整骨院や接骨院の経営において、利益率は事業が安定して成長しているかどうかを把握するために不可欠です。適切な利益率を確保するためには、売上や経費を正確に把握し、効率的な事業運営を行うことが求められます。
本記事では、利益率の計算方法や、整骨院・接骨院における利益率の目安、さらに利益率を向上させるためのポイントについて詳しく解説します。利益率アップの具体的な方法を知り、安定経営を目指しましょう。
整骨院・接骨院における利益率について
整骨院や接骨院を経営する上で、利益率の管理は、経営の安定や成長に直結します。本項では、利益率の計算方法と、整骨院・接骨院における利益率の目安について解説します。
利益率の計算方法
利益率とは、売上に対してどれだけの利益が得られるかを示す割合です。粗利益率と売上営業利益率、売上経常利益率、売上税引前当期純利益率、純利益率の5つを解説します。
なお下記の図をご覧いただき、それぞれの利益について理解しておくと、利益率を理解しやすくなります。
粗利益率(売上総利益率)
粗利益率は、売上に対する粗利益の割合です。また粗利益は、売上高から原価を差し引いた金額です。
粗利益率=粗利益÷ 売上高×100
粗利益=売上高ー原価
整骨院や接骨院の場合、施術に使われる道具や消耗品などでかかった費用が原価にあたります。
売上営業利益率
営業利益は、粗利益から販売費と一般管理費を差し引いた後に残る利益です。さらに売上に対する営業利益が売上営業利益率になります。
営業利益率=営業利益÷売上高×100
営業利益=売上高−販売費.・一般管理費
販売費や一般管理費には、スタッフの給与や家賃、光熱費、広告費などが含まれます。
売上経常利益率
経常利益率は、売上高に対する経常利益の割合です。経常利益は、売上営業利益と営業外損益の合計で計算されます。
売上経常利益率=経常利益÷売上高×100
経常利益=営業利益+営業外損益
営業外損益は、営業外収益から営業外費用を差し引いた値です。整骨院の場合、材料や器械を仕入れる際に割引を受けた場合は、営業外収益に含めることがあります。営業外費用には、融資の支払利息などが含まれます。
売上税引前当期純利益率
売上高税引前当期純利益率は、売上高に対する税引前当期純利益の割合です。 税引前当期純利益は、経常利益から特別損益を加えた利益額になります。
売上税引前純利益率=税引前当期純利益÷売上高×100
税引前当期利益=営業利益+特別損益
特別損益とは、臨時に発生した損益のことで、特別利益と特別損失に分かれます。たとえば、災害などで発生した損失は特別損失になります。また不動産や株などを売却した際に発生した利益は、特別利益に含まれます。
純利益率(売上純利益率)
純利益率は、売上からすべての経費や税金を差し引いた後に残る利益の割合を示します。
純利益率=当期純利益÷売上高×100
当期純利益=税引前当期純利益−税金
税金には、法人税(法人の場合)や住民税、事業税などが含まれます。
利益率の具体例
たとえば、ある整骨院が月に100万円の売上を上げ、そのうちの30万円が原価、40万円がその他の経費(人件費や家賃など)である場合、粗利益は70万円、営業利益は30万円です。この場合、粗利益率は70%、営業利益率は30%になります。
利益率の高低は、その整骨院・接骨院がどれだけ効率的に運営されているかを示す指標です。利益率が高ければ、経営がうまくいっていることを意味しますが、低い場合は改善が必要です。
整骨院・接骨院における利益率の目安
整骨院や接骨院において、利益率は業界全体の平均がひとつの目安になります。
TKC全国会によると、「按摩マッサージ師・鍼灸師・整復師」の経常利益は、6.0%でした(※1)。
また整骨院・接骨院の経営コンサルティングを実施する船井総合研究所は、目標の営業利益率として10~15%を推奨しています(※2)。
整骨院・接骨院の利益率を改善させるポイント
利益率を改善するためには、経費の削減と売上の向上が基本です。本項では、具体的な改善ポイントとして、経費削減の方法と売上を向上させる方法を解説します。
経費削減
