「気胸」など、過去に鍼治療の現場で事故が起こっているのは事実です。

もちろん施術者は何年もかけて人体の構造を学び、施術時に細心の注意を払いながら鍼治療を行います。したがって安全面を心配する必要はほとんどないでしょう。

とはいえ、事故が起こる可能性が完全に0とも言い切れません。鍼治療を受ける際は、信頼できる鍼灸師を探すことを心がけてみてください。

まとめ

鍼治療は東洋医学の1つで、身体の生体反応を利用して痛みや不調を改善します。痛さを感じることは少ないですし、副作用の心配もほとんどありません。

現在も鍼のメカニズムに対する研究は進んでおり、今後さらに多くの症状に対し鍼灸が活用されていくことが予想されます。また、医師の同意があれば保険適用も可能なので、是非利用を検討してみましょう。

ただし打つ場所によっては痛みを感じる場合もありますし、事故やトラブルが起こる可能性は決してゼロではありません。そこで、鍼のメリットとデメリットをしっかり把握しておきましょう。

それでは当記事を参考に、ご自身に合う鍼灸院を探してみてください。

【参考文献】
1)全日本鍼灸学会学術大会:お灸の研究
2)公益社団法人 東京都鍼灸師会:鍼灸とは

3)公益社団法人 東京都鍼灸師会:鍼灸の効果
4)日本医学柔整鍼灸専門学校:鍼灸の効果・持続期間、副作用について