接骨院・整骨院では、健康保険を適用して施術をできる範囲が急性および亜急性症状に限られます。受傷期の判定が厳しい昨今は、療養費の支給額が減少傾向にあり、保険施術に依存した経営は成り立たないともいわれています。これからも整骨院経営を続けるためには、保険依存から脱却して、自費メニューを取り入れることも大切かもしれません。
本記事では、整骨院や接骨院で保険を扱う際の注意点について説明します。あわせて療養費が減少しつつある背景や、不正請求の危険性についても解説。保険施術における患者様対応の注意点もお伝えするので、ぜひ最後までご覧ください。
整骨院・接骨院の健康保険を扱う際に押さえるべきポイント
ここでは、整骨院や接骨院の健康保険を扱う際には、次のポイントを押さえておきましょう。
- 養費の減少
- 療養費が適応となる症状
- 受領委任払い
それぞれについて解説します。
療養費の減少
柔道整復師に支給される療養費について、他の代替医療や国民医療費と比較すると次のとおりです。
平成25年 | 令和3年度 | 平成25年と令和3年の比較 | |
柔道整復師 | 3,855億円 | 2,867億円 | -988億円 |
はり・きゅう師 | 365億円 | 442億円 | +77億円 |
あん摩マッサージ指圧師 | 637億円 | 655億円 | +18億円 |
国民医療費 | 40兆610億円 | 45兆359億円 | +4兆9,749億円 |
※「柔道整復、はり・きゅう、マッサージ、治療用装具に係る療養費の推移(推計)|厚生労働省」をもとに作表
国民医療費や柔道整復師以外の代替医療の療養費が増加している一方で、柔道整復師に支給される療養費は大幅に減少しています。
その要因の1つとして、柔道整復師の療養費支給申請書への審査が厳しくなったことが挙げられます。
療養費支給申請の不正を除外し、正しい申請にだけ給付を行えるよう、監査機関が請求内容を厳しく審査しているのです。
療養費が適応となる症状
柔道整復師の施術に対して療養費が適用される症状は次のとおりです。
- 骨折
- 脱臼
- 打撲
- 捻挫
- 挫傷
骨折や脱臼については、緊急の場合を除いて医師の同意が必要です。
一方で慢性症状については、接骨院や整骨院では保険を適用できません。代表的な慢性症状として、慢性腰痛や単なる肩こり、変形性関節症などが挙げられます。
勘違いされる患者様も多く、整骨院や接骨院では慢性腰痛や肩こりに対して保険を適用して安価に施術を受けられると考えている方もいます。
受領委任払い
整骨院や接骨院における保険適用の施術は、受領委任払いと呼ばれるシステムの上で成り立っています。
従来は患者様が保険者に対して療養費を請求するシステムが採用されていました。このシステムを「償還払い」と呼びます。しかし償還払いでは、患者様に一時的に経済的な負担がかかったり、療養費の請求にかける手間が発生したりして不便なことが多かったのです。
そこで受領委任払い制度が採用され、患者様に代わって柔道整復師が保険者に療養費を請求できるようになりました。
受領委任払い制度があるため、患者様は施術後に一部負担金の1割~3割を支払うと、面倒な手続きをすることなく残りを保険でカバーしてもらえます。
一部負担金とは、保険を適用して施術を受けた際に患者様が窓口で支払う金額を指します。一部負担金の割合は年齢や所得額によって変わってくるので、決められたルールに基づいて患者様に請求しましょう。
整骨院・接骨院で健康保険による施術を行う際の注意点
整骨院や接骨院で健康保険による施術を行う際には、次の点に注意しましょう。
- 不正請求に気をつける
- 領収書を発行する
- 自費メニューの導入も検討する
各項目について解説します。
不正請求に気をつける
整骨院で起こる不正請求とは、健康保険協会への申請の際に施術した回数を水増ししたり、施術部位を偽ったりする行為です。
患者様から月初めに「療養費支給申請書」にサインをもらえれば、後は柔道整復師が手続きを行います。患者様が申請内容を確認しにくいことも、不正請求が増える要因の1つと考えられます。
不正請求のパターンについては次の記事で詳しく解説しています。
