整骨院や接骨院の数は年々増加の一途をたどっており、自費診療への移行は柔道整復師にとって急務となっています。保険診療のみでの整骨院・接骨院経営に限界を感じている方も多いのではないでしょうか?
そこで今回は、接骨院・整骨院で自費診療へ移行する際の、メリットとデメリット及び注意点などについて解説していきます。
整骨院・接骨院を自費診療に移行する理由
最近、自費診療へと移行する整骨院や接骨院の数が増えてきています。では、なぜ保険診療が可能な整骨院や接骨院を、わざわざ保険の使えない自費診療へと移行させる必要があるのでしょうか。
そこには業界が抱えている切実な事情があります。
保険規制が厳しくなっている
そもそも整骨院や接骨院では、骨折・脱臼・捻挫・打撲・挫傷に限って保険診療が認められています。ただ、骨折や脱臼は一般的に整形外科を受診することが多いため、整骨院や接骨院では実質、捻挫や打撲、挫傷(肉離れなど)しか見ることができません。
それにも関わらず、整骨院や接骨院における施術風景を見てみると、肩や腰を徒手によって揉みほぐす施術をおこなっており、マッサージ店とどう違うのか分からないケースが多々あります。
この点に関しては、2年に1度の診療報酬改定の際に毎度のように議論されています。なぜなら、マッサージ類似行為に関しては保険が適用されないからです。そのため、整骨院からの保険請求に対して各保険団体の審査が厳格化しつつあります。
あわせて医療費が国庫を圧迫し続けていることも、保険規制が厳しくなる要因の1つです。
競合が増え過ぎて市場が飽和状態になっている
整骨院や接骨院で自費診療の移行が増えている理由の1つに、競合が増えすぎて市場が飽和状態である点もあげられます。そもそも保険診療では対象となる症状も施術も限定され、院同士の差別化が出来ないため、競争に巻き込まれやすくなります。
一方で自費診療は言葉の通り、自由に対象となる症状も施術内容も選択できるため、差別化がしやすいです。
整骨院や接骨院の数はコンビニの数とそれほど変わらない昨今、患者さんの獲得合戦が起こっています。その結果、整骨院や接骨院に入ってくる収入は減少の一途をたどるわけです。
実際、柔道整復師1人当たりの療養費収入を見てみると、2006年には939万円であったのが、10年後には557万円(およそ41%減)まで下がっています。
このように保険診療だけではやっていけず、倒産に追い込まれる整骨院や接骨院の数が増えており、自費診療への移行が急務となっているのです。
施術者の負担が増している
整骨院や接骨院において、自費診療へ移行が増えている理由には、施術者の負担が大きくなっていることもあげられます。
整骨院や接骨院の数は増え続けているものの人口は減少傾向に。そのため、言い方はよくありませんが整骨院や接骨院では薄利多売とならざるを得ないのです。
また、人件費の関係から少ない人数でたくさんの患者さんを診なければならなくなり、身体を壊す柔道整復師も増えています。そこで自費診療にすれば、そのようなリスクの回避も可能なのです。
整骨院・接骨院を自費診療にするメリット
それでは実際に、整骨院や接骨院を自費診療へと移行した場合、得られるメリットについてみていきましょう。
患者さん1人あたりの単価が上がる
自費診療へ移行する最大のメリットは、患者さん1人あたりの単価が上がる点です。保険診療と違い自費診療の場合、価格設定は自分で好きなようにできるからです。単価が上がれば、患者さんの数が少なくても利益を上げることが可能です。価格をどう設定すればよいのかについては、後ほど詳しく解説します。
技術を存分に発揮できる
施術経験を積み、知識を蓄えた柔道整復師にとって、保険診療の範囲でしか施術ができないのは、物足りなく感じるのではないでしょうか。慢性的な腰痛や頭痛に対する施術に自信があったとしても、保険の枠内では十分にその技術が発揮できません。
自費診療であればそのような枠にとらわれることなく、これまで学んできた技術や知識を存分に発揮し、さまざまな症例を見ることが可能です。
施術院に見合った患者さんにだけ施術できる
柔道整復師も人間なので、すべての患者さんに対して同じ感情で接するのは難しいはず。中には短時間マッサージのような感覚で来られるなど、遠慮したい患者さんもいることでしょう。
もちろん、あまりに態度が悪い患者さんに対しては、来院をお断りすることもあるでしょうが、基本的に保険診療の場合はすべての患者さんを受け入れる必要があります。
一方で自費診療の場合、自分の整骨院や接骨院に合ったカラーの患者さんだけを集め、施術が可能です。施術におけるストレスから解放されるという点でも、自費診療への移行はおすすめといえます。