整骨院や接骨院において経費を削減する方法として、主に固定費を見直したり、人件費を抑えたりする方法が考えられます。
固定費を見直す
固定費とは、売上に関わらず発生する一定の費用を指します。整骨院や接骨院における主な固定費には、光熱費、リース代、家賃、広告費などがあります。これらを適切に見直すことが、利益率改善において大きな効果を発揮します。
このうちリース代や家賃は、整骨院・接骨院の運営を始めた後に見直すのは難しいと考えられます。これらの費用は開業前に慎重に検討すべきといえるでしょう。
次の記事では、開業やリース契約の際に抑えておきたいポイントを解説しているので、参考にしてください。
整骨院・接骨院を開業するまでの流れを解説!必要な準備や資金について
整骨院の運用後に固定費を見直す場合、広告費が中心になります。既存の患者さんに新規の患者さんを紹介してもらったり、外注している広告関連業務を内製化したりすると、広告費の削減につながります。次の記事では効率的に集客して広告費を削る方法を紹介しているので、参考にしてください。
整骨院・接骨院の有効な集客方法とは?Webとリアルの両面から紹介
人件費を抑える
整骨院・接骨院において、スタッフの給与や福利厚生費用は大きな負担となることが多いです。しかし、人件費を抑えるために単にスタッフを減らしたり、給与を下げたりすると、長期的な経営には逆効果となることがあるため注意しましょう。
代わりに、業務の効率化やスタッフの生産性向上を目指すことで、人件費の最適化が可能です。たとえばパートタイマーやアルバイトスタッフを雇ってシフト体制にすると、人件費を削減できます。
もしくは、業務委託契約で施術者を雇って完全歩合制にするのもひとつの手段です。
売上の向上
売上の向上は、利益率改善のもう一つの重要な要素です。特に、施術単価を上げたり、リピーターの維持・増加を図ることで、売上を着実に伸ばせます。
施術単価を上げる
整骨院や接骨院で施術単価を上げるためには、自費メニューの導入が必須です。保険施術は施術単価が決められているため、施術料金の値上げができません。
さらに自費メニューで施術単価を上げたい場合は、他院との差別化や顧客が満足できるような付加価値を付けることも大切です。自費メニューの導入方法について解説した無料の資料を準備しましたので、ぜひご覧ください。
リピート率の向上を図る
整骨院や接骨院の経営において、新規患者の獲得コストは非常に高くつきます。そのためリピーターを確保し、来院頻度を高めることが利益率の改善につながります。
リピーター率の向上を図るために重要なことは、次回来院してもらうための取り組みを継続させることです。そのためにも、患者対応のポイントを押さえたり、LINEを使ってフォローを入れたりするとよいでしょう。
患者対応の極意やLINEフォローのやり方については、次の資料をご覧ください。
整骨院・接骨院の開業直後に高い利益率を確保するためのポイント
整骨院や接骨院の開業後は、経営が軌道に乗る前の段階で、利益率を高めることが長期的な事業成長につながります。
開業直後は、経費を抑えつつ売上を最大化する戦略が重要です。ここでは、開業直後に高い利益率を確保するための具体的なポイントについて解説します。
賃貸料を抑える
賃貸料は整骨院・接骨院における固定費の中でも大きな割合を占めます。開業初期は収益が安定しないため、賃貸料を抑えることが利益率向上に直結します。
自費メニューを中心とした整骨院開業を考えているのであれば、一人でマンション開業や自宅開業をして賃貸料を抑えるのもひとつの手段です。
賃貸料を抑えて高い利益率を維持すると、事業資本も増えやすくなります。自己資本比率を高め借入を減らした状態で店舗を借りると、リスクを減らしつつ事業展開を図れるでしょう。
中古を利用する
開業時にかかる設備投資も、利益率に大きく影響します。新規で全ての設備を揃えると初期コストが膨らむため、状態の良い中古品をうまく活用することで、設備費用を抑えつつ必要なものを揃えられます。