療養費支給申請について役所から疑義が生じた場合に備えて、カルテに受傷理由や施術の過程などを詳しく記載しておくことが大切です。
不正請求の多くは、接骨院や整骨院の請求内容と、患者の証言の食い違いによって発覚します。正しい施術を行ったことが証明できるように、しっかりと記録しましょう。
カルテの作成方法については次の記事で詳しく解説しているので、ぜひチェックしてみてください。
参考:整骨院・接骨院ではカルテの作成・保管が必須!おすすめは電子カルテ
領収書を発行する
領収証の発行は、平成22年以降より義務付けられています。厚生労働省が示す領収書の様式には、以下の項目が記載されています。
- 患者氏名
- 領収した日付
- 保険施術の合計金額
- 一部負担金の金額の内訳
- 保険外施術の金額の内訳
- 一部負担金と保険外施術(自費施術)の合計金額(患者支払い金額)
- 施術所の名前・住所
- 施術管理者の名前・印鑑
領収証の形式に制限はなく、ファイリングしやすいA4・A5型や、印刷の手間が少ないレシート型など自由です。毎回発行するものなので、なるべく手間がかからないものを選びましょう。
領収書については、次の記事で詳しく解説しています。
参考:整骨院・接骨院では領収書を発行すべき?テンプレートや書き方を紹介!
自費メニューの導入も検討する
療養費の支給額が減少するなか、保険施術のみでは接骨院や整骨院の経営は成り立たないといわれています。そのため自費メニューの導入を進める接骨院や整骨院が増えています。
自費メニューとは、保険を利用せず患者の自己負担で提供する施術メニューです。保険ではカバーできない症状に対応したり、保険では行えない施術を提供する場合は、自費メニューの導入がおすすめです。
参考:整骨院・接骨院の自費メニューの作り方!料金設定や回数券についても解説
保険を扱う整骨院・接骨院が患者様対応で注意すべきポイント
保険を扱う整骨院・接骨院が患者様対応で注意すべきポイントは次のとおりです。
- 施術部位を説明する
- 原因と受傷日を確認する
- ルール通りに一部負担金を請求する
以上を守って保険の取扱いに関するトラブルを未然に防ぎましょう。
施術部位を説明する
患者様から症状についてヒアリングをしたあとは、施術に移る前に施術部位を含めた施術内容を説明しましょう。患者様に施術部位を把握してもらうと、柔道整復師が記載する療養費支給申請の内容と患者の証言が食い違うことを防げます。
保険請求についての疑義が生じにくくなるため、保険請求に関してトラブルが発生する予防にもつながるでしょう。
とくに複数部位を請求する場合は、患者様に施術部位をしっかりと説明することが大切です。
たとえば手をついて転んだ際に、手首や肩の複数個所を負傷しており、そこに施術を行う場合は、手首と肩に対して施術することを施術前に説明しましょう。患者様によっては、手首のみの施術を受けたと勘違いしてしまうこともあります。
原因と受傷日を確認する
患者様に症状についてヒアリングする際には、受傷の原因と受傷日を明確にしましょう。それらが明確ではない場合は、慢性症状に該当する可能性があります。
患者様に詳しく話を聞いて、柔道整復師自身が「いつ、どこで、何をしていてケガをしたのか?」を説明できるようにすることが大切です。
ルール通りに一部負担金を請求する
一部負担金はルール通りに患者様に請求するようにしましょう。サービスで一部負担金を請求しなかったり、割引キャンペーンとして一部負担金を減額したりする行為は違法です。1~3割の割合に応じて、しっかりと一部負担金を支払ってもらうようにしてください。
整骨院・接骨院で正しく健康保険による施術を行おう
整骨院や接骨院で健康保険を扱うことは可能ですが、保険を適用して施術できる症状には限りがあります。また昨今は療養費の減少もあり、保険施術のみに頼って整骨院や接骨院を経営するのは厳しい状況です。
保険施術に頼った整骨院・接骨院経営は、今後もますます厳しくなることが予想されるので、対策として自費メニューの導入を検討するとよいでしょう。
リハサクでは自費メニュー導入ガイドを準備しましたので、無料でダウンロードしてぜひご覧ください。