コストが高い物療機器を買う必要がない
一般的に整骨院では、低周波治療器や干渉波治療器、マイクロ波治療器、超音波治療器、赤外線治療器、冷・温罨法、サーモスタット、エコー検査器、シップ、包帯、テーピングなど、さまざまな治療器具を用いて施術に当たります。その他にも維持費、電気代など相当な額になるはず。
一方で自費診療の場合、自分の手だけで施術を行なえるので、固定費などの大幅な削減が可能となります。
毎月の保険請求が不要となる
柔道整復師には、療養費を患者さんに代わって請求する「受領委任」が認められています。ただ、そのためには毎月レセプト作業をおこなう必要があります。
月末のレセプト作業は柔道整復師にとって大きな負担となりますし、外部に依頼するとなればその分、余計な費用が掛かります。自費診療なら、そのような煩雑な手続きから解放されるでしょう。
また、保険請求内容の確認で、保険者側が患者に電話をするなど患者さんに掛かる手間もなくなります。さらには保険適用が認められず、保険分の収入を逃してしまうリスクからも解放されます。
整骨院・接骨院を自費診療にするデメリット
整骨院や接骨院を自費診療へと移行することには大きなメリットがありますが、一方でいくつかのデメリットがあることも忘れてはいけません。
既存顧客を失う可能性がある
自費診療へと移行する際に、これまで来てくれていた患者さんを失う可能性が出てきます。よほど「この先生でなければだめ」という患者さんでもなければ、大幅な負担増となる自費診療への移行を、受け入れないリスクは高いでしょう。
正直なところ、「保険が使えるから来ている」という患者さんも多いはず。自費診療へと移行する際、最初に越えるべき壁がこの問題です。
軌道に乗せるまでに時間がかかる
これまで保険診療のみおこなっていた柔道整復師にとって、自費診療は未知の世界だと思います。どんな施術を提供すればよいのか、施術時間は何分で、単価をいくらに設定すればもっとも患者さんを集められるのかなど、実際にやってみなければ分からないことだらけです。
そのため、売り上げが安定化するまでにしばらく時間がかかってしまいます。自費診療に移行して失敗したと思わないよう、ある程度の資金を蓄えておくことが重要です。
患者に対する説得力が求められる
保険診療の場合と比べ、自費診療になると患者さんに対する説得力がより求められます。患者さんにとっては安くない施術費を払っているわけですからその分、納得のいく結果を求めるのは当然です。
たとえば腰痛であれば、
・なぜ腰痛が起こっているのか
・腰痛に対してどのような施術をおこなうのか
・施術の結果どんな状態になっているのか
・経過はどうなっていくのか
などを説得力のある言葉で説明する必要があります。
整骨院・接骨院を自費診療にする際のポイント
自費診療へ移行するのは、ある意味では時代の流れといえます。では実際に自費診療へと移行する際、どのような点に注意する必要があるのでしょうか。
徐々に自費診療へと移行する
よほど経営に自信がある方や、貯金に余裕がある方でもない限り、いきなり自費診療へ完全移行するのではなく、段階的に進めていくのがおすすめです。
たとえば、土曜日の午後だけ自費診療にあてるとか、スタッフには保険診療を担当してもらう一方、自分は自費診療だけをおこなうなどといった方法です。
そして「これなら自費診療だけでもやっていける」という確信を得た時点で、完全に自費診療へと移行すると良いでしょう。
適切な価格設定にする
自費診療の価格設定は、高すぎては患者さんを集めにくくなりますし、安すぎては保険診療を止めた意味がありません。
ではいくらが最適なのかは時と場合によりますが、一つの参考として月にいくら売り上げたいのか考え、そこから逆算していくと価格が割り出せるかもしれません。
たとえば1ヶ月あたり100万円の売り上げを設定したとします。そうすると仮に月間の営業日数を25日とした場合、1日の売り上げは4万円必要となります。
そして1日に8時間営業し、10人の患者さんを施術するのであれば、客単価は4,000円ということになります。1日に5人しか見られないのであれば、客単価は8,000円となります。このように、初めに目標とする金額を設定し、そこから逆算してサービス内容とともに微調整を加えると良いです。
サービスの質・内容にもよりますが、目安としては施術単価が150~200円/分となるようにサービスの単価を設定しましょう。自分の腕やサービスに自信があれば、200円/分を超える設定でも良いでしょう。