施術台や電気治療機器、待合室の家具など、整骨院・接骨院で必要な設備は中古市場で手に入ることが多いです。中古品でもメンテナンスがしっかりとされているものであれば、十分に使用可能です。インターネットや業者を通じて、信頼できる中古品を探しましょう。
昨今は、施術セット一式を安価に借りられるレンタルサービスもあります。中古購入やリースと比較しながら、導入を検討するとよいでしょう。
適切な広告費をかける
広告は新規患者を集めるために欠かせない手段ですが、費用が高すぎると利益率が下がってしまいます。開業直後は、ターゲットを絞った効率的な広告活動を行い、コストパフォーマンスを高めることが重要です。
広告費を削減する方法として、GoogleマップやSNSなどの無料の媒体をうまく活用する方法が挙げられます。
Googleマップ(MEO対策)
Googleマップに表示される事業プロフィールを書いていない場合は、まずはプロフィールの項目を埋めるところからはじめましょう。Googleマップのプロフィールを充実させるだけでも、集客につながる可能性があります。
プロフィールを充実させたら、来院した患者さんに依頼して口コミを書いてもらいましょう。その際に、金銭や割引券などを患者さんに提供すると、Googleの規約違反になるため注意してください。
お会計の際などに、「よろしければ口コミをお願いします」と軽く伝えるだけでも、口コミを書いてもらえることがあります。
このようにGoogleマップ上に表示されるプロフィールを改善する取り組みをMEO対策と呼びます。詳細については、次の記事で詳しく解説しています。
SNSの活用
SNSを活用するのもおすすめです。SNSに定期的にお役立ち情報を投稿するだけでも、集客につながる可能性があります。
整骨院や接骨院におすすめのSNSはInstagramとYouTubeです。これらは、ストレッチやトレーニングなどのセルフケア情報を画像や動画にして伝えやすい点が特徴です。無料で投稿できるので、まずはアカウントを開設してみるとよいでしょう。
整骨院および接骨院のインスタグラム運用については、次の記事を参考にしてください。
整骨院・接骨院がインスタグラムで集客するには?おすすめのネタを紹介!
紹介を増やす
紹介による新規患者の獲得は、広告費を抑えつつ効率よく集客できる手段です。とくに開業直後は地域における信頼を築いて、紹介を促進することが重要です。
紹介キャンペーンを実施したり、地域のイベントやコミュニティに参加したりして紹介を増やすような取り組みをして広告費を削減しましょう。
自費メニューを導入する
自費メニューは保険施術とは違い、施術単価を自分で決められます。そのため高単価な自費メニューを導入すると売上を伸ばしやすくなり、それが利益率の向上につながります。
ただし開業当初から自費メニューを導入する際には、単価を低く設定しすぎないように注意しましょう。単価を低く設定すると、自費メニューを受ける患者さんが増えた後に、単価を上げづらくなります。
次の記事では自費メニューの料金設定について解説しているので、参考にしてください。
整骨院・接骨院の自費メニューの作り方!料金設定や回数券についても解説
利益率を意識して整骨院・接骨院を経営しよう
利益率の管理は、整骨院や接骨院の経営を安定させるためにも重要です。売上と経費のバランスを取りつつ、利益率を適正な値に保ちましょう。本記事では、下記の5つの利益率を紹介しました。
- 粗利益率
- 売上営業利益率
- 売上経常利益率
- 売上税引前当期純利益率
- 純利益率
整骨院・接骨院で安定経営を目指す場合は、営業利益率で10~15%を目指すとよいでしょう。
また営業利益率を向上させるためには、売上アップが欠かせません。自費メニューを導入したり、リピート率を高めたりすると、売上アップにつながります。
運動療法クラウド「リハサク」は自費メニューとして導入したり、患者さんのアフターフォローとして活用できたりする医療機関向けのAIツールです。無料トライアルも実施していますので、まずはお気軽にお試しください。
【参考文献】
BAST要約版(510業種14分析項目)|TKCグループ(令和6年3月決算~令和6年5月決算)
整骨院経営における正しい利益率とは|船井総合研究所