整骨院や接骨院で確定申告の時期が近づくと、納めるべき税金について気になる方も多いのではないでしょうか。税金は自営業と法人の場合で異なるため、それぞれでどのような種類の税金を納める必要があるのかを理解することが大切です。
また整骨院や接骨院には、他業種とは異なる納税上のルールも存在するため、正しく税金を納めるためにもチェックしておきましょう。
本記事では、自営業と法人のそれぞれで発生する税金の種類を紹介します。さらに整骨院・接骨院の経営者が知っておくべき税金のルールについても解説するので、ぜひ最後までご覧ください。
整骨院・接骨院を自営で運営する場合に納める税金
整骨院・接骨院を自営で運営する場合に納める主な税金について、次の4つを紹介します。
- 所得税
- 住民税
- 個人事業税
- 消費税
所得税
所得税は、個人事業主の1年間の所得に対して課される国税です。所得とは、収入(売上)から経費を差し引いた金額のことを指します。個人事業主の場合、毎年の収入を確定申告し、その年の所得税を翌年に納める必要があります。
所得税は累進課税が適用され、所得が多くなるほど税率も上がります。所得税の計算方法や累進課税の税率についての詳細は後述するので、そちらをご覧ください。
住民税
住民税は、前年の所得に基づいて課される地方税で、居住する自治体に納めます。住民税には、所得に応じて課される「所得割」と、一定額が課される「均等割」の2つの構成要素があります。
- 所得割の税率:標準税率は10%(道府県民税4%+市区町村民税6%)
- 均等割の税率:定額で課されるもので、通常4,000円(2024年度からは5,000円)
個人事業税
個人事業税は、法定業種に従事している個人事業主に対して課される地方税です。整骨院および接骨院は個人事業税の対象業種で、事業所得が290万円を超える場合に課税されます。個人事業税の税率は、業種によって異なりますが、整骨院・接骨院の場合は3%です(※1)。
消費税
消費税は、商品やサービスを提供すると発生する税金です。自営業者でも、年間の課税売上高が1,000万円を超える場合には、消費税を納める義務が発生します。
消費税は国税と地方消費税を含んでおり、現在の税率は10%です。課税売上高が1,000万円以下の事業者は、免税事業者として消費税の納付が免除されます。
ただし免税事業者でも、適格請求書発行事業者に登録すると、課税事業者になります。これは、いわゆるインボイス制度への登録の有無が関係しますが、詳細は後述するので、そちらをご覧ください。
整骨院・接骨院を法人化した場合に納める税金
整骨院・接骨院を法人化すると次の税金を納める必要があります。
- 法人税
- 法人住民税
- 法人事業税
- 特別法人事業税
- 消費税及び地方消費税
それぞれについて解説します。
法人税
法人税は、法人が事業活動を行って得た利益に対して課される税金です。個人事業主の場合の「所得税」に相当しますが、法人税は所得税とは異なるシステムで納税額を計算することになっており、一般的に最大税率は23.2%です。法人の所得金額や資本金によって税率が異なります。
法人住民税
法人住民税は、法人が事務所を設置している都道府県や市町村に対して納める地方税です。この税金は「法人税割」と「均等割」で構成されます。
- 法人税割:法人税額に基づいて計算され、各地方自治体の定める税率が適用される
- 均等割:法人の規模や従業員数に基づき、一定額が課される
法人住民税は、赤字であっても均等割が発生するため、事業の収支とは無関係に支払う必要があります。
法人事業税
法人事業税は、法人が事業活動を行う都道府県に対して納める税金です。所得額に基づいて課される税金で、年間所得が大きくなるほど税率も高くなります。税率は都道府県ごとに異なり、所得の区分に応じた累進課税が適用されます。
特別法人事業税
特別法人事業税は、法人事業税の税率が引き下げられた代わりに導入された税金です。法人事業税と一緒に申告・納付される国税ですが、実際には地方自治体に支払うことになります。法人事業税を納める法人は、特別法人事業税の支払い義務も発生します。
消費税及び地方消費税
消費税は、売上に対して課税される税金で、法人も個人事業主と同様の計算方法で求められます。
期首資本金が1,000万円未満の法人は、設立から最初の1年間は消費税が免除されるケースがありますが、2年目以降の免除は特定の条件を満たす必要があります。
整骨院・接骨院の経営者が知っておくべき税金のルール
整骨院や接骨院を経営するにあたって、とくに知っておくべき税金のルールがあります。
保険診療と自費診療、税金の計算方法、経費としての減価償却の扱いについて理解することで、適切な税務管理ができ、無駄な税負担を避けることが可能です。ここでは、整骨院・接骨院の経営者が知っておくべき重要な税金のルールを解説します。
療養費報酬は非課税
整骨院や接骨院で提供する保険診療に基づく施術は、療養費として保険診療報酬が支払われます。
これらの療養費報酬は、非課税売上となります。これは、医療に関わる公共性の高いサービスとして、消費税の課税対象から外れているためです。したがって、整骨院や接骨院が保険適用の施術で得た収入に関しては、消費税を支払う必要はありません。
