鍼灸院を開業したいと思っても、何からすれば良いのかわからない方も多いと思います。そこで当記事では、これから鍼灸師を目指して開業したい方、鍼灸師で独立開業しようと考えている方に向けて、鍼灸院を開業する際の注意点や開業資金について解説します。
ぜひ、最後までお付き合いください。
鍼灸院の開業について
鍼灸院を開業するには、さまざまな条件や手続きが必要です。鍼灸院を作っても、すぐに施術ができる訳ではありません。独立開業する際の注意点を紹介していきます。
鍼灸師(はり師・きゅう師)の資格が必要
まず、鍼灸師とは2つの資格の総称で、鍼を業とする「はり師」と灸を業する「きゅう師」に分けられます。よって、鍼灸師と名乗るには、はり師・きゅう師の資格が必要となります。
そして、鍼灸院を開業するにも鍼灸師の資格が必要(はり師のみ・きゅう師のみでも可)で、まずは3年以上の養成学校を卒業し、国家試験に合格して資格を取得しましょう。
保険施術を行うには実務経験が必須
鍼灸院を開業するだけであれば、鍼灸師の資格を持っていれば可能です。しかしながら、鍼灸保険を用いた保険施術(受領委任の取扱い)を行うには、実務経験が必要ですので自身が当てはまるのか確認しましょう。
順を追って説明すると、受領委任を取り扱うには「施術管理者」にならなければいけません。施術管理者になるには、1年以上の実務経験がある状態で16時間・2日間以上の研修を受ける必要があります。
実務期間は資格取得後からで、資格取得前はノーカウントとなります。実務経験と換算される要件は以下の通りです。
- 実務した鍼灸院が受領委任の取扱いを行っていること
- 勤務形態は問わないが、施術者として保健所に届出されていること
- 出張専門の施術者で、施術管理者に帯同した場合はノーカウント
- 転職により複数の施術所に従事した場合、期間を合算できる(重複する期間はNG)
- 過去に施術管理者として実務経験がある場合、期間に関係なく認められる
自身の実務経験を見直して、該当する期間は証明してもらい、期間が足りない場合は要件に当てはまる施術所で経験を積みましょう。
開設するには事務手続きをしなければならない
テナントを借りて改装しても、鍼灸院を開業できません。これから鍼灸院を開設する旨を申告しなければいけないのです。
保健所には施術所開設届を、税務署には開業届を提出しましょう。とくに保健所に提出する施術所開設届は、開設後10日以内に届け出る必要があります。忘れないよう、開設前から準備をしておいてください。
法律違反を犯さないよう気を付ける
鍼灸院を開業するにあたり、気を付けておきたいのが法律違反です。違反してしまうと知らなかったでは通用しません。そうならないよう、以下で紹介していきますので、適切な知識を身に付けておいてください。
施術所の名称について
施術所の名称は、原則として開設者の姓や法人名を用いるとされています。また、「⚪︎⚪︎治療院・⚪︎⚪︎治療所」など、病院や診療所と紛らわしい名称は使用できません。
「はり科・きゅう科」のように「科」の文字も紛らわしいため認められていませんので、注意が必要です。
構造設備基準について
施術室は6.6平方メートル以上で、専用の施術室でなければなりません。専用性を確保するため、他の部屋とは固定壁やパーテーションなどで上下左右を完全に区切り、出入り口も固定扉で設置しておく必要があります。
また、施術室面積の7分の1以上は外気に開放できるようにし、施術室にこれに代わる換気装置があれば問題ないため、準備しておきましょう。待合室は、3.3平方メートル以上必要です。
構造設備基準で忘れがちなのが「消毒設備」です。手指や施術に用いる器具を消毒する設備を用意しておいてください。
広告について
鍼灸院の開業を成功させたいがため、過激な広告をしてしまいがちですが、法律違反になりますので注意してください。
広告できる事項は「あん摩マツサージ指圧師、はり師、きゆう師に関する法律第7条第1項」で決まっています。しっかり調べて間違いのないように広告しましょう。
鍼灸院の開業に必要な費用
実際に鍼灸院を開業するにはどのくらいの費用が必要なのでしょうか。掛かる費用によっては、成功するか失敗するか大きく関わってきますので、徹底的に解説します。
費用相場は300〜600万円で比較的安価
店舗を構えて始める事業の中で、鍼灸院の開業は比較的安価です。費用相場は約300〜600万円で、大きな規模でなければ費用を抑えられます。
ベッドを何台も置き、スタッフを何人も雇って開業すると、借りるテナントも広くなりますので、大幅に費用が掛かってしまいます。
自身がどのぐらいの規模で鍼灸院を開業したいかによって、費用が大きく変わることを覚えておきましょう。
自宅兼施術所で開設すると経費削減!