また、患者の月間総支払額は2万円以内が目安かと思います。 仮に客単価が4000円なら、そのお客さんを月に5回より多く来院させようとすると、客離れのリスクが大きくなります。来院頻度と単価の関係を考えておくことも大切です。
施術計画を立て評価を行う
保険診療をおこなっている場合、「また明日来てください」とか「次は3日後に処置します」などといった声掛けをしやすいですし、患者さんの方でもあまり疑問を抱きません。ところが、1回の施術が仮に8,000円であった場合、「また明日来てください」という声掛けだけで来院されるでしょうか。おそらくそれだけでは来てくれないでしょう。
そこで必要となるのが、患者さんの状態を評価することと、施術計画を立てることです。来院したときの状態と施術後の状態がどう違うのか、施術時に必ず確認することが重要になります。ポイントはしっかりとした施術のうえで患者さんの口から、「楽になった」「こんなに変わった」と言っていただくことです。その上で、「この状態を維持するためには〇日後の施術が必要です」とお声掛けするとよいです。
もちろん、中長期的な施術計画を立て、その通りに改善していく施術者の技量も必要となります。そして、なによりも大事なことは「この先生なら治してくれる」と患者さんに思っていただくことです。
自発的にやる仕掛けを用意する
整骨院や接骨院のホームページなどを見ていると、セールスはしているものの、自発的に来院いただく施策を行う治療院はほとんどありません。たとえば、「初回に限って〇%OFF」とか、「こんな施術をおこなっています」というのはセールスです。一方、自発的な来院誘導とはあなたの存在が、患者さんにとって必要だと思わせることになります。
こちらから売り込み(セールス)をしなくても、患者さんの方が自ら「この先生に施術してのらいたい」と思える状況を作ることが理想です。そのためには患者さんの課題を理解し、「自分ならそれを解決できますよ」というアプローチをすることが重要となります。
技術を学び続ける
整骨院や接骨院を自費診療へと移行し、無事にリピーターを確保することができました。ただ、そのようなリピーターが、突然来なくなるケースも。理由は様々ですが、単純に「患者さんが飽きる」ことが挙げられます。
毎回、同じような施術をしていると患者さんの方でも、「これで本当によくなるのかな?」と疑問を抱き始めます。同じ患者さんであっても、その時々に応じた施術を提供することで、「この先生は自分のためにこんなに頑張ってくれている」と思われるようになるのです。
患者満足度を向上させ、リピーターを増やす
『この店舗に通い続けたいと思うファンが多い』
これが自費診療で長期的に成功する治療院の特徴です。保険診療の際は、「近い・安い」という点を理由に来院するケースが多いのですが、自費診療となると単価も高く、どこにでもあるお店で良いとはなりません。
単価が高い分、保険診療の時ほど新患や客数が増えないので、リピーターを増やしていかないと経営が成り立ちません。そこで、一人一人に丁寧なコミュニケーションを心がけ、自宅での運動指導もフォローをするなどし、じっくりと患者さんの心を掴んで信頼関係を築いていきましょう。
【接骨院・整骨院】自費診療に関するまとめ
整骨院や接骨院を自費診療へと移行するのは大きな決断かもしれません。しかし、国内の情勢や業界の今後を考えた場合、1つの選択肢というよりは必須の条件と言えるのではないでしょうか。
とはいえ、いきなり自費診療へと完全移行するのが難しければ、段階を踏んで徐々に移行していく手がおすすめです。
最後になりますが、患者さんから「良くなった」「ありがとう」といわれる素晴らしい仕事を続けるためにも、自費診療への移行を考える時期に来ているのではないでしょうか。
<参考元>
https://www.mof.go.jp/budget/budger_workflow/account/fy2017/ke3011c.html
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-iryohi/17/dl/data.pdf
https://www.jusei-news.com/gyousei/news/2019/11/20191105.html
https://www.e-shugi.jp/contents/k/069_20171025/
https://memorva.jp/ranking/sales/jfa_konbini_uriage_tenposuu_kyakutanka_2016.php