リハサクの記録機能を活用した効果的な治療への検証

【調査背景】

ホームエクササイズは、専門家による治療身体機能の改善および除痛に効果的であると報告されている1-3)。専門家の方々は、処方したエクササイズを対象者が自宅でも実施し続けているか把握することも必要である。

リハサクは、利用者が実施したエクササイズの内容や日数に加えて、痛みの度合いについても記録することが可能である。また専門家の方々は、利用者が記録した内容を基に、治療の内容を検討することもできる。

 

【調査概要】

対象は、リハサクを導入している施設でエクササイズの処方を受け、痛みを記録した初日から90日以上疼痛が継続している10代から70代までの241名とした。対象データにおいて、重複して抽出された対象者のデータは1名分としてカウントした。またデータの記録がない場合は対象から除外した。

本調査では、リハサクから抽出可能であるデータを基に下記6項目を設定した。

 

運動記録率 エクササイズを記録した日数/利用期間
年齢 リハサク利用時の年齢
利用期間 痛みを記録した初日から90日以上経過している痛みの経過日で最も日付が早い日付
初回エクササイズ処方数 痛みを記録した初日の直前に送信された運動メニュー数
累計エクササイズ処方数 計測期間が終了する日付までに送信された運動メニュー数の合計
初回NRS

(Numerical Rating Scale)

記録開始した初日の痛みを11段階で評価

0:まったく痛みがない

10:今まで経験したことがない痛み

 

本調査では、運動記録率と上記5項目の関連を検討するため、重回帰分析を用いて分析を行った。その後、運動記録率の高い対象者の特徴を明らかにするために、運動記録率が65%以下の対象者と65%以上の対象者に分類し、ロジスティック回帰分析を行った。

 

「分析方法の説明」

・重回帰分析とは

物事の結果を表す目的変数に対して原因を表す複数の説明変数が、どの程度影響しているか予測をする分析方法である。

目的変数(結果)に対してどの説明変数(原因)の影響が大きいかを比較する際は、標準偏回帰係数を基に比較する。標準偏回帰係数の絶対値の大きさは目的変数への影響力を示している。

また予測式が、データの説明をどの程度できているか(予測式の精度)表す値として決定係数を用いる。決定係数は0から1までの値をとり、1に近いほど予測式の精度が高いことを表す。変数が多い場合には、補正した自由度調整済み決定係数を用いる。

・ロジスティック回帰分析とは

複数ある原因から結果を予測する分析方法で、予測する結果が1となる確率を示す。

重回帰分析と異なる点は、重回帰分析が原因から結果の値を予測するのに対して、ロジスティック回帰分析では結果を「有か無」のように「0か1」の2値で捉え結果が1になる確率を予測することである。

ロジスティック回帰分析では、オッズ比を指標とする。オッズとは、結果が起こらない確率(1-p)に対する結果が起こる確率(p)の比率のことである。2群のオッズが相対的に何倍になるか示した値をオッズ比と呼ぶ。

 

【調査結果】

調査対象は、除外基準に該当しなかった147名(男性:71名、女性:76名)であった。

運動記録率に影響を与える要因について分析した結果、年齢と利用期間が採択された。影響力は、年齢と比較し利用期間の方が大きいことが示された。また、予測式の精度を示す自由度調整済み決定係数は0.25であった(表1)。

ロジスティック回帰分析の結果は、利用期間と初回NRSが有意な変数として採択された(表2)。

 

表1.運動記録率に影響を与える要因

標準偏回帰係数 p値
年齢 0.25 **
利用期間 -0.40 **

**: p<0.01

 

表2.運動記録率65%以下と65%以上のロジスティック回帰分析

オッズ比 95%信頼区間
利用期間 0.19 0.08 – 0.44
初回NRS 0.73 0.59 – 0.92

 

【分析者からユーザー様へのコメント】

運動記録率に影響を与える要因は、利用期間と年齢であることが示された。本調査の対象者は、リハサクの利用期間が長くなるにつれてエクササイズを記録する日数が減少していることが分かった。また、本調査では、初回NRSが低い対象者は運動記録率が高くなることも示された。

リハサクは、利用者へエクササイズを処方し実施を促すことだけではない。専門家の方々は、利用者が記録した内容を基に治療計画の立案や利用者に適したエクササイズを選択することができる。特に初回NRSが高い利用者には、エクササイズの実施や痛みの状況について記録を継続して行ってもらえるようにサポートすることも必要である。

リハサクの活用は、エクササイズの処方に加えエクササイズの実施や痛みについて記録するツールとして活用することで、利用者一人一人に合った効果的な治療を提供することに繋がる。

 

【参考文献】

  • Dell’Isola A, et al. Education, Home Exercise, and Supervised Exercise for People With Hip and Knee Osteoarthritis As Part of a Nationwide Implementation Program: Data From the Better Management of Patients With Osteoarthritis Registry. Artgritis Care Res (Hoboken) 72(2): 201-207,2020.
  • Suzuki Y, et al. Home exercise therapy to improve muscle strength and joint flexibility effectively treats pre-radiographic knee OA in community-dwelling elderly: a randomized controlled trial. Clin Rheumatol 38(1): 133-141, 2019.
  • Kuukkanen T, et al. Effectiveness of a home exercise programme in low back pain: a randomized five-year follow-up study. Physiother Res Int12(4):213-24, 2007.

執筆者

内野翔太 理学療法士
(認定理学療法士(スポーツ理学療法))

【所属】
医療法人社団鎮誠会 季美の森整形外科 リハビリテーション科

【経歴】
平成22年3月 帝京大学福岡医療技術学部 理学療法学科卒業(理学療法士免許取得)
平成22年4月 医療法人社団鎮誠会 入職
平成30年3月 千葉大学大学院人文社会科学研究科地域文化形成専攻 地域スポーツ教育学分野 修了(学術修士)【研究分野】
膝関節(ACL損傷予防)、スポーツバイオメカニクス

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