整骨院や接骨院の経営が軌道に乗り売上が伸びると、税金が増えるため節税を考える方も多いのではないでしょうか。節税をする場合は、税金のルールを理解し、適切に節税対策を講じることが重要です。
まずは所得税の計算方法を理解して、節税の基本を押さえましょう。次に具体的な経費の計上を把握したり、所得控除につながる制度を活用したりすることで、納税額を大幅に抑えられます。
本記事では、整骨院・接骨院で節税する場合の基本的な考え方を解説します。さらに具体的な節税方法を12項目紹介するので、ぜひ最後までご覧ください。
整骨院・接骨院における税金のルール
整骨院や接骨院で節税する場合、まずは税金のルールを把握しておくことが重要です。節税の基本的な考え方を把握するためにも、まずは所得税の計算方法を理解しましょう。
所得税の計算方法
所得税の計算をする場合、まずは売上から経費を差し引いて所得金額を割り出します。
所得=売上ー経費
次に、所得から所得控除を差し引いて課税所得を計算します。
課税所得=所得ー所得控除額
最後に課税所得に税率をかけると、所得税を計算します。なお所得税には累進課税が適用されるため、課税所得に応じて税率および控除額が異なります。
所得税=課税所得×税率ー控除額
なお、ここで差し引く控除額は先述した所得控除額とは異なる点に注意しましょう。ここでは所得税の計算について簡単に紹介しました。詳しい計算方法については、次の記事をご覧ください。
整骨院や接骨院が納めるべき税金とは?消費税やインボイス制度についても解説!
整骨院・接骨院で節税する場合の基本的な考え方
整骨院・接骨院で節税する場合の基本的な考え方は、経費を増やすか所得控除を活用することです。
所得税のもととなる課税所得は、売上から経費と所得控除額を差し引いた金額です。そのため、経費と所得控除の額が大きくなると、納めるべき税金を減らせることになります。
経費を増やす
節税を考える場合、まずは経費を適切に計上することからはじめましょう。経費とは、事業運営に必要な支出を指します。
整骨院や接骨院では、施術器具や消耗品、家賃、光熱費、通信費などが該当します。これらの経費を漏れなく計上することで、課税対象となる所得を減らせます。
所得控除を活用する
所得控除を最大限に活用するのも節税する際に大切な考え方です。
所得控除は、経費以外にも国民年金や生命保険料、小規模企業共済の掛金など、個人事業主が支払う多くの費用が控除対象です。制度を活用すると年間で200万円以上を所得控除できるケースもあるため、課税所得を大幅に抑えられます。
節税をするのであれば、所得控除につながる制度は、ぜひ把握しておいた方がよいでしょう。次項で紹介するので、ぜひ参考にしてください。
【個人向け】整骨院・接骨院の経営者ができる節税方法12選
本項では、自動車や家賃、保険料などの経費で節税する方法から、青色申告や共済制度、法人化などの制度を活用した節税まで12の方法を紹介します。
支出を経費として計上したり、所得控除につながるような制度をうまく活用したりすると、納税額を抑えられます。それぞれの方法を見ていきましょう。
自動車にかかる費用を経費にする
事業で使用している自動車にかかる費用は、経費として計上できます。ガソリン代や修理費、保険料などの費用が対象となり、事業の運営に必要な支出として扱われます。
とくに出張施術や所属団体での会合、講習会への参加などに車を使用している場合は、その経費をしっかりと計上することが重要です。ただし、プライベートと併用している場合は、使用割合を適切に按分して計上する必要があります。
飲食代を経費にする
業務に関連した打ち合わせや接待にかかる飲食代は、交際費として経費に計上できます。整骨院・接骨院の場合、取引先との食事や講習会後の懇親会、業界団体で行われる会食など、事業に関連する支出であれば経費として認められます。
経費にする際は、領収書に食事相手や目的を明記しておくことが重要です。ただしプライベートな飲食は対象外となるため、事業関連の支出と明確に分ける必要があります。
香典やご祝儀を経費にする
取引先や業界関係者の葬儀や結婚式に参列した際に支払う香典やご祝儀も、経費として計上可能です。
これらは交際費の一部として扱われ、事業を円滑に進めるための費用として認められます。ただし、私的な関係に基づくものや過度な金額は、経費として認められない可能性があるため注意しましょう。
家賃と光熱費の一部を経費にする
整骨院・接骨院の経営者が自宅の一部を事務所や施術所として使用している場合、家賃や光熱費の一部を経費にすることが可能です。
経費として計上する際は、事業に使っている部屋やスペースの割合を計算し、その分を按分します。また電気やガス、水道代なども、事業に関連する部分を明確にしておくことが大切です。
青色申告にする
青色申告は65万円の控除を受けることができるため、個人事業主として整骨院や接骨院を経営している場合はおすすめの申告方法です。適切な帳簿付けが必要なので手間がかかりますが、節税効果が大きいため青色申告を行うケースが多いです。