非課税対象となるのは、保険診療に該当する施術で、たとえば骨折や脱臼、捻挫などの怪我に対する治療です。これらの収入については、消費税が発生しないため、売上を管理する際には「課税対象外」として記帳します。
自費メニューからの収入は課税
一方で、整骨院や接骨院で提供する自費メニューの施術に関しては、課税売上となります。自費メニューは、保険適用外の施術を提供する際に発生する収入です。
たとえば、慢性的な肩こりや腰痛に対するマッサージ、リラクゼーション、姿勢改善やトレーニング指導などが自費メニューに該当します。
自費メニューから得た収入には消費税が発生するため、適切に消費税を計算し、納付する必要があります。消費税の申告時には、課税売上と非課税売上を明確に区別することが重要です。
課税所得に税率をかけて計算する
所得税を計算する場合は、はじめに所得から所得控除を差し引いて、「課税される所得金額(課税所得)」を算出します。
課税所得=収入(売上)ー 経費 ー所得控除
さらに課税所得に対して、上記の累進課税の早見表をもとに、税率をかけて控除額を差し引くと所得税を計算できます。
▼累進課税の早見表
引用元:国税局
たとえば、課税所得が1000万円の場合、所得税は次のとおりです。
所得税=1000万円×0.33-153万6000円=176万4000円
高額な器械は減価償却費で経費に計上する
整骨院や接骨院を運営する際、高額な施術器械や設備を購入する場合があります。これらの高額な資産については、減価償却という手続きを通じて経費として計上します。
減価償却とは、購入した資産を耐用年数に応じて毎年少しずつ経費として計上する方法です。
たとえば、施術用の電気治療器や高価なベッド、内装工事などが該当します。これらは一度に経費として全額を計上せずに、耐用年数に基づいて分割して計上します。
インボイス制度が整骨院・接骨院に与える影響
インボイス制度とは、消費税の仕入税額控除を受けるために、適格請求書(インボイス)を発行・保存することを事業者に義務付ける制度です。
取引先の法人などが、サービスや商品を購入した際に支払った消費税を経費として計上するためには適格請求書を発行してもらう必要があります。適格請求書にはインボイス制度への登録番号が記載されています。
整骨院や接骨院については、ほとんどの場合、インボイス制度に加入する必要がありません。しかし法人と取引がある場合は、取引先からインボイス制度への加入を求められることがあります。
免税事業者のままでも問題がない場合
整骨院や接骨院の営業形態では、ほとんどの場合、個人の患者さん向けにサービスを提供します。個人の患者さんが、整骨院や接骨院で受けたサービスを事業経費として計上するケースはほとんどないと考えられます。
そのため多くの整骨院や接骨院が売上1000万円を下回る場合は、インボイス制度に登録せずに免税事業者のままでも経営に支障がありません。
適格請求書発行事業者への登録を検討する場合
取引先に法人を抱えている場合は、売上が1000万円を下回る整骨院や接骨院でも、インボイス制度への登録を検討するケースもでてくるでしょう。
法人のなかには、稀に整骨院や接骨院で受ける施術を福利厚生費として計上しているケースがあります。その場合は、取引を続ける場合はインボイス制度に登録するように求められることがあるかもしれません。
大口の取引の場合、インボイス制度に登録しなければ、売上が減少する可能性があります。
整骨院や接骨院ができる節税の方法
整骨院や接骨院で節税をする場合、まずは経費を増やしたり、保険や国民年金基金に加入して所得控除を活用したりする方法が考えられます。
他にも、経営セーフティ共済や小規模企業共済などの制度を活用すると、大幅な節税が期待できます。税金が増えたことに悩んでいる場合は、節税対策を検討してみてはいかがでしょうか。
詳細については、次の記事で詳しく解説しています。
接骨院・整骨院を法人化するメリットとデメリット、タイミングについて解説!
整骨院や接骨院が納めるべき税金について理解しよう
整骨院や接骨院を自営で運営する場合、納める主な税金は次の4つです。
- 所得税
- 住民税
- 個人事業税
- 消費税
所得税は累進課税が適用され、所得が増えるほど税率が上がります。住民税は前年の所得に基づき、所得割と均等割で計算されます。
個人事業税は、事業所得が290万円を超えた場合に課され、整骨院・接骨院の税率は3%です。消費税は年間売上1,000万円を超えると納税義務が発生します。
また法人化すると、主に次の税金を納める必要があります。
- 法人税
- 法人住民税
- 法人事業税
- 特別法人事業税
- 消費税
法人税は所得税と似ていますが、税率は最大23.2%で、所得税よりも累進課税が緩やかです。また、法人は赤字でも一定の法人住民税が発生するため、支払う税金が発生します。
整骨院や接骨院の節税には、経費の増加や各種共済への加入が有効です。経費や控除を適切に活用し、税負担を軽減することが可能です。
整骨院や接骨院が納めるべき税金について理解して、事業経営に役立てましょう。
【参考文献】
法定業種と税率|東京都主税局