上記の費用より抑えたい場合は、自宅兼施術所で開業することをオススメします。自宅兼施術所というのは、自宅の一部を改装して施術所を構えることです。
そうすることにより、テナントを借りる必要が無くなりますので、初期費用や運転資金を大幅に減らすことが可能となるでしょう。
開業した鍼灸師によっては、家を建てると同時に施術所を開設し、1階鍼灸院・2階を生活スペースにしている場合もあります。住宅ローンの返済の一部を経費として計上できますので経費削減となり、ローンを払い終わったら毎月の家賃支払いが無くなるため、事業失敗は少ないでしょう。
一方でデメリットとして、自宅と一緒のため仕事とプライベートの区別がつかなくなります。
場合によっては、休日でも尋ねてくる患者様もいらっしゃるかもしれませんので、プライベートと仕事を分けたいときには負荷が掛かる可能性もあるでしょう。
出張専門の訪問鍼灸を行うと開業費用が大幅に抑えられる!
もう一つの選択肢として、出張専門で訪問鍼灸を開業すると、更に開業費用を抑えられ失敗する可能性が低くなります。
なぜなら出張専門にすると、施術場所は患者様の自宅になりますので、施術所を準備する必要がありません。鍼灸器具と消毒設備、移動手段(電車でも可)、タオル等その他備品があれば開業ができます。
うまく準備すれば、年間の経費を100万円以内まで抑えられるでしょう。仮にプライベートでも使うため車を購入する場合、仕事で使う割合により経費に計上できるため、経費削減に繋がります。
しかしながら、訪問鍼灸は患者獲得が大変難しいです。鍼灸院を構えていれば、おのずと来院してもらいやすいですが、訪問鍼灸だと自身で獲得していかなればなりません。
費用を抑えられ失敗はしにくいですが成功もしにくい、ローリスク・ローリターンが特徴です。
開業資金の調達方法
ここでは、事業を始めるのに必要な資金の調達方法を紹介します。
日本政策金融公庫から融資を受ける
日本政策金融公庫とは、国の出資によって設立された中小企業の資金調達をサポートする機関です。かつては、国民金融公庫と呼ばれていました。
日本政策金融公庫から融資を受ける最大のメリットは、場合によっては連帯保証人や担保が不要であるという点です。一方、手続きが煩雑で実際にお金を借りられるまでかなりの時間を要しますが、最もポピュラーな調達方法となります。
地方自治体の融資制度を利用する
該当する市区町村から、融資を受けるという方法もあります。信用性に欠ける小規模の自営業者であっても、融資を受けやすいうえ金利が安いです。
しかしながら、融資制度は地方自治体ごとに設けられているため、手続きがしばしば複雑なケースがあります。また、手続きに時間を要することも想定しておきましょう。
親族から借りる
鍼灸院を開業する場合、親族から融資を受けるのも1つの手段です。ただし、親族とはいえお金の貸し借りは油断禁物。金銭授受はトラブルになりやすいので、十分に注意しましょう。
助成金や補助金を活用する
鍼灸院を開業するにあたって、補助金や助成金の活用も検討しましょう。さきほど紹介した費用調達方法と異なり、原則返済不要です。
もちろん厳しい審査が存在しますが、合格すれば鍼灸院経営の大きな助けとなるでしょう。代表的な補助金・助成金をいくつか解説します。
小規模事業者持続化補助金
小規模事業者持続化補助金とは、小規模事業者向けの制度で毎年募集されています。補助金は店舗運営に関する幅広い用途に活用でき、最大250万円が補助されます。
採択率(審査に合格する確率)は毎年異なるものの、高い時は60%を超えており、難易度は決して高くありません。鍼灸院を開業する際は、ぜひ応募してみましょう。
その他の補助金
他には、ITツールの導入を支援する「IT導入補助金」や、中小企業小規模事業者の革新的なサービス・技術開発を補助する「ものづくり補助金」もオススメです。
補助金・助成金に応募するにあたって、募集時期をあらかじめ確認しておきましょう。また、応募時に必要な場合がありますので、鍼灸院の運営に関する資料は無くさずに保管しておいてください。
まとめ
鍼灸院を開業するといっても、さまざまなパターンがありますが、自身の身の丈に合った方法を選ぶことが大切です。
ほとんど貯金がないのに、大きな規模の鍼灸院を開業しようと、多額の借金をして運営するのは得策ではありません。
誰しも立派な施術所を構えたいですが、もし集客がうまくいかず失敗してしまったら、取り返しがつかなくなります。開業費用を抑えて、最大限の利益を上げることが成功に繋がります。
当記事が、少しでも皆様のお役に立てたら幸いです。
〈参照元〉
1) はり師、きゅう師及びあん摩マッサージ指圧師の施術に係る療養費に関する受領委任の取扱いについて 厚生労働省
2) あはき施術管理者の要件 厚生労働省
3) 施術所の開設等の手続き 大阪市
4) 小規模事業者持続化補助金 全国商工会連合会
5) IT導入補助金 サービスデザイン推進協会
6) ものづくり補助金総合サイト 全国中小企業団体中央会