専従者給与の適用や赤字の繰越しなど、白色申告にはないメリットも多数あります。青色申告を行うためには事前の届出が必要ですので、早めに準備を進めるとよいでしょう。
経営セーフティ共済に加入する
経営セーフティ共済は、取引先の倒産に備えるための制度ですが、掛金が全額経費として計上できるため、節税効果が高いです。
最大で年間240万円までの掛金を損金算入できるため、収入の多い年に加入すると所得を大幅に抑えられ、節税効果が期待できます。
また急な資金繰りが必要になった際にも解約することで掛金を受け取ることができ、リスク管理と節税の両方に役立つ制度です。
小規模企業共済に加入する
小規模企業共済は、個人事業主や小規模法人の経営者が将来の退職金を積み立てるための制度で、掛金は全額所得控除の対象です。
月々の掛金は自由に設定でき、年間で最大84万円の控除を受けられます。将来的な退職金の準備をしながら、現在の節税にも役立つため、多くの経営者が利用している制度です。
国民年金基金に加入する
国民年金基金は、自営業者が公的年金に上乗せして受け取るための年金制度で、掛金は全額が所得控除の対象です。
整骨院や接骨院の経営者もこの制度に加入すると、老後の備えをしながら節税できます。とくに、安定した年金を確保したい経営者にとっては魅力的な節税方法です。
親族を事業専従者にする
家族や親族が整骨院や接骨院の業務に従事している場合、その給与を専従者給与として経費にできます。
これにより所得分散が可能になり、所得税の負担を減らせます。ただし事業専従者になったら、給与額に見合った適正な業務を行う必要があるため注意しましょう。
また青色申告を行うことで専従者給与の控除が適用されるため、その届出も忘れずに行いましょう。
生命保険控除を利用する
生命保険に加入している場合、その保険料は所得控除の対象です。生命保険料控除は、一般・介護医療・個人年金の3つのカテゴリーに分かれており、各カテゴリーごとに最大4万円、合計で12万円の控除を受けられます。生命保険は万が一のリスクに備えるための手段でもあり、節税の一環としても有効活用できます。
iDeCoをはじめる
iDeCo(個人型確定拠出年金)は、老後資金を準備するための年金制度で、掛金が全額所得控除となります。
毎月の掛金を自由に設定でき、税制面でのメリットも大きいため、節税効果が期待できます。さらに運用益も非課税となるため、将来的に受け取る年金に対しても有利です。整骨院・接骨院の経営でキャッシュフローに余裕が出てきたら、ぜひ検討してみましょう。
法人化する
一定以上の所得がある場合、整骨院や接骨院の経営を法人化すると、収入の一部を経営者の役員報酬として経費に計上できるため、法人の所得を減らせます。
また個人事業主に適用される所得税ではなく、法人税が課されます。法人税は所得税とは異なり比例課税方式が採用されており、税率は原則23.2%です(2024年現在、年800万円越えの部分)(※1)。
所得税の累進課税の場合、900万円を越えると税率が33%になるため、それに比べると法人税は低いことになります。
ただし自身が役員報酬を受け取った際に、その収入に所得税がかかります。また社会保険への加入義務が生じ、個人事業主のときにはかからなかった経費も発生します。
そのため法人にかかる税金と役員報酬にかかる税金、経費とのバランスを考えながら、適切なタイミングで法人化することが大切です。
整骨院を法人化した際の節税効果については、次の記事で詳しく解説しています。
接骨院・整骨院を法人化するメリットとデメリット、タイミングについて解説!
節税をする際の注意点
節税には、適切な知識と注意が必要です。間違った方法で節税を進めると、最悪の場合、脱税と見なされることもあります。たとえばプライベートな支出まで事業経費に計上したり、売上を実際よりも減らしたりしないように注意しましょう。
また経費を増やそうとして不要なものを過剰に購入すると、資産や利益が減少し手元資金の確保が難しくなります。そうなると、新規事業を始める際に借入するのも難しくなるため、過剰に経費を増やすことは避けましょう。
また、申告漏れや記載ミスも注意が必要です。とくに所得税の申告においては、正確な計算が求められ、申告漏れがあれば過少申告税や無申告加算税が加算される可能性があります。期限内に余裕を持って申告を進めましょう。
正しい節税で整骨院・接骨院経営の安定化を図ろう
節税の基本は、経費の適正な計上と所得控除の活用です。経費として認められるものには施術器具や家賃、光熱費、通信費などがあり、これらを漏れなく計上することが重要です。整骨院や接骨院の業務で発生する支出について、経費として計上できるものを見落とさないようにしましょう。
所得控除をする場合、まずは青色申告をして年間で65万円の所得控除を受けるとよいでしょう。
また経営セーフティ共済や小規模事業共済などへの加入もおすすめです。それぞれ最大で前者は年間240万円、後者は84万円を所得控除できます。このような所得控除につながる制度を活用すると、課税所得を減らせるので、大幅な節税が可能です。
節税を行う際はルールに従い、正確に申告し、脱税と見なされないよう注意しましょう。
【参考文献】
法人税の税率|国税局